ここから先、批判覚悟で書いていきます。
覚悟はいいか?俺は出来てる―――
コウキという名の少年は、一言で言えば正義のヒーローが大好きな正義感の強い少年である。
正義とは悪を打ち倒すもの。
悪とは正義に敗れるもの。
少年は、正義が大好きであった。
一般家庭に生まれた彼には、今でも心から尊敬し憧れる人物がいる。
その人物とは、コウキの祖父カンジだ。
業界では有名な敏腕弁護士であった祖父の家に遊びに行くのが長期休暇の恒例行事だったのだが、カンジの妻(コウキの祖母)が早くに他界したこともあり、一人暮らしだったカンジは孫であるコウキをそれはもう大層可愛がった。
年の割には背も曲がらず筋肉質で覇気に溢れており、だからといって恐ろしいということもなく優しい人だった。
そんな祖父をコウキもよく慕っており、
中でもコウキが一番好きだったのはカンジの話す経験談だった。
長年の弁護士としての仕事より得た経験を、絵本を読むが如く光輝に語って聞かせた。
当時幼かったコウキにも分かりやすいように、また守秘義務から相当アレンジは加えていたが、それでも弁が立つ祖父の話は魅力に満ちていてコウキは幾度も心躍らせた。
弱きを助け、強きを挫き、困っている人には迷わず手を差し伸べ、正しいことを為し、常に公平であれ。
カンジの話は結局のところそういう教えを含んだものだ。
理想と正義を体現したヒーロー物語。
幼い子供に対するありふれた話だ。
コウキにとっては祖父カンジこそがヒーローだった。
同年代の子供が某仮面を付けたバイク乗りやインスタントラーメンが出来るより早く宇宙怪獣を打倒してしまう宇宙人に憧れるようにカンジに憧れたのだ。
身近にいたからこそ、その憧れはほかの子供達より強かったと言えるだろう。
いつか自分も祖父のように、と。
だが当然のことながら、世の中というものはカンジの話のように正義と公平が悪と理不尽を切り裂き、理想の正しさを実現し続けられるようには出来ていない。
弁護士という職業とて正義と公平は掲げていても、その一番の使命は真実の追求や悪人の弾劾ではなく依頼人の利益を守ることだ。
世の中の薄汚れた部分も理想や正義を掲げるだけでは足りないことを知り尽くしているということなのだ。
だが、そのことをコウキに教える前にカンジは他界してしまった。
当時弁護していた被告人に死刑判決が下された瞬間、腹いせに八つ裂きにされたのだ。
……結論を先に述べると、カンジは間違った相手を信じてしまったのだ。
被告人の男には述べ数十件に渡る猟奇殺人の容疑がかけられており、また反省の意思が欠片もないことから検察に死刑を求刑されていた。
動かぬ証拠も出揃っており、敏腕弁護士のカンジをしてほぼ詰みの状況であったが、それでもカンジは男の弁護を引き受けることを決意した。
理由はいたって単純。
孫のコウキに、せめて
当時のカンジは相当な高齢で、弁護士を続ける体力にも限界が近付いていた。
後進は立派に育っている、ならばここで身を引くのが筋だろうと思っていた矢先の今回の依頼だ。
加えて、勝機が0%だったワケではないのも今回の依頼を引き受けるに当たっての大きな後押しとなった。
被告人の男には重度の精神疾患があり、犯行当時
その表情に嘘はない、そう判断したカンジは男の無罪を信じ、男の無罪を勝ち取るために奔走した。
そうして一審で掴み取ってしまったのだ、無罪を。
被告人の精神状態もだが、検察が提出した動かぬ証拠の不自然さ、当時現場近くで被告人を目撃した人々の記憶の曖昧さ、事情聴取の不当さが考慮された上での薄氷の勝利であった。
祖父カンジが勝利を上げた瞬間を傍聴席で見ていたコウキは、やっぱり祖父はヒーローなのだと確信した。
自分も祖父のようになりたい。
コウキの憧れが目標に変わってから間もなく―――
……事態は最悪の方向へ舵を切った。
当時被告人に対するバッシング、有り体に言えば〝死ねばいいのに〟という
その民意は被告人のみならず被告人の家族や担当弁護士のカンジ自身を食い千切ろうと
いつからか、祖父カンジはコウキが実家に来る頃には既に外で待機しており、いつも汗だくで玄関前を掃除している様子であったが、その真意をコウキが知る機会はない。
そんな不穏な空気が漂う中行われた二審、最終的に下された被告人への判決は―――死刑であった。
被告人の犯行を裏付ける確かな証拠もなしに下された死刑判決。
それは完全に民意を反映した上での不当な判決であった。
『……やだよ、私まだ死にたくないしぃ……』
直後、変貌を遂げた被告人。
……その正体は怪人だったのだ。
鋭利な刃物のように両腕を変形させ、真っ先に八つ裂きにされるカンジ。
その心境は〝困惑〟として死に顔に表れていた。
次いで、死刑を求刑してきた検察官を縦に切り分ける。
その顔は恐怖に歪んでいた。
その次は死刑を宣告してきた裁判長。
丁寧に三枚おろしにされてしまった。
『ふふっ、やっぱり定期的に人を切らないと衝動が収まりそうにないやぁ……♡』
情けをかけたのか、はたまた気まぐれか、怪人はそれ以上殺生することなく法廷を後にした。
……祖父カンジの死を傍聴席で目の当たりにしたコウキ達を放置して―――
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「……以来コウキは、自分の正義に反する〝悪〟を憎むようになりました」
「まさかコウキにそんな過去が……!」
シズクの話に耳を傾けていた騎士団長メルドは、あまりに凄惨な話に驚きを隠せずにいた。
藪をつついたらドラゴンが出たくらいの心境だ。
「コウキの爺さんを殺したその怪人、キリサキングなんて呼ばれているっぽくってさ、通り魔的に民間人を襲っては姿を晦ますからいまだ退治されてないんだよな……」
「……だからなのかな、最近のコウキ君は本当に怖いんです。まるで正義に取り憑かれているみたいで……」
そうだったのかと得心するメルド。
怪人、人に危害を及ぼす魔物によって尊敬する祖父を殺されたとなればその存在に嫌悪感を抱くのは当然である。
例えそうでなくとも、自分が憎む怪人のような姿形に変身してしまうキングを見てしまえばどうなるか、想像に難くなかった。
「……なるほどな、そんな経緯を辿っていればキングを憎むコウキの気持ちも分からないでもない。今回距離を取るように命令したワケだが、それが功を奏したな―――」
「話はッ!ここで終わりじゃないんですッ!!」
シズクに代わって今度はカオリが、声を張り上げ話の続きを口にした。
悲劇の更にその先にある、恐るべき惨劇を……。
「……数ヶ月も前、私達の住む街に災害レベル【竜】の怪人が襲来してきました」
「っ!!?……そ、それは―――」
「複数の街が壊滅する危機……さっきハジメ君が言った通り、私達は竜に匹敵するほどの脅威に晒されて、この命を
「……ん?落とした?言い間違いか?」
「……言い間違いなんかじゃありません。私も、シズクちゃんも、リュウタロウ君も、ハジメ君も、コウキ君の
カオリは重苦しい雰囲気を漂わせながらも言葉を紡ぐ。
同時に、当時の辛い記憶も呼び起こされた。
それはある日の通学途中でのことだった。
突如として白光に飲み込まれ、意識を消失した。
『だ、いじょ、うぶ、カオ、リさ、ん……?』
『ハ、ジメく、ん?……ハジメ君……!!』
再び意識を取り戻した時、視界に映るのは自分に覆いかぶさるように倒れ込むハジメの姿。
驚きのあまり体を動かそうとするが、何故か思い通りに体が動かない。
密かに意識していた少年の胸と自らの脇腹を貫くように、細長い棒状のオブジェクトが突き刺さっていたのだ。
『いや…いや……だれか……たすけて……!!』
血の塊を吐き出し、みるみるうちに蒼白になるハジメの顔を見ながら助けを呼ぶことしか出来ない。
その瞬間、ハジメに向ける自分の感情の正体を理解したカオリは、徐々に血の気が失せていくハジメに必死になって本心を吐露し続けた。
『あなたが、すき。あなたの、やさしさが、すき、です。あきらめないで、しなないで、わたしの、まえから、きえないで、おねがい、おねがい……!』
『ぼ、くも―――』
ハジメの命の鼓動が、絶たれた。
それは酷く緩慢で、唐突で、残酷な報せであった。
『あ、ぁぁあ、ぁぁぁあああああ!!!』
助けられなかった。
救えなかった。
駄目、何もかもが駄目だった。
絶望に打ちのめされたカオリの心は限界を迎え、やがて血を失いすぎた体も限界を迎え、ハジメの後に続くように、まもなく意識を永遠に閉ざすこととなった。
『(……嗚呼、でもこれで、ハジメ君と、一緒に―――)』
彼と一緒に死ねるなら、もうどうでも良かった。
早くこの絶望から解放してと、心の底から願った。
『……ォリさん、カオリさん』
『……ハ、ジメ君?』
意中の少年の呼びかけに応じるように、再びカオリの意識が覚醒した。
視界に映るは
そこでようやく気が付いた。
ここは―――あの世なのだと。
『もう大丈夫だよカオリさん、僕達た―――』
『ごめんッ!私守れなかったッ!あなたのことを守れなかった……ごめんなさい、ごめんなさいッ!!こんな私を許してなんて言えない、あなたを、あなたを、うぁぁあああ!!』
ハジメの胸に飛び込み、必死になって謝った。
何よりも大切な人を守れなかったことを、目の前で何も出来ずに見殺しにしてしまったことを、さながら迷子の子供のように泣きじゃくって謝った。
『カオリさん、その、恥ずかしいよ……』
『やだッ!もう絶対離さないからッ!!』
『カオリッ!!そこにいたのねッ!!』
『……ふぇ?シズクちゃん……?』
聞き慣れた親友の声、その声を聞いたことでようやく落ち着きを取り戻したカオリは周囲を見渡す。
ガレキだらけの破壊され尽くされた街中に無数の仮設テントが張られており、自分達はどうやらそのうちの一つにて横たわっていたようだ。
『カオリさんよく聞いて!』ガシッ
『ひゃ、ひゃい!!?』
『僕達助かったんだ!
ハジメの言葉を聞いて、そんなことがあり得るのかと驚愕を露わにするカオリ。
その言葉とは―――
「……すまん、もう一度言ってくれるか……?」
眉間を揉みほぐしながらカオリに再度確認を取るメルド。
やっぱり聞きたくない。
でも聞いておかないと。
……相反する二つの心に板挟みにされ、精神的疲労が溜まっていた。
「はいッ!その時A市にいた死傷者を全員、キングさんは余すことなく治癒してのけたんですッ!!私もハジメ君も、キングさんによって命を救われたんですよッ!!?」
これ以上ないくらいに瞳を輝かせながら語るカオリ。
さながら唯一絶対の信仰対象を見出した狂信者のような恍惚ぶりだ。
その陶酔ぶりは、かのイシュタル教皇と遜色ない。
「……カオリの言っていることは概ね合ってます。
キングさんは、その、蘇生レベルの治癒を数万人にものぼる死傷者に施して、余すことなく救い出したんです。
私も、リュウタロウも……」
「キングさんは戦うだけが能じゃねえってあの時思い知らされたんだ。ありゃあもう人の皮を被った神様だぜ」
マジかぁと天を仰ぐメルド。
同時に、ヒヤマ達と違ってシズク達の言葉に嘘はないだろうとも直感していた。
それでも、まさか自信満々に堂々と胸を張って死者蘇生なんて抜かすとは予想していなかったばかりに、それはもう呆れを多分に含んだ深い溜息をついてしまう。
その時、ふと気になる言葉が出たことを思い出すメルド。
「コウキの
「……はい、偶然ガレキとガレキの間に挟まって命拾いしたコウキの目の前で両親と妹ちゃんは息絶えたそうです。その三人もキングさんによって命を救われたんです」
「ちょ、ちょっと待て、話がおかしくないか……?」
聞いていた話と違うとメルドは待ったをかける。
コウキの主張を鵜呑みにするならば、コウキの家族はキングの手によって殺されたということになる。
祖父を怪人に殺され、両親と妹を怪人
だがそう考えた場合、疑問に感じる要素がある。
……キングの人間性だ。
ハッキリ言って、あの理想の英雄像を具現化したような好漢が民間人に危害を加える姿を想像することがメルドには出来なかったのだ。
生徒達の慕いっぷりを見ても分かる通り、キングの高潔な人間性に疑いの余地はない。
そうすると自ずと導き出されるのが〝コウキはただ単にキングのことが嫌い〟という説である。
キングという人間がとにかく気に食わず、家族を殺されたという偽の情報を吹聴することで足を引っ張ろうと画策している。
現時点ではこれが一番有力だろうと考えていた。
……考えていたが、ここに来て新たな情報が舞い込み、メルドは更に頭を悩ませることとなる。
「……もしかしてアレか、コウキは家族との仲が良くなかったとかそういうオチか?」
「……いいえ、コウキは自分の家族が目の前で甦って酷く喜んでいました。むしろ家族を救ってくれたキングさんに涙を流すほど感謝していたんです」
「?……??……???」
「キングさん以上に理想的なヒーローはいないとコウキは無邪気に笑いながら言っていたんです。ヒーローになるためにサイボーグ化施術を受けたらしくってホントに驚かされましたが、それでもコウキのあの憧れの眼差しは嘘じゃなかったはずなんです」
「????????」
混乱する頭で、必死になって情報を整理する。
つまりキングは、コウキの家族の命の恩人ということになり、コウキ自身そのことに深い恩義を感じていたと。
……現在のコウキとはまるで真逆であった。
「……あの日が、来るまでは」
シズクの言葉にメルドは更なる驚愕を露わにする。
A市を再び襲った大災害。
竜を飛び越えた神に手をかける脅威の襲来。
街を覆う宇宙船と宇宙人の侵略。
街全体を守るように展開された王の加護。
地上に降り立った宇宙人を打ち倒す英雄達。
怪物の姿を晒してまで戦い抜いた英雄の王。
頭上を陣取る宇宙船を〝月〟ごと粉砕する純白の光の柱。
蒸発した月に代わる新たな月を創造した漆黒の光の柱。
メルドは思った。
自分はもしかして神話を聞かされているのか?と。
「これはあくまで私の推測ですが」
困惑を隠せないメルドに追い討ちをかけるように口を開くシズク。
「コウキは、今までヒーローだと信じていたキングさんが怪人としての姿を露わにしたことで裏切られたと思っているはずです。積もり積もった好意が反転して憎悪に変わった、むしろそう考えなきゃ
「……あんな恐ろしいこと?」
そこが話の核だと直感したメルドは、震えるシズクの血の気の失った唇から漏れ出る恐ろしい言葉を聞き届けた。
「……宇宙船騒動の翌日、A市の仮設住宅で家族三人が惨殺される事件が起きました。遺体はそれぞれ
「その三人こそ、コウキ君の両親と妹ちゃんです」
「……………………おいおい、嘘だろ……!?」
メルドの中でバラバラに散らばっていたパズルのピースが一気に組み上がっていく。
コウキの祖父を襲った悲劇。
一度は死別した家族との奇跡の再会。
憧れが憎悪に変わった瞬間。
そして、惨殺されたコウキの家族の死に様。
即ち―――
「隣の住人が一部始終を目撃していたから間違いありません。……コウキ君は、自分の家族を殺したんです」
メルドは思い知らされた。
キングがどれだけの重荷―――人類社会の守護者としての期待を一身に背負っているのかを。
メルドは思い知らされた。
コウキの大罪―――キングに救われたその命で父を、母を、妹を惨殺したことを。
「……一つ、聞かせてくれ」
「……はい」
「……何故、そこまで分かっていながらコウキは野放しにされているんだ?普通に考えて投獄するべきだろう?」
「それは―――」
「……国家権力よりもある意味強大な民間組織に守られているからです」
「何だと?」
シズクに代わって今度はハジメが口を開いた。
「最近設立されたその組織、ネオヒーローズと言うんですが、コウキ君はそこに所属しています」
「ネオの構成員が起こした不祥事はネオで片をつけるっつって、ヒーロー協会の管轄内だってのに証拠品根こそぎ持ってっちまったんだ……」
「……翌日にはコウキ君の犯行を目撃したお隣さんが謎の変死を遂げて、当のコウキ君は何食わぬ顔で学校に登校してきて……気持ち悪いを通り越して怖かった……」
今でも
警察に捕まったと思っていたかつての幼馴染が、平然と教室の中に入って口にした言葉。
『皆の仇は、必ず討つ!!』
歯をキラリと輝かせながらそう言い放ったコウキを見て、クラスにいた誰もが理解した。
コウキの中で、自分達は既に
自分の家族を皆殺しにしたのは、つまるところ
その日を境に学校生活は地獄と化した。
王の躍動が、鳴り響くまでは……。
問題(デデンッ)
自分のクラスに警察では手の出しようがない凶悪な殺人鬼がおり、ソイツは友達面で色んな奴に一方的に絡んできます。下手に刺激すれば何をされるか分かりません。誰にも頼ることが出来ません……。
そこに突然、命の恩人にして地上最強のヒーローが乱入してきました。この時のカオリの心情を答えよ。
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