TSママ、異世界を行く 作:オギャアデバブゥ
砂嵐は一度では終わらなかった。
大きな砂嵐が去ってから数日たつと、再び砂嵐が集落を何度も襲った。
集落の老コボルドは、恐らく季節の変わり目が近いのだという。これを乗り切れば、恵みの季節がやってくると。これまでは、しかしそれを迎える前に多くのコボルドが命を落としたのだという。
もちろん当然ながら犠牲者なんて出す訳にはいかない。
ここでさっそく役に立つのが、作ったばかりの貯水池である。最初の砂嵐でたっぷり砂で塗れてしまったのだが、中にたまった砂を掻きだすとあら不思議。熱を持った砂の影響か、貯水池はすでに十分使えるほどガチガチに固まっていた。さらに、隙間を埋める粘土が砂でコーティングされていい感じである。
さっそく砂嵐の間を縫って、私自らコボルド達を率いて水の回収に乗り出した。歩いて30分ほどの池に赴き、水瓶で水を汲んで往復する。砂嵐の影響ですでに池は埋まりかけており、後先考える必要もなかった。
そうして貯水池がいっぱいになれば、あとはもう持久戦である。
連日のように吹き荒れる砂嵐だが、流石にこれだけ続けばコボルド達も慣れてくるし、何より水があるという安心感が強い。
水瓶をいくつも並べても得られなかった喜びを、貯水池一杯の水面は見るものに与えてくれる。多少砂で汚れても、きめ細かい砂はすぐに底に沈んで、あとは綺麗に透き通った水が残るのだ。
「今日も砂嵐が続くねえ」
「やだねえ、いつまで続くんだろう」
集落の中を行き来するコボルド達の会話も呑気なものである。最初、皆で世界の終わりを悲嘆するように集会場に集まったのがウソのようだ。
岩の壁に灯る松明の明かりの下、ツボを抱えて歩き回る大人の足元を、子供達がきゃっきゃといいながら走り回っている。
その向こうでは、壁に集まった子供達が大人たちと一緒に、粘土をこね回しているのが見て取れた。
「ねえ、できたー、できた!」
「あらー、すごいわねー」
ぐにょぐにょに歪んだ、しかしきっと渾身の一作であろうそれを、鼻も手も粘土塗れにして掲げる子供に、親がよしよし、と頭を撫でている。
その一団の傍らには、山ほど粘土の器が積み上げられている。この先あるであろう大収穫に備えて、準備を進めているのだ。
どのみち器なんていくらあっても困らないしな。
「ママ、ママ。ねえ、見てー」
「あら、ジロー。どうしたの?」
と、その中に混じって粘土いじりをしていた我が子が、とててて、と走り寄ってくる。
我が子は耳を伏せてどこかもじもじしながら、背中に隠していたそれを差し出した。
「こ、これ!」
ジローの小さな手のひらの上に載っているのは、粘土をこねて作った何かのオブジェクトだった。
お団子を二つ重ねて、上の団子には薄く伸ばしたひらひらした感じの粘土の板がかぶせられている。
よく見れば、縦線と横線が刻まれていて……これは……顔?
「よくできてるわねー。これは?」
「えっとね、えっとね……ママ! ママを、作ったの!!」
「……え?」
差し出される人形を受け取ってまじまじと見る。
これが……これが、私?
……きゃあああああああああああああああああああああ!!!
「嬉しい! ありがとうジロー!! 一生の宝物にするわぁ!!」
「むぎゅ」
泥人形を受け取って、片手でジローを思い切り抱きしめる。
まあまあまあまあ、気が付かなかったなんて私の目はなんて節穴なんだろう! よくみれば私の黒髪も、いつまでも成長しないロリロリしい体系も、身に着けているコートも全部ばっちし私を再現しているじゃない! 天才か! そうかうちの子は天災だったか!!
うふふふ……!
そうだこれを焼いてもらって形を固定しなくちゃ! 家宝として未来永劫保存しなければ!!
「ママ、嬉しい?」
「ええ、勿論! ジローは天才ね」
「えへへ……」
頭を両手で抑えるようにして照れ隠しするジロー。ああでも、そのせいで毛皮が粘土塗れになってしまっている。綺麗にしてあげないと。
ああ、しかし、子供からのプレゼントがこんなに嬉しいものだなんて、もらってみるまで思わないもんだなあ!
親って幸せものだねえ!!
「うふふふふ……」
私は両手で大切に泥人形を抱えて、スキップしながら焼成場に向かった。崩れる前にきっちり焼いて固めてもらおう!
ちなみに、この私の反応が原因で、コボルド一族には陶芸芸術家が爆増する事になるのだけど、今の私は知らなかった。
◆◆
そして、砂嵐は去った。
恐るべき災害。しかし、自然というのはただ荒れ狂うばかりではなく、かならずその後、つじつま合わせをしていくものだ。
砂嵐が完全に去り、安全を確認して外に出た私の目に映ったのは、薄暗く曇った空の天蓋。
そしてその向こうから押し寄せてくる、真っ黒な曇天。ゴロゴロゴロ……と雷を唸らせるそれは雨雲に違いない。
すぐに空は曇り、昼なのに夜のような闇が辺りを覆う。空に幾筋も白い線が走り、ぽつ、ぽつ、と乾ききった大地に、黒い斑点が広がっていく。
それは瞬く間に広がり、雫は滝のように降り注ぎありとあらゆる物を潤していく。
「わあ、これ、なんだぁ?」
「みず、水がいっぱい、わふぅ!」
子供達は初めて見る光景に、ばしゃばしゃぬかるみ始めた地面を走り回り、思い思いにはしゃぎまわっている。口を大きく開けて雨のしずくを口いっぱいに貯めてみたり、水たまりの上で転がってみたり。
彼らからすれば、水は地面から沸きだしてくるものであって、空から降ってくるものではない。それも信じられないほどの量が降ってきて、はしゃいでしまうのもまあわかる。
わかるけど、泥まみれで頭から尻尾の先まで真っ黒になるのは勘弁してほしい!
「ちょっとみんな、こら! そんなずぶぬれになって!」
「えへへ……」
「えへへじゃない、まったくもう!!」
べっしょり濡れて体型が浮かび上がっている子供達をボロ布で吹いて、焚火の周りに座らせて温まらせる。見ればほかのご家庭も、同じように泥まみれになった子供を捕縛して、焚火の前で干している。多少大きくなって安定してきたけど、これでもまだまだおこちゃまだ。風邪とか引いたらどうするのだ、全く。
『回答:サブローのふき取りが不十分です。このままでは風邪をひく可能性60%』
「サブロー! ちゃんと水をふきなさい、っていったでしょ!!」
「ママごめん~~」
そんなこんなで子供達の面倒にてんてこまいな私達を他所に、降り注ぐ豪雨は丸一日続いた。
恵みの時期。
短い雨期の到来である。