全ては春を取り戻すため。そして…この永遠とも言える氷劇を終わらせるために。
バァン!!
ヴェッチ「…来たぞ……ミード…!」
ヴェッチは力強く鏡の城の門を蹴り開ける。広間の奥には、黒い姿のミードと、かつてのバンドメンバーのチューンがいた。
ミード「ヴェッチ……。その顔、どうやら全てを知ったらしいな?それで?お前の声を俺に返しに来た…というワケじゃあねぇよな?」
ヴェッチ「あぁ。おれはお前を倒して、春を取り戻す!そして…この終わらない氷劇を終わらせる!!そのためにここに来たんだ!!」
チューン「何よそれ…。あんたは結局はミードの偽物!!あんたの声をミードに返せば、全部終わる話じゃないの!?」
03弦楽型「チューン…。ボクハ、ヴェッチガニセモノナンテ、コレッポッチモオモッテマセン!!ヴェッチノ"ジョウネツ"ハ…"オモイ"ハ マチガイナク"ホンモノ"デシタ!!ヴェッチハヴェッチ、ソレジャダメナンデスカ!?」
チューン「そ…それは……。」
ミード「もういい。ヴェッチ、今のお前は、"自分は自分だ"なんて思ってんのか?」
ヴェッチ「あぁ…。03やファンのおかげで気づけたよ。おれは他の誰でもない。おれはおれ、この世でたった1人のアーティスト・ヴェッチだ!!」
ミード「そうか。自分は自分、皆そう思っているだろう。ハッ!だがなぁ、そんなもんは俺からしたらチープな思い込みだ。それを今、ここで思い知らせてやるよ……。この俺、凍てつく魔唱、邪帝ミードがなぁ!!」
ヴェッチ「03!リズムを頼む!!」
03弦楽型「マカセテクダサイ!サイコーノビート、キザムゼ!」ベ〜ン♪
03がベースの演奏を始める。機械的に正確に。そしてそのビートにノリながら、ヴェッチも動き出す。
ヴェッチ「サンキュー!さぁ…行くぞ!」ダッ!
ヴェッチはマイクを軸に、回し蹴りをミードにかまそうとする。だが…。
ギュイーン!!
ヴェッチ「ぐっ…チューン…どいてくれ…!きみとは戦いたくない…!」ギギギギ…
チューンのギターが、ヴェッチの蹴りを受け止める。
チューン「ホントごめん…。あたし、どうしてもあんたの事を認められそうにない…。もしこのまま声をミードに返さないってんなら…!」
キィン!
チューン「あたしは、あんたを全力で倒す!!」ギューン!!
チューンがギターを掻き鳴らすと、音と共に電磁波が放たれる。
ヴェッチ「がっ…!?身体が…痺れて…!」ビリリ…
チューン「もらった!」シャキーン!
チューンは爪を立てて、痺れて無防備なヴェッチを切り裂こうとする。
ガン!!
03弦楽型「ヴェッチニハ…テダシサセマセン!」キィン!
チューンの爪は、03の鋼鉄の腕に阻まれ、攻撃は失敗に終わる。
チューン「あんた…本気でそっちの味方なんだね…。仕方ない…あんたとは本当はやりたくないけど、邪魔するってんなら!!」
03弦楽型「チューン…。ゴメンナサイ…。ケド、ヴェッチヲ ホウッテオクワケニハ イキマセンノデ!!」
ヴェッチ「03……すまない、チューンは任せた!おれはミードをやる!」ダッ!
03弦楽型「オキヲツケテ!!」
かつてのバンドメンバー達が睨み合う中、ヴェッチはミードに立ち向かう。
ミード「ハッ、俺に向かってくるか。いいだろう。どっちが本物か…ケリをつけようじゃねぇか!!」ピキーン!
ヴェッチ「ポップ・ノイズ!!」
ミード「冰琴!!」
ガキィーン!!
氷を纏わせたマイク同士が、鈍い音を鳴らしながらぶつかり合う。
ミード「なぁヴェッチ…俺を倒したらどうなるかはわかってんだろ?ならなんで立ち向かう?」
ヴェッチ「さっきも言っただろ…!おれはこの大陸を…世界を熱狂させて春を取り戻す!そして、この永遠に終わらない氷劇を終わらせる!!そのためにここまで来たんだ…!お前に成り代わるためじゃない!!」
キィーン!!
ミード「……無駄だ。その熱狂もやがて冷め、世界を凍らせるようになる。この俺がそうだったんだからな!お前も、かつての俺と同じ末路を辿ることになるぞ?」キンキンキンキン!!
ヴェッチ「どうだろうな?昔のおれがどうだったかはわからないが、今のおれには支えてくれる仲間がいる!おれのことを応援してくれているファンがいる!おれはみんなのおかげで進むべき道を定められたんだ…!03やファンのためにも、そして…運命に囚われているお前のためにも…!おれは運命を変えてみせる!!」キンキンキンキン!!
キィーン!!
2人は激しいぶつかり合いの末に後退りする。
ミード「……俺のためにも…だ?同じ運命に囚われたお前に何ができる!?どうやってこのループを終わらせる!?」
ヴェッチ「わからない…!けど必ず方法はある!!必ず見つけてやる!」
ミード「……もういい。このまま話してても埒が明かねぇ。これで終わらせてやるよ…!!」すぅ……
ヴェッチ「あの構え…ならこっちも!!」すぅ……
二人は深く息を吸い込み、歌う準備を整える。そして……
ミード「
ヴェッチ「ヴェッチ・ガラ!!」
〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪
〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪
EX技として放たれた両者の歌声がぶつかり合う。その勢いは拮抗しており、ちょうど中心でミードの歌声で発生した氷を、ヴェッチの歌声が溶かしていく。
ヴェッチ「〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪ (前より歌声の勢いが…!?でも…)」
ミード「〜〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪(前よりも歌のキレが増してやがるな…。だがなぁ…)」
2人((ここで終わるわけには、いかない!!/いかねぇんだよ!!))
決意と共に歌声に強みが増す。そしてそれと同時に異変が起こる。
バリン!バリン!!
鏡の城の鏡が音の反響で割れ始める。それも一枚や二枚ではなく、広間の鏡が全て割れかねない勢いで割れ始める。
バキン!!
そして、広間の天井に吊られていた、巨大なシャンデリアも落ちてくる。位置は……歌っている2人のちょうど真上。
03弦楽型「イケマセン!!」
チューン「危ない!!」
ドン!!
ヴェッチ「えっ……?」
ミード「なっ……!?」
ガシャァァァァァァン!!
2人は一瞬理解が追いつかなかった。歌っている最中にヴェッチは03に、ミードはチューンに突き飛ばされたかと思えば、次の瞬間には二人の頭上にシャンデリアが落ちてきたのだ。
ヴェッチ「ぜ……03!!チューン!!」ダッ!
ミード「あ…あぁ………。」
ヴェッチは急いで2人の救出に向かうが、ミードは唯その場に立ち尽くしていた。自分の歌は他者の命さえ奪うのかと、心の中で絶望していたのだ。
ヴェッチ「2人とも!大丈夫か!?すぐに助けてやるから!!」ガシャシャン…
ヴェッチの目に映った光景は凄惨たるものだった。チューンには無数のガラス片が突き刺さっており血まみれに、03には巨大な破片が装甲をぶち破り胴体を貫通している。ミードの目から見ても、2人はとても助かるような状況じゃなかったのは、目に見えていた。
チューン「あ……あんた……03はともかく…なんで、あたしの……ことも…?あんたのこと…裏切ったん…だよ?あんな酷いこと言ったんだよ……?…憎いはずなのに…なんで……。」
ヴェッチ「当たり前だろ!?裏切ったって、チューンはチューンじゃないか!!おれ達はかけがえのない…仲間だったじゃないか!!放っとけるわけないだろ!!」
チューン「は……はは……変わってないんだね…。こんなんじゃ…あんたのこと見捨てたあたしが…馬鹿みたいじゃん……。」
チューンは後悔から思わず涙を流す。
03弦楽型「ガ…ガガ……ヴェッチ……。」
ヴェッチ「03!!今すぐ助けてやるからな!だから……!!」
03弦楽型「ヴェッチ……モウ…イイデス…ボクハ…モウタスカリ……マセン……。」
ヴェッチ「な……何言ってるんだ!?諦めるな!!おれには、お前が必要なんだ!!お前がいたからおれは立ち直れたんだ!!だから…!!」
03弦楽型「ヴェッチ……ボクハ…タダセナカヲ…オシタダケデス……。コウヤッテタチアガッタノハ…ヴェッチジシンデス……。アトハ…ヴェッチシダイ…ナンデス……。ヴェッチハ…ボクガイナクテモ…ダイジョウブナ…ハズデス……。」
ヴェッチ「でも……!!」
チューン「ねぇ…ヴェッチ……あんたは……あんたの夢を追って…いいんだ……。ミードにも……そう…伝えてやって。」
ヴェッチ「そんな……。」
チューン「あぁ……もう、指も動かせない……まぁ、いいや…。あたしの音は…あんたの中に…残る……もんね…………」ガシャン……
ヴェッチ「チューン…?チューン!!」
必死に名前を呼ぶが、目を閉じた彼女からは返事が返ってこない。
03弦楽型「ガ……ガガ………ボクモ…モウゲンカイ……ミタイデス……。ヴェッチ。ジブンノミチヲ……ヴェッチダケノジンセイヲ……コレカラモ…イキテ…ク…ダ…サ…………」ギュゥゥン……
ヴェッチ「03…!?なぁ……返事をしてくれ!!03!!」
しかし、ひどく損傷した03からも、返事はない。
ヴェッチ「あぁ……あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁッ!!!!」
間も無く、ヴェッチの慟哭が響いた。バンドメンバーを…共に歩んできた仲間を喪った哀しみは、筆舌しがたいものがあった。
しばらく泣きじゃくり、落ち着きを取り戻したヴェッチは口を開く。
ヴェッチ「……なぁ、ミード。おれ達は……本当に戦うしかないのか…?おれ達が戦ったとして…本当に…この運命は終わらせられる…のか?」
ミード「……あぁ。この世界に残れるのは、俺かお前だけ。…それしかねぇ……。」
ヴェッチ「なぁ、やっぱりお前も、悲しいのか?誰かを熱狂させるはずの歌で…その…仲間を…斃してしまったことは……。」
ミード「何故そう思う?」
ヴェッチ「二人が死んだ時、おれを倒すチャンスはいくらでもあった。でもお前は何も言わず、見ているだけだった。おれは見逃さなかった。その手が、震えてるのが見えたんだ。」
ミード「はぁ……嫌になるな。こうも言い当てられるのは。お前が俺だってことを実感させられる。俺は邪帝である前に、一人のミュージシャンなんだ。だから……もうウンザリなんだ。誰かを熱狂させるはずの歌で……誰かを傷つけることは……。」
ヴェッチ「…やっぱり…お前はおれなんだな……。おれも、同じことを考えてるよ……。」
チューンと03の死に、2人が消沈・茫然とする。両者とも戦意など、微塵も残っていなかった。
バァン!!
2人「「……?」」
その時、門が再び開けられる。そこにいたのは、オータコンに乗ったセイレンと、オータコンの触手に締め上げられたトゥルースだった。
セイレン「この惨状……一体何があったの…?…あっ、そんなことより!もしかしたら、このループ終わらせられるかもしれない!!」
2人「「……その話、本当か!?」」
それを聞いた2人は食い気味に締め上げられたトゥルースに詰め寄る。
トゥルース「う…うん!トゥル、嘘はつかないからね!」
ヴェッチ「それは……どんな方法だ?」
トゥルース「それはね…2人の心を完全にシンクロさせること!方法はなんでもいいけど、2人が力を合わせて、思いとか諸々を完璧に一致させることができれば、ループを完全に断つことができると思う!バグってオートで発動してるトゥルの魔法を解けると思う!……多分!」
ミード「多分って……確証はねぇのかよ…。」
トゥルース「うん。だってこんなこと初めてだし…。それで、どうするの?本当に…ループを終わらせる?」
トゥルースの問いかけに対し、2人は顔を合わせる。
ミード「まさかとは思うが……同じこと考えたか?」
ヴェッチ「あぁ。その様子だと、お前もみたいだな。」
セイレン「えっ?なんの話?」
ミード「……実はな、俺たちが歌ってる曲だが…あれはまだ未完成だ。」
セイレン「み…未完成!?そのこと、ヴェッチも知ってたの?」
ヴェッチ「いや…。でも、なんとなくわかるんだ。おれの歌は、一人じゃ完成できないって。多分…この時のための、あの曲だったんだって。」
そう。彼らがライブやEX技で歌う曲はとても似ている。これらを組み合わせて一つの曲にしても、違和感が全くないほどに。
ミード「……ライブが始まるまで、少し時間をくれ。そこで全部終わらせる。」
ヴェッチ「おれからも頼む。最後の準備をさせてほしい。……いいかな?」
セイレン「……わかった。いくわよ、オータコン。」
こうして、最後のライブの準備が進められる。
呪われた運命を断ち切るための、最後のライブが始まろうとしていた。