花弁の種を摘み取るまで   作:秋月灯

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お読みいただきありがとうございます。
「魔法少女ノ魔女裁判(まのさば)」二次創作小説
『花弁の種を摘み取るまで』第4幕【最終幕】です。

【注意事項】
・原作既読推奨
・性犯罪・暴力・自殺描写あり
・pixivにも同時掲載中

ここまで読んでくださった方へ、精一杯書きました。
正義は、完全には勝てませんでした。
それでも——花弁の種は、風に乗って旅立ちます。
それでは、最後までどうぞ。



白黒失楽園と愛する君へ

 取り調べ室にて、容疑者氷鷹正門は容疑を認め、以下のことを語る。

 金持ちになりたかった。そんな彼の昔からの夢は教師という公務員の給料では到底叶えられない夢だった。齢30という年の枷で転職や新しいスキルを身に着けることを諦めていた。そんな中、ある匿名の人物から多額の現金の無償譲渡があった。その人物のアカウント名はジャック・ザ・リッパー。彼の指示で、複数の社会不適合者に生徒情報を明け渡した。

 殺人未遂罪、銃砲刀剣類所持等取締法違反、地方公務員法違反、不同意性交等罪の幇助で懲役20年は下らないと弁護士は見通していた。彼にはもうこの世界に居場所はない。完全なる自業自得で因果応報である。

 私は安藤マキの母親に事件の真相を話した。氷鷹の犯行、裁判の見通しを丁寧に細かく伝えた。親はただ黙って聞いていた。そして、説明を終えると涙を流し始めた。

 「私は、マキに何もしてあげられなかった。傷ついたあの子を支えてあげられなかった。自殺を止められなかった。私は親失格です。」

 「それは違います。貴方は貴方なりに向き合おうとしていました。だから、」

 仕方なかった。私はそう言おうとしてしまった。どうして、こんな言葉が浮かんでしまったんだ?

 「貴方は立派に親の責務を全うしました。今はただ、休んでください。」

 フォローを入れて立ち去る。ふらふらとした足取りで、実家に戻る。氷鷹を実刑に持っていくことはできた。しかし、真の主犯格のジャック・ザ・リッパーの足を掴むことは何一つできなかった。何重にも偽装された海外サーバー、複雑に入り混じりあうダミー会社の壁、犯人の顔、名前、性別、何一つとして得ることができなかった。自分の部屋に着くとベッドに倒れ込む。気づくと寝巻きになって仰向けで寝かされていた。どうやら熱を出していたようだ。解熱剤と水が置かれていることから、メイドが着替えさせてくれたのだろう。薬を飲み終わるとコン、コン、コンとノックされた。

 「お嬢様。ご友人様がお見舞いにいらっしゃっています。」

 現在17時過ぎ。こんな時間に来る客人?疑問に思いつつ、その人物を入れるよう指示すると、

 「ひ、ヒロちゃん。突然でごめん。急に会いたくなっちゃって。」

 部屋に入ってきたのはエマだった。

 「エマ。」

 「ヒロちゃん大丈夫?メイドさんから熱っぽいって。」

 「問題な、い。」

 身体が重く、起き上がるだけでも神経を使う。

 「無理に動かないほうが、」

 「客人に寝たまま接するわけにはいかないだろう?」

 「病人を無理に起き上がらせる客人なんか部屋に上げちゃだめだよ!?」

 エマは起き上がる私を止め、ベッドに寝かせた。

 「やっぱり、今は静かにしたほうがいいよね。ボク帰るよ。」

 病人の私を気遣ってか、彼女は帰ろうとする。私が彼女に風邪を移してはいけないし、彼女の行動を見送るのが懸命、だ。

 「ヒロちゃん。」

 気づけば彼女の裾を摘んでいた。心では彼女を止めるべきではないと思っているのに、口から出た言葉は真逆のお願いだった。

 「まだ、帰らないでくれ。」

 心身共に弱ってるからか、人の温もりを欲しがっている自分がいた。

 「膝、枕、して。」

 か細く小さな声でエマにおねだりする。

 「もちろんいいよ。」

 エマはそう言って、黒いニーソックスを脱いで太ももを差し出した。

 「耳かきも、してほしい。」

 これも了承して、かり、かり、っと耳の掃除をしてくれる。

 「氷鷹を捕まえた。これで、諸悪の根源を摘めたと思った。でも違った。彼も操られた人形の一部だった。私は手のひらで氷鷹が無様に踊ったと思っていた。踊らせていたのは私だった。」

 これじゃあ犯罪は消えない。また罪のない人々が犠牲になってしまう。

 「私は役立たずだ。」

 涙を流して、自分の無力さを、無様さを自ら嘲る。何のための正義だ?何のための努力だ?行き過ぎれば正義は悪にもなり得るし、努力の方向性を間違えれば目標とは永遠に平行線のままだ。私は目的の方向性を間違えたのだ。氷鷹を捕まえることに必死で、背後の真相まで見通せなかった。なんてちっぽけな小娘なのだろうか。

 「私に生きる価値など、あるのだろうか?」

 「あるよ。」

 心の独白が漏れていたのかエマの即答の肯定が返ってきた。

 耳かきを続けながら私の頭をそっと撫でた。

 「確かにヒロちゃんは裏で動く大きな悪を捕まえることはできなかったのかもしれない。でも、ボクのお願いを叶えてくれた。」

 「お、願い?」

 「高校の噂の真相の解明。マキちゃんの事件から始まったこの事件。ヒロちゃんも氷鷹先生から頼まれなかったら、そもそも先生を捕まえることすらできなかったし、ヒロちゃんは立派に正義を執行したんだよ?ヒロちゃんの生きる価値ならボクが証明する。だから、生きて?」

 牢屋敷でも言われた「生きて」という言葉。あの時はアンアンを殺してしまったと思っていた私の犯行を隠蔽して、自殺を避けるために発した言葉だった。しかし、今は、私の返事を待っているような、暖かくて優しい声色だった。

 「そう、だな。エマが証明してくれるまで、死ぬわけにはいかないな。」

 エマにこんな弱音を流すなんて情けない限りだ。でも、今は彼女の優しさに甘えよう。

 彼女にお願いして今日は泊まってもらった。あの時のように、シングルベッドで抱き合って、添い寝した。

 次の日、氷鷹の事件で辺りの高校は一時的に休校となった。そのため余暇を楽しむことにした。彼女と一緒に。

 「6月に花火大会とは少し早すぎな気もするが。」

 「けど、ニュースでも異常気象!って言って結構夏ムードになってるよね。」

 横浜開港祭というイベントで花火が上がるそうだ。そしてその付近に八景島シーパラダイスという水族館がある。ここまで言えば理解できるだろう。水族館デートだ。近くで浴衣をレンタルし、目的地に向かう。

 アーチ水槽に入り、沢山の魚を眺めながら歩く。手を絡め合って、ゆっくり、ゆっくりと、歩いていく。

 イルカショー。飼育員と息を合わせて輪っかを潜る。そこには別々の生き物同士の共生があった。牢屋敷ではただ一人で過ごしていた。証拠集めの際は確かに協力をしたが、それは共生と言えるだろうか?お互いの利益のためのビジネス関係にも思えた。私は利益や損得なしで人と向き合っていけるだろうか?

 19時。たこ焼きや飲み物を持って花火が見やすい場所に向かった。

 「ヒロちゃん、あーん。」

 「あーん。」

 「美味しい?」

 「あぁ。」

 「よかった。」

 二カッと笑う彼女に問いかける。こんな質問、意地悪で良くないことはわかってる。しかし、聞かずにはいられなかった。

 「エマ。」

 「何?ヒロちゃん。」

 「君はどうして、私と一緒にいてくれるんだ?」

 私には分からない。彼女に好意を向けられるようなことはしてない。なのにどうして私を好いてくれるのか。

 「好きだからだよ?」

 回答は非常に簡潔で、でも言葉足らずに感じた。

 「なぜ好きなんだ?」

 「ヒロちゃんは困ってる人を片っ端から助けてくれる。誰かが道を踏み間違えそうになったら正してくれる。いつでも、芯がしっかりしてて、迷いのない行動にボクは惚れたんだ。」

 「でも私は今、信じた正義が揺らいで行動に迷いが生まれてる。」

 「知ってる?本当に好きな人の駄目なところは愛おしく見えるんだよ?」

 「盲目的だな。」

 「恋だからね。」

 ひゅーっという音が聞こえて観客がざわめき出す。一本の線が暗闇を駆け上がる。そして、大きな花が閃光と共に花開く。どーん!とあとから煙の匂いと一緒にやってきた。

 「来てよかったねヒロちゃん!」

 彼女の笑顔が花火の閃光で鮮明に見えた。それは、満開の桜のように。

 「そうだなエマ。」

 

 

 ‥‥数日後。学校は通常通りに戻って、噂もなくなって、平和な日常が戻った。

 「エマちゃん、昨日のここたんの配信見た?かき氷の早食いで青ざめてるここたんが面白くてさぁ。」

 「そうだね、今度はフランクフルトの早食いみたいだけど、食べ物にハマったのかな?」

 そんな話をしているとチャイムが鳴って先生がやってきた。

 「ホームルームだぁ。みんな席に着いてな。」

 いつも通りの日常。これが日常でないことを牢屋敷で、今回の事件で知った。

 「今日はな、転校生が来た。入って来なさい。」

 ガララとドアを開く音が聞こえる。みんなのざわつく声の中、スタスタと堂々と黒板の方に歩いていく転校生。チョークを持って自分の名前を書いていく。

 「ひまわり高校から転校してきた二階堂ヒロだ。よろしく頼む。」

 黒髪の長髪。深紅の瞳。聞きなじみの声色。ボクの幼馴染の二階堂ヒロが立っていた。

 

 

 ‥‥私が自己紹介すると、皆歓喜の声を上げていた。ココの配信がバズってちょっとした有名人となっていたようだ。先生が座席を指差すとそこに向かう際に寄り道をする。

 「来てくれたんだヒロちゃん。」

 桜羽エマ。私の幼馴染で最愛の人。

 「あぁ。気づいたんだ。最も大切なものは最も近くで守らないといけないっと。」

 「ボク、そこまで子供じゃないよ。でも、ありがとう。また、一緒にお昼、食べにいこう。」

 彼女は照れくさそうに頬を赤らめるが嬉しそうに微笑んだ。

 「あぁ。改めてよろしくな、エマ。」

 花弁の種を摘み取るまでには至らなかった。ひまわりは腐り落ち、萎れていった。けれど、種は風に乗って旅立ち、新しい芽を生やす。悪を裁くのではなく、大切なもののために今度は戦おう。

 

                  愛する君のために

 

 花弁の種を摘み取るまで 白黒失楽園(パラダイス・ロスト)と愛する君へ

 




『花弁の種を摘み取るまで』、完結です。
最後までお読みいただき、ここまで付き合ってくださった読者の皆さんへ、
心からありがとうございました。

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