それは、ヴェッチがミードから生み出された鏡像…即ち、偽物であるという、あまりにも残酷な真実だった。それを知ったヴェッチはその場から逃亡、さらにはチューンが離反するという憂き目に遭い、バンドは解散になってしまった。
その後ヴェッチはただ独り、行く宛もなく吹雪の中雪原を彷徨っていたのだが、その様子を見ている者がいた…。
吹雪の雪原地帯…
ザッ…ザッ…
ミード《俺から生み出された鏡像……つまり、"偽物"だ。》
ヴェッチ「あんなこと…信じられるわけがない……。あれが…おれの求めてた真実…だって言うのか…?」
ヴェッチは、ミードから語られた真実が頭から離れず、あてもなく孤独に雪原を彷徨っていた。
ヴェッチ「チューン……02……。だ……ダメだ……。意識が………薄れて…いく………。おれは……ただ………歌いたかった……だけ……なの……に……………。」ドサッ…
雪原を彷徨い続けたヴェッチは、遂に体力が尽き、雪原のど真ん中に倒れてしまう。
???「………。」
/パァァァァァ……\
ヴェッチ「……うん?……なんだ…この光……暖かい……。」
突然、ヴェッチに向けて空から光が降り注ぐ。その光は不思議と暖かく、凍えきったヴェッチの身体を溶かしていた。
???「目覚めたか。迷える者よ……。」バサァ……
空から何者かが舞い降りてくる。全身に荘厳な白い鎧を着込んでおり、その背には大きな純白の翼が生えている。天界にいるとされている天使である。
ヴェッチ「あなた…は?」
ミカエル「我が名は大天使ミカエル。迷える者よ、其方のこれまでの行動を見させてもらった。」
ヴェッチ「お…おれのことを…?」
ミカエル「うむ。して問おう。其方は何を求める?」
ヴェッチ「おれが…求めるもの…?おれは……。」
ミード《俺から生み出された鏡像……つまり、"偽物"だ。》
ヴェッチは答えようとするが、ミードから告げられた言葉が止めどなく頭に響く。そして少し考えた末に、こう答えた。
ヴェッチ「……おれは、自分が何者なのかを知りたい。」
ミカエル「ほう……?」
ヴェッチ「あいつは…ミードは、おれのことを鏡像だと言った。けど、おれはどうしてもそれを認められない……。"自分"っていう個が否定されているような気分になるんだ。……教えてくれ…ミードが言っていたことは…本当なのか…?」
ミカエル「それが…其方の求めるものか?」
ヴェッチ「……あぁ。」
ミカエル「……いいだろう。では。」スッ…
パァァァ……
ミカエルが剣をかざすと、ヴェッチの前に光り輝く道が作り出される。
ミカエル「それは導きの光。大いなる意思が作り出した光に従えば、其方の求めるものに辿り着くであろう。」
ヴェッチ「…よくわからないけど…ありがとうございます。」
ミカエル「では行くがいい。其方が真実を知った時、我は再び其方の前に現れるだろう。」バサァ……
そう言ってミカエルは光り輝く道を残し、再び天界へと帰っていった。
ヴェッチ「……行くしか、ないか。」ザッザッ…
ヴェッチはミカエルから言われた通りに、雪原を歩み始める。まるで、神のお告げに従うかのように。
しばらくして……
ザッザッ…
ヴェッチ「ハァ…ハァ……どこまで歩けば……うん?あれは……。」
光に沿って歩き続けていたヴェッチは、吹雪の中であるものを見つける。
……そこにあったのは、自分の持っているマイクよりも少し豪華な氷のマイクで、その周囲半径数十センチだけ、雪がなく緑の草原が広がっていた。
ヴェッチ「……光の道は、ここで途切れてる…。あれを取ればいいのか…?」
ヴェッチはマイクへと歩みを進め、地に刺さっていたマイクを手に取る。…その時だった。
ドクンッ!!
ヴェッチ「うっ…!?あ…頭が……!!」
突如として、ヴェッチを激しい頭痛が襲う。それと同時に、頭の中に何かが流れ込んでくる。
ヴェッチ「こ…ここは…?」
気がつくと、ヴェッチは真っ暗な空間にいた。そして、目の前には見上げる程に巨大な鏡がある。
ヴェッチ「あっ…鏡に何か……。」
ヴェッチが鏡を見ると、そこに映像が映り出す。……そこにいたのは、その場にいなかったはずのヴェッチ自身とミードだった。
ヴェッチ「これは…もしかして、過去の記憶か……?」
ヴェッチはそのまま、鏡を覗き込む。
数ヶ月前…
ミード(過去)『あぁ……ここまでか…。』
ヴェッチ(過去)『ど…どうだ…?これでおれの…勝ちだ…。』
ミード(過去)『……結局、またこうなるのか。まぁいい。そのマイクを手に取れ。そうすれば……お前が"本物"になれる。』
ヴェッチ(過去)『あぁ。そうさせてもらう。…これでおれが、"本物"だ。」
そう言って過去のヴェッチは、ミードのマイクを手に取る。だが……
ドクンッ!!
ヴェッチ(過去)『あぁっ!?……なんだ…これ…!?い…一体なにが…!?』
ミード(過去)『そうだ、持っていくがいい…俺の声も、過去も、真実も…お前のものだ!』ピシッピシピシ…パキィィン…!
ミードはそう言って苦しむヴェッチを見届けると、鏡のように粉々に砕け散った。
ヴェッチ(過去)『はぁ…はぁ…はぁ…ようやく痛みが治ったか…。何だったんだ…?あの痛みは……?』
シュイィィン!
戸惑うヴェッチの前に、氷の反射からトゥルースが姿を現す。
トゥルース(過去)『やぁ!ミードを倒して、"本物"になれたんだね!さすがはヴェッチ!信じてたよー!!』
ヴェッチ(過去)『は…?何を言って……待て。』
過去のヴェッチは、ふと違和感を感じとる。いつもより視点が大きい気がするし、声も変だ。
ヴェッチ(過去)?『…………なぁ、トゥルース。今の"俺"は、どうなってる?』
トゥルース(過去)『んー?見たい?なら大歓迎!ほら、これが"本物"のキミだよ!』
そう言ってトゥルースは、手に持ってた手鏡を過去のヴェッチに向けてその姿を見せる。
ヴェッチ(過去)?『…………おい。何だこれは?』
トゥルース(過去)『ん?何って…本物のキミの姿に決まってるでしょ?見たいって言ったのはキミだよ?』
ヴェッチ(過去)?『…………これが……本物の俺……だと…?』
そこに映っていたのは、先ほど自分が倒したはずのミード。そしてここでようやく気づく。自分の姿がミードになっていることに。
ミード(ヴェッチ)『……………………………。』
トゥルース(過去)『あれ?どうしたの?"本物"になれたんだよ?嬉しくないの?』
ミード(ヴェッチ)『……………………………。』
トゥルース(過去)『あっ、わかった!嬉しくて声も出ないんだ!そうだよね!ならそう言ってくれればいいのにー!やっぱりトゥルがキミの本当の───』
バリィィンッ!!
トゥルース(過去)『あ……あれ…………?おかしいな………世界が……割れて……。』ドサッ……
次の瞬間、トゥルースの顔の鏡は粉々に割れており、ミードの拳には飛び散った破片がいくつも突き刺さり、血で赤く染まっていた。
ミード(ヴェッチ)『これが……"俺"の求めた真実……?…ハ……ハハ……ハッハッハッハッ……なんだそりゃ……?こんなのって……。』
残酷な運命を悟った彼は、最早呆れを通り越して、笑っていた。
シュゥゥゥン…
その時、割れたトゥルースの破片の一つから、何かが形作られていく。小さな破片が集まり、それはやがて人の形になっていく。ミードのよく知る形になっていく。
ミード(ヴェッチ)『あぁ、そうかよ。今度は"俺"が倒される番ってわけか…。けどな、俺もタダじゃやられねぇ。どうせなら…このクソみてぇな運命に抗ってやる…!そのためには何としても…次の"おれ"から声を奪わなきゃならねぇ。そうしなきゃ…"俺"は誰かを…熱狂させられねぇ……。』ザッ…ザッ…
そう言ってミードは、"次のヴェッチ"が完成する前にそこから去っていった。かつての自分のマイクを置き去りにして………。
ヴェッチ「────ハッ!?今のは……夢か?でも、今見たのは……。」
ヴェッチは目を覚ますと、僅かにあった平原で仰向けになっていた。そして、手には"前のヴェッチ"が持っていたであろうマイクが握られていた。
ミカエル「今、其方が見たものは、かつてこの場で起こったとある戦いの顛末。そして、其方の"真実の記憶"である。」バサァ…
空から再びミカエルが姿を現す。ミカエルはヴェッチが手にしたマイクについて言及する。
ミカエル「そのマイクの名は『氷解のマイク』。そのマイクは其方の道標となったことで導きの光が直に降り注いでいる。即ち、我らが大いなる意思の持つ聖なる力が宿っている。そのマイクで声を届ければ、大地を凍らせる魔唱にも対抗することができるだろう。」
ヴェッチ「これがあれば…ミードに……。」
ミカエル「うむ。しかし、使い方を誤れば、再び其方の見た"真実"が再現されることとなる。熟考し、其方の運命を自身で定めるがいい。」
ヴェッチ「おれの……運命……。なぁ、質問していいか?あなたはずっと、"別のおれ達"のことを見守っていたのか?そして……あなたが"おれ達"を導いたのは…これが初めてか?」
ミカエル「……左様。其方の数奇な運命を何度も見てきた。そして、こうして直接干渉したのも、これが最初である。」
ヴェッチ「なら…なんで今回"おれに"こうして干渉してきた?」
ミカエル「……我は其方に、運命を変える素質を見た。」
ヴェッチ「運命を変える素質…?」
ミカエル「うむ。今回の其方は、"これまでの其方"にはなかった数多の出会いに恵まれた。その出会いが其方の運命を大きく変えると、我は見ている。」
ヴェッチ「出会いが…運命を……。」
ヴェッチの脳裏に、チューンや02、ライブを聴きに来たファン達の姿が蘇る。
ミカエル「では、我は再び天界より、其方の運命、そして其方の答えを見定めるとしよう…。さらばだ…!」バサァ…
ヴェッチ「あっ…待ってくれ!まだ聞きたいことが…!」
そう言ってミカエルは、天界へと去っていった。しかし、この後もミカエルはヴェッチのことを見定めるのだろう。
ヴェッチ「行ってしまった……。やるしかない。おれがミードを倒して…本物になって、世界を…熱狂させてやるんだ…!」
数日後…
ファンの男「ううむ…最近、ヴェッチ達の話を聞かないなぁ…。噂じゃあもう解散しちまったって聞くが……何かあったのか?」
彼はヴェッチ・ライブの常連であるファン。以前スノーにヴェッチを布教していたファンである。最近になってヴェッチがライブをやらなくなったため、何かあったかと勘繰っている様子。
パサッ…
ファンの男「うおっ!?…なんだこれ、チラシか…?」
そんな時、ファンのもとに風に乗って一枚のチラシが運ばれてくる。そのチラシにはこう書いてあった。
ファンの男「…『ヴェッチ・リブートライブ』?」