シミュレーション オブ ホムラ   作:生パスタ

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終_コンティニュー

 暁美ほむらの脳は、宇宙人に寄生されている。

 

 

『ほむら、答えはまだ出ないのかい? いい加減に待ちくたびれたよ』

 

 ほむらは、高層ビルの屋上から光渦巻く夜の街を見下ろしている。彼女の流れるような黒髪を風が微かになびかせている。

 

『寄生虫の分際でしつこいわね。それに、私の頭の中で喋るなと何度も言ってるでしょう?』

『正確には君の頭の中じゃなくて意識内だよ。つまり、ソウルジェムの中だね』

『はぁ!? あなた、私の魂の中に居たの!? ……今すぐ出て行きなさい』

『まあまあそう言わずに、ルームシェアをする同居人どうし仲良くやって行こうじゃないか』

 

 その“ルーム”に不法滞在しているくせに、調子のいいことを言う寄生生物。ほむらは大きなため息をついた。

 

 先日、断りもなく人様の意識内へ侵入したキュゥべえは、事あるごとに彼女へ件の選択を迫ってきた。毎日欠かさずきっちり1時間毎にまだかまだかと言い出して、あげくの果てに就寝中のほむらの夢にまで出てきて「まだ?」と小首を傾げながら聞いてくる始末。

 ほむらは、もうウンザリしていた。

 感情を持つインキュベーターというのは、彼女が思っていた以上にうっとうしい存在だった。ウザさを以前の100倍以上に進化させている。しかも、そいつが頭の中に住んでいるのだ。精神的消耗もひとしおである。

 

『もうちょっと待ちなさい。私にも心の準備というモノが必要なのよ……』

 

『ふうん……。“心の準備”かい? 僕にはそれが言い訳にしか聞こえないね』

 

 知ったような口を利くキュゥべえ。これだから、感情を覚えたばかりの宇宙人は扱いに困る。以前なら「そうなのかい? 分かったよ」で終わっていたはずだ。だがコイツは今、憶えたての知識を披露したくて仕方がないらしい。

 

『君はまどかを恐れているだけだ。自分の選択を彼女がどう思うか、それが怖いんだろう? まったく、馬鹿馬鹿しいね』

 

『キュゥべえのくせに生意気よ。ちょっと感情を憶えたからといっていい気にならないでちょうだい。いったい何が馬鹿馬鹿しいというの?』

 

『下らない事で悩んでいる暇があったら、その悩みの原因を解消するために行動した方がよっぽど有意義だということさ』

 

 キュゥべえの意見はわりと正しい。だが、腹が立つ。キュゥべえだから。

 

『ほむら。僕は感情というものを理解して、ようやく分かったことがある。それは、君とまどかの関係は見ていて気分の良いものじゃないということなんだ。君達は、お互いの意思の疎通がまったくと言っていいほど出来ていない。特に君は自分の気持ちを一方的に相手へ押し付けながら、そのくせ相手の気持ちを知ることを恐れているね。君がお得意の“愛”は、ずいぶんと自分勝手なモノのようじゃないか』

 

 声だけでここまで人をイラつかせることができるとは、さすがはキュゥべえといったところか。

 

『ほんっとうにウザいわね。人の感情は、あなたの小賢しい理屈で説明が付けられるものじゃないのよ。私の気持ちなんて他人に理解できるわけないわ。私自身にも分からないのだから』

 

『それはまあ、君の言うとおりだね。人が何を思っているのか、人が何を感じているのか、なんて分かるわけがない』

 

 キュゥべえはここで一泊置いた。

 宇宙人の次なる言葉を待つ間、ほむらは、黙って街の光を見つめていた。

 

『……だからこそ、言葉がある。会話があるんだ。人はお互いの気持ちを知るために言語を発達させたんだ。今こそ、それを有効活用するべきだろう。僕が思うに、君とまどかは一度よく話し合ってみるべきだね。このままずっと、ビルの屋上でナルシストみたいに黄昏れていても時間の無駄でしかないよ』

 

 結論を急ぐキュゥべえ。

 宇宙人が言うことには、この世界は管理者たるまどかが、風邪をひくなどといった不測の事態に陥っただけで崩壊しかねない薄氷の上に築かれているので、一刻も早く現実世界へ回帰すべきだということらしい。

 インキュベーターからすれば、神や悪魔の気まぐれでいちいち宇宙が生成されたり消滅したりしたのでは、たまったものではないのだろう。彼らは安定を望んでいるのだ。

 

『私がまどかと話し合った結果、私がこの夢の世界で過ごすことを選ぶかもしれない、とは考えないの?』

 

『もちろん考えたさ。でも、前に君を利用しようとして酷い目にあってから、僕ではどうしたって君を制御できないことが分かったからね。僕がどれだけ懸命に君を説得したとしても、君の結論に影響を与えることはできないと思うんだ。だから、まどかの出番だ。彼女は、君の心に大きな影響を及ぼすことができる唯一の存在だ。ほむら、僕が一番恐れているのは、君が何も選択しないことなんだ。まどかと話し合いさえすれば、少なくとも君は何かを選択するんじゃないかな?』

 

 ほむらは苦笑した。自分は、キュゥべえからそんな風に思われていたのかと。それではまるで、暁美ほむらは鹿目まどかのことばかり考えているヤバイ奴のようではないか。

 

(……でも、それほど間違ってはいないのよね)

 

 彼女は自身の異常性を多少なりとも理解していた。そしてそれについては、だからどうしたこれが愛なんだ、と開き直りつつも、実は結構気にしていることでもあった。

 

『ねえ、キュゥべえ。私が思うに、あなたと私も一度良く話し合ってみるべきだわ』

 

 ほむらは薄く笑った。誰もいない高層ビルの屋上で、ひとり気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

『僕達がかい? 今更話し合うことなんてあるのかな?』

 

『あるわ。“選択の時は来たれり”よ』

 

 

 

 

 

「う、うわぁ……。大きなテレビだね、ほむらちゃん」

 

 呆然とした様子のまどか。彼女は、リビングで異様な存在感を放っている巨大な長方形を見て、目をパチクリさせていた。

 そんな彼女に、ほむらはじっとりとした視線を送る。

 時刻は午後4時30分。学校帰りに、ほむらは、たまにはふたりきりで遊びましょうと、まどかに声を掛け、自宅へとご招待していたのだった。

 

「フフッ、凄いでしょう。キュゥべえに作らせたのよ。これ」

 

「え……ええっ!? “作った”の? キュゥべえが?」

 

 得意満面で我が家のテレビ自慢をするほむらに対して、まどかが驚きの声を上げる。

 

「そうさ。キュゥべえ特性100インチスーパーハイビジョン液晶テレビ。なんだったらまどかの分も用意しようか?」

 

 まどかは、ほむらに促されるままにソファーへ腰掛ける。すると、ガラステーブルの上にお座りしていたキュゥべえが、そんな気前のよい話を持ち掛けてきた。

 

「い、いいよ。これはちょっと大きすぎるかなって……」

 

 若干引き気味にお断りするまどか。

 ほむらは目を細めた。そしてソファーに座る。まどかに寄り添うように。

 

(どうして驚くの? 女神様は、テレビがあることなんて最初からお見通しだったのでしょう?)

 

 ほむらは、まどかの横顔を息がかかるほど顔を寄せながら、じっくりと見つめている。

 まどかはいつの間に女優ばりの演技力を身に着けたのか。神はお芝居もお手の物だということなのか。

 ほむらは僅かに緊張を覚える。狐と狸の化かし合いが始まっている。ちなみに、狐はほむらで狸はまどかだ。イメージ的に。

 

「えっと……、その、ちょっと意外かな。ほむらちゃんの家にキュゥべえがいるなんて、前に話したときはそんなに仲良しって感じでもなかったよね?」

 

 ほむらとキュゥべえは、なぜか一向に喋りだす気配がなかった。その妙な沈黙に耐え難くなったのか、まどかが無理矢理にでも話題を作る。

 まどかの言葉を耳にしたほむらは、ほんの一瞬キュゥべえに目を向ける。真紅の瞳と視線がぶつかった。

 

「もちろん仲良しではないわ。……でも、今日はキュゥべえの作ったゲームで一緒に遊ぼうと思ってあなたを呼んだの。だから、コイツがいるのよ。残念なことに」

「え? キュゥべえってゲームも作れるの? す、凄いね」

「それほどでもないさ」

 

 ほむらの家でキュゥべえのゲームをする。話が予想外の方向へ進んでいるためなのか、まどかは戸惑い気味に見えた。

 

「まあ、だれにでもひとつくらいは取り柄があるということね」

 

 ほむらは僅かに姿勢を変えて座り直し、まどかに向き直る。

 

「まどか。これはゲームの話なのだけど。そうね、何でも自分の思うがままに出来て、現実と見分けのつかない仮想世界があるとしましょう。……もし、その仮想世界で一生を過ごすか、現実に留まるかどちらかを選べと言われたら、あなたならどうする?」

 

「……その仮想の世界では、何でも私の思う通りになるの?」

 

「そうよ。なんでもあなたの思い通りの世界よ。あなたはその世界では、神なのよ」

 

 まどかは、先程までとは打って変わって真剣な表情となる。ほむらの質問の意味を考えている。ほむらの意図を探っている。

 まどかは暫くの間、腕組みをしながらうーんと可愛らしく唸っていたが、やがてフッと脱力してこう言った。

 

「私は、現実の方がいいかなあ……。その仮想の世界で思い通りにできたとしても、家族や友達、皆がいる現実世界の方を選ぶと思うな」

 

 まどかは優しげな笑みを浮かべていた。

 その答えを聞いたほむらは思い出す。あの花畑で交わした言葉を鮮明に思い出す。まどかの本当の気持ちはどこにあるのだろう。

 ほむらは叫びだしそうになるのを懸命に堪えながら、言う。

 

「そう、ごめんなさい。変なことを聞いてしまって。当たり前よね、仮想よりも現実の方が、嘘よりも本当の方が良いに決まっているわ」

 

「アハハ、そうだね」

 

 まどかが笑った。

 

 そして、ほむらが立ち上がる。まどかは、急にどうしたのだろうと、ほむらを見上げた。ほむらは、まどかを見下ろした。ふたりの視線が交差する。

 

「まどか、そろそろゲームを始めましょうか。……キュゥべえ」

 

 ほむらに呼ばれたキュゥべえは、サッと華麗に宙返りしながら、背中から何かを吐きだした。ほむらは、勢いよく飛んできた二つの影を片手でまとめて掴み取る。そして、その内のひとつをまどかに向かって差し出した。

 

「ほむらちゃん。これは……?」

 

 まどかは、ほむらから漆黒のリングを受け取りながら尋ねた。

 

「このブレスレットをつけると、仮想現実世界を体験できるのよ。この前試してみたんだけど、生意気な動物が作った物のくせに思ったよりも楽しかったわ。だからあなたと一緒に遊べるように、キュゥべえに改造してもらったの」

 

 ほむらはそう言ってリングを右腕につけた。すると微かな駆動音と共に、ぶかぶかだった腕輪のサイズが自動調整されてほむらの細い腕にジャストフィットする。

 

「あら? どうしたの、まどか? それをつけるだけでいいのよ」

 

 ほむらは、何やら躊躇しているまどかに対して、不思議そうに声を掛ける。

 ほむらに急かされたまどかは、どうしていいのか分からないといった風にキュゥべえの方へ顔を向けた。

 

「えっと……、キュゥべえ。そうなの?」

 

 まどかは、なぜかキュゥべえにリングの使用方法を確認した。彼女は若干怯えているようにも見えた。

 

「そうだよ。その装置を装着したら、あらかじめ設定しておいた仮想世界へすべての感覚機能が接続される仕組みなんだ。……ああ、でも安心してくれていいよ。ゲームのような世界といっても、いきなりモンスターが襲ってくるような危険な世界じゃない。ちょっと不思議なメルヘンの世界って感じさ。怪我なんてするはずがないし、抜けたくなればいつでも現実に帰って来られる。安全性はこの僕が保障するよ」

 

 なんとも自身ありげなキュゥべえ。

 ほむらは、正直胡散臭いな、と思った。だが、まどかは違ったようだ。キュゥべえの言葉を聞いて本当に安心したらしい。彼女は安堵の表情を浮かべていた。

 まどかは、今のキュゥべえが嘘をつくことを知らない。感情を得たことは知っているのかもしれないが、平然と嘘をつけることをまだ知らない。何せ、キュゥべえが嘘をつくのは、これが初めてなのだ。

 だから、コロリと騙されてしまう。

 キュゥべえが大丈夫だと言った。それがほむらの言葉の裏付けになると思い込み、ほむらの言う事を信じてしまう。

 まどかは、ほむらの事を信じたいと思っている。それ故その優しさにつけ込まれ、悪魔の仕掛けた罠に掛かってしまう。

 

「これでいいの?」

 

 まどかはリングを左腕につけて、ほむらとキュゥべえに顔を向ける。

 

「ええ、いいわ。これで準備は整った――」

 

 ほむらが嗤う。

 キュゥべえの真紅の相貌が、まっすぐにまどかを貫いた。

 

 

 ほむらとまどかは深淵に潜る――

 

 

 

 くらやみの世界だった。

 その暗黒に塗り潰された空間に、ほむらとまどかは浮かんでいる。黒い海をふたりきりで漂っている。

 少女達は、本来の姿を取り戻していた。黒い翼を持つ悪魔と、白い翼を持つ神が対峙する。

 

 ほむらは何も言わずに、まどかをじっと見つめていた。

 まどかは落ち着いた様子で周囲を見回したあと、ゆっくりとほむらに振り向いた。

 

「ここが仮想世界……ってわけじゃないよね。だって、ここはほむらちゃんの意識の中だから。私は騙されたんだね」

 

 まどかは、静かに言った。

 その呟きが、ほむらの意識内で反響する。ほむらは、言いようのない圧力を感じて僅かにたじろいだ。だが、ぐっと堪えてまどかに向き直る。

 

「そうよ。あなたは騙されたのよ。でも、あなたが先にやったことでしょう? だから、これでもう騙し合いはおあいこよ」

 

 ほむらは、まどかの様子を窺った。無表情で、感情は読み取れなかった。

 

「……ここは私の深層意識の中。ここだけは現実世界の私と繋がっているのでしょう? でも、現実世界にいるあなたは私の意識の奥底に手出しはできないし、今ここにいる分身体のあなたは私の許可なくここを出ることはできないわ」

 

 まどかは、ほむらの言葉を涼やかに聞いている。

 

「まどか、話し合いましょう。話し合って、真実を明らかにしましょう。私達は初めからそうするべきだったのよ」

 

「ふうん……。ねえ、ほむらちゃん」

 

 まどかは微笑んだ。この場にそぐわない、とても自然な笑顔だった。

 

「“真実”って、なに?」

 

 

 ほむらちゃんの言う“真実”がいったい何を指しているのか。私には分からないかな。だってそうでしょ。真実はヒトの数だけ存在しているんだから。

 ほむらちゃんの真実もあるし、もちろん私の真実もある。ある事を真実と見るか、偽りと見るか、結局最後にそれを決めるのは、人それぞれ、その人次第だと思うな。

 え、ああ、そうなの。キュゥべえはそう言ってたんだ。真実は真実だって。絶対だって。

 

 そうだね、ほむらちゃん。キュゥべえの言うことも真実だよ。だってそれは、キュゥべえの真実なんだから。言ったでしょ、真実はヒトの数だけあるって。キュゥべえはそういう考え方をするんだなあっていうだけの話だよ。

 

 ほむらちゃん。あなたは昔、私を救うために何度も同じときを繰り返して、いっぱい頑張ってくれたよね。そして、最後に私を救うことができた。

 でも、救えなかった私もいる。死んじゃった私を、ほむらちゃんは何人も見てきたよね。それは全部、夢だったのかな。私が宇宙を改変して過去を消し去ったとき、ほむらちゃんの見てきた過去も消えて、幻になったのかな。あなたの記憶の中だけにしか存在しない世界は、偽りの世界なのかな。

 

 ねえ、ほむらちゃん。私達が今ここで、夢だ現実だと言い合うことに何の意味があるの。

 結局、夢か現実かなんて、わたしがどう認識するか、ほむらちゃんがどう認識するかでしかないんだよ。

 それにね。私が不思議なのは、どうしてほむらちゃんはキュゥべえの言ったことを信じているのかなってこと。キュゥべえは嘘をつかないからかな。違うよね、感情が芽生えたキュゥべえは嘘をつく。それは確かだよ。だって、さっき私が騙されたばかりだもん。あはは。

 今のキュゥべえには感情がある。もしかしたら、ほむらちゃんを騙そうとしているのかもしれないよ。

 ほむらちゃん。キュゥべえは嘘をついている。この世界はあなたの夢なんかじゃない、現実だよ。って私が言ったら、ほむらちゃんは信じるのかな。

 そういうことだよ。真実はその人次第。最後は、ほむらちゃんが決めるんだよ。

 

 でも、私も、私の真実を言っておくよ。

 ほむらちゃん。私は、転校初日に全部思い出したの。あなたに抱きしめられた時に、何もかもすべて思い出したし、〈円環の理〉の力も取り戻した。

 当たり前だよ。私が、ほむらちゃんの想いに気付かないわけがないもん。そして、そのときに私は知ったの。あなたの心がとても傷ついているって。

 ほむらちゃんの魂は、あの世界を存続させるために消耗しきっていたの。このままだと、いずれ取り返しのつかないことになってしまう。

 だから、私はあなたに夢を見てもらうことにしたの。

 あなたの傷が癒えるまで、私が看病してあげることにしたの。

 

 私が言いたいことは、これで全部だよ。

 

 ほむらちゃん、あとはあなたが選ぶだけ。

 

 

 

 まどかの、金色の瞳に飲み込まれ、ほむらの偽らざる想いが呼び覚まされる。

 

 そして、彼女は、選択する――

 

 

 

 

 

 ひかりふる世界だった。

 その光明に塗り潰された空間で、ほむらは目を閉じ眠りについている。ほむらの傍らにはまどかがいる。彼女は穏やかな表情で、ほむらを見守っている。白い海をふたりきりで漂っている。

 

『――あっ!』

 

 突然、まどかが短い悲鳴を上げる。

 ほむらの手が、まどかの腕をしっかりと掴んでいた。

 白き光が、黒き闇に侵されていく。黒と白がぐちゃぐちゃになって混ざり合う。

 

『やっと、つかまえた』

 

 とても嬉しそうな声だった。

 ほむらが、ゆっくりと起き上がる。まどかを強引に引き寄せて、抱きしめる。そして、耳元で囁いた。

 

『鹿目まどか、あなたは、この世界が貴いと思う? 欲望よりも秩序を大切にしてる?』

 

 ほむらは、まどかの瞳の奥を覗き込む。

 

『私は欲望に忠実なの。だって、悪魔なんだもの』

 

 瞳の奥底を覗き込む。

 

『まどか、私達はまたここからやり直しましょう。新しいゲームを考えたのよ。それで一緒に遊びましょう』

 

 ほむらは、まどかを解放する。そして、少し後ろに下がった。

 まどかは、本当のほむらと向き合った。

 

『ほむらちゃん。どんなゲームなのか聞いてもいい?』

 

『もちろん。ルールは至って簡単よ。私が逃げる、あなたがそれを捕まえる。あなたが私を捕まえれば、私は大人しく眠りにつくわ。それだけよ。フフ……』

 

『……ほむらちゃん。ずいぶん“元気”だね』

 

『元気に決まっているでしょう!? あなたに会えたのだから!』

 

 その言葉を聞いたまどかは、疲れた様子で笑った。

 

『まどか、そろそろゲームを始めるわよ。でも、その前に言っておくわ。私の頭の中には、とっても優秀なアシストキャラがふたりいるの。ひとりは、あなたのこと以外なら何でも知っているし、もうひとりはあなたのことなら何でも知っている。これがどういうことか分かる? あなたは私に絶対勝てないということよ!』

 

『そ、そうなんだ……。一度、その助っ人の人達とお話してみたいんだけど』

 

『駄目よ。……さっきから、外に出せと頭の中で騒いでいるようだけど、無視してるの。それに、ひとりは、あなたへの人質でもあるのよ。あなたにゲームのルールを遵守させるためのね』

 

 ほむらは、こめかみをトントンと指先で叩きながら言った。

 

『人質なの?』

『そうよ。人質よ! 神質よ! まど質なのよ!』 

『それは卑怯だね、ほむらちゃん』

『あなたは悪魔に向かって卑怯だとか言うの?』

 

 ほむらはそう言ったあと、魔力を爆発的に放出して大きく後退した。

 

『さあ、ゲーム開始よ! 私を捕まえてごらんなさい、まどか!!』

 

 超ハイテンションで絶叫するほむらに、まどかは苦笑した。

 そして、小さな声でこう呟いた。

 

『本当に元気だね、ほむらちゃん。自分の魂が消耗していないことをおかしいと思わないの? それとも本当は気が付いているの? 気付いていながら、知らないふりをして、ゲームをして一緒に遊ぼうと言って、真実から目を背けているの? ……でも、そんなのどっちだっていいよね。自分のいる世界が夢なのか現実なのかなんて、あなたには分からないし、私にも分からないもの』

 

 その言葉は闇に溶け、誰の耳にも届かない。

 

『ちょっと! まどか何してるの!? ゲームはもう始まっているのよ!』

 

 いつまでたっても動く気配のないまどかに痺れを切らしたのか、ほむらが遥か遠くで喚いていた。

 まどかはクスクスと笑った。

 

 

 もう、しょうがないなぁ。ほむらちゃんは

 

 

『いいよ! ほむらちゃん、今度は私があなたを捕まえてあげる!』

 

 

 

 神と悪魔のゲームは続く――

 

 

 コンティニューしますか?

 

 

 

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