TSしたかったけどゴブリンの雌は聞いてない   作:匿名ゴブリン

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 明日、23時過ぎに続きを投稿予定です。よろしくお願いします。


始まりの日

 ゴブリンには雌が生まれない。だから、繁殖のために他種族の女をさらい、子を産ませる。

 

 生まれる子はすべてゴブリンの雄。

 

 それが今までのこの世界の常識だった。

 

 だから──この出来事は本来なら起こるはずがなかったのだ。そう、この日までは。

 

 ここは、とある深い名も無き森の奥。

 

 そこにゴブリンの巣穴があった。

 

 ゴブリンが巣穴としている洞窟の一番奥の薄暗い小部屋で一人の女性が荒い息を吐いていた。

 

「……っ」

 

 銀色の髪が汗で額に張りついている。

 

 やせ細った身体。だが、その顔立ちは信じられないほど整っていた。

 

 かつて彼女は王女だった。

 

 しかし今は違う。蛮族の侵略とそれに乗じた家臣の裏切りによって国が滅びたからだ。

 

 王は殺され、当然、王族も処刑された。どれもむごい最後だった。

 

 彼女の婚約者もまた彼女の目の前で凄惨な拷問をされ、命を奪われた。

 

 そして、王都に住んでいた国民たちが蛮族やこの国を裏切った者たちによって略奪を受ける所を彼女は最後まで見た。

 

 だが、彼女だけが陵辱の末、生かされた。

 

 ただ生かされた訳ではない陵辱するのに飽きた者どもが戯れにゴブリンの群れに彼女を渡したのだ。

 

 それからの年月、彼女は何度も子を産んだ。当然、生まれた子はすべてゴブリン。

 

 醜い顔で獣のような子どもたち。

 

 それでも彼女は生きていた。

 

 幸いにも食事は与えられ、殺されもしない。

 

 そして、彼女は諦めていなかった。

 

 ──復讐

 

 それを成し遂げるまでは死ねないとゴブリンの巣穴から逃げ出す機会をずっと覗っていたのだ。

 

 だが、その機会は訪れず、またもやゴブリンの子を産む時期になった。

 

「……っ!」

 

 彼女の腹に強い痛みが走る。その痛みを一人で戦い抜くとやがて小さな泣き声が洞窟に響いた。

 

「……ぁ、ああああ! んぎゃ──!!」

 

 彼女は震える腕で泣いている赤子を抱き上げた。

 

 そして──固まった。

 

「……え?」

 

 思わず声が漏れる。

 

 それは、今産んだ子どもがこれまでの子どもとはまったく違っていたからだ。

 

 まず、肌。

 

 ゴブリンの緑色ではない。陶磁器のように美しい透き通るような白い肌。

 

 そして、顔。

 

 醜いゴブリンの顔ではない、整った顔立ち。

 

 だが、口元に覗かせる小さな鋭い犬歯やゴブリンの特徴的なとがった耳がこの子がゴブリンであることを告げていた。

 

 彼女は混乱していたがこの赤子の透き通った瞳と目が合う。

 

「……ま、まま?」

 

 首を傾げるようにしながらこの赤子は声を出した。彼女の心臓が跳ねた。

 

「……え?」

 

 彼女から驚きの声が漏れる。

 

 ゴブリンは人間でいう六歳くらいの身体が出来上がった段階で生まれては来るがそれにしたって、ゴブリンも言葉を扱うといえども人間と同じように生まれてすぐに扱えるものではないからだ。

 

 だがこの子は違う。最初から全てを理解しているようだった。そして、今までの子とは違う欲望に満ちあふれる瞳ではなく、知性をその瞳に宿させていた。

 

 その時、洞窟の入口から足音が近づいてきた。

 

「生まれたな。回収、来た」

 

 ゴブリンたちだ。

 

 彼女の部屋の前で待機していたゴブリンが生まれた子を回収しに来たのだ。

 

 彼女の身体が緊張する。

 

 この子を渡してしまえば自分の運命はこのままこの巣穴の中で終わってしまうと思ったからだ。

 

 だが次の瞬間。

 

 赤子がそちらを見て、少し震えたかと思うと「グルゥ」と低くうなり声を出した。それはゴブリンの発する威嚇の鳴き声だった。

 

「ガオ! グゥルルル!!」

 

 それから狂ったように威嚇を始める。

 

 そのただならぬ様子にゴブリンたちが足を止める。

 

「む?」

 

 困惑したような声を上げ、赤子を見るとなんだか自分たちと姿形が違うのではないかと首を傾げた。

 

「人間何故? ゴブリン違う? しかも女?」

 

 だが、少し疑問をもっただけだ。ゴブリンは決して賢い生き物ではない。

 

 仲間か敵か、それを判断する方法をゴブリンの身体から発せられる独特のフェロモンの有無に頼っているからだ。

 

 目に映る姿がどうであれ、匂いが同じなら仲間。違えば敵。

 

 それがゴブリンの知能レベル、それ以上疑問を持つことはない。

 

「……だが匂い、仲間」

 

 一匹のゴブリンが鼻をひくつかせながら言う。

 

「うむ。匂い、間違いなくゴブリン。仲間の匂いする」

 

「なら問題ない。仲間、威嚇することもある」

 

「確かに」

 

 他のゴブリンも納得し、互いに頷いた。

 

 見た目が少し違う気がする。だが匂いは同じ。

 

 それなら仲間だ。それ以上考える必要はないということなのだ。

 

「まあいい。無理矢理連れていってもひっかかれたら嫌」

 

「うむ。呼ばれるまで待てばいい。オデ、戻る」

 

「腹減った」

 

 そう言うと、ゴブリンたちは背を向けて去っていった。

 

 彼女の腕の中で赤子はしばらく洞窟の入口の方を見ていたがやがて安心したように視線を戻した。

 

 赤子はぎこちない動きで彼女の服を掴む。

 

「まま、怖かった……」

 

 そしてその小さな身体は彼女の胸にすり寄るように抱きついてくる。

 

「……」

 

 その様子に彼女は息を呑んだ。

 

 ゴブリンの子は生まれた時から欲望のままに動く。

 

 親という概念もなく、ゴブリン以外の種族を本能として見下す。たとえ自分を産んだ相手であっても、それがゴブリンだ。

 

 だが、この子は違っていた。私に確実に懐いている。

 

 それにゴブリンに嫌悪感を示している。

 

 もしかしたら、この子をこのゴブリンの巣の王にすれば私が安全に巣の中から脱出出来るだけでなく、この巣のゴブリンを兵として復讐に使えるのでは。

 

 やっと、私にも運が巡ってきたのだと自身の産んだ子を初めて慈しむように抱きしめるとその子はキャ、キャと笑った。

 




 続きが気になると思ってくださった方は応援してくださると嬉しいです。よろしくお願いします。

 次は赤ちゃんの主人公視点から始まります。
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