TSしたかったけどゴブリンの雌は聞いてない 作:匿名ゴブリン
俺は死んだ。そして転生する間際、TS転生を願った。
何故かというと男というものはみんな女になりたい願望を持っていると言ってもいいからだ。
何故、ゲームをする時に女キャラを自分のキャラとして使ってしまうのかそういうことなのだ。
俺の願いは受け入れられ、優しい光へと導かれていった。
そして、俺は赤ちゃんとして転生していた。
目を開けた瞬間、俺の視界に入ったのは超美人な女性だった。
銀色の髪、透き通るような肌。やせ細ってはいるそれでも圧倒的に整った顔立ち。前世でも見たことのないほどの美人だった。
もうこれだけで転生成功じゃね?
俺は心の中でガッツポーズをした。
「ままぁ……」
そして、母親に抱きしめられると自分でも驚くくらい自然に声が出た。
やべ、赤ちゃんが生まれてすぐに喋ったら不味いか。
俺は不安を覚えたがそれは杞憂で母親は驚いた顔をしたがそのまま優しく抱きしめてくれた。
ああ、これだ。これが俺の求めていた人生だ。それに母親がこんなにも美しいのだから俺も美しく育つに決まっている。
幸せを噛み締めていたその時だった。
「生まれたな。回収、来た」
片言でノイズが混じっているような変な声が聞こえた。
俺は反射的にそっちを見る。
緑の肌に醜い顔、牙。
そこに居たのはどう見てもゴブリンだった。
ゲームとかで出てくるあのゴブリンだ。
ちょっと待って、ゴブリン×女ときたらもうそういうことじゃん。
そして、今さら気づいた。
周りは洞窟の中のようで、なんだかちょっと悪臭が漂っているような気がするし、なんなら、虫が壁を這い回っていたことに。
それに俺はゴブリンと母親の間に生まれた子どもということになり、TS転生したとはいえ醜い雌ゴブリンになってしまったということかと絶望する。
だが、そうしてもいられない。
俺のエロゲ知識にはなるが大体、こういったゴブリンの巣にいる女は子どもを産んではまた孕まされるのが常識だ。
ということは俺がこの場所から離れてしまえばこの愛しのママに危害が加えられる可能性が高い。
そんなことは俺は許せなかったし、俺自身がゴブリンに回収された後にゴブリンの雌だということが分かってR18な展開にさせられてしまうかも知れない。
流石に元男の俺にとって生まれてすぐそれは辛すぎるし、醜い雌ゴブリンとゴブリンのまぐわいなど汚い絵面過ぎて見ていられない。
だからどうにかしてこのゴブリンたちを退けなければいけないのだが、赤ん坊の体で出来ることなんてほとんどない。
どうする。そう焦っていたその時だった。
俺の喉の奥から──
「グルゥ……!」
低い唸り声が漏れた。
それは意識して出したわけじゃなく、本能として備わっているような威嚇だった。
「ガオ! グルルル!!」
俺は続けて必死に唸った。
来るな。近づくな。ママに触るな。
すると、ゴブリンたちが足を止めた。
「む?」
一匹が首を傾げる。そして俺をじっと見た。
「人間何故? ゴブリン違う? しかも女?」
すると別のゴブリンが鼻をひくつかせながら首を傾げた。
「……だが匂い、仲間」
「うむ。匂い、間違いなくゴブリン」
「なら問題ない。仲間、威嚇することもある」
「確かに」
そして、ゴブリンたちは俺に恐れをなしたのか。
「まあいい。無理矢理連れていってもひっかかれたら嫌」
「うむ。呼ばれるまで待てばいい。オデ、戻る」
「腹減った」
そう言いながら、ゴブリンたちは背を向けて去っていった。
足音が遠ざかっていくのを確認してから俺はようやく息を吐いた。
正直めちゃくちゃ怖かった。赤ちゃんの体なのに寿命が何年か縮んだ気がする。
だが、同時に別の感情が湧き上がってきた。
さっきのゴブリンたちの言葉だ。
やっぱり俺ゴブリンなんだよな。
その現実が胸に重くのしかかる。
世界中どこを探したってゴブリンといえば醜いというのが常識だ。
自分がゴブリンであることを再確認されられて、涙が落ちた。
「……う」
止めようとしても止まらない。
涙が次々に溢れてくる。
せっかくTS転生したのに。美少女人生が始まると思ったのに。なのに、醜いゴブリンだなんて。あんまりだ……。
その時だった。
「……どうして泣いているの?」
母親の優しい声が聞こえた。
心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
俺は涙を拭きながら言った。
「だって私、醜いゴブリンなんだもの……」
母親は一瞬きょとんとした顔をしたかと思うとふっと笑った。
「ふふ」
優しい笑みだった。
「確かにあなたはゴブリンの子よ」
そう言って、俺の頭をそっと撫でる。そして、母親は続けて言う。
「でもね、私の血をしっかり引いているからかしら」
そして、少し照れたように微笑みながら言う。
「自分で言うのもなんだけど、あなたはとても綺麗よ。まるでお姫様みたい」
母親はそう言うもののじゃあ、はいそうですかと納得は出来ない。
いやいや、そんなわけない。きっと俺を励ますための嘘だ。だってゴブリンだぞ?
そう思っている俺の表情を見て、母親は俺の考えを見抜いたのかくすっと笑った。
「信じていない顔ね」
そう言うと、母親は少し考えるようにしてから片隅においていた袋の中から小さな物を取り出す。
「これ、私に残っている数少ない私物なんだけどね」
それは綺麗な装飾が施されている手鏡だった。
母親はそれを俺の前に差し出した。
「自分で見てみなさい」
言われるまま、俺は恐る恐る鏡を覗き込む。
──そして、固まった。
そこに映っていたのは。
緑の醜いゴブリンなんかじゃなかったからだ。
透き通るような白い肌。大きな瞳。銀色の髪。母親に似て整った顔立ち。
俺はしばらく言葉を失ったまま、鏡を見つめ続けた。
「……え?」
間の抜けた声が漏れる。
もう一度見る。やっぱり同じだ。夢じゃない。
ただ普通の人間とは違って、とがった耳と口からチラリと見える犬歯がゴブリンの特徴と同じようだったがこの容姿ならエルフと言っても分からないほどだった。
「……」
俺はゆっくり顔を上げると母親は優しく微笑んでいた。
「ね? 綺麗でしょう?」
俺は安心してまた泣いたが何だか疲れてしまった。
前世があるのに本当の子どもみたいなのは身体に引っ張られているからだろう。
そういうことにして今は寝ておこう。
ゴブリンは成長が早い、だからよく寝てこの母親をゴブリンの魔の手から逃すのだと決意しながら目を閉じた。
「おやすみ、私の可愛いステラ」
そう言った母親の声を子守歌に。
応援してくださると作者が元気になります。
本日もう一話投稿するのでお楽しみに。