では、彼らはどうやって出会い、ミードに匹敵する人気バンドへと成長していったのだろうか?
ここからは、彼らの出会いから現在に至るまでの道程を見ていこう。
二ヶ月前…北の大陸、冬に閉ざされた平原にて…
ビュォォォォ…
ヴェッチ「うぅ…寒い…。どこを行っても雪だらけ…。凍え死にそうだ…。これじゃあ…唱うのも…できないな…。」
彼は歌士ヴェッチ。唱うことが好きな旅人である。しかし、休める場所もなく雪原をあてもなく歩きまわっていたせいで、もはや息も絶え絶えだった。
ヴェッチ「だ…ダメだ……。寒さで……意識……が…………。」ドサッ…
そして遂に体力が限界を迎え、雪原のど真ん中で倒れてしまうのだった。
パチ…パチ…
ヴェッチ「う……ここは…?」
ヴェッチが目を覚ますと、そこは小さな小屋であり、暖炉の薪が焼ける音がする。そこに、狼耳が特徴的な一人の少女がいた。
チューン「あっ、やっと目ぇ覚ました?危なかったわね。あたしが通りがかってなかったら、あんた凍え死んでたよ?」
ヴェッチ「きみは……?」
チューン「あたし?あたしは奏士チューン!さすらいのギタリストよ!そういうあんたは?」
ヴェッチ「……ヴェッチ。…それ以外は思い出せない…。」
チューン「あんた、自分の名前以外の記憶ないの?」
ヴェッチ「あぁ…。でも、唱っている時だけは…何故か心の底から楽しめて好きだ。」
チューン「なるほどねぇ。だからあのマイクを…。ねぇ、ちょっとここで歌ってみせてよ。あたしもあんたの歌声、気になるからさ。」
ヴェッチ「ん…わかった。」
スゥー…
ヴェッチ「♪〜」
ヴェッチは呼吸を整えると、簡単に曲を歌い始める。歌った時間はほんの少しだったが、その歌声は美しく、不思議と心が温かくなるような、心に響く歌声だった。
ヴェッチ「……どうだった?」
チューン「……ヴェッチ!あんた最高よ!これなら、あたしの夢も叶えられるかも!」
ヴェッチ「ゆ…夢?」
チューン「そう!あたしのギターと…あんたの歌声!ホンモノのギターとホンモノの歌声でバンドを組んで、天下を取ること!!それこそが、あたしの夢よ!!」
ヴェッチ「天下……。」
チューン「あんた、歌うのが好きなんでしょ?さっきの歌声を聴いて、その気持ちに偽りはないってわかった!なら、あたしと組んでみない?あんたにとっても悪い話ではないと思うけど…どう?」
ヴェッチ「…なぁ、もし天下を取れたら…おれの歌声なら…観客達を熱狂させることは、できるのか?」
チューン「絶対!あんたとあたしなら、絶対できる!」
ヴェッチ「そうか…。なんだか、心が熱くなってきた…!やってみよう!バンド!天下をとって、世界を熱狂させよう!」
チューン「ふふん!そうこなくっちゃ!」
こうして、ヴェッチとチューンはバンドを組むことになった。
チューン「あっ、でも…流石にメンバーが足りないわね…。」
ヴェッチ「そうなのか…?」
チューン「えぇ。ボーカルにギタリストと来たら、つぎはリズムを取る担当が必要。できればドラマー…最低限でもベーシストは必要ね。」
ヴェッチ「ベースか…心当たりは?」
チューン「…一応あるにはあるんだけど……あいつ、動くかなぁ…?」
ヴェッチ「?」
小屋の離れ、倉庫にて…
チューン「ここよ。ここにちょっと変わったロボがいてね…ほら、倉庫も寒いからさっさと確認して帰りましょ!」
ヴェッチ「あ…あぁ…。」
そうして2人が倉庫の中を進むと、1機のベースを携えたロボがいた。
チューン「いたいた…。こいつがそうよ。あたしが来た時からここにあったみたいだけど…。」カンカンッ!
チューンは軽く叩くが、ロボが動く気配はない。
チューン「ご覧の通り、全く動く気配はなし。エンジンが凍っちゃってるのかな…?」
ヴェッチ「……なぁ、音楽を聴かせてみるのはどうだろう?」
チューン「は?なんで?」
ヴェッチ「いや…ベース担いでるし…音楽目的で作られたロボなら、音楽を聴かせたら動いたりとかは…。」
チューン「ないない。あたしも最初そうかと思ってギター聴かせてみたけど、てんでダメだったし。ほら、さっさと行くよ。」
ヴェッチ「……。」
チューンはロボを動かすのを諦め、倉庫を後にしようとするが…。
スゥー…
ヴェッチ「♪〜」
ヴェッチは構わず歌い始める。
チューン「いや、だから音楽聴かせてもダメだって…」
ウィーン…。
システムボイス「音源ヲ確認。ボット02拍子型、再起動シマス。」
不思議なことに、ロボは歌声を感知して動き出した!
チューン「えっ、嘘!?なんで…」
ヴェッチ「よかった…。まだ動くみたいだ。」
02拍子型「ミナサン、ハジメマシテ!ボク、ボット02拍子型トイイマス!」
チューン「ねぇ、目覚めたばっかで悪いけど一つだけ聞いていい?なんであたしのギターじゃ動かなかったのに、こいつの歌で動き出したわけ?ちょっと納得いかないんだけど…!」
チューンはイラつきを隠せないのか、鬼気迫る表情で拍子型を問い詰める。
02拍子型「ワワ…!ナンダカ コワイデス!!デモ…ボクハタシカニ、オイルガコオッテイタノデ、ソレガトケタコトニクワエテ、アナタノウタゴエヲ キイタカラカト…。」
チューン「凍ったオイルが溶けた?それってどういう…待って?」
チューンはふと倉庫を見回すと、凍っていた資材や棚の霜や氷が溶けていることに気づく。
チューン「…ヴェッチ、あんたもしかしたら…歌で氷を溶かす力があるんじゃないの?」
ヴェッチ「?そうなのか…?おれはただ唱っただけだが…。」
02拍子型「スゴイデス!ヴェッチ!アナタハ イノチノオンジン デス!カンシャシマス!」
チューン「ねぇ、あんたなら…もしかしたらこの冬、終わらせられるんじゃない?」
ヴェッチ「どういうことだ?」
チューン「つまりね…あたし達3人で北の大陸を回ってライブ開けば…もしかしたら…!」
ヴェッチ「あっ…凍った村や平原を溶かせるかも…!」
チューン「そういうこと!ねぇ、いっちょあたし達で天下取って、この大陸に春を取り戻してみない?」
ヴェッチ「……あぁ!やってみよう!おれ達で春を取り戻すんだ!!」
02拍子型「ボクモ ツイテイッテイイデスカ? オンガエシ シタイデス!」
ヴェッチ「あぁ、もちろん!今はきみの力が必要だ!」
02拍子型「ボクノチカラガ……。ソレナラ、ハリキッチャウゼ!!」
ヴェッチ・チューン「………。」ポカーン…。
02拍子型「ドウシマシタカ?ナニカ…ヘンデシタカ?」
ヴェッチ「いや…急にキャラが変わったから、びっくりして…。」
チューン「あんた面白いじゃない!より一層気に入った!!」
02拍子型「キニイッテモラエテ、ヨカッタデス!ガンバルゼ!!」
ヴェッチ「よし!おれ達のバンド…こっから始動だ!!」
3人「「「オーッ!!」」」
時は流れて現在。鏡の城への道にて…。
チューン「思えば、懐かしいなぁ…。それで試しに練習で合わせてみたら、あのイエイエティがどこからかやってきてファン1号になったんだっけ。」
ヴェッチ「あぁ、そうだったな…。最初はビックリしたけど…おれ達の演奏を聴かせたら大喜びで…案外可愛いやつだったな。」
02拍子型「ボクタチノビートハ、シュゾクヲコエル!…トイウコトデショウカ?」
ヴェッチ「そういうことだな。ライブの時には毎回最前列にいるし、本当におれ達が気に入ったみたいだ。」
チューン「でも確かに、ファン第一号が雪男だなんて…きっと世界中探してもあたし達だけかもね!」
ヴェッチ「フッ…だろうな。それでバンド組んだ後は、どんな曲を奏でたいかを考えるために、色んな相手の歌を聴いて、色んな音楽を経験したんだよな。」
チューン「そうそう!あたし達にとっては、ちょっとした大冒険だったけどね…。正直、今生きてるのが奇跡に思えるくらいには。」
チューンはそういうと、今度はバンドの修行時代の思い出にふけ始めた。