「魔法少女ノ魔女裁判(まのさば)」二次創作小説
『花弁の種を摘み取るまで』第3幕です。
【注意事項】
・原作既読推奨
・性犯罪・暴力・自殺描写あり
・pixivにも同時掲載中
本幕は複数の視点が交差する構成になっています。
張り巡らされた作戦が、いよいよ動き出します。
それでは、どうぞ。
私はとある人物に電話をしていた。一見怪しいが信頼できるとても頼もしい友人だ。
マーゴ「久しぶりねヒロちゃん?こんな時間にどうしたの?私が恋しくなっちゃった?」
ヒロ「君の魔法を使いたい。事件解決のためには君の魔法が鍵なんだ。」
マーゴ「魔法を使うのは良いのだけれど。具体的に何をしたらいいの?知ってると思うけど私の魔法もみんなと同様に弱体化してるのよ?できることにも限度があるわ。」
ヒロ「録音したデータの音声の人の声を再現することはできるか?」
マーゴ「もちろんできるわよ。でも、その録音データが古いと、魔法が消えちゃうわよ?」
ヒロ「具体的にはどれくらい古いと使えないんだ?」
マーゴ「そうねぇ。前回が使えたときは4日までだったから、おそらく3日間までしか魔法が効かない。つまり、録音した声真似を維持できるのは、せいぜい3日間だけよ。」
ヒロ「3日もあればどうにかできる。私に力を貸してくれ。」
マーゴ「いいわよ?でも、私のお願いも聞いてくれないかしら?」
ヒロ「いいだろう。できる限り応えよう。」
マーゴ「ふふ。それじゃあ」
通話でのマーゴとのやり取りを終えて、着々と作戦は進んでいる。
「ココたんっていう配信者知ってる?マキちゃんの事件のことについてなにか喋るみたいなの。一緒に見てみない?」
エマたちはココの配信を生徒に紹介して、事件の周辺情報獲得に助力する。生徒は主に、事件現場の近くに住所を置く生徒、マキと仲の良かった生徒に絞って紹介していた。
私は職員室にて、氷鷹先生と話をしていた。
「氷鷹先生。安藤マキの事件についてとある配信者が真相を話すという配信が今日の21時付近にやるようです。時間が空いてたら見てみてはどうでしょう。真犯人が見つかる手がかりがあるかもしれません。」
「そうか。そうだね。僕も、実行犯だけが捕まって、主犯格が捕まってないことに苛立ってたから、この配信で見つかることを切に願っているよ。」
そう言って眉間にシワを寄せてなんとも嘘くさい怒りの表情を作っていた。
「そうですね。それでは失礼します。」
私は職員室を出る。これで作戦の下準備が整った。ボイスレコーダーの録音完了ボタンを押した。そしてココの実家に向かう際に別部隊にメッセージを送った。
ヒロ「こちらの下準備は整った。そちらは?」
ミリア「おじさんたちも問題ないよ。これから刑務所に向かうつもり。」
ヒロ「了解。健闘を祈る。」
これから始まるのは無数に散りばめられた証拠の根源に収束していく総力戦。正義と悪が混じり合う原点。
花弁の種を摘み取るまで 悪義収束点
ココの実家はなんとも風情のある古屋だった。引き違い戸を開けて中に入る。すると、2階からココの声が聞こえた。ペタペタという裸足で階段を降りている音が聞こえてきた。
「ヒロッちおひさ~。牢屋敷ぶり~。」
「久しぶりココ。ところでおじの姿が見えないがどうした?」
「あぁ、今、日課の散歩中。」
「健康的だな。」
「あてぃしが勧めたんだ~。」
他愛のない小話も手短に切り上げ、ココの配信部屋に向かう。
「なんだ?これは?」
そこは風情のある古屋の欠片もない部屋となっていた。PCとゲーミングチェア、エナジードリンクが大量に入ったガラス窓の冷蔵庫。この引きこもりのような部屋こそが、彼女が完全に配信廃人と化した人間の生活実態を物語っていた。
「およそ人間の生活部屋とは思えないところだな。」
「んま、褒め言葉として受け取っとくよ。」
そうして配信準備を整え、時間となった。
「いぇーい!こんちはー。ここたんだよー。今日はタイトル通りとある事件。安藤マキの事件の真相を話しちゃいまーす!」
同接数は過去最大の12万人を超えていた。それでもココは顔色を変えずにいつも通りに配信を続けていた。私はカメラの外に置かれたサブモニターを注視していた。画面には配信とメモ帳が表示されていた。コメント欄から重要なワードがあるかもしれないことに加え、ココが取得した証拠になりうる情報をいち早く私に伝えるためにこの2つを見ていた。事件については新聞とネットでしか情報がない。故にココが現在話している情報は皆が知り得る情報。これは時間稼ぎ。氷鷹が油断するその瞬間のために。
何も書かれていなかった白いメモ帳に、次々と文字が打ち込まれてきた。カタタと高速タイピングが鼓膜を揺らす。しかし、この音はココのヘッドセット内蔵型のマイクには届かない。ノイズキャンセリング機能でキーボード音は遮断されていた。
ココ「取引用生徒情報リスト。配布者リスト。獲得株一覧。紙資料化。氷鷹状況。焦り、動揺、証拠シュレッダー。ゴミ箱。やばい。超バラバラ。深夜廃棄確実。」
極限まで簡略化された文章とも箇条書きとも決して呼べないような文字の羅列。こうなっているのは彼女が、12万人の視聴者を飽きさせないためのトーク、魔法で他人の視界共有と証拠探し、そして、その情報をメモ帳に高速タイピングを同時並行しているからだ。これを常人が同時にするのはほぼ不可能だろう。魔法の視界共有はただでさえ脳に負担のかかる重処理。そこに、タイピングに配信という超マルチタスク。常軌を逸した配信廃人の彼女でなければ脳の処理が追いつかず、焼ききれていてもおかしくないだろう。
メモ帳の内容を回収班にスマホで伝える。
ヒロ「エマ、ハンナ、アリサ。犯人が証拠をマンション近くのゴミ回収場所に置いた。至急、行動してくれ。」
各自スタンプを送り、数分後にハンナとエマがゴミ袋を持ってる写真が送られてきた。
ハンナ「ヒロさん。これを復元しろって言うんですの!?正気とは思えませんわ!」
ヒロ「無理は承知だ。頼む。」
エマ「大丈夫だよヒロちゃん。私たちは私たちで頑張るから、ヒロも頑張って。」
アリサ「二階堂。失敗したら許さねぇからな?」
ヒロ「あぁ。任せておけ。」
チャットを終えると、ココも配信を終えていた。そのとき、椅子から落ちる瞬間を見た。反射的に身体が動いて、倒れる前に支えることができた。
私は完全に脱力したココを抱え、ベッドにゆっくりと寝かせた。
「大丈夫か?」
「さ、流石に疲れた。しばらく寝る。」
「あぁ。ゆっくり休め。よく頑張ったな。」
サムズアップをして死んだように眠った。如何なることをしても起きないくらいのいびきをかいていた。
ココが眠ったあと、私は回収班のいるエマの自宅に向かった。部屋に行くと、
「こんの!クソ!!ですわ!!!」
そう言ってハンナは怒りを発露していた。
エマの部屋には回収班のみんなと遅れて合流した私がいた。
「遠野うるせぇ。夜中なんだから静かに作業しろ。」
「ハンナちゃん気持ちはわかるけど近所迷惑だよ。」
「うぅ、しんどいですわ。帰りてぇですわ。」
彼女は文句を言いながらも、丁寧で迷いのない素早い手つきをしていた。
大きな机に幅の広いセロハンテープの接着面を上に向けて固定した。そして、気の遠くなるようなピースのパズルを解くようにシュレッダーにかかった証拠書類を復元していた。
「ハンナ。キツイ作業を押し付けてすまない。食べたいものがあれば言ってくれ。できる限り用意しよう。」
「パンケーキ!パンケーキが食べたいですわ!」
「ボク、クッキーが食べたい。」
「ウチはロールケーキがいい。」
「お安い御用だ。お菓子の詰め合わせセットを買っておいた。冷蔵庫から取ってくる。」
「用意してるなら先に言えですわ!」
ティータイムで糖分を補給したあと、黙々とハンナとアリサが復元して、エマがコピーしていく。その横で私はマーゴと通話しながら声真似用の文章作成をしていた。
「ヒロちゃん、それなにに使うの?」
「すぐに分かるさ。」
頭に?を浮かべるエマを横目に作成した文章をマーゴに送った。
マーゴ「いい?改めて言うけど、3日間しか保たないから気をつけてね。ヒロちゃんなら大丈夫だと思うけど。」
ヒロ「大丈夫だ。すでにすべてのピースは揃った。感謝する。」
マーゴ「それじゃ、死に際みたいよ?」
ヒロ「だな。」
マーゴとの通話を切ると、数分後にファイルが届いた。確認すると台本通りのセリフを喋っている犯人の声を真似たマーゴの声が聞こえた。本物と遜色ない声に魔法の凄さと恐ろしさを再認識した。そして、しばらくして別部隊からのメッセージが届いた。チャット画面にして内容を確認する。
ミリア「無事刑務官の説得成功!」
ヒロ「流石だ。これはマーゴの魔法で作った。偽のボイスメッセージだ。」
ミリア「確認しました!エマちゃん達は大丈夫そう?」
ヒロ「資料が多くてな。順調だが、時間が掛かりそうだ。作戦が終わり次第、ミリア達も協力してほしい。」
ミリア「了解!」
ミリア達なら問題ないだろう。しかし、残り3日。間に合うことをただ、祈ることしかできないのは、どうもむず痒いな。けれど、牢屋敷で奇しくも生まれた固い絆があったからこその成果だ。私も気合を入れ直さなければ。
‥‥数時間前、私、シェリーちゃん、そして私を救ってくれた弁護士のおじさんこと先生でとある看守長を説得するという大役を任されたんだよね。
「はじめまして!私はミリアさんの友達の天才名探偵の妖精、橘シェリーと申します。よろしくお願いします。」
「ず、随分と個性的なお友達だね。」
「えっと、はい。この人はおじさんの恩人の、」
「僕のことはおじさんでいいよ。」
「それではよろしくお願いします。おじさん!ミリアさん!」
シェリーちゃんは元気よく挨拶した。
「ミリアちゃん、一人称おじさんにしたんだね。」
当然だが、やはり突っ込まれてしまった。私は顔を赤くして、吃ってしまう。
「あ、っと、これは、」
「大丈夫ですよ。おじさん系女子高生というのも味があっていいとは思いませんか?」
「まぁ、そうだね。あのときはミリアちゃんに寄り添うために一人称を変えてたけど、もう心配はいらなそうだね。」
シェリーちゃんのフォローで難を逃れた。
「はい。お陰様で。」
かつての恩人とまた一緒に会えるだけで私はすごく満たされていた。このあとの説得という大役があるにもかかわらず、ほっこりとした気持ちになってしまう。
「それでは早速、刑務所にレッツらゴー!です!」
浅香(あざか)刑務所。ここに安藤マキ集団レイプ事件の実行犯の小林武(こばやし たけし)が収容されていた。そして、私たちがやらなければならないことは囚人達の監視をする刑務官をまとめる看守長を説得することだ。どうしてそれが必要かというと証拠採取を妨害されないようにするためだ。
仮に実行犯から自白を引き出せたとしても、出所不明の録音データでは法的証拠にはなり得ない。そして、許可を得ずに囚人との会話を録音するのは私たち側が違法になる。故に、弁護士特権の接見交通権と録音許可の枠組みを確保した上、イレギュラーな事態に刑務官が反応して証拠採取を妨げないよう、
事前に現場を取り仕切る看守長の同意のもと、直接監視に立たせる必要があるという。
「この作戦、ミリアちゃん達が考えたの?」
「いや、ほとんどヒロちゃんって子が考えたんだ。」
「凄いね。最近の子は末恐ろしいよ。」
「いやヒロさんが極端なだけですよ。」
実際ヒロちゃんは凄い。牢屋敷にいたときもサバトの儀式を成功させたし、今回だって、みんなの魔法を活かして事件の犯人を捕まえようなんて。あの子には一体どこまで先が見えているんだろう?
接見交通権と録音許可は既に先生が取得していた。刑務所に着くと、事前に看守長との面会のアポイントメントを取っていたおかげで、私たちは看守長室に入ることができた。扉を開けるとそこには、サングラスを掛けた青髭の濃い、白髪の中年男性がタバコを燻らせて中央の書類が整頓されている机に鎮座していた。
「来たか。」
「初めまして白銀ひたぎ看守長。僕は、」
「御託はいい。簡潔に用件言えや。」
先生の言葉を遮り、ドスの利いた声で会話の主導権を剥奪された。
「それではお言葉に甘えて、単刀直入に言います。小林武の面会中に起きる騒動に対して他の刑務官の方々が介入しないよう内密にするため、直接面会監視をお願いしたいです。」
「んで?」
白銀看守長は机に両足を乗っけて、ふんずりかえって興味なさそうに聞いていた。
「報酬は、依頼報酬として1000万、成功報酬として3000万を用意しております。これで手を打ってもらえませんか?」
すると白銀看守長は煙を深く吐いて、気だるそうにこう告げた。
「生憎と金には困ってねぇんだわ。」
先生の提案は事務作業のように跳ね除けられたが、諦めずに交渉のため次なるカードを切った。
「実は二階堂グループの令嬢とのコネクションがありまして、この依頼を引き受けていただけたら、昇進の斡旋を確約できます。」
「知るかよ。金に困ってねぇのに、誰が昇進なんざいるかよ?」
白銀看守長は断固として首を振ろうとしない。正直、ヒロちゃんの家柄をちらつかせれば大体の人なら言いくるめられたと思う。でも、お金に興味がなく、そして昇進の意欲もない人には全く効力も持っていなかった。ヒロちゃんの家柄という最大のカードを切ってしまった。私たちが差し出せるカードはもう、残っていなかった。サングラスの隙間から看守長のどこまでも落ちていきそうな漆黒の瞳が私たちを捉えた。
「お前らから欲しいものはない。わかったらさっさと失せろ。」
交渉決裂。万策尽きたことを示すかのように先生は足を後ろに引いていた。このままじゃ私、なんの役にも立てない。いじめから救ってくれた先生を、今度は私が救わないといけないのに、何をしていいのかわからない。何が、できるの?こんなちっぽけな私に?
「あぁ!分かりました!」
今まで無言だったシェリーちゃんが口を開く。視線がすべて発声者に集まる。
「何がだ?」
「もちろんひたぎさんに物的欲求がないことにですよ!」
ギロリと彼女を看守長は睨みつけるがそんなことお構い無しに理由を告げる。
「少し貴方のことを調べました。まだ看守だった頃に起きた事件。やってらんねぇってなりますよね。ひたぎさん。貴方がお金や昇進に興味がないのは、世の中に情がない。もっというと、どうでもいいという諦めから来ているのではないですか?」
それを聞くと一瞬看守長は目を見開くが、すぐに威嚇の目を向けた。
‥‥なんだコイツ?こんなガキに自分の深層心理を覗かれた気分になって気味が悪い。こんな奴に何が分かるかよ。何も分からねぇよ。
俺は父親の男手一つで育てられた。父親は刑務官として、たくさんの受刑者を更生させ、社会復帰を支援してきた。そんな親に憧れ、自分もそうなったはずだった。受刑者を更生させる。更生させる?そんなことして、一体何になるのか?人を殺した者、いじめをしても捕まらない者。この世には捕まったほうが良い人間で溢れているのに、捕まえる立場にはいない自分にだんだんと疑問が心を侵食して理想との現実乖離していくように感じた。そして、社会復帰した受刑者が新たな事件を起こしたことをニュースで見た。その時悟った。
「もう、どうでもいい。」
かつての正義感も、怒りも、全部かなぐり捨てて、機械のように業務をこなそうと、タバコを咥え、脳を腐らせて、ボーっと生きると決めた。
会って数時間も経ってないこんなガキが、全部知った気で諭してくる光景に腹が立って仕方なかった。
「何度も言わないぞ。さっさと失せろ!」
声量を上げ、脅すように声を上げた。
弁護士が足を後ろに引こうとしたところ、
「お願いします!」
金髪のガキが土下座をした。
「お願いします。この事件の真相が明らかにならないと何の罪もない子たちが被害に遭っちゃうんです。白銀さんしか頼れないんです。お願いします。助けてください。」
なんだよコイツ。なんなんだよコイツ。涙ぐんで命乞いをするようにお願いをする姿を見て、子供の頃の記憶が蘇る。苛められっ子が土下座をして必死の命乞いをして、財布を差し出す光景を、そして、それを取り返すべく立ち向かったが数の暴力で為すすべもなく地面に這いつくばる己の姿だった。
(おい、何隠してんだよ、俺。捨てたろ、それは。)
俺の目の前には子供の俺が痣だらけになりながらも、立ち向かって、血と涙で顔がぐしゃぐしゃになった姿があった。ただ無力で、惨めで、ひたすらに必死にその苛められっ子の財布を抱きかかえていた。
咥えていたタバコを灰皿にこすりつけ、消した。
「わかったよ。」
そう言って、ハンガーラックに掛けてあった官帽を被った。
「報酬の1000万に3000万。その条件でやってやるよ。」
何やってんだ俺。こんなガキに突き動かされて。一度は捨てたこの正義、再び掲げることになるとはな。
‥‥私は校内の廊下を歩いていた。順調に安藤マキの事件の噂が広がり、生徒の警戒が高まってる中、レイアの姿が見当たらない。ラインを送っても家庭の事情でしばらく休む以外に返答がない。しかし、ここまで生徒の警戒心があるなら、新たな事件は起きにくいだろう。そして、職員室のドアを叩く。その音は決戦の合図だ。
「氷鷹先生。進路について、ご相談に協力してもらえませんか?」
そう言うと快く了承して、空き教室に二人っきりになった。そして、彼にボイスレコーダーの音声を聞かせた。その音声には安藤マキ集団レイプ事件の実行犯、小林武の自白の音声が流れた。
「あぁそうだ。氷鷹の野郎が俺に生徒情報を渡した。ご丁寧に住所も行動パターンも一緒にな。部屋には配布者リストとか獲得株とか、俺以外にも配ってるぽかったぞ?」
そのような告白が淡々と再生されていく。この音源元は数刻前に遡る。
‥‥20時間前。刑務所の牢獄にて、とある囚人を呼ぶ。
「囚人番号1424番小林武。面会だ。出ろ。」
事前に他の看守のスケジュールを調整して、昼休みの時間、看守長の俺以外は出払ってもらった。
「おーい。面会って誰だよ?氷鷹の野郎か?」
「すぐに分かる。」
すると定刻通りにあの弁護士がやってきた。
「初めまして、氷鷹正門から伝言を伝えにきました。」
そう言うとボイスレコーダーを取り出して音声を再生する。
「久しぶり小林武。早速で済まないが、君を見捨てることになった。お前を救うコストを考えると費用対効果が全くない。お前は一生その牢獄で人生を謳歌しろ。」
魔法で氷鷹の声をしたマーゴの声が、この密室に響く。音声の再生が終了すると無言で聞いていた小林は机を激しく叩いて激昂した。
「ふざけんなよ!クソが!カスが!!死ね!!!」
バン、バン、バン、っと激しく叩きまくる。小林が一通り感情を吐き尽くした後、弁護士が口を開く。
「仕返し。したくはありませんか?」
「あぁ?!」
「あなたを陥れた氷鷹に復讐、したくはありませんか?」
‥‥そして、教室でボイスレコーダーの再生が終わった数秒の沈黙のあと、
「こんなのデタラメだ!二階堂!僕を信じてくれ!きっと誰かのたちの悪い嫌がらせだ!」
「いえ、これは実際に本人から録音したものです。」
しかし、私は彼の主張を否定して事実を突きつける。そして、その証拠となる取引用生徒情報リスト、配布者リスト、獲得株一覧のコピーを突きつけた。
「こ、れは。」
「ゴミ収集場所から拝借させていただきました。手分けして、復元しました。」
それを氷鷹は鬼の形相で取り上げ、ビリビリに破く。
「そんなことしても無駄ですよ。それ、ただのコピーですから。」
すると、氷鷹は力なく膝をつくが、不気味に高笑いをする。
「それがどうした?!僕のバックには学校がいる。処分はあるかもだが、少し世間に馴染めただけの小娘が僕を出し抜こうなんて甘いんだよ!!!」
最後の虚勢。しかし、私がスマホの画面を見せた途端、その即席の仮面すらあっさりと粉々になった。
「わかりますか?この画面。」
「な!?」
「そうです。ここたんのライブ配信画面です。今、この場で、ライブ配信中ですよ先生?」
不敵に不気味に、私の手のひらで滑稽に踊る氷鷹の姿があまりに無様で嘲笑してしまう。
「おっしゃってましたよね?主犯格が捕まってないことに苛立ってたっと。喜んでください。見つかりましたよ、ここで。」
この配信の同接数は5万を超え、瞬く間に学校のSNSが炎上中。コメント欄も大荒れで学校が彼の後ろ盾として機能しないことを示していた。
「立ちなさい。出頭の時間です。」
そう言って手を掴もうとしたとき、鋭い痛みが走った。手のひらから鮮血の雫が垂れ、激痛が私の右手を襲った。
「くっ!?銃刀法違反だぞ!」
「家庭科の授業があるだろ?」
彼は小さな果物ナイフをこちらに向け、私を殺そうと襲いかかってきた。死なば諸共と言わんばかりに心臓めがけてナイフを突きつけた。しかし、私は必死に受け流すが、体格差に負け、氷鷹に馬乗りにされた。
「知らないまま優等生してればよかったのに、残念だよ二階堂。」
氷鷹がナイフを振り下ろそうとした瞬間、ばたん!!!っと大きな音が教室の入口付近から聞こえた。
「待たせたね!ヒロくん!」
ドアを勢いよく開けて二人の視線が集まる。そこには行方を眩ませていた人物が立っていた。
スマホ越しの視聴者も何が起きてるのか困惑のコメントを送信する中、
「どうも、宝塚音楽学校に受かった蓮見レイアです。」
と、行方をくらませていた理由を説明するかのような自己紹介をした。彼女はどこまで行っても注目を集めたい演出家なのだと実感させられた。
そして、目線がレイアの方に向いた彼の、その一瞬の隙を見逃さなかった。私は痛む右手に鞭を打って体術で彼を組み伏せ、ナイフを持つ手を彼の背後に捻り上げて拘束した。
「そういうことなら連絡しろ。報連相は社会人の常識だぞ?」
「すまないヒロ君。私はあまり、努力を他人に見せびらかしたくないんだ。」
「カッコつけだな。」
「ふふ、その言葉そのまま返すよ。」
第3幕「悪義収束点」、お読みいただきありがとうございました。
本幕では複数のキャラクターの視点が交差する構成に挑みました。
ヒロだけでなく、仲間たちそれぞれが「自分の役割」を果たす姿を
丁寧に描けたなら嬉しいです。
白銀ひたぎ看守長のシーンは、
執筆していて個人的に最も気に入っている場面です。
一人の人間としての葛藤を、少しでも伝えられていたら幸いです。
次幕「白黒失楽園と愛する君へ」が最終幕となります。
ヒロとエマの物語の結末を、どうか見届けてください。
感想・ブックマークをいただけると次の作品を書く力になります。
もしよろしければ一言だけでも残していただけると嬉しいです。