これで後はモートを倒せば、タナトから冥途への行き方を聞き出せる。
一旦宿屋でエルメ達は体を休め、夜を明かすのだった。
朝、宿屋にて…
エルメ「ふぁぁ……こんな綺麗なベッドで寝たのはいつぶりかねぇ?」
ガチャ
クリフ「おはよう、よく寝れたかい?」
エルメ「おう、おかげさまでな。んじゃ、モートに備えるとすっか。」
宿屋のロビー…
エルメ「確か、モートは洗脳が得意って話だったな。洗脳っつっても色々あると思うが…どんなのだ?」
ユーグ「簡潔に言えば、精神攻撃の類ですね。相手の思考に干渉、破壊し、自分の思うがままに操る。一旦奴の術中に落ちてしまえば、脱出は難しいと考えて良いでしょう。」
クリフ「脱出できたとしても、場合によっては廃人状態になる恐れもある…。気をしっかり保つんだ。いいね?」
エルメ「……だな。オレのEXは即死は防げても、精神攻撃にはどうもできる気がしねぇ。そん時は頼んだ。」
そうして作戦会議をしていると、外が騒がしいことに気づく。
エルメ「……なんか外が騒がしくねぇか?」
クリフ「嫌な予感がする……。外に出よう!」
街……
エルメ「なんだこりゃ…。」
街はまるで夜のように暗くなっており、地面には霧のようなものが立ち込めていた。
エルメ「なぁ、一応聞くが今の時間は?」
ユーグ「宿屋の時計に間違いがなければ、午前の8時ごろだったかと。にしても暗すぎますね…。」
エルメ「だよな?オレも朝起きて窓を見たが、確かに明るかったしお天道様も出てた。……何かおかしいよな?」
クリフ「街の皆さんは家の中へ!決して外には出ないように!!」
民間人はパニックになりながら、家の中へと避難していく。そして街にエルメ達3人しかいなくなった頃、不気味な笑い声が静寂を終わらせる。
???『ヒヒヒヒヒ…!やはり生者の悲鳴は心地よい……!!我の力もみなぎってくるわ…!!』
ズォォォッ……!
声が聞こえてくると、地面に突如、真っ暗な闇の渦が発生する。
ユーグ「この声…奴です!来ますっ!!」
ガシッ…ガシッ…
渦からは枯れ木のような腕が顕になり、そこから這い上がるように禍々しい巨体が姿を現す。死神王モートのお出ましである。
モート「ヒヒヒヒヒ…!」
エルメ「コイツは驚いたな。死神というよりは、まるで御伽話にでも出てくる悪の魔法使いみてぇだ。醜悪すぎて清々しいくらいだ。」
クリフ「やはりお前の仕業だったか…死神王モート!街を闇で包むのはやめてもらおうか!!」
モート「お前らか…グリムを葬ったという生者どもは!お前らも、闇のエキスで闇に染めてやろう!!ヒャ────ッハッハッハ!!」
ユーグ「…見てわかるとは思いますが、ヤツは既に人格を失っています。話し合いは通用しません。早急にご退場願いましょう!」
エルメ「みてぇだな。ちゃっちゃと片付けてやるか!!」
モート「闇をたっぷり味わうがいい!!ダァーク!!」ドシュン!
ユーグ「フンッ!」ガキィン!!
モートが放った闇魔法を、ユーグは難なく盾で防ぐ。
エルメ「あいつ…あそこから動く気配がねぇ。落とし穴に嵌めるのは無理そうだな。ならシンプルにぶった斬るか…。」
ユーグ「エルメさん、今回は私たちにお任せを!私とクリフなら、奴に有効打を叩き込めるので!」
エルメ「あ?有効打?」
クリフ「はい。奴は何よりも闇を好む。であれば……リヒト!!」バシュン!!
ドガァン!
モート「ウゲェッ!?」
ユーグ「大いなる光の御心よ、ここに示さん…エクソシスムソード!!」
ズバァァ!!
モート「ギャァッ!?……忌々しい光めぇ……!!」
聖属性魔法や聖なる光を宿した剣がモートを退けていく。あまりの優勢にエルメは驚きを隠せなかった。
エルメ「き…効いてやがる……。」
ユーグ「奴は聖なる光に対して極端に耐性が低くなってます。このまま押し切らせていただきます!!」
モート「ぬぅぅ…忌まわしい奴等め……!このままではマズイ…!!その心、支配してくれる!!マインド・クラッシュ!!」ドシュゥゥ!
モートの口から黒い靄のようなものが吐き出される。その矛先は……
クリフ「なっ…!?しまっ……」
エルメ「危ねぇ!!」ドンッ!!
靄がクリフを包もうとした瞬間、エルメがクリフを突き飛ばし、彼を庇う。
クリフ「うわっ!?エルメさん!!」
エルメ「ちぃっ!この…邪魔だ!!」
黒い靄がどんどんエルメを包み込んでいく。そして……
ドクン!
エルメ「うっ…!?」ガクン…
ユーグ「エルメさん!?」
???…
エルメ『うっ…ここは……?」
エルメは気がつくと、あたり一面真っ白な空間に囚われていた。
モートの幻影『『『ヒッヒッヒッヒッ……!』』』
そして空中に幾つものモートの顔が浮かび上がり、エルメの精神を追い詰めようとする。
エルメ『…ハッ。なんだそりゃ?これならお化け屋敷の方が数倍怖いってもんだ。こっちは墓守だぜ?こんなくらいじゃなんともねぇよ。』
しかし、エルメは鼻で笑い飛ばす。即死すら弾くことのできる彼の精神力は伊達ではなかった。
エルメ『身構えて損したぜ。こんなんなら何とかなりそうだな。フラメ、お前は無事か?』
………
エルメ『フラメ……?』
何かがおかしい。いつもならランタンの中から聞こえてくるはずの炎の音が聞こえてこない。
……嫌な予感がする。エルメは恐る恐るランタンの中の火の玉を覗き込む。
エルメ『フラメ…?大丈……』
ヒャ────ッハッハッハ!!
エルメ『うわぁぁぁぁぁぁああッ!?!?』ガシャン… !
信じられないことに、フラメにはモートの顔が付いており、嘲笑うように醜悪な笑い声を放つ。フラメを唯一の心の拠り所としているエルメには相当応えたようで、思わずランタンを手放してしまう。
エルメ『う……嘘だ……。フラメ……!フラメェェェェェッ!!!』
ヒャ────ッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!
エルメの悲痛な悲鳴とモートの笑い声が響き、いつの間にか真っ白な空間は黒一面に染まっていた。
一方、現実では……
エルメ「………。」
マインド・クラッシュを受けたエルメは、まるで抜け殻のように立ったまま、その場を動かない。
ユーグ「だ……大丈夫ですか?エルメさ……」
クリフ「ユーグ!ダメだ!!迂闊に近づくな!!」
エルメ「………!」ブォン!!
ユーグ「うわっ!?」ガキィン!!
エルメは無言のまま、まるで操り人形のような動きで墓守刃をユーグに向けて振りかぶる。
クリフ「ユーグ!!」
ユーグ「大丈夫!それより彼は……!」
モート「ヒッヒッヒッ……!その者の魂は最早我のもの…!さぁ、邪魔者の魂を刈り取るのだ!!」
エルメ「……!」ダッ!
ユーグ「ぐっ…!」キィン!!
クリフ「ユーグ!!おのれモート!!なんと卑怯な!!」
モート「ヒッヒッヒッ……!!」
ユーグ「わ…私は大丈夫です!!クリフはモートを!!」
クリフ「ユーグ…!わかった!!」ダッ!!
ユーグはモートの対処をクリフに任せ、操られたエルメの攻撃を防ぎ続ける。
エルメ「………!!」キィンキィンキィンキィン!!
ユーグ「ぐっ……正気に戻ってください!エルメさん!!」
ユーグが盾でエルメの猛攻を防ぎ続ける中、2人以外に奮闘している者がいた。
ボォォォォ…! カシャンカシャン!
そう、エルメの相棒のフラメだ。フラメはエルメを正気に戻そうと、ランタンの中で体当たりを続ける。すると……
ボォォォォォ…! ガシャン!!
不意にエルメの手からランタンが離れ、地面に激突した弾みでランタンの蓋が開く。ランタンから自由になったフラメは、エルメに突撃していく。そして……
ボォォォォォ!!
エルメ「………!?」
ユーグ「こ……この炎は…エルメさんの持っていたカンテラの…!」
モート「ぬぅ……?」
フラメの炎がエルメの身体を包み込む。しかしその炎は、優しく燃えていた。
精神世界……
ヒッヒッヒッ……!
エルメ『フラメ……。』
モートの笑い声が響く真っ暗な精神世界では、精神をズタボロにされたエルメが蹲っていた。しかし、異変が起こる。
ボォォォォ……
エルメ『……?この炎……もしかして、フラメか?』
精神世界の闇の中に、静かに燃える小さな炎を見つける。その紫色の炎は、エルメにとっては、とても安心できるものだった。
エルメ『そっちに行けばいいんだな…?』ザッ……
エルメは立ち上がり、炎の方へと歩いていく。モートの笑い声は響き続けるが、それに耐えながら、少しずつ炎へ近づいていく。
エルメ『心配させて悪かった…フラメ…!今、そっちに行くからな!』
一歩ずつ歩みを進めたエルメは、ついに炎の元に辿り着く。
エルメ『あぁ…… 暖かい……。』
現実世界……
ボォォォォォ…
モート「何だ…?何が起こっている…?」
フラメの炎でエルメの身体が炎上する。そしてそれと同時に…少しずつ大きくなっていく。炎も、エルメの身体も。
ユーグ「これは…まさか!?」
ボォォォォ!!
炎が消えると、そこには一回り成長したエルメの姿があった。
エルメ「心配させて悪かったな。聖職者さんたち。そして…フラメ、ありがとな。」
クリフ「エルメさん…その姿は……。」
エルメ「フッ…墓守エルメ改め、夜の騎士エルメ!さて…仕事再開だ!!」
ボォォォォ!!
モート「バカな…!?クラスチェンジだと!?あの火の玉の影響か!?」
エルメ「さて…さっきはよくもやってくれたな…?この借り、倍にして返してやるよ!フラメ!」
ボォォォォォ!!ピューン!
フラメは激しく燃えながら、モートに向かって突撃していく。
モート「ぐっ…!マインド……」
ボォォォォォ!!
モート「ギャァァァァァァァァ!?あ…熱い…!!なんだ…この炎は…!?」
モートがマインド・クラッシュを発動するより前にフラメがモートに着弾する。モートの身体をフラメの紫色の炎が包み込み、モートを苦しめる。
エルメ「フラメ、思う存分しかえしてやりな!さて、聖職者さんたち、今ならやれんじゃねぇか?」
ユーグ「はっ…!はい!!クリフ!」チャキ…
クリフ「了解!!」スッ…
2人はそれぞれ武器を構え、詠唱を始める。
ユーグ「聖なる剣よ、応えよ!大いなる恩恵となって、あまねく大地を今照らさん!神聖なる祭儀のもとに、我が剣に光を灯し賜え!!」ビカァァァ……!
ユーグが超EX技を発動させると、ユーグの持つ剣に強い光が宿る。
ユーグ「さぁ…悪しき者よ。これで終わりです!」
モート「ぐ…ぐぅぅぅ…は…早く…反撃を…!」
クリフ「聖櫃なる天上の意向をもって、全ての罪と虚空を、今…浄化せん!」パァァァァ!
反撃しようとしたモートに向けて、クリフもEXを発動させる。
エルメ「あ…?クリフのEXって回復だったはずじゃ……。」
モート「ギャァァァァァ!?や…やめろぉぉぉ!!」ジュゥゥゥゥ……
回復のEXを受けたモートは、さらに苦しむ。
クリフ「奴はアンデッド。回復魔法はむしろダメージとして機能する!今だ!ユーグ!!」
ユーグ「これで終わりです…!天上の輝きよ、正義の裁きを…ここに!サンクチュアリソード!!!」カッ…!
ドシュゥゥン!!
モート「ギャァァァァァァァァァァァァ!?!?!?」
ユーグは光の宿った剣を天に掲げると、光が剣から放たれ、巨大な光の柱となってモートに降り注ぐ。
シュゥゥゥ……
モート「あ……あぁ…………真の闇が見えてきたわ……。まぁ、それもよかろうて…」シュゥゥゥ………
聖なる力を受け続けたモートは、闇の力が抜けたことで、まるで溶けるように蒸発、ローブを残して完全に消滅した。
パァァァァ…!
そして、モートが斃れると同時に、街を覆っていた暗闇も晴れていき、街に太陽の明かりが取り戻された。
ユーグ「ふぅ……これで一件落着ですね。」
エルメ「やっぱり強いんだな、おめぇら。」
クリフ「そう言うエルメさんだって、この戦いでクラスチェンジしたじゃないですか!十分すごいと思うよ!」
エルメ「いや、オレが無事でいられたのは、フラメがオレを正気に戻そうと頑張ってくれたおかげだ。お前がいなけりゃ、今頃どうなってたか…。ありがとな、フラメ。」
ボォォォォォ… フラメは優しく燃えている。
パチパチパチパチ!
タナト「いやー凄かったね今回の戦いは!一回洗脳された時にはどうなるかと思ったけど、まさかクラスチェンジしちゃうとはねぇ!」
空から拍手と共にタナトが降りてくる。どうやら今回の戦いも見物していたらしい。
エルメ「てめぇか。これでてめぇに言われた死神どもは2体とも倒したぜ?契約、忘れてねぇだろうな?」
タナト「もちろん!契約通り、君たちを冥途へ案内するとしよう!ただし、冥途へ行ったらみーんなあんたらを狙ってくるから、準備は万全にした方がいいよー?」
エルメ「ハッ、はなからそのつもりだ。んじゃあ、墓地に戻るか。」
死神討伐を終えたエルメ達は、冥途へと向かうため、タナトの案内のもと、墓地へと戻ることにした。
墓地…
???「フッフッフッ……。あの邪魔な墓守がいない今が好機!さぁ、サンプルを集めるとしようか…!」
…しかし、エルメ達はまだ知らない。墓地に思わぬ闖入者が紛れ込んでいることを…。