そんな中、ヴェッチが最も印象に残っていた出会いは、とある人魚との出会いだった。
数ヶ月前…魔海の入り江にある洞穴にて…。
男の声「……ここか。人魚が住み着いた洞窟ってのは。」
人魚「……こんなところに何の用?あんたもあたしを笑いに来たわけ?」
男の声「さぁな。俺はただ、ここに歌を歌う人魚がいるって話を聞いて来ただけだ。俺もアーティストなんでな。そういうヤツの声は聞いておきてぇのさ。」
人魚「ふーん…。なら聴いていけば?時間の無駄でしょうけど。」
〜♪
人魚は男に唄を聴かせる。数多の船乗りを魅了し、狂わせてきた歌声を。
人魚「どう?」
男の声「……まぁまぁだな。お前の唄声は確かに透き通っている。だが…迷いが見えるな。」
人魚「はっ、そーですか。それを言いたいためにあたしのところに来たわけ?結局他の奴らと一緒じゃない。」
男の声「まぁ待て。…今から手本を見せてやる。よく聴きな。」
スゥー…
〜〜〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜〜〜♪
激しくも凍えるような歌声。しかし不思議なことに、人魚の心はその歌声の虜となっていた。
人魚「す…すごい……。その凍えるような声…。まるで…クジェスカ様のような…。」
男の声「クジェスカ…?あぁ…魔海一帯を氷漬けにしたっつー魔皇か。そう考えれば、俺もやってることは一緒なのかもな。今はもう殺されたって聞くが…お前、そいつの部下だったのか?」
人魚「ええ、まぁ……。ね、ねぇ…、お願い……教えて…。あたしは、何のために唱えばいいの…?」
男の声「何のために…だ?ハッ、くだらねぇことに囚われんな。意味も答えも求めるな。ただ唱え。咽が涸れるまで。」
そしてしばらく時は経ち…、現在から二ヶ月前。同所にて。
ヴェッチ「本当にここで合ってるのか?魅惑の歌声を持つ人魚がいるのは?」
チューン「噂によればね。なんでも、魔海が氷漬けになったころに、数多の船乗りを沈めてきた魔性の人魚がいるって話よ。」
02拍子型「ナ…ナンダカブッソウデスネ…。」
チューン「えぇ。何でも昔は、魔海一帯を氷漬けにした魔皇クジェスカの配下だったみたい。」
ヴェッチ「クジェスカ…?」
チューン「えっ、あんた知らないの?…って記憶飛んでるんだっけ。無理もないかぁ…。まぁクジェスカの話は置いておいて…ほら、そこの洞穴にいるって噂よ。」
ヴェッチ「…もう着いたのか。歌い方の参考になればいいけど…。」
そんな話をしながらヴェッチ達は、噂の人魚がいるという入り江の洞穴にたどり着いた。
洞穴の中にて…
ヴェッチ「もしかして、人魚ってあれか?」
ヴェッチ達が洞穴に入ると、海と繋がる潮溜りの真ん中にポツンとある岩の上に、青い髪とハープが特徴的な人魚がいた。人魚はちょうど唄を歌っているようだった。
人魚「 La〜♪ ……ん?またお客さん?」
ヴェッチ「すまない。この辺りで歌を歌っているっていう人魚は…もしかしてきみか?」
人魚「えぇ、そうだけど?あたしはセイレン。奈落の人魚セイレンよ。…で、あんた達は?」
ヴェッチ「おれはヴェッチ。3人でバンドを組んでて、一応おれがボーカルを務めてる。」
セイレン「ボーカル…ってことは、あんたは唱うたいってこと?」
ヴェッチ「そう言うことになるのかな…?参考までに、きみの歌声を聞きたいなって…。」
セイレン「………。」ゴゴゴゴ…
ヴェッチ「セ…セイレン?」
チューン「ねぇ、なんか嫌な予感がするんだけど…。」
セイレン「唱うたい…ですって…?バカバカしい!一丁前に『私歌えますアピール』のつもり!?…それとも何?あたしへのアテツケってわけ!!?」
ヴェッチ「ちが…そういうつもりじゃ…。」
セイレン「みーんなそう!!なんでいつもあたしばかり…!なんでよ…!あたしはアイツより美しいし、歌声も綺麗だった!なのにいつも評価されるのはあたしじゃなくてアイツだった!!アイツとあたし、何が違うって言うのよ!?」
チューン「ねぇ…なんか様子おかしくない…?なんかいきなりここにいない人の話し始めたけど…。」
02拍子型「ピーッ!アノカタ メンタルガブレブレデス!!カコニ ナニガアッタンデショウカ…?」
セイレン「あんたもどうせそうなんでしょ…?あんたもどうせあたしのこと自分より下の二番手以下だって思ってるんでしょ!?」
ヴェッチ「お…落ち着いてくれ…!おれは別にそんなことは…。」
セイレン「あー、ムカつく…!!こうなったのはあんたのせいよ!!責任とって、あたしの八つ当たりに付き合ってもらうわ!!」
ヴェッチ「えっ…えぇ…!?」
すぅー…
[♪奈落の人魚セイレンのテーマ♪]
La〜♪
セイレンはハープを奏でながら、唱い始める。数多の船乗りを魅了してきたという歌声は伊達ではなく、洞穴に美しい歌声が響いた。
ヴェッチ「うっ…みんな…気を確かに…!魅了されないように正気を保つんだ…!」
チューン「だったらあの唱をやめさせれば…!このツメは鋭いよ!」ダッ!
チューンは鋭いツメで引っ掻きにかかるが…。
バシャ!
コタコン「コタコン…コタ!?」ザシュッ!!
突如として海中から姿を現した小さなタコのモンスター、コタコンに阻まれる。
チューン「ちょ…このコタコン、どこから…!?」
02拍子型「ブンセキカンリョウ!セイレンノシュウイニ コタコンタスウ!アノウタゴエガ ウミノモンスターヲ ヒキツケテルミタイデス!」
ヴェッチ「歌声を止めなきゃまともに戦えず、かと言って攻撃して止めようとすればコタコンに阻まれる…。厄介だな…。」
La〜La〜〜…♪
セイレンは唱を歌い続ける。これによりヴェッチ達は魅了されないように耐えなければならず、誘い込んだコタコンを壁として守りに使う…完全にセイレンのペースとなっていた。
ヴェッチ「ならこれで…」ピキーン!
ヴェッチはマイクに氷を纏わせ、狙いを定める。
ヴェッチ「どうだ!ポップ・ノイズ!!」ヒュンッ!
氷の槍と化したマイクを槍投げの如く投擲する。
コタコン達「「「コタコタコーン!!」」」バシャァ!!
当然、コタコン達が海から姿を現し、マイクを止めようとしてくる。
ヴェッチ「くっ…ダメか…?」
ドスっ!
コタコン「コタッ!?」ヒューン…
ポップ・ノイズそのものは止められたが、防いだ内の一体がセイレンの方へ飛んでいく。
La〜La〜〜…♪
ゴツン!
セイレン「痛っ!?」
なんと、飛んで行ったコタコンはセイレンの頭にクリーンヒット。セイレンもたまらず唱を止めてしまった。
ヴェッチ「唱が止んだ…。セイレン、お願いだ…話を…。」
セイレン「……んで。」
ヴェッチ「えっ…?」
セイレン「なんで…なんでいつも、あたしばっかり…!……こんな目に、遭うのよ〜!!」ガンッ!!
ズズゥゥ…!!
セイレンが怒り任せにハープを岩に打ちつけると、突如として巨大な渦潮が発生する。
02拍子型「ヴェッチ、アブナイ!!」
セイレン「あたしの味わってきた劣等感…あんたにも味わわせてやる!!マーメイドラプソディ!!」
ゴォォォォッ!!
ヴェッチ「しまっ…うわぁっ!?」
チューン「ヴェッチーッ!!」
逃げ遅れたヴェッチが渦潮に巻き込まれる。渦潮の勢いは竜巻のように凄まじく、まともに喰らえばミンチは免れない。
セイレン「あーあ…いい気味!さ、次はあんたらよ。あの唱うたいみたいに、海の藻屑にしてあげる!」
渦潮の中…ヴェッチは意識を失いかけていた。
ヴェッチ(あぁ…おれ、死ぬのか?まだ…唱いたいのに…。春を…取り戻さなきゃいけないのに…。)
意識が薄れていく中、ヴェッチは渦の中で先程投擲したマイクを見つける。
ヴェッチ(せ…せめて…マイクは…!)ガシッ
ヴェッチがマイクを再び手に取った…その時だった。
ドクンッ
ヴェッチ(うっ!?…な…なんだ?今の感覚…頭に何か…浮かんで…。これは…"歌詞"?なんで急に……。でも…不思議だ。この歌は…知らないはずなのに、なんだかとても…懐かしい感じがする……。………よしっ!)
ヴェッチは、手にしたマイクを構え…渦潮の中で声を放つ。
パキパキパキ……ピキーン
セイレン「な…なに?渦潮が……。」
突如としてセイレンの放った渦潮が凍りつく。さながら、氷のオブジェのようになった渦潮からは…
〜♪
不思議なことに、歌声が響いていた。
02拍子型「コノコエ、モシヤ…!!」
ピシッピシピシッ……
チューン「まったく…心配させるんじゃないっての!」
パキーン!!
凍った渦潮の上部が砕け、そこからヴェッチが姿を現す。しかしその姿は……。
ヴェッチ「……おれは、ボーカリスト・ヴェッチ!!おまえの凍りついた心…溶かしてやるぜ!!」
チューン「あんたまさか…クラスチェンジしたの!?こんな土壇場で…!」
ヴェッチ「2人とも、来い!ライブの時間だ!!」
チューン「い…いいけど曲は!?」
ヴェッチ「渦潮の中で思いついたとっておきがある。それをあいつに聴かせてやる!」
02拍子型「マサカ…ブッツケホンバンデスカ!?デモ…モエテキタゼ!!」
ヴェッチに呼応するように、氷のステージとなった渦潮の上にチューンと02拍子型も飛び乗る。
セイレン「あいつら…何を…?」
ヴェッチ「……よし。」
すぅーっ……
[♪ヴェッチのテーマ♪]
ヴェッチの歌声が、洞穴にこだまする。情熱のこもった歌声は、セイレンの卑屈な心にも響いていく。
セイレン「何…何なの…この歌…。あたしより全然上手いじゃない。…悔しい…。悔しいはず……なのに……。なんでこんなに暖かくて、清々しい気分なのかしら…。」
いつの間にか、セイレンの冷え切った心は、ヴェッチの歌声で解けきっていた。
ヴェッチ「ふぅ…センキューッ!!」
コタコン達「「「「「コタコーン!!」」」」パチパチパチパチ!
洞穴にコタコン達の拍手が鳴り響く。ライブは大盛況で幕を閉じた。
セイレン「ふふっ…何だかせいせいするわ。これでもう、くだらない夢を見なくてすむものね…。」
ヴェッチ「夢…?」
セイレン「ええ。魔海イチの歌姫になること。今まで自分の上位互換みたいなやつがいたせいで、変な方向にねじ曲がっていたけど…ようやく踏ん切りがついた。あんたのおかげでね。」
ヴェッチ「えっと…もしかして…何か悪いことしてしまったか…?」
セイレン「いいのよ別に、もう気にしてないから。ただし、あんたはそんないい歌声持ってるんだから、夢を捨てるんじゃないわよ。」
ヴェッチ「あ…あぁ……どうも…?」
チューン「何はともあれ…丸く治った…ってことでいいのかな?」
セイレン「さて…と。こんな素敵なライブを開いてくれたんだもの。何か礼をしなきゃね。」
ヴェッチ「良かった…これで本題に入れる…。…きみみたいに楽しそうに素敵な唱を歌うには、どうしたらいいんだ?そのコツを聞きたくて、ここに来たんだ。」
セイレン「へっ…?じゃあ他の奴らみたいに蔑みに来たんじゃなくて…本当に…?しょ…しょうがないわね……///そこまで言うなら…教えてあげても…いいわよ?///」
セイレンは勘違いしていた恥ずかしさからか、はたまた自分が評価された嬉しさからか、頬を赤らめながらヴェッチの質問に応じる。
チューン「急に態度変わったわね。露骨なくらいに。」
02拍子型「ソレハ オモッテテモイワナイヤクソク!」
ヴェッチ「なら…教えてくれ、頼む。」
セイレン「……あるヤツにこう言われたのよ。『意味を求めるな。ただ唱え』って。無駄なこと考えてたら、雑念が混じって歌えるものも歌えないし、頭空っぽにして余計なこと考えずに歌ってみたら、本当にいつもより歌えるようになって…。」
ヴェッチ「────。」
チューン「ん?ヴェッチ、どうかした?急にぼーっとして…。」
ヴェッチ「えっ?あぁ、いや…何故か知らないはずなのに、聞いたことがあるような気がして…。それを言ったのは…一体誰なんだ?」
セイレン「へぇ?もしかして、そいつに興味あるの?」
ヴェッチ「あぁ。……何故かはわからないけど…おれはそいつに、会わなきゃいけない気がするんだ。」
セイレン「……いいわ。教えてあげる。そいつの名前は……。」
そして現在…鏡の城への道。
ヴェッチ「…魔皇ミード。奴の名前を知ることができたのも、おれがクラスチェンジできたのも、紛れもなく彼女のおかげだった。」
チューン「あんた、セイレンにかなり好かれてたみたいだからねぇ。ライブにもあれから毎回来てるじゃない。」
ヴェッチ「…会場が魔海に面している時だけな。」
02拍子型「デモ、キニイラレテルノニハ チガイナイデスネ!」
チューン「あっ、気に入られてるといえば…あんたがクラスチェンジしてから、なんか変なのがあたし達のところにたまに来るけど…結局アイツ何者なわけ?」
ヴェッチ「あー、アイツか…さぁ……?」
???「んー?もしかして、トゥルのこと呼んだ?」ヒョッコリ
3人がそうこう話をしていると、何の前触れもなく顔が鏡のダンサーのような精霊が姿を現す。
チューン「うわ出た…。」
ヴェッチ「えっと…今度は何の用?」
???「いやー、なんだか楽しそうにお話ししてたから、トゥルのことも混ぜて欲しいなーって!」
ヴェッチ「……わかった。断っても無理矢理混ざるつもりだったろうし、今度はきみの話でもしようか。」
???「えっ、トゥルの話!?やったー!やっぱり、出会いのところから話してくれるんだよね!」
3人は仕方なく、この鏡の精霊との思い出話をすることになった。