「FOX……小隊……⁉︎」
七度ユキノの自己紹介を聞いて、ホシノはその目を丸くして驚いた。
もちろん後輩たちを助けてもらったことに対する感謝は忘れてはいないが……それを考慮したとしても、驚きが圧倒的に優っていた。
(FOX小隊って言ったらSRTの中でも超一流のチームだったはず……
そんな部隊がなんでウチに……それにSRTは連邦生徒会の直属機関、なんで今更……。
いやそもそもSRTは閉校したはずだし、何より彼女らの部隊名は『FOX』……!)
そこに思考が至るのと同時に、ホシノはアンテノーラが最後に言い残した、あの意味深すぎる言葉を思い返す。
『
(アンテノーラが言った狐っていうのは、どう考えても目の前の部隊に違いない……でも、どうやってSRTに干渉を……⁉︎)
一瞬の間に多くの疑問がホシノの頭を埋め尽くす。
そんな様子に気づいたのかユキノは僅かに申し訳なさそうに眉根を下げると、ホシノの方に一歩近づき頭を下げながら口を開く。
「……申し訳ありません、おそらく困惑されていると思うのですが……何分、こうして作戦に参加している我々すら教えてもらえていない部分もありまして。そう言った部分、及び連邦生徒会側の機密故に話せない部分を除いた部分であれば……可能な限り、説明します」
「……へぇ〜、良いの?」
「はい、『この件について聞かれた場合は可能な限りお答えしてください』との命令もありましたので」
「……分かったよ。それじゃあ、経緯についておじさん達に詳しく教えてもらえるかな〜?」
表情こそ笑顔で、口調も普段のゆるいものだが……その目は笑っておらず、むしろどんな情報も聞き逃さないと見つけてくるホシノに、ユキノは一瞬気圧されつつも詳細を語り始めた。
「まず、我々がここに来た目的ですが……連邦生徒会の防衛室長、不知火カヤより、
『アビドスにて要注意団体として監視していたカイザーPMCがアビドス高等学校に対して狼藉を働こうとしている、事実確認及び必要とあらば実力行使を行なってください』という命令を受け、それを果たしに来た次第です」
「ふうん……まず聞きたいんだけど、なんで連邦生徒会は
かつての恨み節をユキノにぶつけてしまうが……しかし、 ホシノとしてもこれはどうしても割り切れない感情だった。
かつて連邦生徒会を襲撃することまで考えた彼女にとって……
「……ごめんね、ユキノちゃん。君は関与してないことなのに、思わず当たるようなことを言っちゃって」
「構いません。防衛室長も過去のアビドスに関われなかったことについては問題があったと言っておりましたので……
ただ、そういう意味ではまだ連邦生徒会は当時と変わっていないと言えます」
「……どういうことかな?」
「今回、我々FOX小隊は
「え?でも、防衛室長の命令だって言ってたよね……?まさか、私設の部隊じゃあるまいし……」
「……」
「え、待って……そういうこと?」
半分軽口のつもりで言った疑問にユキノが明確な返答をしないのを見て……ホシノは、自分が言った冗談のような言葉が正しかったことを察してしまった。
「……ホシノさんは、SRTが現在どういった状況にあるかをご存知ですか?」
「うん。連邦生徒会長失踪のすぐ後に、事実上の……」
「ええ。その際、在籍していた生徒はヴァルキューレへの編入、もしくは学校から去り野に下っていたのですが……我々、FOX小隊には直々に防衛室長から声がかかりまして」
そう言いつつ、ユキノは今の直接的な上司である防衛室長……不知火カヤと初めて会った時のことを思い出す。
『……つまり、キヴォトスの治安を乱す要注意団体や組織に対する部隊として従事しろと?』
『ええ。この条件を飲んでくださるのであれば、あなた方部隊の学籍の保護を行いますし、SRT復興に協力することも約束しましょう』
『……解せません。一体何が目的ですか』
『防衛室長として、キヴォトスの治安を守るのは当然では?』
『それは、その通りですが……』
『……まぁ、分かります。自らが武器として戦うにあたって、持ち主がまともかは知りたいでしょうから』
『……』
『といっても目的はシンプルです。私としても防衛室長としての功績を挙げたいのです……連邦生徒会長代行にクーデターするにあたって、正当性を持てるくらいには……』
『く、クーデター……⁉︎』
『今の連邦生徒会長代行…… 七神リンはどうにか現状維持を続けてはいますが、対外面等に問題も多いです。連邦生徒会長にキヴォトスの防衛を任された者として……これは、見過ごせないのです』
そう言ったところでカヤは椅子に座ると、近くにあったデスクにの上で両手を組み、その上に顎を乗せると一本の線の如くだった糸目を僅かに開く。
『もちろん、信用してくれなくて構いません。仮に誘いに乗ってくださった場合でも、私の命令の真偽の裏どりの為に独自に動いてくださって構いません。最も、それで救える人を救えないのは困りますが』
『……仰りたいことはわかりました。クーデターと聞いた時は驚きましたが、防衛室長なりにキヴォトスを守りたいという思いがあるというのは理解できます』
『なら、受けてくださりますか?』
『一つだけ質問を……なぜ、ここまで?』
『……ふむ?』
僅かに驚いたように眉根を上げるカヤに、ユキノは問いかける。
『確かに、我々にとって非常に良い条件です……ですが、良すぎるが故に困惑しているのです。裏はあるのかと思えば、小隊独自の自己判断を許可してもいる……正直に申し上げましょう、過去の防衛室を考えると、もっと我々に悪い条件になると思っていたのです』
『まぁ、カイザーやらと癒着していましたからね』
『だからこそ問いたいのです、なぜかと』
『……それは』
そこで言葉を一度切り、水を一口飲む。そして、自らに謀略や取引を教えてくれた
『理由は、二つです。一つは、私が知る限りもっとも優秀なあなた方、FOX小隊に是非とも協力して欲しかったから。もう一つは…… 断る余地をしっかり与えた上で断るのを躊躇うくらいには報酬を与えることで、少なくとも即切りはされないようにする、為です』
それは偶然にも、もしくは謀略などを教え込まれた故の必然なのか……かつて梯スバルを説得した際のアンテノーラと同じ理由だった。
あまりにも素直な答えにユキノは目を見開き……僅かに、相好を崩す。
『随分率直ですね。少なくとも後者は黙っていたほうが印象が良かったと思いますが?』
『あなた達にはどうしても伏せたい一部の情報を除き、全て公開する所存ですから。逆にいうと、言えないことがないわけでもない、というのも事実です。
その上で聞きます。どうしますか?』
「色々あって……今では、対要注意団体・組織戦用の部隊として、いわば防衛室の私設部隊として活動しています」
回想を脳裏に過らせた後、ユキノはホシノへとそう答えた。目の前の少女の見た目、そして噂に聞く実直さから彼女が嘘を吐いてはいないと判断したが……それでも尚、一つ疑問が残る。
「じゃあ……アビドスにカイザーが手を伸ばしてるってのは誰から聞いたの〜?確かにトリニティとゲヘナの一部には伝わっているけど、そこにパイプでもあったわけ?」
その言葉に、ユキノは表情を曇らせる。
「……申し訳ございません。実は、この派遣はカヤ室長直々に命令されたものでして……一応背後関係を調べたものの、どこからの情報というのが分かりませんでした」
「……なるほどねぇ」
(多分、アンテノーラだ。彼女がどうにかして防衛室にリークしたんだろうけど……どうやって?いや、何の為に……?ここまでの大事にするなんて、何の狙いが……あ)
「陽……動?」
ホシノの口から漏れたその小さすぎる声は、ユキノにも、隣にいるアヤネにも届かず、ただホシノの脳裏に焼きつくこととなった。
実際、ホシノの予想は当たっていた。
FOX部隊含む対カイザーの面々がアビドスに雪崩れ込んでいた中、アンテノーラは逆の方向……ブラックマーケットの大きなビルの上で座っていた。
「やってるねぇ、さすがFOXにティーパーティ、風紀委員会……あそこまで暴れるなら、
アンテノーラの目的はアビドスが借金をし、そしてバックにはカイザーが存在しているブラックマーケット闇銀行への襲撃だった。
と言っても、別にアビドスの借金に対する抗議でもなければ、
「ブラックマーケット随一にして、あのカイザーがバックにつく銀行……そんな場所が正体不明の誰かに襲われて、あまつさえ壊滅したって噂が流れれば、さぞかし犯人には
そう。
アンテノーラが求めていたのは恐怖の感情……より正確にいうなら、彼女が作り上げた
既にそれらそのものは揃っているが故に、彼女が作った最高傑作……無貌の■■は
例えば、廃遊園地という人々の「歓喜」が根付いた地、媒体の下で生まれた
その為、彼女が生み出した最高傑作には
これまでにもヘルメット団やカイテンジャー、そして他のカイザーの悪徳子会社を襲撃して、カヤとの会話にて悪名すらもつけられていると言われたが……それでもまだ、足りない。
「しょーじき、ここ襲っただけで変わるかと言えばまだまだかもしれないけど……ま、千里の道もなんとやら、でしょっと」
そう呟いたアンテノーラは普段の服装である黒いドレスでも白いコートでもない、顔までしっかり隠せるような黒いローブを羽織ると、ほぼそれと同時にビルの屋上から飛び降り……闇銀行の天窓を長剣で突き破って中へと突入した。
闇銀行にとってまさにそれは青天の霹靂だった。
ただでさえ自分たちを管理しているカイザーグループの一部が襲撃されている今、利益確保のために動いているというのに……加えて今度は侵入者である。
数日前に
顔も見えない黒いローブに長剣、絡繰仕掛の靴……最近の目撃情報で追加された、指元で金色に輝く指輪。
その特徴は正しく……連邦生徒会からは『享神』とさえ呼ばれる、危険組織をまるで遊びのように襲っては壊滅させる存在だったのだから。
「う……撃てぇぇぇぇ!」
ある種絶望の象徴とさえ言える存在を前に、行員はただ火力全開で攻撃することを支持することしかできなかった。
「はぁ、命令がヘッタクソだねぇ……メカ兵士にそんなこと言ったら、その通りにしか動けないでしょ……木偶どもが」
アンテノーラはそう言いながらスライディングでメカ兵士の足元に滑り込むと、持っていた長剣で両腕両足を切り落とす。
そのまま遮蔽に隠れながら周囲を覗き込んで建物の構造を確認することで、彼女は一つのことに気づいた。
(待合所の方の天井は支えてる柱が少ない……柱を何本か折れば、崩れてくれるかな?)
そう結論づけると、チャフグレネードと
「こりゃ何発フラグがいるかも分からんね……しゃーない、こっちに切り替えるか」
そう言いながらアンテノーラは持っていた長剣……に、仕込まれていたスイッチを押し込む。
その瞬間、刃が赤褐色に光り……数秒後にはかつてスバルに語った通り、刃に大火が煌々と点った。
「
カカ、と自らのしょうもないジョークに笑った後、遮蔽を蹴り飛ばして近くのメカ兵士に当てると、直前に攻撃した柱の根本まで駆けるや否爆発の跡に炎刃を這わし、振り抜く。
そもそもの刃の切れ味が良いのに加え、”持ってるだけで熱くて使いづらい”と作成者のアンテノーラに言わしめたまでの高熱が合わさり、柱は完全に一直線に切り裂かれた。
一本の柱が切り裂かれたことで建物全体のバランスが崩れ……わずか数コンマ秒後には他の爆破された柱もメキリと割れ始め、数秒後には待合所の天井が崩落し、多くのメカ兵士達がその下敷きとなった。
「おい、早く奴を捕えろ!これ以上被害を出すなぁ!」
リーダー格のメカ行員が檄を飛ばすことで一部のメカ兵士、そして応戦にやって来たマーケットガードがアンテノーラへと銃撃や直接的な暴力を仕掛けにわんさかと集まる。
しかし。
「マーケットガードはまだまだ動きが甘いし、メカ兵士は怯えで銃口がふらつきすぎ……どんな教育してるわけ、天下のカイザーさん?」
マーケットガードの一般的には優秀な射撃・捕縛術も。
カイザー麾下のメカ兵士の訓練された攻撃法も……アンテノーラにはほとんど交わされ、最低限の被弾のみで逆に蹴散らしていく。
「
燃え上がる剣……アンテノーラの言うところのレーヴァテイン・レプリカにより、多くのメカ兵士やマーケットガードが腕部や脚部といった移動や攻撃に関わる部分を破壊、もしくは使用不能にまで追い込まれた。
あちこちで機械の溶けた嫌な匂いやバチバチと火花が爆ぜる音が蔓延する中……その一方で、戦闘不能にされたその殆どが意識を失っておらず、会話等で情報をやり取りできる状況下にあった。
どうにか情報を交換することで撤退、もしくは本部への連絡を取ろうとするマーケットガードだったが……
「……クソ、黒いローブのせいで正体が掴めん!誰か顔を見たやつは⁉︎」
「
「ハァ?何言ってんだ、どこかは分からんが
「お前こそ目がおかしいんじゃ無いのか、
「そんな⁉︎私が見たのは
「な、なぜだ……なぜ、誰一人目撃情報が一致しない……⁉︎」
全員が全員、異なる情報を言い出すせいでろくに情報も纏まらず、寧ろ口論が広がっていくだけとなってしまった。
「何をしているんだお前らッ……!いいや、せめて私だけでも逃げ……!」
「逃すわけねーでしょーが」
唯一隠れて立ち尽くしていたリーダー格のメカ行員がこっそりと逃げ出そうとするも時既に遅し。アンテノーラが既に背後へと回り込んでいた。
「貴様、何者……ッ」
それは苦し紛れに吐いた只の悪態だったが……それが響いたのか、アンテノーラはケラケラと笑い出す。
「
「な、何を……」
「君は知らなくてもいい事だよ、三下」
へたり込み、ブルブルと震える行員にアンテノーラは先ほどまでは持っていなかったはずの
「私は成さなければならない責任がある。そのためなら幾らでも私は別の『私』を見せるし、誰だって裏切って見せるってだけ……そうだ、君のさっきの質問に答えてなかったね」
そう言われた行員が最後に記録に残したのは……
「
私は、只の
アンテノーラが言ったその言葉や、ローブの奥に見えた
Tips:無貌のロキ……アンテノーラが作った最高傑作の
具体的な権能はまだ完全には分からないが、
ホシノの恐怖適応実験等から考えると矛盾しているように見えるが、ちゃんと整合性が取れる仕組みになっていたりする
私はまたエピローグまで書き切ることができませんでした
まさかまだアビドス編が終わらないとは…… その分今回デカめの伏線回収したので許して下さい、多分今週中にエピローグ書きますので……
ちなみに「私はだあれ」でみなさんは何を思い浮かべたでしょうか?
うみねこEP4のベアトリーチェを思い浮かべた方は私の同士です、肩を組みましょう()
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