後、曇らせタグ追加しました……はい、まぁ何となく不穏さは感じていただけたでしょうしそろそろ良いかなと
#7 先生とは(哲学)
「……へぇ、あの小鳥遊ホシノを手に入れる算段がついたんだ」
キヴォトスに「先生」が到着してから数日が経った頃。
いつもの会議室……ではなく、ゲマトリアが所有しているビルの屋上にて、アンテノーラは黒服からの説明を受け心底驚いていた。
「ええ。カイザーPMCと協力し、アビドスにある借金の返済を交渉材料に持ち掛けました。これまでも同じ手を使ってはいましたが……どうやら、後輩達を多く抱えることで追い込まれたようですね」
「悪辣だねぇ。まぁ、私はアビドスに思い入れはないし、君の活動を阻害する権利もないから何もする気は無いけどさぁ」
「にしては随分と苦々しい口調ですね。もしかして暁のホルスと関わりでも?」
「無いよ、別に。ただ、君の話を聞く限り責任感の強い子だったんだろうと思うとね。そんな子が
「貴女は『
「分かってる。でも……本当に、今するの?キヴォトスに先生がやって来て、どうなるかわからないって時に」
「おや、ご存知でしたか」
どうやら黒服も知っていたのか、少し嬉しそうな声色でアンテノーラからの問いに答える。
「当たり前でしょーが。これでも私、
「そうでしたね。といえども……その二人が、貴女の計画に全面的に乗っているかは怪しいと思っていたので、先生の情報もその警戒からまだ与えられていないと思いましたが」
「……見透かしてくれるね。確かに、簡単な人となりしか教えてもらってないけど」
アンテノーラの計画への完全なる賛同者は実は少ない……アンテノーラとしては伏せたかった情報だが、黒服にはすでに筒抜けだったようだ。
……もっとも、アンテノーラが知らないだけで、彼女の真意を知る者ほぼ全てが、『この人の計画に盲従する人はほぼいないだろうな……』と思われていたりするが……それはさておき。
「先生って不穏分子がいる今、下手に動くと連邦生徒会やシャーレに目をつけられかねない……それでもやるわけ?」
「そのつもりです。確かに危険性はありますが、同時にかの先生に接触できるチャンスでもありますから」
「ひゅ〜、度胸あるねぇ」
揶揄うように口笛を吹いてやるが、目の前の男は一切動じない。説得しても揺らがないあたり、このタイミングで何としても小鳥遊ホシノを手に入れたいのだろう。
そう思っていると、逆に黒服の方からアンテノーラへと疑問を投げかける。
「そう言えば、シャーレの先生について先ほど『人となりしか教えてもらっていない』と言っていましたが……では、人となりの方はどのように教えてもらったんでしょうか?良ければ、教えていただきたいのですが……」
「貸し1ね?」
「勿論、取引ですから」
「そうだねぇ……セイアの印象だと確か……」
そう言いつつアンテノーラは百合園セイアによるかの先生への評価を思い出す。聞いた時に思わず目を丸くしてしまったその評価は……
「『全面的な生徒の味方。良く言えば理想論者、悪く言えば甘すぎる』……だったね。私自身は外の世界に出たことがないのでわからないけど、キヴォトス外ってこんな人ばっかなの?」
……悲しいことに、キヴォトスの大人というのは大体どこか悪い部分がある、もしくは善人であってもどこか諦めがあったり擦れてしまっている部分がある。
いくらゲマトリアに所属しているとは言えども、あくまでもキヴォトス出身のアンテノーラにとって……前世の塊のような評価の大人には違和感しか覚えられないのである。
「ふむ。そこまでの善性というのはキヴォトス外でも珍しいですが……本人の気質なのか、それとも“先生”という与えられたテクストによってそうなったのかは知りたいところです」
「あー、先生と解釈されることで気質も変わりうる可能性があるのね……と言うか、仮にその気質がどう言う理屈で成り立つ物であっても、先生が生徒の味方である以上は私たちはほぼ間違いなく敵対するよね……少なくとも、アビドスでの君は」
「そうですね……ですが、話してみないことにはわからないので」
その黒服の言葉にアンテノーラは少し考える。確かに、本人の言葉を聞くと言うのは重要だ。
「黒服、さっきの貸し1を早速だが使わせてくれ」
「構いませんが……ああ、そう言うことですか」
どうやらこの言葉だけで黒服は察したようである。悟り妖怪かな、とアンテノーラは苦笑しつつも頷く。
「そ。君が先生と会うなら私にもその様子を聞かせて欲しいんだよね」
「分かりました、先生と会う機会があったら連絡しましょう」
「助かる。私の方も先生については調べておくから、何かわかったら教えるよ。恩を感じたら追加報酬でも寄越して」
「では、取引成立という事で」
かたやクツクツと、かたやカカと笑いながら、悪党達の邂逅はひとまず終わりを告げるのだった。
「と言っても、どうやって先生を観測するかだよねぇ……」
黒服との会話から数日。いざ先生の情報を探しに出たアンテノーラだったが、その接触への難易度の高さに顔を顰めていた。
アンテノーラの情報網……及び、カヤから聞いた情報ではどうやらピンポイントで
「……あそこ、周りに砂以外何もなさすぎて潜入に不向きすぎる……」
……やれ『キヴォトスを滅ぼしうる』だの『ゲマトリア一の武闘派』だのと言われたり自称したりするアンテノーラだが、彼女にとって一番得意なことは実は
「ヘルメット団に紛れるか、死ぬほど業腹だけどカイザー内部に隠れるか……どうしたもんだか」
取り敢えず今は近づけない、と
ピンク色の長髪に、遠くからでも目立つアホ毛。
低めの背に、黄色と青のオッドアイ。
そして黒服から見せられた写真と同じ制服を着ている少女……そう。
(やっっっばぁ!暁のホルスがいるのもそうだけど、今アビドスにいるはずの彼女がここにいるってことは……!)
咄嗟に雑踏の中に紛れつつ、小型カメラと盗聴器をその場に設置しておく。
どうにか少し離れたところでスマホを開き、カメラと通信を繋ぐことで……アビドスの生徒数人と何故かいるトリニティの生徒。
そして、少し背が高めの優男が彼女らのすぐそばで立っているのが見えた。
(なるほど、あれが”先生”ね……)
ヒョロガリというほどではないもののかなり線は細め。思っていたよりもスラッとした見た目に僅かに驚きつつも、そっとイヤホンの音量を上げて内容を傍受し始める。
『……えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です』
『闇銀行?』
『ブラックマーケットで最も大きな銀行の一つです。聞いた話だと……』
「……ああ、あの闇銀行の話ね。確かアビドスの金は大体あそこに流れてるんだっけ?」
小声でそう呟きつつ先生やその周囲のアビドス生……そしてなぜかいるトリニティ生の情報をメモしていく。どうやら今の所は先生は彼女らを静観しているようだが……
「……と言うかあのトリニティ生、セイアが言ってた補習授業部に入る子じゃない?確か、ヒフミちゃんだっけ……?」
そう言うとアンテノーラは様子を伺いつつも計画に関する調査書を出す。その中にはアリウスやトリニティの校内図、組織図や要注意人物がずらりと並んでおり……同時に、恐らくアンテノーラの計画に巻き込まれてしまうであろう哀れな補習授業部のメンバーについても、セイアから教えられた情報をもとに記されていた。
「阿慈谷ヒフミ……トリニティ2年無所属、基本は真面目だが『モモフレンズ』と呼ばれる作品に出てくる『ペロロ様』と言うキャラについては非常に愛が深い……ん、
普通の子かと思ったけど、桐藤ナギサと友好関係があるってのは中々面白い子じゃん。
と言うか、ブラックマーケットに単身できてる時点で変わり者の気配はするけど」
調査書の内容に追記や赤を入れながら呟く。ここで先生以外の情報を取れるとはと内心ニコニコで作業を続けていると、突然カメラに映っていた少女たちと先生が慌てて動き出すのがアンテノーラの視界によぎった。視線をそちらに集中させつつイヤホンの音量を上げて耳を澄ませると、かなりの偶然が発生しているのが聞こえてきた。
「アビドスから巻き上げた金を持ってきたところだったんだ……それの護衛のガラクタに警戒して動いたと」
『……あ!さっきサインしてた集金確認の書類……。それを見れば証拠になりませんか?』
『さすが』
『おお、そりゃナイスアイディアだねぇ、ヒフミちゃん』
「集金記録か……ま、証拠にはなるけどどうやって確認する気なのかね?まさか銀行強盗でもするわけにはいかないだろうし……」
『……ホシノ先輩、例の方法しか』
『なるほど、あれかー。あれなのかあー』
「へぇ、備えがあるなんて感心だね。変装でもして侵入とかかな……?」
『残された方法はただ一つ……銀行を襲う』
「はぁ⁉︎」
花の女子高生……否、なんかいつの間にか覆面の女子高生になっている少女が言ったアウトロー戦術にアンテノーラは度肝を抜かれた。確かに手っ取り早いのは事実だが、それによるリスクや失敗の可能性を考えると普通はしないはずと言うのが常識だが……
「……え、アビドスって結構無法な感じなの……?いや、と言うか先生もこれは流石に止めるでしょ……」
『”銀行を襲うよ!”」
「……Oh」
本来生徒を教え導く筈の立場の者からのこのセリフに一瞬言葉を失い……しかし戦闘能力を知るチャンスだと、アンテノーラは先回りして銀行へと向かうのだった。
「……てことがあってねぇ。私にはもう先生とは何かわからないよ、スバル」
「いや、それを私に言われましても……」
所変わってアリウス分校。
数時間前に見たあまりにもの景色にせめて誰かに話したいとアリウスの廃墟にやって来たアンテノーラは、無事スバルと合流できて情報共有兼愚痴……8割くらい後者だった気がするが……兎に角、そう言った話を続けていた。
「それで、アンテノーラから見た先生というのはどう言った人だったんですか?先ほどの銀行襲撃の話を聞いている感じヤバい人に聞こえますが……」
「良くも悪くも生徒思いすぎる。確かに集金記録の確認はアビドスが真実を知るチャンスだったけど、だからと言って銀行襲撃を許すのは流石に驚きだよ……ま、逆にいうとそこまで生徒思いの先生がアリウスを知ったなら、目を向けてくれるだろうね」
「……まだ会ったこともない以上信頼も信用もしませんが、味方になる可能性があると言う情報は握っておきましょう」
「それが良いね、うん」
まだ詳しくは知らぬ先生への対応を話し合う中、スバルはふと気になったのか首を傾げながらアンテノーラへ声をかける。
「それで……結局、アンテノーラはアビドスの件に手を出すんですか?」
「ん?なんで?」
「その先生の動向を知りたいのなら先生……もしくは、敵対している銀行のどちらかに関わって盤面に出るのが一番かなと」
「ん……今は無しかな。銀行……正確にはカイザーグループだけど、私はあそこと敵対してるから関わりたくないし……先生につくと、今度はカイザーと協力している私の同僚を裏切るハメになるからねぇ。関わるにしても、大勢の決着がついてからかな?」
いずれゲマトリアも裏切るけど、今はまだかなぁとアンテノーラは戯けたように言うが……その様子を見てか、スバルは僅かに表情に陰を落とした。想定外の表情にアンテノーラは仮面の下で目を丸くし、慌てて口を開く。
「ちょ、なんでそんな表情するのさ。私が悪党ってことくらい知ってるでしょ?裏切りなんてモーマンタイだから」
「……だとしても、です。以前言ってた話から考えると、アンテノーラがその仲間を裏切るのはマダム弑虐の件でですよね。確かにあなたが望んで立てた計画とは言え、その結果私たちがマダムの教育からの解放という恩恵を受ける一方で、あなたが居場所を失うのは……」
「大丈夫」
スバルからの心配の言葉を遮り、アンテノーラは優しい声で語りかける。
「あのゲロカスの件が終わった後の身の振り方もとっくに考えてるよ。だから、大丈夫。
それよりもアリウスの生徒たちの心配をしなって、アリウスの心の拠り所さん?」
茶化しつつも優しく、安心させるように答えるアンテノーラにスバルは表面上こそ安心した様子を見せたが……未だ見えぬアンテノーラの真意を含め、どこか彼女に不安を感じざるを得なかった。
Tips:アンテノーラから先生への好感度は実は見えているほど高くはない。生徒に甘い部分をかなり弱点としてみている。
ということで原作突入回でした〜
多分次回か次々回でアビドス編を終わらせて掲示板回になると思います。
アビドス、パヴァーヌはこういうふうに暗躍のみを描くのでご了承の程よろしくお願いします。
後、二分の一の確率で来週の更新がないです。
なぜならワンチャンブルアカの別のネタで短編を書くかもしれないからです。
2週間以内には投稿しますし、短編がポシャったら普通にこっち更新するのでよろしくお願いします。
それと前話において、一部本編の複製の設定について誤解している部分がありました。当該部分(ヒエロニムス及びその媒体に関する部分)は削除いたしました、申し訳ございません。
お気に入りや感想、評価等いただけると私のやる気がメーターを振り切れるくらい上がるのでよろしくお願いします!