それを手に取ったヴェッチに流れたのは、かつてのミード…"前のヴェッチ"の記憶だった。それを知ったヴェッチは、マイクを手に新たな決意を固める。
それから数日後、北の大陸にあるチラシが配られる。そこには『ヴェッチ・リブートライブ』と書かれており……。
魔海の入江、凍った村のライブ会場にて…
ファンの男「会場はここで合ってるよな…?って、もうこんなに集まってやがる!やっぱり、何かあるって思ってるのは俺だけじゃねぇみたいだな…。」
ざわざわ……ざわざわ……
ライブ会場にはすでに、多くのモンスター達が集まっていた。今まで音沙汰なかったヴェッチが急にライブを開くというからだろうか、会場はざわつく声で埋め尽くされていた。
???「おーい!!」
ファンの男「おっ?その声は…。」
スノー「お久しぶりです!やっぱりあなたも、ヴェッチさんのライブに?」
ファンの男「おう、久しぶりだな!イエイエティも元気そうで何よりだ!」
イエイエティ「イェイイェーイ!!」グッ!!
そこにいたのはスノーとイエイエティ。イエイエティはいつも通りご機嫌だが、スノーはそうも行かないようで…。
スノー「あのチラシ、見ましたよ。ヴェッチさん…何かあったんでしょうか…?」
ファンの男「さぁな、俺にもわからん。あいつらはいつもゲリラライブを開くのがスタンスだったはずで、ファンは次の開催地を予測して来るんだが…こうやって開催地を予告するのは初めてだ。そう考えるのが妥当だろう。」
セイレン「そうよね。あいつ、何か隠してるみたいだし、どういうわけかあたしと同じ匂いを感じたのよね…。誰かに執着しているというかなんというか…。」バシャッ
2人が話していると、側の海からセイレンが現れて話に加わる。
スノー「げっ!?君はクジェスカのところにいた…!?」
セイレン「あっ、誰かと思えば、昔バローロについてクジェスカ様のところに聞きに来た芋臭いの!」
ファンの男「ん?お前ら、知り合いなのか?」
スノー「えぇ、まぁ……。しかし驚いたなぁ。君もヴェッチさんのファンだったなんて…。」
セイレン「あら悪い?あいつには、ちょっとした借りがあるからね。こうして魔海が面してる時は聴きに来てやってるのよ。」
スノー「そうなんですか…。」
ファンの男「おう!人魚の嬢ちゃんも、結構ひねくれてはいるが、ヴェッチのファンに悪い奴はいねぇし、ヴェッチのことに気に入ってることには嘘はねぇはずだ!」
セイレン「一言余計よ…?(怒)」
そうしてしばらく話していると、会場のライトが消え、ライブ開始の準備が整う。
ファンの男「おっ、始まるみたいだ!」
パッ!
スポットライトがステージを照らすと、1人の男がマイクを持ってステージに上がって来る。衣装は少し違うが、間違いなくヴェッチだ。
ヴェッチ「…みんな、今日はおれのライブに来てくれてありがとう。改めて自己紹介させてくれ。おれはアーティスト・ヴェッチ!あれから歌を磨き続けて、こうして一人前のアーティストになれた!でも、みんなには心配かけて申し訳ないと思ってる。だからまずは謝罪させてほしい。心配をかけて、すまなかった。」
ファンA「ねぇ、そういえばチューンと02は…?」
ファンB「そういえば見かけないな…どうしたんだろう…?」
ざわざわ……
観客達はすぐに異変に気づいた。バンドメンバーであるチューンと02拍子型がいないのだ。それについて観客席がどよめく。
ヴェッチ「あの2人は…吹雪の雪原を歩いている時に逸れてしまって、今はいない…。おれも探しているんだが…どこを探してもいなかった……。」
ファンA「そんな…大丈夫かな……?」
ファンB「無事だといいけれど……。」
セイレン「……(あの顔…嘘ついてる顔ね。何かあったのには違いないみたい)。」
ヴェッチ「でも安心してほしい!おれはあの2人にも声が届くように歌を響かせる!だから、生まれ変わったおれのライブに付き合ってほしい!!頼めるか?」
観客達「「「「「うぉーーッ!!!!」」」」」
観客席が熱狂に包まれる。
ヴェッチ「なら聴いてくれ…おれの声を…おれの唱を!!」
すぅ…
[ヴェッチのテーマ]
〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪
その歌声は、間違いなく以前より透き通っており、さらに心を温かくする最高の歌声だった。
ファンA「うぉぉぉぉー!!いいぞー!ヴェッチーー!!」
大勢のファンも熱狂しているが…。
ファンの男「……なぁ。お前らは気づいてるか?」
スノー「…ええ、ヴェッチさん、どこか無理してるような……。」
セイレン「やっぱりアイツ、何か隠してる。楽しそうじゃないというか……。」
ファンの男「だよな。いつもとは何かが違う。ヴェッチの表情、少し暗いんだ。何があった…?」
一部の熱心なファンは、ヴェッチの様子がいつもと違うことにすぐに気づいた。そのままライブはフィナーレに近づく。
ヴェッチ(もうすぐでフィナーレだ。この歌声なら…おれは本物に……。)
その時だった。
???「ソノフィナーレ、チョットマッター!!!」ガシャンガシャン!
突如、観客席の背後から機械音声のような声が響き渡る。
ヴェッチ「その声…まさか…!!」
ヴェッチが観客席の後ろに目をやると……そこには自分も見覚えのあるベースを担いだロボがいた。その姿を見たヴェッチは感涙を流して叫ぶ。
ヴェッチ「02!!…いや待て。なんだ、その姿は…?」
よく見ると、手足が長くなっており、腹部の星も2つから3つに増えている。
02拍子型っぽいロボ「ヨクキイテクレマシタ!イマノボクハ 、ボット03弦楽型!!ヴェッチ、アナタヲサガシテイルウチニ、ボクモクラスチェンジデキタノデス!」
ヴェッチ「弦楽型…。そうだ!チューンは?チューンは一緒じゃないのか!?」
03弦楽型「………チューンハ、コレカラハミードニツイテイクト…。」
ヴェッチ「……そうか。」
ざわざわ……
ファンA「えっ……?どういうこと?ミードって…あのミード?」
ファンC「ミードに勝負を挑んだのか…?でもなんでチューンが……?」
チューンのファンは、あまりにも突然の告白に困惑を隠せなかった。
03弦楽型「ミナサン、チューンニモワケアルンデス…。ドウカ、カノジョノコトヲワルクオモワナイテクダサイ…。」
ヴェッチ「……わかった。それがチューンが選んだ道って言うなら…。」
03弦楽型「アッ…ミナサンスミマセン…。ソレジャアココカラハ…ボクモチューンノブンマデ、エンソウサセテモラウゼ!!」ベーン!
ヴェッチ「あぁ。……じゃあアンコール、行くぜ!!」
観客達「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
すぅ……
〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪
ヴェッチは03弦楽型の演奏と共に歌唱を再開する。
先程までと歌声は変わらない。しかし、03が来てから明らかに変わったことがある。それは……。
スノー「ヴェッチさん、笑ってますね…。安心したみたいに。」
セイレン「えぇ。ひとまず、いつものアイツを見れただけよしとしましょうか。」
ファンの男「いつものヴェッチが戻ってきた!!いいぞーヴェッチー!!」
イエイエティ「ぱふぉぱふぉー!!」
ライブ後、裏方にて…
ヴェッチ「ふぅ…。びっくりしたよ。まさかおれを探してくれてたなんて…。」
03弦楽型「ボクモビックリシマシタ!マサカココマデ リッパニクラスチェンジシテルナンテ…。」
ヴェッチと03はライブ後に互いの話に花を咲かせていた。
03弦楽型「…ソレデソノ……コレカラドウスルツモリデ…?」
ヴェッチ「…もう一度ミードに挑む。そして…ミードを倒して、おれが本物になるんだ。」
03弦楽型「…ヴェッチ、ソレハ……。」
セイレン「ねぇ、いまの話どう言うこと…?」
ヴェッチ、03「「!?」」
話をしていると、突如セイレンが裏方に入って来る。そして同時にそれを止めようとしたスノーとファンの男もセイレンに押されて入って来る。
スノー「ちょっ…ここ裏方ですよ!?何勝手に……!?」
ファンの男「すまん!俺たちは止めたんだが…!」
イエイエティ「ぱふぉ〜…。」イエイエティは止めようと奮闘したのか、ぐったりしている。
ヴェッチ「いやいいんだ…。それで…もしかしていまの話、聞いてた?」
スノー「あはは……はい…すみません。」
03弦楽型「ヴェッチ…ハナシタラドウデスカ?ココマデキカレタラ、モウゼンブキクマデ ウゴキソウニナイデスヨ?」
ヴェッチ「うーん…そうだな。この部屋には鏡は敢えて置かないようにしてるし、この際だ、全部話すよ。」
そしてヴェッチは仕方なく、裏方に入ってきたファン達に事情を話した。
スノー「ヴェッチさんが…ミードの偽物…?」
ファンの男「うーん…確かにそう考えれば、例の噂も納得はできるな…。」
セイレン「成程…あたしと同じ感じはこれかぁ…。」
ヴェッチ「あぁ。だから、おれは"本物"にならなきゃいけない。そのためにも…ミードを倒さなきゃ……。」
03弦楽型「……ヴェッチ。ヴェッチニトッテ、"ホンモノ"トハ ナンデスカ?」
ヴェッチ「えっ…?」
スノー「…話聞いてて思ったけど、ヴェッチさんにとって"本物になる"っていうことは、"自分がミードに成り変わる"ってことなんですか?」
ヴェッチ「それは……。」
セイレン「あたしは少なくとも、"あんたの歌声"を聴いたからこうしてここにいられてるの。あいつの…ミードの歌声は確かに凄かったけど…あんたの歌声は優しくて…暖かかったのよ。多分あいつには…あんたみたいな歌声は出せないと思う。」
ファンの男「なぁ、俺はあくまでお前の歌声だから…お前が思うがままに歌ってる姿がカッコよく映ったからファンになったんだ。仮にミードを倒して成り変わったとしたら…俺はファンでいれる自信がない…。なぁ、そんなに"本物"になることが重要か…?」
ヴェッチ「……そうでもしないと、おれは奴の"偽物"のままだ…。おれは"本物"になって…"偽物の人生"を終わらせなきゃ…自分を保てない…。」
03弦楽型「…ボクニハ、ムズカシイコトハワカリマセンガ…"ヴェッチハヴェッチ"。ボクハ、ソレデイイトカンガエテイマス。」
ヴェッチ「?……どういうことだ?」
03弦楽型「ダッテ、ヴェッチハソノ"ウタゴエ"デ、ソノ"テアシ"デ、ソノ"ココロ"デココマデキタノデショウ?デシタラ、ソレハホカデモナイ、"ヴェッチジシンノジンセイ"デス。ケッシテ、ミードノジンセイデハアリマセン。スクナクトモ、ヴェッチノウタニタイスル"ジョウネツ"ハ…マギレモナイ"ホンモノ"ダトシンジテイマス。」
ヴェッチ「03……。」
セイレン「…そうね。誰かに執着したままだと、自分を見失って、どうすればいいのかわからなくなるものね。このあたしがそうだったんだから。誰かは誰か、自分は自分でいいのよ、そんなこと。」
ヴェッチ「自分は…自分……。」
03弦楽型「ハイ!ヴェッチハ、ヴェッチノママデイインデス!ダレカニナロウトスル ヒツヨウナンテ ナインデス!ダカラマタボクト…バンドヤロウゼ!!」
ヴェッチ「……う…うぅ…!…ありがとう…!」
ヴェッチはこれまで、本物になろうとすることに囚われていた。しかし、03達に言われてようやく気づいた。自分は自分、誰かになろうとする必要なんてない。それに気づいたヴェッチは、涙を流した。心の底から流れる、本物の涙を。
ヴェッチ「…あぁ、思い出した。おれは…思うがままに唱って、世界を熱狂させたかったんだ!!」
ヴェッチは涙ぐんだ声で、自分のルーツを口にする。今ならわかる。自分が何のために歌うのか。
03弦楽型「オカエリナサイ、ヴェッチ!」
ヴェッチ「ふっ…あぁ、ただいま!!」グッ!!
ヴェッチと03は互いにグータッチを交わす。まだ不完全ではあるが、バンド復活である!
スノー「何はともあれ、丸く治ったのかな?」
ファンの男「あぁ…俺たちのよく知るヴェッチの、完全復活だ!!」
イエイエティ「イェイイェーイ!!」パチパチ!!
ヴェッチ「…ありがとう。みんなのおかげで、自分を取り戻せた…。おれが悩んでたのって…こんな簡単なことだったんだな…。」
セイレン「それで、この後どうするつもり?またミードに挑む気?」
ヴェッチ「あぁ。でも、このまま戦えばミードに勝てるだろうけど…それじゃあダメなんだ。多分、また同じことの繰り返しになる。またおれがミードになって…堂々巡りだ。…どうにかして、この無限ループを終わらせる必要がある…!」
スノー「じゃあ、どうするんだい?何か考えはあるの?」
ヴェッチ「……一つだけ、考えがある。そのためにも、みんなの力を借りたい。頼めるかな?」
ファンの男「へっ!任せておきな!俺たちにでもできることがあるなら、何だってやるぜ!」
スノー「僕だって、これでも昔はバローロを再封印したんだ!力になるよ!」
セイレン「はぁ…まっ断れる雰囲気でもないし、あんたのこと助けてあげる。これで貸し借りなしよ。」
03弦楽型「ミナサン…ヴェッチ、サイコーノファンニ メグマレマシタネ!」
ヴェッチ「あぁ、そうだな!よし、そうと決まれば早速作戦開始だ!!」
数日後、鏡の城にて……
チューン「ねぇ、ミード!これ…!!」
ミード「あ?どうした、そんなに慌てて。」
チューン「いいから!ほら、このチラシ!!」
ミードはチューンに言われるままに、チラシに目を通す。そのチラシには、こう書かれていた。
『ヴェッチ・ファイナルライブ!!Return of Spring』
『開催地:鏡の城前の広場にて』
チューン「しかもこれ…次のあんたのライブと開催日も開催地も同じ…!これって…!」
ミード「……宣戦布告のつもりか。いいだろう…!望み通り受けてやろうじゃねぇか…。最後のライブバトルだ!!」
チラシを見たミードは闘志を燃やす。ミードは1人のミュージシャンとして、ヴェッチの挑戦を飲むのであった。