TS女神の体が万能薬なので気持ちよく配ってたらなぜか周りが全員泣いてる   作:なほやん

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第二十話 「おいしい」

 

「この子にご飯をあげてほしいの。必ず真心のこもったものを、よろしくね」

 

 ルーシェが教会に頼んだのは、それだけだった。

 

 ラトニアが、その後ろで銀の目を輝かせていた。

 

「その子は……」

 

「ラトニア。ただのラトニアよ」

 

 年かさの神官が深く頭を下げた。

 

「女神様の御心のままに」

 

「やめて。女神は終わり。女神は……魔王を倒して天に帰ったの」

 

「……かしこまりました」

 

 蝕み病は、消えた。

 

 教会は女神の血や肉を流通させなくなった。

 

 代わりに、そのインフラはルーシェの知識とフィオの調合に基づいた薬草を届けるようになった。

 

 

  ◇

 

 

 三人で旅をしていた。

 

 どこに行くとも決めずに。急ぐ理由は、もうなくなっていた。

 

 朝、フィオが薬湯を淹れた。

 

「……うん。温かい」

 

 ルーシェが両手で椀を包んだ。味の感想は、出なかった。

 

 昼、リーゼが魚を焼いた。

 

「ふわふわね!」

 

 ルーシェが笑った。

 

 次の街。フィオが薬湯を淹れた。

 

「温かい」

 

 リーゼが根菜のスープを作った。

 

「ホクホクだわ!」

 

 味は、まだ分からないまま。

 

 次の街。

 

「温かいわ。ありがとう」

 

 リーゼが焼いた肉、フィオの薬草。

 

「リーゼ、上手になったわね」

 

 毎朝、フィオが薬湯を淹れる。毎昼、リーゼが何かを焼く。毎晩、三人で焚き火を囲む。

 

 春。あの港町を通りかかった。蝕み病の患者はもういなかった。露店の果物が甘い匂いを振り撒いていた。

 

 夏。山あいの街に戻った。月光茸のスープを飲んだ。フィオとリーゼが旨味に震えた。ルーシェだけが静かに啜っていた。

 

 秋の朝。街道沿いの野営地。焚き火がまだ燻っている。

 

 フィオが薬湯を淹れた。いつもの苦い薬草。砂糖は入れていない。

 

 ルーシェに差し出した。

 

 ルーシェが両手で椀を持った。ふうふうと冷ます。一口、飲んだ。

 

「…………」

 

 もう一口。

 

「……にが」

 

 自分の口から出た言葉に、ルーシェ自身が目を瞬いた。

 

 フィオの目が震えた。

 

 リーゼの鼓動が高鳴った。

 

 苦い。苦いと、言った。

 

「でも……おいしい」

 

 フィオが泣いた。声を上げて。椀を抱えたまま、声を上げて。

 

 リーゼも泣いていた。穏やかに。温かく。

 

「あら、二人とも……」

 

「ルーシェ様! 大好きです!」

 

 フィオが、ルーシェに抱きついた。

 

 あの夜、月を見ながら飲み込んだ言葉が溢れ出た。

 

 フィオの顔が、涙で濡れたまま真っ赤になった。

 

「ずるい……!」

 

 リーゼの声だった。

 

「ずるいです、フィオ……! 私だって、私だってルーシェ様のことがずっと大好きです!」

 

 リーゼもルーシェに抱きついた。

 

 声が裏返っていた。目が赤い。胸の中で心臓が暴れている。

 

「ありがとう。二人とも……私も二人が大好き!」

 

 ルーシェも、泣いていた。

 

 朝日の中、三人の涙がきらめいた。

 

 

 (完)

 








 最終話までお読みいただき、本当にありがとうございました!
 ここまで物語を見届けてくださった皆様に、心から感謝しております。

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