悪で灯されたエデンへの道   作:乃木楓斗

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[悲報]アビドス編、終わらなかった
アンテノーラの大立ち回りはまた次回です……すまない


#9 責任論の違い、怒髪衝天

 紫荊クレタと阿慈谷ヒフミが邂逅する少し前。

アビドス高校から姿を消してしまったホシノを探すべく動いていた先生は、その果てに一棟のビルにゲマトリアが一人、黒服が滞在しているビルへと辿り着いていた。

そして彼らが話を始めようとしているちょうどその頃……

 

アンテノーラもまた、その隣の部屋でカメラ越しに二人の舌戦を観戦せんと覗き込んでいた。

 

 

「カカ、遂にゲマトリアに辿り着いたみたいだね、先生……あなたのその『在り方』、見させてもらうよ……?」

 

 

 ホシノを返せと望む先生と、契約を盾に断る黒服。絶対に交わらない互いの望みをぶつけ合う以上その対話には間違いなく感情が出る。特に、ブラックマーケットでの様子を見た限り感情を表に出しやすい先生は強い感情……怒りや不満と言った人の根源を表す感情を出すだろう。

 

 

「それはきっと、()()何の関わりもない私と建前混じりの会話をするより本人の気質が浮かんでくれているはず……!さぁ、見せてもらうよ、先生……!」

 

 

 そういうとアンテノーラはマイクの音量を上げ……ほぼ同時に始まった二人の会話に耳を傾けた。

最初こそどちらも譲らない様子で……いや、最初はまさかの先生に対するゲマトリアへの勧誘(無理ゲー)だったが……ともかく、互いの立ち位置が均衡であるように語り合っていた。

しかし、とあるタイミングでの言葉から……先生へ、その優位性が大きく傾き始める。

 

 

『……ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。届け出を確認されていないですか?』

『”まだだよ”』

『……ほう?』

『「顧問」である私が、まだサインをしていない』

『……』

 

「成程ねぇ……顧問のシステムなんて形骸化してるものだったと思ってたけど……大人の先生、がいるなら成り立つわけか」

 

 

 アンテノーラはゲマトリアでは唯一のキヴォトス育ちである故、顧問のシステムには疎いが……ゲマトリア経由で入手した外の資料で一応見たことがあったため、どうにかそれを理解できた。

 

 

(わざわざ顧問印の欄があるって事は……昔は先生も多くいたのかねぇ?さすが昔のアビドス高校)

 

 

 そんなことを思いつつアンテノーラは耳を傾けるが……正直、かなり聞く気は失せていた。

何せ先生側に勝機が寄った以上、粛々と手続きすれば良いだけなのである。

どうやら悪と正義、アビドスの天災について語っているようだが……アンテノーラからすると正直どうでも良い。

 

彼女(アンテノーラ)にとって自分は悪党である事は自覚の上だし、ホシノたちには悪いがカイザー、及び黒服と結んだ契約については彼女たち……もっと遡るなら過去のアビドス生徒会にも()()()()()

危険な契約と思うのなら恥を忍んでも、悩ましい契約ならこれからのためにも他者や仲間と相談するべきだったのだ。

 

 過去のアビドス生徒会なら法律に詳しい他校と。

 

 小鳥遊ホシノならアビドスの仲間や先生と。

 

 

 相談する対象はいくらでもいたろうに……とあくびを噛み殺しながら聞いていた、そんな時だった。

アンテノーラの、()()()()()()()言葉が聞こえたのは。

 

 

『”あの子たちの苦しみに対して、()()を取る大人が誰もいなかった”』

 

 

 

「……あ゙ぁ?」

 

 

『……何が言いたいのですか?

だから、あなたが責任を取るとでも?あなたはあの子たちの保護者でも、家族でもありません。

あなたは偶然アビドスに呼ばれ、偶然あの子たちと会っただけの他人です。

一体どうして、そんなことをするのですか?

なぜ、取る必要のない責任を取るのですか?』

 

 

 

『”それが、大人のやるべきことだから”』

 

「……それは、それは違うでしょう!!」

 

 

 アンテノーラに突如湧いた怒りの感情、そしてそれによって起きた拳の振り下ろしに座っていたスチール机は軋むほど音を立て、それでも怒りは収まらず聞こえるわけもないのに大声を上げて怒鳴った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!たとえどんな善意に満ち溢れた大人であろうと、掻っ攫って良いものじゃない……!」

 

 

 その言葉を怒りの余り、途轍もない早口で呟き、そして心の底からの……責任を何よりも重視する一人の人間としての、怨嗟(思い)を吐き出す。

 

 

「……他者に責任をとってもらうことを望んでいる生徒からなら、まだ良いさ。

だけど責任を負うことを心から受け入れている生徒すら、その覚悟を無為にさせてでも責任を取ろうとするのなら、嗚呼、それは……!

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 誰も聞く事はない絶叫を終え、ゼェゼェと息を吐きながら呼吸を整える。

 

 

「……言い過ぎた、かな?まだそこまでする人だとは決まっていないし、それにあそこまで生徒たち思いならそれを逆手に取れるだろう?

落ち着け私ぃ?」

 

 

 そう言って深呼吸を繰り返し……落ち着いた頃には、すでに二人の会話は終わりを迎えかけていた。

 

 

『……先生。ゲマトリアはあなたのことをずっと見ていますよ』

『”……生徒たちが待っているから、帰らせてもらうね”』

『すみませんが、最後に一つだけ』

『”何?”』

『もし、あなたの前にアンテノーラと名乗る女が現れたらご注意を。彼女もまたゲマトリアですが、あなたのような人はとても好きな一方、大嫌いでしょうから』

『……用心させてもらうよ』

 

「……カカ、さすが黒服、分かってるじゃん」

 

 

 そんな黒服による先生へのちょっとした忠告を笑い飛ばしながら、アンテノーラは殴りつけてしまったスチール机の修復をし始めたのだった。

 


 

 ……そして、さらに時が経ち。

アビドス高校が遂にカイザーPMCに反旗を翻し、ホシノがいるであろう地区へと向かっている頃、ほぼ同じ理由で全く別の地区から数人の生徒たちがアビドス砂漠へとやって来ていた。

榴弾砲等の様々な武器が備えられている中、その中心には二人の少女……

 

 ペロロバッグを背負った幼なげな顔立ちの少女……阿慈谷ヒフミと。

 

 群青色のロングヘアにティーパーティの制服を纏った少女……紫荊クレタが立っていた。

 

 

「こ、ここまで護衛してくださってありがとうございました、クレタ様……」

「良いんですよ、これも役目ですから。それにここ最近、護衛任務もなくて体も鈍ってましたから……襲って来たヘルメット団の方々には悪いですが、良い運動になりました」

「あ、あはは……まさに圧倒、って感じでしたね……」

 

 

 正直にいうと、ヒフミは失礼だとは承知しつつもクレタについて少し不安を覚えていた。

持っている銃はハンドガン1丁のみ……他にもコンバットナイフを持ってはいるらしいが、あまりキヴォトスでは使われない代物だ。護衛にしては武装が少なすぎるのでは……と思っていたのだ。

 

()()()()()()()

 

 

「まさか()()()でヘルメット団を倒してしまうなんて……見てて驚きました」

「あら、お恥ずかしいところを見せたでしょうか?

ですがまぁ……()()()()()()、鍛える必要がありましたので。

それより、L118の点検も整ったみたいですよ」

「あ、ありがとうございます!早速発射準備をして来ます!」

「ええ、私はこの後用があるので出ますが……頑張ってくださいね」

 

 そう言うとクレタはヒフミの行く様子を途中まで見守ってから来た道を戻り始めた。

 

 

「……阿慈谷ヒフミの情報に、少し更新が必要そうですね」

 

 

 どこか、不穏な一言を呟きながら。

 


 

 場所は変わり、カイザーPMCの軍事施設……兼、 ホシノを利用する為の研究室。

その中でホシノは絶望と孤独を抱えながら、これまでの軌跡を思い返していた。

 

 かつて、自分をずっと見守り、手を引いてくれたユメ先輩。

 

 大事な仲間としてアビドスの復興に力を尽くしてくれた後輩たち。

 

 そして、今の所唯一信じようと思うことができた『大人』……先生。

 

 

 彼ら彼女らのことを思い返すたびに枯れきったと思っていた涙が零れ落ち、縛られた手ではそれを拭うことすらできず、ただ頬を伝っていくのを感じることしか出来なかった。

それを厭い少し別にことへ一度思いを巡らせ……そして、ここに来てからずっとホシノの頭の中に引っかかっていた言葉を思い返す。

 

 

砂漠に狐(デザートフォックス)が現れたら……今の話は誰にもしないでほしいな』

 

 

 予め言っておくと、アビドス砂漠に狐が存在しないわけではない。

いわゆるフェネックやそれに近い動物はいるし、時折見かけることはあった。

 

だが、彼女……アンテノーラと名乗る悪党が、そんなものを意味してあんな事を言ったとは思えない。

砂漠に現れる狐とは何か……少し考えたところで、頭を小さく横に振る。

 

 

「私には……もう、関係ないか」

 

 

 そう言ってホシノは目を伏せる。

そもそも、あの会話を誰に言ったらいけないと言うのだ。黒服はきっと彼女の事を色々知っているだろうし、カイザーとなんて話したくすらない。そんなふうに思って目を瞑ろうとした、その瞬間……

 

 

 目の前にあった、堅牢に封じられていたはずのドアが吹き飛んだ。

 

そしてその先には……ずっと自分と共に居ようとしてくれた、ホシノにとって何よりも大切な仲間たち(アビドスのみんな)、そして皆を助けようと動いてくれていたあの先生が立っていたのだった。

 

 

 

「……それにしても、ここをよく見つけられたね。それに、カイザーの兵士たちも大勢いたと思うんだけど……」

 

 

 解放されてから少し時間が経ち、あちこちで煙があがりながらも少しずつ縮小していく戦場に驚きながらホシノは隣にいたアヤネに声をかけた。

 

 

「ここ最近関わっていた様々な方達……ヒフミさんや便利屋68の皆さん、ゲヘナの風紀委員会も協力してくださりましたから」

「すごいことになったんだねぇ、こりゃ……」

「それだけホシノ先輩が大事だったって事です……そうだ、それと一つ言わなきゃいけないことがありまして……」

「……何かな〜?」

「先ほどは、『ここ最近関わっていた様々な方達』が協力してくださったと言いましたが…… 実は、一つだけ私たちと関わりがなかったはずの人たちも協力してくれたんです

「え……?」

 

 

 ホシノは驚愕する。

何せ相手はキヴォトスでも最大手の企業とも言えるカイザーグループ、黒い噂こそ気けど態々抗おうとは普通思えないだろうし……その人たちがアビドスへ協力する理由もわからないのだから。

 

 

「なんでも『要注意団体』として監視していたカイザーグループが動き出したということで、それに際して助力してくださったらしく……その人たちのリーダーがホシノ先輩にご挨拶したいとのことです」

 

 

 ホシノからすると、かなり怪しい話のように聞こえるが…… 少なくとも、顔すら合わせず帰らせるのは失礼すぎる。

 

 

「分かった。そのリーダーさんをここに呼んで……」

「その必要はありません、小鳥遊ホシノさん」

 

 

 その言葉と共に、一人の少女が歩み寄ってくる。

ホシノがその方向に振り返ると……そこには、シンプルなセーラー服を身にまとい、片手にはアサルトライフルを携え……そして。

 

 

()()()()()()()()が直立不動の姿勢をとっていた。

 

 

「────改めまして小鳥遊ホシノさん、はじめまして。SRT特殊学園、F()O()X()小隊の小隊長、七度ユキノと申します」




Tips:アンテノーラと最も仲の良いゲマトリアはマエストロだが、アンテノーラの真の理解者としては黒服の方がその座に近い。
なおゲマトリア以外を入れるとセイアが圧倒的にその座に近い模様。


というわけで、前書きでも書きましたがアビドス編終わりませんでした……終わる終わる詐欺して申し訳ない……

FOX小隊が来た件については次回でも触れますが、実は前回伏線を貼ってたりします。

後、途中のアンテノーラの先生に対する言葉に関してですが、あくまでまだ先生のことを詳しく知っていない上でのあのセリフを聞いた故のものです。
本人もまだ決まっていないと言っていますし、「そういう人だ」とは断定していないことをここに付記しておきます。

次回はホシノとユキノの会話、アンテノーラによる暗躍、その後……を書くつもりです。
他にも書きたい番外編とかはあるんですが、なんかSCPの報告書みたいな内容になりそうで自分が迷走してるのではないかと不安になってたりしてます()


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