キングことレイタロウの過去話をちょろっとだけ。
お待たせしました……ホントにお待たせしました……。
<<< 真の〝オルクス大迷宮〟 >>>
「……レイタロウの昔の話、聞かせてくれる?」
「どしたの藪から棒に……?」
チッスチッス、オラ〝最高〟のヒーローキング!
エセアルラウネとそれに操られた恐竜達を階層ごと焼き払い、アレーティアから化け物とのお墨付きをいただいてから大体小一時間が経ったよ。
その間にも迷宮攻略をグイングインと進め、数え間違えてなければ次で100階層目ってところまで来たのさ!
自分事ながらメチャクチャ探索スピードが早いよね!
……アレーティアもよく俺のペースに付き合えるよ。
その小柄な体格からは想像がつかないバイタリティだ。
「……なんとなく聞きたかったから。それに私だけ話してレイタロウだけ話さないのはズルい」
「まぁいいけど、そんなに面白いもんじゃないよ?」
「……構わない」
アレーティアと出会ってからまだ6時間しか経っていないけれど、エセアルラウネとの一件以降、彼女は実家にいるかのような安らいだ顔を俺によく見せるようになった。
……というか露骨に甘えてくるようになった。
例えば、こうやって休んでいる時には必ず密着してくる。
横になろうとすると添い寝の如く腕を腕で絡めてくるし、座っていれば背中から抱きつく。
吸血させるときは腕に抱きつく形になるんだけど、終わった後も中々離れようとしない。
分厚い胸筋に顔をグリグリと擦りつけ、満足げな表情で寛いじゃうんだ。……んっ、猫ちゃん猫ちゃん!!
いま現在100階層一歩手前の99階層に仮拠点を設け、そこでアレーティアに更に二つの神代魔法、今回は変成魔法と昇華魔法を習得させ、今しがた完了したところだ。
……ここで話しておくのもやぶさかじゃない、かな?
「……これ言うとバカにされそうだから誰にも言ったことないんだけど、前世の記憶を保持したまま転生してるんだよね俺って」
「前世?……じゃあレイタロウにとって今は二度目の人生ってこと?」
「話が早くて助かるよ。……そこで無事転生することは出来たワケだけど、俺を取り巻く状況がちょいと厄介だったんだよね」
「……厄介?」
「俺、父さんと母さんに虐待されてたんだよ」
「っ!!?」
……五歳より前の記憶が欠落しててマジで自覚がないんだけどね、
もうそれだけでお察しだよね。
拷問紛いの虐待の傷痕が今も体の隅々に残っており、むしろどうして俺生きてんの?と自分事ながら不思議に思ったくらいだ。
……あぁそっか、五歳より前の記憶がないのは、その時点で
「生まれてから五年までの、俺の本当の名前はサイタマって言うんだけど、その名前は先生や
「……レイタロウのことを思って?」
「たぶんそうだと思うよ。……これからは自分の力で人生の夜明けを切り開いてほしい、どんな相手にも礼儀をもって接してほしいっていう意味を込めてレイタロウと名付けられたのさ」
これだけは、誰にも譲れない。
「……ぐす……レイタロウ……偉い……(つд⊂)」ゴシゴシ
「まぁ俺からしてみれば、他人の人生乗っ取ってソイツの代わりに人生を謳歌しているようなもんだから美談でも何でもないワケだけどね」
「……そんなことない。レイタロウのおかげで夜明けを迎えられた人はたくさんいる。……かくいう私もそう」
そ、そんな曇りなき眼を向けられると返す言葉もないな。
「ま、まぁ確かに、筋トレを始めた最初の時なんて腕立て一回も出来なかったから、その頃と比べるとメチャクチャ努力した気はするね……」
「……筋トレ?」
「腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10km、これを毎日やる!」
「っっ〜〜〜!!?」
「一日三食きっちり食べる。たまに自分より強い格上と戦う。夏は冷房をつけ、冬は暖房をつけて体を労る。極めつけは寝る間も惜しんでひたすら未知なる力に思いを馳せる瞑想修行を行うのだ。俺はこれを9年も続けて強くなり、更に11年かけて現在に至っている」
目をパチクリさせながら呆然とするアレーティア。
俺のあまりの早口に驚いたのか、それともいとも容易く強さの秘訣を教えたことに呆れているのか……。
どちらもありうる、そんだけだ(ドヤァ)
「……要は、鍛錬して強くなったってこと?」
「当然。だから君も真似して強くなってもいいんだよ。
ただしハゲても自己責任ってことで」
「……怪しげな薬で強くなったとかでもなく?」
「な〜にをおっしゃる。ドーピングで強化された力なんて所詮は紛い物よ。一日だって欠かさず鍛錬を積み重ねる、これが最強へと至る道さぁ」
「……説得力が違う」
五歳の俺は色んな意味でモヤシっ子だった。
それが今や世界樹並の大巨漢になったって言うんだから人生ってのは面白い。
「強くなることが必ずしも幸せに通じるワケじゃない、けど強くなけりゃ幸不幸を自分の意思で選び取ることもままならないのさ」
「……レイタロウは、幸せを感じたことはある?」
「ある。これだけは確実に言えるね」
「……例えば?」
アレーティアの表情から、聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な心境が読み取れた。
……まぁ何を思ってるのか大体分かるけどね。
「一番は愛すべき妻と出会えたこと。……俺はてんで女性にモテなくてね、彼女と巡り会えなければ俺は幸せと呼べたのかも分からない」
「………」ズキッ
「次いで妻のお腹の中にいる俺の子供。……俺はこの子を守るためなら自分の命だって惜しくないね」
「……( ゚д゚)」
「俺は必ず帰らなきゃならない。それがヒーローとして、いや、夫、父親としての当然の責務だからだ」
俺の宣言を聞いたアレーティアの表情が急激に曇り出す。
……分かってる、分かってますとも、君が俺のことを異性として意識していることくらい。
伊達に(前世も加味して50年も)生きてないからね。
「……もしかして、私は邪魔……?」
「邪魔なもんかい。君は欠かすことの出来ない
「……私の思い描く幸せには、レイタロウがいる」
捨てられた子犬のような目で俺を見つめてくるアレーティアにこんなことを言うのはあまりに辛かったけど、ここはキッパリ言っとかないと後々ね……。
「君の気持ちには応えられない。妻以外を異性として見るつもりもない。……すまないね」
「……………………………( ゚д゚)」
俺にフラれたショックでアレーティアは、○量空処を食らったかのように身動き一つ取らないまま硬直した。
……が、何を思ったのかすぐ立ち直り、決然とした表情を浮かべながらこんなことを言ってきた。
「……私は諦めない。自分の幸せは自分の手で掴み取ってみせる……!」
「……………………………がんばれー(棒読み)」
スゲーやる気に満ちあふれているアレーティアを横目に見ながら俺は、魔法のウエストポーチからフライパンと油・水・蓋いらずの冷凍ギョーザを取り出し今日の晩飯作りに取りかかった。
コラそこ、現実逃避とか言わないのぉ!
大量のギョーザで腹ごしらえをして、取りうる全ての準備を終えた俺とアレーティアは、早速階下へと続く階段へと向かった。
そこは無数の柱に支えられた広大な空間で、柱の一本一本が直径5mはある。
その柱一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られており、柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。
天井までは30mはありそう。
その手つかず具合から荘厳さと得体のしれない不気味さを感じさせる空間だった。
しばしその光景にウットリしつつも足を踏み入れる。
すると全ての柱が淡く輝き始めた。
「っ、罠……!?」
「いや、これは―――」
周囲を警戒する俺とアレーティア。
柱はそんな俺達を起点に奥のほうへ順次輝いていく。
「……どうやら俺達を試練の場に案内したいらしいな」
「……上等」
……特に何も起こらないので先へ進むことにしたよ。
当然五感を研ぎ澄ませながらね。
歩け〜歩け〜俺〜た〜ち♪
200mくらい進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。
……もとい、それは行き止まりではなく巨大な扉だ。
全長10mはある巨大な両開きの扉があり、これまた美しい彫刻が彫られている。
特に七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。
「……ここが迷宮でなければ良かったのに。っていうかもしかして―――」
「……反逆者の住処?」
如何にもラスボスとの戦闘一歩手前といった感じだ。
実際に俺の五感が少なからず警鐘を鳴らしていた。
……この先には【鬼】を超えた脅威がいると。
アレーティアもこの先にいる脅威を感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。
そんな少なからず緊張している彼女をリラックスさせるため、その肩に手を置いて励ましのエールを送る。
「心配するこたぁない
「……ん、頑張る……!」
アレーティアも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。
そして、揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。
その瞬間、扉と俺達の間30mほどの空間に巨大な魔法陣が現れた。
赤黒い光を放ち、脈打つように音を響かせる。
……見覚えあるねあの魔法陣。
あぁそうだそうだ、あの時のベヒモス君の魔法陣に似てるわアレ。
でも、ベヒモス君の魔法陣が直径10mくらいだったのに対して目の前の魔法陣はおよそ三倍の大きさがある。
加えて構築された式もより複雑で精密なものとなっており、格の違いを再確認させてくれる。
「この迷宮のラスボスだね。……もうちょっと準備してけば良かったかな……」
「……大丈夫……私達…負けない……」
ちょっと及び腰になるも、アレーティアは決然とした表情を崩さず俺の手をギュッと握った。
彼女の励ましに無言で頷き、不敵な笑みを浮かべながら魔法陣を睨みつけた。
どうやらこの魔法陣から湧いてくる化物を倒さないと先へは進めないっぽい。
それならもう殺るしかねぇ!!
魔法陣はより一層赤黒く輝くと遂に弾けるように光を放っ―――うわ眩しっ!!?
急激な光に目をやられた俺は咄嗟に手をかざして陰をつくって視界の回復に努めた。
そして光が収まり、そこに現れたのは―――
『『『 クルゥァァアアン!! 』』』
ヒュドラ 災害レベル【竜】
……体長30m、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。
それは例えるなら神話の怪物ヒュドラだった。
不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が地上から来訪した不届き者を射貫く。
身の程知らずな侵入者に裁きを与えてやるー!とでも言いたいのか、常人であればそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない大瀑布の如き殺気を叩きつけられる。
叩きつけられるが―――
「……………………………………思ってたんと違うな」
『『『 クルァ!!? 』』』
俺の反応を見て明らかに困惑しているヒュドラ。
……いやいや、困惑するのはこっちだって。
「……どうしたの、レイタロウ……?」
「……ユエ、あの
「……強い。今の私と同じかそれ以上」
「……そっかぁ、そうだよなぁ……」
まぁそうだよな、原作のハジメ君とアレーティアが死ぬ気で頑張れば勝てる相手だもんなぁ……。
奈落に落ちてから強くなったハジメ君と奈落に落ちる前から強かった俺じゃ、そりゃあ差もデカいよなぁ……。
……でもまさか、ねぇ?
クルッ「ごめんね、期待しすぎてた俺がバカだったよ」
『『『 ク…クルァ……? 』』』
ヒュドラと視線を合わせ、あらかじめ謝罪しておく。
「もうちょっと骨があるのかと思ってたんだ。少なくともあのボロスくらいは強いのかと……」
『『『 ……?……?? 』』』
「想像以上に想像以下だった。巨大隕石とドッコイドッコイじゃ、ジェノスにも勝てないよ君」
『『『 ……クルゥァァアア!!! 』』』
〝お前なんてちっとも怖くない〟……それをようやく分かってくれたようで、ヒュドラは困惑から一転凄まじい怒りを露わにしながら火炎放射を放った。
それはもう炎の壁というに相応しい規模だ。
「―――〝空絶〟」
咄嗟に俺の前方に躍り出たアレーティアが、空間魔法を応用したドーム型の結界を展開しヒュドラの放った炎熱を完全に防ぐ。
確か結界は苦手だって言ってたはずだけど……俺の〝夢空間〟を見て結界術の感覚を掴んだのかな?
『『『 クルルァアア!! 』』』
火炎放射だけでは分が悪いと判断したのか、赤頭に加勢する形で緑頭と青頭がアレーティアの結界を破ろうとブレスを発射する。
三種のブレスが結界に突き刺さるものの、それでもアレーティアの守りにヒビすらまともに入れられない。
黒頭がアレーティアを睨みつけるが、内と外とでは環境が異なるため勿論恐慌状態になどならない。
……よし、どう倒すか決めたゾイ!
「ユエ、結界を解除してくれ」
「……どうするの?」
「俺の全力形態を教えてあげるのさ。……君達に」
「っ!!?」
上着を脱ぎ、アレーティアの肩に被せる。
そして唱える、素敵な素敵な魔法の呪文―――
「……〝変身〟」
皮膚が、筋肉が、骨が、細胞が、俺を構成する全ての物質が、急速に激変していく。
人類という虚弱生命からの脱却、及び怪人すら超越した完全生命体へと〝進化〟を果たしてゆく。
全身から蒸気が吹き上がり、やがて変化は見た目にも表れ始めた。
皮膚が黒く変色し、さながら龍の鱗のように変化。
背鰭のようなモヒカンは本物の背鰭のように鋭く硬質化し、
モヒカンだけではなく、体の節々からも眩いばかりの白銀の光が漏れ出る。
ズボンの上から結晶の如き背鰭を点々と生やした太く長い尻尾も生成されてゆく。
(別に怒ってはいないけど)その顔にはこの世全ての理不尽に対する〝憤怒〟が深々と刻み込まれており、見る者全ての心を砕く威圧感として表面化した。
「……ハッ、ハァ、ァ、レ、レイタロウ……!?」
『『『 クルル……!! 』』』
それを証拠に、先程まで余裕そうにヒュドラの攻撃を防いでいたアレーティアが急にその場にへたり込み、滝のような汗を流しながら俺だけを見つめていた。
どうやら結界のほうも自分の意思で中断したというより恐怖ゆえに維持できなくなったといった感じで、段々と息が荒くなり、涙・鼻水・涎・汗・失禁……と体中の穴という穴から水分を垂れ流している。
……あんまり長時間変身するとヤバいね。
『『『『 クルァアアアア!!! 』』』』
おっ、なんか銀色の頭を生やしてきたぞあのヒュドラ。
明らかに怯えた様子で大口を開いたヒュドラは、ほかの頭ともども予備動作もなく極光のブレスを吐き出した。
「
俺の雷鳴よりも五月蝿い大声がヒュドラの放った極光と衝突し、これを見事相殺することに成功する。
ヒュドラも流石にこんな結果になるとは思ってもいなかったらしく、あまりにも現実離れした現実に呆然とするほかないといった様子であった。
そして、そんな隙を見逃す俺ではない。
「―――必殺〝マジシリーズ〟」
一足飛びにヒュドラの間合いに潜り込み、右腕に『気』を纏わせ―――
「マジ殴り」
……躊躇なくぶん殴った。
それがダメだった。
「「 ……………………………あっ 」」
思わずアレーティアと声が重なってしまう。
ヒュドラを本気パンチで蒸発させたまでは良かった。
……調子に乗って加減を誤り、ヒュドラを消し飛ばしたパンチの衝撃がちょうどその背後にあった巨大な両開きの門に直撃。
門をぶち壊すだけに飽き足らず、その先にあるであろう
呆然と目の前の大破壊を見つめる俺氏。
……ようやく頭が現実に追いついた時、俺は人目も憚らず変身した姿のまま膝から崩れ落ちた。
「……うぁぁああああやっちまったぁぁあああ!!!」
「……どんまい」
その場で泣き崩れる俺を、いつの間にか立ち直ったアレーティアが慰めてくれた。
コウキ君とともに奈落に落ち、アレーティアを救い出して仲間にし、迷宮の最後の門番であるヒュドラを倒す。
……およそ23時間にも及ぶオルクス大迷宮の探索は、これをもって完了した。
けどせっかくの休憩スポットがぁぁああああ(泣)
ちょっとだけネタバレすると、被害は門と隠れ家の周囲だけに留まっております。
とりあえずこのトータスに致命的な損傷はありません。
オスカーさん「……解せぬ」