TSしたかったけどゴブリンの雌は聞いてない 作:匿名ゴブリン
先ほど魔法陣の構築の仕方を見たわけだが前世がある俺はこの魔法陣の構築があるものに似ていることに気づいた。
確か高校でやった元素の内容だったか、それに似ているように見えたのだ。
水素とか酸素とか、それぞれ存在してるけど、特定の形で結びつくことで別のものになるというものだ。
魔法陣はただの記号ではなくこの水素と酸素が結びついて水になるみたいに魔法陣の模様の理解が重要なんじゃないだろうか。
そしてさっきの魔法陣には複雑に見えるがとある紋様の横には同じ紋様が並べられていたところがあったこの考察は正しいかも知れない。
「ねえ、ママ」
「どうしたの、ステラ?」
「この魔法陣って、紋様一つ一つに意味があるんじゃないの?」
その瞬間。
エルナの表情が優しく我が子の見守る顔からとんでもないものを見たときのような驚きの顔に変わった。
「……どうして分かったの?」
やべ、また俺なんかやっちゃいました?
「えっと、さっき見たとき同じ形の紋様が並んでるところがあったから同じ役割のものを重ねてるんじゃないかなって……」
俺が恐る恐るといった感じでエルナに答えると優しく頭を撫でて褒めてくれた。
「すごいわ! 流石、私の可愛いステラ。もうそんなところまで自力でたどりついたのね。でも、そこまで分かっているなら全部私の分かることを教えた方がよさそうね」
「え?」
俺が首を傾げると、エルナは地面に描いた魔法陣の一部を指さしながら教え始める。
「まず、さっきの魔法陣はね、火の球を作るためのものなの」
「うん」
「そして、この紋様──これは火の魔素を集めるための紋様。そしてこっちは風の魔素を制御する紋様なの」
「……え?」
ちょっと待って、新しい単語がさらっと出てきたんだけど。
「火の魔素? 風の魔素?」
俺が聞き返すと、エルナは「ああ、そこからよね」と小さく苦笑した。
エルナは改めて説明を始める。
「魔素にはね、大きく四つの性質があるの」
エルナは指を一本ずつ折りながら言った。
「火の魔素、風の魔素、水の魔素、地の魔素」
エルナは地面に描いた魔法陣のある一点を示す。
「例えばこの火球の魔法。さっきも言った通り、火の魔素だけじゃなくて風の魔素も使っていて、ここが火の紋様なんだけど、その周りを囲うように刻まれている紋様が風の紋様よ」
「火だけじゃダメなの?」
「火だけだとね制御が利きにくいし、術者に襲いかかってくることもあるのと、その火の球を相手に運んで攻撃するって用途から現在ではこの形で風の紋様で火の紋様を囲うことで制御とちゃんと相手にぶつけるための操作性を加えているの」
火がエネルギーで、風が制御の役割を果たしてるってことか。
「その顔を見るとちゃんと理解できたようね。これは結構ややこしいし、混乱する部分でもあるから短期間で教えるってこともあったから、わざと教えないで魔法陣を丸暗記させる力技でなんとかしようと思っていたんだけどステラは天才ね」
こんなに褒められるとテンション上がるなぁ。
よし、せっかく理解できてきたんだ。早速、もう一度挑戦だ。
「ママ、やってみる」
「ええ、やってごらんなさい」
エルナは少し距離を取って、俺を見守る。
俺は目を閉じた。周囲に漂う無数の魔素を感じる。
空気の中に漂う魔素の中から、さっき感じた熱を帯びた粒──恐らくこれが火の魔素。これを意識して集める。そして、それを中心に据えて、周囲を魔素の中でもビュンビュンと動き回っている粒──恐らく風の魔素で包み込むように形を整えていく。
それらを魔法陣通りに崩れないように繋いでいくと──
俺の手のひらの上に、小さな火の球が生まれた。
「出来ちゃった」
エルナが息を呑む。
「理解していたとはいえ、こんなすぐに……」
俺も自分でもこんな早くに出来るようになるとは思わず驚いている。
そして、この一回だけしか発動していないがこの火の球を作る魔法陣について理解できている感覚があった。
これ、形を簡単に変えられるよな
球になっているのは、風の紋様で丸く囲っているからだ。
なら、その囲い方を変えれば……。
俺は好奇心のそのままに発動したままの火の球の魔法陣を再調整する。
すると、火の球は崩れ、火の花びらが出来る。
さらに何枚か重ねるように整えると手のひらの上に小さな炎の花が咲いた。
「見て、ママ綺麗でしょ?」
「生まれてすぐに魔法を使えるようになるだけじゃなくて、もう応用も出来るようになったの……」
エルナを喜ばせようと思って花の形にしたのだが、どうやらそれどころではないらしい。口を少し開けたまま、信じられないものを見るような目でただ俺の手のひらを見つめている。
なんて声をかけようかと考えていると俺とエルナしかいなかった空間に低い声が響いた。
「オイ、弟。何をしている。早く群れに加わらないと強いゴブリンになれないぞ」
その声の主はもちろんゴブリンだった。
弟、俺のことか? 俺はそのゴブリンの言うことに首を傾げながら動向をうかがう。
「人間と一緒にいると、弱くなるぞ」
ズシズシと重い足音を響かせながら、そのゴブリンはこちらに近づいてくる。
このゴブリンは体格がよく、目つきもどこか鋭い。明らかに下っ端ではない雰囲気だ。
俺は思わずエルナの方を見る。
「……ママ、あれ何?」
小声で聞くとエルナは即答した。
「多分だけどあの子、私が産んだゴブリンの一人ね。産まれてすぐに引き離されてきたけどなんとなく分かるわ」
つまりあいつ、本当に俺の兄ってことか?
「ほら、来い」
ゴブリン兄(仮)が当然のように俺へ手を伸ばしてくる。
「群れに入らないと強くなれない。弱いままでは生きられないぞ」
ぐいっと腕を掴まれ連れていかれそうになる。
倒すか……? ママと離れたくない。
そうだ、さっきの火の魔法を使って。
そう思った瞬間。
「ダメよ、ステラ」
エルナが察したのか俺に耳打ちをした。
「え……?」
「ここで戦う必要はないわ。下手に殺せばリーダーになるどころではなくなるわ。ゴブリンは無意味な仲間殺しを一番嫌うのよ」
エルナは落ち着いた目で俺を見つめていた。
「ステラ、これは良い機会よ。すでに群れで活動しているゴブリンと一緒に行動出来るんだから。それにこれは私から離れるのが少し早くなっただけの話よ。このまま群れに入って、ちゃんと皆の前で魔法を見せなさい」
確かにどうせリーダーになるならどこかの場面で群れに入る必要はある。それが早まっただけだ。
「……まあ、そうだけど」
あーあ、魔法、出来ないフリしとけばよかったかな……。
そうすれば、もっとママと居られたのに。でも、ママを助けないといけないんだよね。このままゴブリンの巣穴の中で無理矢理ゴブリンを産むだけの人生にさせる訳にはいかないんだから。
俺は覚悟を決めて、エルナを見た。
「……分かった」
「いい子ね、ステラ」
エルナは、そっと俺の頭を撫でる。
「行ってきます」
そうして、俺は自称兄のゴブリンに連れられていった。
応援よろしくお願いします。