TSしたかったけどゴブリンの雌は聞いてない 作:匿名ゴブリン
エルナは俺を膝の上に乗せ、魔法についての説明を始めた。
「魔法を使う方法は、大きく分けて二つあるの」
「二つ?」
「ええ。一つは魔法刻印を使う方法。そしてもう一つが大気中の魔素を知覚して、それに自分の力を伝える方法よ」
なんか一気にファンタジーぽくなってきた。
「まず魔法刻印だけど、これは体にあらかじめ魔法を発動させたい魔法の魔法陣を身体に刻んで置いて簡単に発動させる方法よ」
「それがあれば簡単に魔法が使えるの?」
「ええ。刻印が示す魔法しか使えないんだけどね。でも、刻印によって安定的な効率で魔素を使えることで威力のブレがなくなったり、いちいち自分で魔素を知覚して魔素を魔法が放てる形に再構築する手間がなくなるメリットがあるわ」
エルナは説明を続ける。
「それに刻印は、普段から大気中の魔素を少しずつ吸収して蓄えてくれるの。だから、大気中の魔素が薄い場所でも魔法が使えるのよ」
「じゃあそれで簡単に魔法を使っちゃおうって訳ね」
俺はめちゃくちゃメリットしかないじゃん、刻印一つで一つの魔法しか使えないらしいが使いたい魔法があればどんどん入れていってもいい訳だし。
だが、そう言った俺にエルナは少しだけ困ったように笑う。
「本来ならね。でも──この巣穴には、刻印を刻むための専門施設も術者もいないの。まあ、やろうと思えば私にも出来るけどここは衛生的とは言い難いし、万一のことを考えるとリスクが大きすぎて無理ね。だからステラが覚えるのは、もう一つの方法になるわ」
じゃあ、なんで刻印の方を説明したと言おうと思ったが黙っておく。
「魔法刻印が用意された完成された魔法を使うものだとしたら、こちらは全部自分でやる必要があるの。魔素を感じて、集めて、使いたい魔法の魔法陣を構築、適度に全体に発動する力を加える。どれか一つでも失敗すれば魔法は発動しないわ」
説明を聞くと上級者専用の方法なんじゃないかと思わされる。
「しかもね、刻印を使わない場合、魔素に力を伝える効率はどうしても落ちるの」
「え?」
「同じ魔力量でも、刻印がある場合と比べて出力が弱くなりやすいのよ」
デメリット多すぎない?
今の計画上、俺は魔法を覚えるだけでいいから別にリスクを取ってまで強さを求める必要はないのだけれど使うなら強い魔法を撃ちたいなと思っていた。
今のは初級魔法ではない、上級魔法だ。みたいな感じで自分が放ったのが強い魔法なのに弱い魔法を撃ってきたやつだと思われたら恥ずかしい。
それにしてもこんなに今から覚えようとしている刻印じゃない方法の悪いことばっかり伝えなくてもと俺が思っていると。
「でも、その代わり──自由よ」
「自由?」
「ええ。刻印は決まった魔法しか使えないけど、この方法なら自分で魔法を構築できる。応用も、発展も、なんなら新しいものを作りだすのだって、すべて自分次第なの」
俺はその言葉に少しだけ顔を上げた。
「つまり、頑張れば刻印を刻むよりもいいってこと?」
エルナは微笑む。
「理論上はね」
「まあ大体の人はそこまでいかないのだけど」
現実は厳しいようだが何だかやる気が湧いてきた。
「じゃあ、こんな感じで魔法についての理解を深めてもらったところで魔素を知覚する練習をしていきましょうか」
エルナはそう言うと、俺の目を手で覆った。
「集中してみて、視覚では見えなかった肌に触れるなにかを感じるの。空気よりも曖昧なもの」
言われた通り意識を集中させる。呼吸をゆっくりにして、体の感覚に意識を向ける
そうして、少しの間、今までしたことのないくらい自分の感覚に集中したが。
「うーん、分かんない」
正直にそう言った。
空気が肌を撫でていく感触やエルナに触れられていること感じるけど、それ以外、俺に触れているような感覚はなかった。
これ、無理じゃね?
そう思った俺にエルナは小さく苦笑した。
「まあ、これじゃ無理よね。でも、こういった手順も大事だから許してね。次はもっと簡単に分かるやり方をするからね」
ですよね。やっぱり、他に知覚する方法があるんですね。
エルナは俺の手を取り、自分の足元へと導いた。
「触ってみて」
言われるままに触れると。
足の裏に、何かが刻まれている感触があった。
「これが魔法刻印よ」
エルナはそう言うと、少しだけ真剣な声になる。
「今から、刻印を使って魔素を循環させていくわね」
そう言って、エルナは刻印に力を込めた。
その瞬間──
「っ!?」
さっきまで曖昧だったなにかがしっかりと分かった。
「これが魔素……」
「そうよ。今、刻印に向かってきている魔素と循環している魔素よ」
すごい。さっきまで全然分からなかったのに、今ははっきり感じる。
「もう一回、自分でやってみて」
エルナの声に頷き、俺は再び目を閉じる。さっき感じた感覚を思い出す。
あの感覚になるものを空気中から探すんだ。
「……あった」
今度ははっきり分かる。
「いいわ、その調子」
エルナが優しく言う。
「じゃあ、魔素が分かってところで簡単な魔法陣を教えるわね」
そう言うと、エルナは地面に指で線を引き始めた。
円。その中に交差する線。
「これは一番簡単な構造の魔法陣よ。この形にさっき感じた魔素を操って構築してみて。ちゃんと出来たら少しだけ火が出るわ」
俺はその形をじっと見て脳内に焼き付ける。魔素を感じるために今は目を開けると分からなくなるので魔法陣をちゃんと記憶しないとその形に出来ないからだ。
よし、シンプルだし覚えたぞ。
「じゃあ早速やってみる」
俺は目を閉じる。さっきよりもはっきり魔素を感じる。
俺って、もしかしてすぐ出来ちゃうタイプ? 俺、100年に一度くらいの天才なんじゃないか
なんて少し調子に乗りながら。早速、初の魔法発動だ、と魔素に意識を向けて、動かそうとする。
だが──。
「……あれ?」
動かない、確かにあるのに触れている感覚もあるのに全然言うことを聞かないのだ。
「なんで?」
もう一度やるが魔素は微動だにしなかった。
「そうよね。これが難しいのよ。すぐに魔素が分かったからこれもすぐかと思ったけど流石に無理よね。見てて」
エルナはそう言って俺をフォローしながら、俺の前に手をかざした。
「刻印を使わないやり方を見せるわ」
そして、俺に理解させるようにゆっくりと。本当にゆっくりと周囲の魔素が動き始めた。
「……!」
さっきと違う。刻印の時は一気に流れが生まれたのに今は違う。
一つ一つ、魔素が動いていく。
魔素同士が細い糸で繋がれているみたいに見える。
その糸をエルナが一本一本、丁寧に引いているのだ。
「これが構築……」
その神秘的な光景に思わず言葉が漏れた。
俺がその光景を目に焼き付けているとやがて、地面に描いたのと同じ魔法陣が空中に浮かび上がった。
「ここまでが構築よ」
そして、ふっと力を抜くと魔法陣は消えた。
「発動まではしなかったけど、今のを目に焼き付けておいてね」
俺は無言で頷いた。
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