キングさん自身が(皆にとっての)ご都合主義の塊だから、このくらい痛い目を見ないとね……?
<<< オスカー・オルクスの隠れ家だった場所 >>>
「アレーティア、シチュー出来たよぉ」
「……美味しそう」
どうも〜〝最高〟のヒーローキングで〜す。
俺とアレーティアは今、門の先にあった隠れ家……だった場所で自炊をしている真っ最中でござ〜い。
いやはや、焚き火の明かりくらいしか光源がない洞窟の中で食べるシチューはさぞ美味しいんだろうなぁ……。
「……結局、無事なところは全くなかった」
「うぐっ」
大皿によそられたシチューを頬張りながらボソッと呟いたアレーティアの一言に胸が締め付けられそうになる。
ちょっと、それは今は言わない約束でしょ!?
「……マジでごめん、完全に力加減を誤ったよぉ……」
俺もシチューを頬張りながら改めて周囲を見渡す。
そこには、たぶん人家があったんだろうな〜という僅かな痕跡のみを残してぶっ壊れたオスカー・オルクスの隠れ家の残骸が広がっていた。
頭上にあるべき人工太陽や川、畑、家の中のインテリアや風呂場、果ては―――オスカー・オルクスの遺骨とそこにあったであろう魔法陣さえも修復不可能なまでにぶっ壊れてしまっていたのだ……。
恐るべき俺の本気パンチ!……本気っつっても全力からは程遠いけど。
「……それはいいとして、どうやって地上に出る?」
「地上?」
「……私の見立てでは、ここに地上に繋がる手段があると思ってた。でも完全に木っ端微塵になっちゃって……」
「地上に出る手段だったらあるよ?」
一瞬何を言われたのか分からなかったようで、アレーティアはキョトンとした表情で俺を見つめた。
「……そうなの?」
「うん、っていうかその気になればいつでも地上に戻れるよ」
「……そういえば神代魔法を使えてた。それも五つ」
「そのうちの一つは君と出会ってからね。……まぁ神代魔法がなくても地上に戻れるんだけど」
「……いつでも戻れるのに、なんでここにいるの?」
おっ、鋭い指摘だね。
そうそう、ここからが本題なんだよね。
「理由はいくつかある。……が、強いて挙げればここが人目どころか神の目も届かない秘密の場所だからかな」
「……ここで可能な限りの準備が出来る」
「そんでアレーティア、君を鍛えられるワケだ」
記憶や経験を共有することで四つの神代魔法や『気』の制御法を習得し、原作と比べてかなり早い段階で強くなることが出来た彼女だが、それでも俺から見て未熟なところは多々あった。
神の目も届かないこの場所でなら、存分にアレーティアを強くすることが出来るだろう。
……少なくとも体を乗っ取られない程度には心身を強くするつもりだ。
「とりあえず、飯を食い終わったら君に生成魔法を伝授しよう。無機的な物質に干渉できる魔法だ。極めればきっと面白くなるぞぉ」
「……楽しみ」
「あまり
「……つまりはレイタロウを目指せってこと?」
「そゆこと」
あくまで余談だけど、俺の『気』に
そういう特殊体質ではなく、無駄を可能な限り削ぎ落としていった末に獲得した努力の結晶のようなものだ。
単純なエネルギー総量は(目測で)ボロスの数十倍。
加えて普段から意識して『気』の漏出を断ち切っているため、バカでかい図体に反して気配を周囲に悟られることもあんまりない。
『気』による不特定多数の負傷者の治癒、瞬間移動を応用した人員輸送、自己強化した上での全力運動……これらを並行してなお消耗しない自信がある。
「……ん、頑張ってみる」
「そうそう、その意気だよアレーティア」モニョモニョ…
「……ずっと気になってたことがある」
「ん?なんだい?」
「……料理の時に決まってレイタロウの近くにいる
アレーティアが俺―――の魔法のウエストポーチの近くでモニョモニョ動いている
醤油みたいな体色をしているこの子にはいわゆる目鼻口が存在しない。というか手足すらもない。
見た目はRPGに出てくるスライムと言ったところか。
触ってみると気持ちいいぐらいにプニプニしており、嗅ぐと食欲をそそる美味しい匂いがする。
ふっふっふ、そうです、そうですともアレーティアさん!
この子のことは是非とも紹介したかったんだよねぇ!
「変成魔法を駆使して創り出した魔物スパイス君さ。この子は自分の体から砂糖や塩といった調味料を捻出する固有魔法を宿していて、特筆すべきは魔物特有の毒物を一切分泌しない点にあるんだよぉ」
「\(^o^)/」モニョモニョ…
「……すごい」
「君が今まで口にしていた料理の調味料は、ずっとスパイス君から捻出していたものさ」
王国にいた時からずっと試行錯誤を繰り返し、この大迷宮に行こうってなった時にようやっとスパイス君の完成に漕ぎ着くことが出来たのだ。
『気』を流し込んでやればそれを燃料に調味料を生成してくれるお手軽さが売りである。
「とはいえスパイス君は生まれたばかり。まだまだ成長する余地が残っているワケで―――」
「……うんうん」
自慢話なんてする機会、元の世界じゃ滅多になかったからついつい話し込んでしまう。
静かに聞き役に徹してくれているアレーティアとの語らいは、およそ二時間近く続くこととなった。
<<< 〝ハイリヒ王国〟 >>>
一方、キングとアレーティアが奈落で仲良くシチューを食べているのとほぼ同時刻、聖教教会のお膝元であるハイリヒ王国の王宮の一室にて一通の手紙の内容に頭を抱える者がいた。
「(まさかキングさんとコウキさんが大迷宮で行方不明になろうとは……これは少々まずいわね……)」
美しいストレートの金髪が目を引く美少女、もといこの国の王女であるリリアーナ姫は、自分宛てに騎士団長メルドが送ってきた手紙の内容……キングとコウキがオルクス大迷宮探索中に行方不明になった旨の知らせを目にし、少なからず焦りを募らせていた。
「(帝国の使者、と言うより
何故このタイミングなのか。
元々エヒト神による〝神託〟がなされてからコウキ達が召喚されるまでほとんど間がなかった。
そのため同盟国である〝ヘルシャー帝国〟に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかったのだ。
もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる。
何故なら帝国は300年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国だからである。
突然ひょっこり現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできないだろう。
聖教教会は帝国にもあり帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。
大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められていることから信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだ。
……あくまでどちらかといえばという話であり、熱心な信者であることに変わりはないのだが。
そんなワケで召喚されたばかりの頃のコウキ達と顔合わせをしても軽んじられる可能性があった。
勿論あの聖教教会を前に神の使徒に対してあからさまな態度は取らないだろうが、王国が顔合わせを引き伸ばすのを幸いに、帝国側、特に皇帝陛下は興味を持っていなかったので今まで関わることがなかったのである。
「(それが突然顔合わせをさせろとの催促ばかり。あの皇帝に興味を抱かせる者となれば一人しかいないわ)」
召喚された少年少女達の保護者のように立ち振る舞う、身の丈2mは優に超える大巨漢。
その強面も合わさって初対面の時は内心警戒していたリリアーナであったが、いざ話しかけてみると良い意味で予想を裏切られることとなったのは記憶に新しい。
……そんなことを考えていると、自室のドアをノックする音が聞こえてきた。
手早く手紙を封の中にしまい、リリアーナはドアの前にいるであろう来訪者の入室を許可する。
「……失礼いたします、姉上」
「ランデル……どうしたのです?このような夜遅くに」
来訪者の正体は、この国の王子にしてリリアーナの実の弟であるランデル。
「……父上も母上も忙しく、ほかに頼れる相手が姉上しかおりません。……姉上、キングがいなくなったなど嘘でございますよね?」
「ランデル……」
不安そうな表情でリリアーナを見つめるランデルであったが、それも致し方のない話だ。
リリアーナ宛てに送られた手紙とは別に、キングとコウキの行方不明を知らせる文書は聖教教会と王国にも届けられており、現在上層部は紛糾している。
異次元のステータスを叩き出したキングとそんな彼に次ぐ高ステータス持ちのコウキが二人揃っていなくなったなど国の威信に関わる問題だ。
だがランデルにとってそんなことはどうでもよく―――
「……騎士団長のメルドは忠義心にあふれる信用できる男です。虚偽の報告で王国に混乱をもたらすような真似は絶対にしません」
「あのような報告……ただの勘違いという可能性もございますッ!」
「もし勘違いならばすぐに分かることです。そもそも文書にして送るまでもありません」
「それは……そうですが……ッ」
「……ランデル、あなたがキングさんにどのような感情を向けているかは存じています。ですが今は現実に目を向けなければなりません」
頭では分かっていても心では理解りたくない、そんな心情がありありと表れていたランデルにリリアーナは冷静になれと諭す。
大きく、強く、優しい。
ランデルの理想とする英雄像とは少しばかりかけ離れてはいたものの、どこぞのちょくちょく暴走する勇者(笑)以上の大人っぷりに少年の心はメロっていた。
ランデルのほうからキングに声をかけた日を皮切りに、ちょくちょくお忍びで城下町を練り歩いたり恋愛相談に乗ってもらったり姉と話し込んでいる姿を見て嫉妬したりと本当に色々あった。
だからこそキングが(コウキとともに)いなくなった現実を受け入れることが出来ずにいたのだ。
「……姉上、余はキングが死んだとはとても思えません。あれほど強い男がのうのうと野垂れ死ぬなど、そんなことがあっては……ッ」
「それについては同感です。……キングさんならばきっと大丈夫。何せ―――」
リリアーナは
「……さぁ、そろそろお休みなさい。明日からもっと慌ただしくなりますよ」
「……分かりました」
今度ばかりは大人しく引き下がったランデル。
弟が自分の部屋へ戻っていく様子を見送りながらリリアーナは、自分宛てに送られてきた手紙の
「(……〝牛乳文字〟で書かれていた内容には大変驚かされましたが、それだけキングさんが私を信頼なされているという証)」
びっしりと文字が書き並べられていた数枚の紙の中に不自然なくらい何も書かれていない白紙が一枚、気にならないはずがない。
〝キングからの伝言です。コウキを
……紙から仄かに漂った牛乳の香りから即座に蝋燭の火で表面を炙り、そこに書かれていた内容である程度事情を把握したリリアーナ。
「(出来ることは限られますが、それでもやらねばなりません……!!)」
自分達の世界の事情にほかの世界の人間を巻き込んでしまった負い目も勿論ある。
だがそれ以上に、キングの英雄としての姿に感化されたことが何よりも大きかったのだ。
リリアーナは直感していた。
キングであれば、どんな困難であろうと容易く乗り越えて必ずや〝最高〟の結末をもたらしてくれると。
<<< 遥か上空 >>>
「(急がねば、急がねば、
何処の国の上空か、体長7mほどの漆黒の鱗に全身を覆われた竜は、誰が見ても分かるほどの焦りを垣間見せながら夜空を飛翔していた。
その心に一切の余裕はない。
「(里の者が予知した未来……
漆黒の竜は飛翔し続ける。
休憩など、する暇もない。
エヒトさん「あ〜平和だな〜。今日はどんな奴の人生をメチャクチャにしてやろうかな〜?」ドッドッドッドッドッドッ