家族の愛は空より高く/チ。二次創作現パロ【フポラ家族愛】 作:すう
「おはようございます」
隣家のマリーさんは、朝からやけに元気だ。
ゴミ捨て場で捕まったフベルトに、機関銃のように言葉を浴びせている。
「だからあたし旦那に言ってやったのよぉ。労ってほしけりゃ普段からゴミの一つでも出しなって! あらやだこんな時間。じゃあねぇ、また今度お裾分け持ってくるわ!」
「……ありがとうございます」
嵐のように去っていく。
話を聞いていただけのフベルトは、疲労を滲ませた顔で戻ってきた。
「お疲れさまです」
箸を並べながら、ラファウが苦笑する。
ポトツキも苦笑しながら目玉焼きを皿に載せ、席に着いた。
「マリーさんは話好きだが、悪い人じゃないよ」
「……はい」
ポトツキは両手を組んだ。
ラファウは背筋を伸ばす。これは説教の姿勢だ。
「ラファウ」
「はい、養父さん」
「今日は私もフベルトも帰りが遅い」
にこやかな声だった。
「帰宅後は――絶対に家で大人しくしておくこと」
ラファウは以前に窃盗や誘拐に巻き込まれ、事件を掻き回した前科がある。
ラファウは満面の笑みを浮かべた。
「了解です! 宣言します。二度と同じことはしません!」
「おお、分かってくれたか!」
「はい! 僕がアホでした!」
「ウレシイ!」
二人の茶番を、フベルトは黙って眺める。
その日の下校途中。
ラファウは通学路の脇にある、惑星公園で足を止めた。
惑星を模した遊具が並ぶ、そこそこ大きな公園だ。
その中央にある土星型の滑り台の上の、小さな立ち姿。
土星の輪の上で腕を組み、遠くを見つめている。
それは、何か重大な決意をしている人間の顔だ。
しかし時刻は間も無く夕方。
遊んでいた子供たちは、親に手を引かれて家路につき始めている。
その子の周りには、大人の姿がない。
(迷子かな)
少し離れた場所から様子を眺めていると、不意にこちらを振り向いた。
(あの子は)
金髪の三つ編み。
写真の中でははにかんで笑っていたが、見間違えるはずがない。
ノヴァクの娘だ。
一瞬迷う。
ラファウはしばらく様子を見ていたが、やがて意を決して声をかけた。
「や、やあ」
少女が、目に警戒心を滲ませる。
「……誰ですか?」
一歩、引く。
体は自然に退路を確保している。
(しっかりしているな……)
さすが、ノヴァクの娘である。
「もしかして、何か困ってる?」
少女は口をつぐむ。
「迷子?」
「違います」
即答した。
「もうすぐ暗くなるよ。帰らなくていいの?」
また口をつぐんだ。
(頑固だ)
ラファウは腕を組む。
小さくても、相手はノヴァクの娘である。
小手先の対応では動きそうもない。
とはいえ。
ラファウだって人並みの情くらいはある。
こんな小さな子を、夕方の公園に置いて帰るほど冷酷ではない。
「一人だと危ないよ」
「一人じゃありません」
スカートのポケットを探る。
「キキがいます」
取り出したのは、ウサギのぬいぐるみだった。
ラファウはそれを見つめる。
その布と綿が、いったい何をしてくれるというのか。
その言葉は飲み込んだ。
「……それは心強いね」
ヨレンタは力強く、こくりと頷く。
「実は僕、ノヴァクさんの知り合いなんだ。よかったら……」
「父が言ってました」
ラファウの言葉は遮られる。
「知らない人について行ってはいけないって」
理路整然としている。
「あなたは父と知り合いかもしれませんが、私とは初対面です」
隙がない。
完璧だ。
ノヴァクの教育の賜物である。
ラファウは少し考えた。
そして結論を出す。
「じゃあ」
土星の輪を渡る。
ヨレンタの隣に座った。
「僕が君についていくよ」
ヨレンタがパチパチと目を瞬かせる。
「え……?」
「これなら問題ないだろ?」
ヨレンタは少し考えた。
キキをぎゅっと抱きしめる。
「……た、たしかに」
チョロい。まだ子供である。
ノヴァクは怖い。
特に娘のことになると、鬼のように怖い。
なんとか無事に保護しなくては。
「僕はラファウ。君は?」
「……ヨレンタ」
「ヨレンタ、ここでひとりで何してるの?」
「パパに……ううん、内緒」
そう言うと、土星の輪を滑り降りた。
砂利のところでしゃがみ込む。
小石を持ち上げては放り投げる。
「……何してるの?」
「きれいな石、探してるの」
「石?」
「そう」
子供とは突飛な行動をするものである。
そう納得させ、ラファウも地面の小石を眺める。
「……これなんかどう?」
「だめ」
一瞥してダメ出しを喰らう。
二人して、しばらく無言で地面と向き合う。
程なくして、ヨレンタが無言で立ち上がり、水場で何か洗っている。
真っ黒な石。
水に濡れて光る。
ヨレンタはそれを満足そうに眺めて、ポケットにしまう。
「いいのが見つかったね」
「うん。パパが好きな色なの」
そしてまた樹木の下へ駆けて行って、地面と向き合う。
クヌギの木の下である。
「分かった、次はドングリだ」
ヨレンタはニヤリと笑って、頷いた。
「ピカピカのやつ」
ずんぐりと太ったクヌギの丸い実が地面に散らばっていた。
その中から、虫食いの無い、きれいなものをいくつか探し出す。
「これはどう?」
「合格」
「光栄だね」
一番大きく、表面がつるりときれいなひとつをつまみあげ、またポケットに入れた。
「パパ、かっこいいもの好きなの」
「……パパへのプレゼント?」
ヨレンタが頷く。
「さぷらいずするの」
満面の笑みで、ポケットの中身を取り出して行く。
虫の羽。
ドングリ。
黒い石。
サテンの赤いリボン。
そして。
ヨレンタの柔らかい手に転がり出てきたものを見て、ラファウが息を呑む。
銀色の表面。
先の尖った細い円筒。
――銃弾。
「……ヨレンタ」
「ん?」
「これ、どこで拾ったの」
「おじさんが落としてった」
「どこで?」
「えっとね」
ヨレンタは指をさす。
「トラックのところ」
公園の外れ。
林道の入り口に、黒いトラックが停まっていた。
荷台の扉が半分開き、中に木箱がいくつも積まれている。
「……それ、たぶん持って帰っちゃダメなやつだよ」
「なんで?」
「遺失物等横領罪」
「いし、つぶつ?」
「落ちてる物を勝手に持って帰る罪」
ヨレンタが顔を青くする。
ラファウは黙って銃弾を見下ろす。そしてトラックの中の箱を見る。
「……ヨレンタ、ここで待ってて」
言い残すと、物陰に隠れるようにトラックに近づいた。
人気の無いことを確認すると、荷台に乗り込む。
木箱の中は箱が詰め込まれていた。
ひとつを手に取り開けてみる。
嫌な一致。
ヨレンタが拾ったものと同じ銃弾が並ぶ。
(なんでこんなところに)
その時。
「誰か来たよ」
すぐそばで声がして、慌てて振り向く。
ヨレンタの丸い瞳がラファウを見ていた。
「なんで来たの」
足音。
ヨレンタが小声で指さす。
「あのおじさんだ」
ラファウの判断は早い。
「こっち」
ヨレンタを抱いて木箱の隅に体を滑り込ませた。
同時に、男の声がした。
「……落としてないか?」
「ああ、一つでも無くしたら……殺される」
ラファウの背筋が冷える。
(やっぱり銃だ)
ヨレンタが小声で聞く。
「ラファウ」
「しー」
「これ、銃の弾?」
「……たぶんね」
「かっこいい」
無邪気とは、末恐ろしい。
ガン、と硬い扉の閉まる音。
ラファウが顔を上げる。
(これはやばい、かも)
嫌な予感。
エンジン音と共に荷台がわずかに揺れ、すぐに動き出した。
「ラファウ」
「なに」
「どこ行くのかな」
暗闇の中で、ヨレンタの目がきらきらしている。
「……少なくとも」
ラファウは天井を見上げた。
「……遊園地じゃないのは確かかな」
「えー」
ラファウは頭を抱える。
「……絶体絶命だよ」