TSしたかったけどゴブリンの雌は聞いてない 作:匿名ゴブリン
それからステラという名前を母親から付けられた俺は、少し一眠りしてから母親の名前がエルナという名前であること。また、エルナが亡国の姫であったことやこの巣穴から抜け出すために俺の力が必要だと言われた。
「もちろん、私はママに辛い思いはして欲しくないもん。それに私だって何されるか分かったもんじゃないし」
「ありがとうねステラ」
そうしてエルナは俺をまた優しく撫でてくれた。
このナデナデには中毒性があるぞと自身の身体を完全にエルナに預けて甘えていたがでもこんな何の力も持っていない俺がこの巣穴からエルナを連れて無事逃げ出すことは可能なのだろうかと疑問が浮かぶ。
よく転生とチートはワンセットなイメージはあるが俺は転生と性転換のセットであえていうなら容姿チートを持っているというくらいだ。特に強いスキルなどを持たされた覚えもなく自身に眠る隠された力があるようには思えなかった。
そんな俺が度重なる出産のせいで体力を大きく消耗しているエルナを巣穴の外まで無事に連れて行くことが出来るのだろうか。
「ママでも私弱いよ。私の力じゃ無理だよ」
「大丈夫よ。この巣から出るための鍵はゴブリンの習性にあるから」
そう言うとエルナは説明を始めた。
「まず、ゴブリンはあまり賢い種族じゃないわ」
それはまあ、さっきの来たゴブリンでよく分かった。
「まず、ゴブリンはね、目で相手を判断することがほとんど出来ないの」
「人型なら、どんな種族でも一瞬は仲間かもしれないと思ってしまう習性があるのよ」
俺は首を傾げる。
「じゃあ、どうやって仲間かどうか判断してるの?」
「匂いよ。ゴブリンは、ゴブリンだけが出す特別なフェロモンで同族かどうかを判断しているの」
そういえば、さっきのゴブリンたちも言っていた。
──匂い、仲間と。
だから、ゴブリンの見た目とは違う俺をちゃんと仲間だと認識したのか。
「だから、どれだけゴブリンに似ていても匂いが違えば敵だということになるのよ。そして、ゴブリンという種族はねゴブリン以外を大きく劣った存在として扱うの。でも同じゴブリンには例外な状況はあるんだけど結構、仲間思いなの」
なるほど? 俺が仲間扱いされて、あられもない展開になってしまうことは避けられたのか?
でも、なんでそれが巣穴脱出に俺の力が必要ということになるのだろうか。
エルナは続ける。
「それでここが鍵なんだけどゴブリンは群れで生きる種族なの」
「へー、ちなみこの巣穴にはどのくらいいるの」
「ええ。この巣穴には、恐らく3000匹くらいのゴブリンがいるでしょうね。この数は平均的なゴブリンの巣穴にいるゴブリンの数だからもっと多いかも知れないけど」
「3000!?」
思わず声が裏返った。ますます俺の力では脱出不可能な気がしてくる。
「そして、ゴブリンの群れにははっきりとした序列があるの。まあ、群れなのだから統率するリーダーがいるってことはすぐ分かると思うけど」
エルナは指で地面に小さなピラミッドを描く。
「一番下にいるのは、普通のゴブリン。さっき見たような個体ね。この個体は巣穴の拡張作業や食料集めに駆り出されていることが多いわね。巣穴にいる大半がこの個体よ」
確かにいかにも雑魚って感じだった。
「その上にいるのが武器を上手く扱えるゴブリン。剣や弓を使うゴブリンたちで大人の農民4人分くらいの強さがあるわ」
農民4人分がどのくらいの強さなのか想像しづらいが手強そうだ。
「さらにその上にはそういう武器を使うゴブリンの中でも十年以上生き延びた個体。この個体がゴブリンソルジャーと言われていてその下のゴブリンを率いて小隊を作り、狩りを行ったりするという記録があるわ」
俺はそこで引っかかった。
「10年? その基準はなんなの?」
「ゴブリンの平均寿命は6年でほとんどその前に戦いで死ぬことが多いから、そこまで生き延びられると他のゴブリンたちにも慕われるし、戦いの技量が身につくということなんでしょう」
俺はふむふむと頷きながら続きを聞く。
「そしてその上にいるのが代表的なので言うとゴブリンメイジ。魔法を使うゴブリンよ」
魔法か、ファンタジーきたなと少し興奮する。
「同じように例外的な存在で突然変異でトロルほどの大きさと力を持つゴブリン、ゴブリンウォーリアー。まだ、他にも名前のついたゴブリンはいるのだけれど、このような特殊能力を持つ個体が群れのリーダーになるの。このようにゴブリンは例外はあるけど基本強さ至上主義なの」
エルナはそう言って、地面に描いたピラミッドの頂点を指さした。
「つまり、強い個体や特別な能力を持つ個体が現れると、群れのゴブリンたちは自然とその個体に従うようになるの」
俺は腕を組んでうんうんと頷く。
まあ、それは分かる。ゴブリンってなんかそんなイメージだし。
「そこでね、ステラには魔法を覚えて貰ってゴブリンメイジになって欲しいの」
「私でも魔法使えるの?」
魔法に縁もゆかりもなかった俺でも使えることができるのかと聞くがエルナは当然のように頷く。
「もちろんよ。魔法はね、本当はどんな生き物でも使うことができるものなの」
俺は目を丸くする。
「え、そうなの?」
「ええ」
エルナは静かに説明を続けた。
「ただ、多くの人や魔物はその方法を知らないだけでちゃんと学べれば難しいけど絶対に使えないというものではないのよ。私が簡単な魔法だけなら教えることが出来るから安心して」
やったー、魔法だ。魔法だ。と小躍りしそうになる気持ちを抑えて冷静に聞く。
「でもリーダーってそんな簡単に変われるものなの? もし、反対されたり今のリーダーの反感を買って戦うことになったら3000匹も相手に出来ないよ」
今は反逆の意思を見せないゴブリンだから特に手を出してくる気配はないけど、それに失敗したら仲間意識の高いゴブリンであっても無事で済むとは思えない。
俺がそう聞くと、エルナは少し意味深に微笑んだ。
「そこが幸運だったのよ」
「え?」
「この巣のリーダーはね、特別な能力を持つゴブリンじゃないの」
エルナは静かに続けた。
「今この群れを率いているのは──エルダーゴブリン」
「エルダー?」
「普通のゴブリンよりただ長く生き延びただけの個体よ。ゴブリンの平均寿命は六年、そこから長生きしたとしても大体13年ほどで99%は死んでしまうのだけど、その中で20年以上生きる個体はかなり珍しいわ。そして、そういう個体は経験が多いから自然と周りのゴブリンが従うようになるの。つまり、今のリーダーは強さや特別な能力で頂点に立ったわけじゃないの」
エルナは俺の小さな手を強く握った。
「もし、そこに魔法を使えるゴブリンが現れたらどうなると思う? ゴブリンたちが必要としているのは強さよ。しかもゴブリンの知能だから初めて魔法を見たら、どんなに簡単な魔法でも衝撃は大きいでしょうね」
「戦わずにリーダーになれる?」
エルナは優しく頷いた。
そして、それから俺とエルナの魔法特訓が始まった。
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