悪で灯されたエデンへの道   作:乃木楓斗

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露悪的な冷笑家であれ
狂気的な求道者であれ
非道的な解放者であれ
独善的な救済者であれ
背信的な激情家であれ

ただ悪であれ、然すればエデンへの道に火は灯される


#13 裏切り女はアンドロイドの(予言)を知るか?

「すまないね、黒服。久しぶりの会合だと言うのにギリギリに来てしまって」

 

 

 スバルとの一件……アンテノーラからすると、様々な弱みを見られてしまったその日の翌日。

一般的な感性であれば、あれだけ縋られたら流石に休むであろうが……アンテノーラは、まるで当たり前かのようにゲマトリアの会議へと出席していた。

 

 

「構いませんよ。むしろ連絡がギリギリになってしまった以上、休むとさえ思っていましたから」

「本来であれば予定があったから休んでたんだけどねぇ……昨日、協力先(アリウス)の子との話し合いが私のミスで飛んじゃったから、その分予定がずれ込んでね。それだったらこっちには来ようと」

「……大方、貴女の不安定な部分を見られたのでしょう?」

「わぁお、なぁんで分かった?」

「貴女の生活や在り方は我々ゲマトリアでさえも顔を顰めたくなる部分がありますので。ましてや、生徒である貴女の仲間にそれを見られたら心配されるでしょうからね」

「君にまで言われるとは、悲しいなぁ」

 

 

 そう軽口を叩き合っていると、扉の方から見覚えのある影……マエストロとゴルコンダ(デカルコマニーも添えて)がほぼ同タイミングで室内へと向かってきた。

 

 

「マエストロ、それにゴルコンダとデカルコマニー!こうやって5人で集まるのはずっと前の会議以来かい?」

「ああ。時折貴下の動きも見ていたが……随分と、最高傑作(無貌のロキ)をうまく扱っているようだな。同じ複製(ミメシス)と言う現象を調べていた同士としては興味深いものだったと言えるが……貴下自身に、問題はないのか?」

「さぁ……何処かイかれているかもしれないけど、そもクルッ(反転し)た時点で私の体は他の人たちと変わりきってしまっただろうからね」

 

 

 当たり前のことのようにそう答える彼女に、マエストロは何か言おうとして……ギシリと体を軋ませつつその衝動を抑えた。

仮に何か言ったところで目の前の少女には意味がないだろうし、これ以上他の者の時間を奪うのも得策ではないと判断したのだろう。

 

 

「それに、ゴルコンダ……久しぶり。以前依頼したブツの作成状況はどうかな?」

「貴女が求めるレベルかはともかく、実用に堪えるだけのスペックのものは完成しました。もし残りを自分で改造すると言うのなら、この会議の後に一度お渡ししましょう」

「了解……と、そういえば黒服、ベアトリーチェ(あのゲロカス)は来ないのかい?いや、個人的には来ない方がありがたいんだけど……」

 

 

 うぇっ、と吐くようなジェスチャーをしつつ尋ねると、愉快そうに笑いながら「ええ」と黒服は答える。

 

 

「彼女はどうやら自分の領地(アリウス)にてやることがあるそうで。簡単に話す内容も伝えておきましたが、私たちで勝手に対処しろとのことです」

「はぁ……私が彼女を蛇蝎の如く嫌っているのをさておいたとしても、ゲマトリアの一員として酷い女だね。緊急で呼び出したあたり、危険性もあるんだろう?」

「はい。事が起きれば最低でも一自治区、最悪キヴォトス全土にも影響が及ぶかと」

「そんな大事を些事と見做すなんて、随分とお偉いことで」

「違いないですね」「違いない」「違いないです」「そういうこったぁ!」

 

 

 その場にいるゲマトリア全員の意思が(恐らく)一致し、アンテノーラが思わずクスリと笑ったところで黒服が咳払いをし、話を切り替え始める。

 

 

「さて、そんな彼女が些事と見做した事態ですが……簡潔に申し上げますと、『名も無き神々の王女』……かの存在が、起動したとのことです」

「ふむ……!」

「え……?」

 

 

 黒服の言葉にマエストロは興味深そうに相槌を打ち……その一方で、アンテノーラはとても驚いたかのように目を丸くしながら声を漏らした。

 

 

「どうやら現在は本来の機能を忘却しており、先生と交流を持っているようですが……アンテノーラ。あなたが驚くと言うことはつまり……」

「……ああ。あの予言の大天使(百合園セイア)からは何にも聞いていない……好意的に取るなら、王女の復活はキヴォトスに破滅を齎さないってことだろうけど……」

「彼女がまだ観測していない、と言う可能性もあるのですね?」

「そういうこったぁ!」

「デカルコマニーの言うとおり、その可能性があるね……にしても、よくこんな情報を拾ってこれたね」

「再度先生を勧誘できないか機会を伺おうと周辺調査をしていたら観測した次第です、思わぬ収穫でした」

「まだ勧誘を諦めてなかったの……?」

 

 

 呆れたように呟くアンテノーラに、微かに笑いつつ黒服も言葉を返す。

 

 

「彼の存在はゲマトリアに相応しい……貴女もそう思わないのですか?」

「外の人間っていう点では私よりも相応しいだろうけど……如何せん甘すぎるのがなぁ」

「甘いというのは……生徒への在り方か?それは先生というテクストの影響もあるかもしれんが……」

「そこもだけど……聖人みたいに立場の差無く生徒を助けようとする考え方は、いずれ己の身に返ってくるだろうね」

「成程……」

「そういうこったぁ……」

「ま、これからの彼次第だし、見ていかないことにはわからないけどね」

 

 

 そこまで言い切ったところで、黒服の方へと向き直る。

 

 

「それで?

 要は今日の会議って『名も無き神々の王女』が起動した今、ゲマトリアはどう対処すべきかって話なんだよね?」

「ええ。と言っても、下手に関わって藪蛇になるのも避けなければならない以上、慎重な判断が……」

 

 

「なら、私がミレニアムに行くよ」

 

 

 アンテノーラの宣言に一同は一瞬沈黙した後……怪訝な目線で彼女を見始めた。

 

 

「正気か?貴下には抱えている案件、それに一番の目標がまだあると……」

「まぁ明日すぐ行け、って話なら無理だけど……一週間後くらいならトリニティの方にも一旦はちょっかいは出し終われるだろうし構わないよ」

「……ふむ。しかし、協力者からすらも心配されるその体調で大丈夫なのですか?」

「スバルが……協力者が、心配しすぎなだけだよ。それに、この中で誰が一番潜伏に向いていると?」

 

 

 

 その一言でその場にいるほか全員が黙ってしまう。何せアンテノーラが潜伏や破壊工作に長けているのは事実である。

本来はヒエロニムスの作成を中止して時間があるマエストロの仕事になるはずだったが……事がこうなっては、アンテノーラを止めるのは無理だと黒服たちは判断した。

 

 

「……分かりました。では、ミレニアムの件はアンテノーラに一任いたしましょう」

「任されたよ。もともとエデン条約前に先生には一度会っておきたかったしね、役得という物さ」

「……せめて、スバルという貴下の協力者にはミレニアムに向かうことを伝えておくといい。下手に何も言わずに行って不安を煽るのも良いやり方とは言えない」

「はいはい、スバルを心配させるのは本意じゃないからねぇ」

 

 

「……久しぶりに、友人を得たようですね」

 

 

 黒服のその言葉にアンテノーラは目を丸くする。

 

 

「君がそんなことを言うなんて珍しい……」

「ククク……確かに私たちは生徒を使った実験をすると言う非情な行為をしている集団だと思われるかもしれませんが……」

「主に先生からね」

「……別に、人の情が分からないわけではありません。あくまで私の研究よりも優先度が低いだけであって、研究と関係ないところで友誼を結んでいる同僚の姿を見て微笑ましい物なのだと理解することはできますから」

「友誼、ね……確かに君の言う通り、予言の大天使(百合園セイア)防衛室長(不知火カヤ)以来だから……私にとっては約2年ぶりの友人、か」

 

 

 そう言いつつ、アンテノーラはスバルの顔を思い浮かべる。

胡散臭い取引相手のように振る舞われているにも関わらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……そんなアンテノーラのことを友人と呼んでくれているスバルのことを、アンテノーラもまた代えがたい友人だと思っていた。

だからこそ心配させたくもないし、これから巻き込む事態で傷つけるのも非常に申し訳ないことだと考えていた。

 

 

 だが。

 

 

 そう思うのと同時に、アンテノーラの心中にはどこか、歪んだ……それでいて、切なる願いも生まれていた。

 

 

もし。

もし自分の計画がうまくいき、目的をもすべて達成されるのなら。

その時は。

 

 

「叶うのなら、私はスバルに……」

「……アンテノーラ?」

「ああごめん、いつの間にか物思いに沈んでた……とにかく、スバルには少し遠出するって伝えておくよ。万が一にも『名も無き神々の王女』が動いてアリウスごとキヴォトスが……なんてなったら悔やんでも悔やみきれないからね」

「それでよろしいかと」

「そういうこったぁ!」

 

 

 そうして目下一番の問題に対する目途が立ち雰囲気が和らいだ頃……アンテノーラは今が好機だといわんばかりに口を開いた。

 

 

「ところで、だ。話は変わるんだけど……マエストロ。この前、ヒエロニムスの制作を中止したって言ってたよね?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「単刀直入に聞くんだけど……ベアトリーチェ(ゲロカス)に文句言われてない?協力はどうするつもりだって」

「……知っていたか」

「ロイヤルブラッドが関わる複製(ミメシス)って聞いた時点でピンと来てたよ、あいつとの協力前提の作品だって」

 

 

 そう。

 本来であればマエストロはベアトリーチェとの協力のもとユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)、そしてヒエロニムスを顕現させるはずだったが……マエストロがヒエロニムスを作る気を失ったこと、そしてアンテノーラの逆鱗に触れることを避けるためにアリウスから手を引こうとしたせいで、今度はマエストロがベアトリーチェから執拗に絡まれる事態となっていたのだった。

 

 

「正確に言えばロイヤルブラッド(秤アツコ)を必要とするのはユスティナ聖徒会の方ではあるが……どちらにせよ、手を引いたのは事実だ」

「それでねぇ、私もまぁ……申し訳ないと思っているんだよ、半ば私のせいでアリウスから手を引いた結果こうなったんだから」

「……なら、どうすると?」

「簡単さ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……実のところ、皆がいる前でこの話をしたのは他の皆にあいつの協力をしないよう釘を刺すためでね」

「……内側からマダムの計画を崩すつもりですか」

 

 

 黒伏の理解の速さにアンテノーラはニヤつきながら頷く。

 

 

「あいつの仲間のふりをするのは業腹だけど……そうすれば、合法的にもアリウスに乗り込める……()()()()()()()()()()()()()()()()。どうしても今のままだと効果の薄い手助けしかできなかったからね」

「……分かった。次にマダムにあった際は、貴下が協力を考えていることを伝えておこう」

「助かる、あいつとは可能な限り顔を合わせたくないんでね」

 

 

 そうしてアンテノーラによって挙げられたもう一つの議題も解決し……それぞれの近況も話し終わり、会議も解散になった後。

その場に残っていたアンテノーラ、そしてゴルコンダは一つの装置の前で興奮しながら話し合っていた。

 

 

「凄いねぇ……!これが私が依頼していたものであっているかい?」

「ええ。『特定のテクストに関する記憶に作用する機械』……貴女が依頼した通りのものです」

「そういうこったぁ!」

 

 

 デカルコマニーの愉快そうな声に目を爛々と輝かせながら装置を矯めつ眇めつ眺める。

 

 

「これで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ええ。特定の人物とその人物に纏わるテクストの集合を思考において切り離させる事で、その人物の事を思い出せなくなり、埋め合わせの記憶が作られる……そう言ったものです。まあ、忘れさせた人物を目視する事で効果は切れますが」

「問題ない。私の計画ではそれは何の支障にもならないよ」

 

 

 カカ、と笑いながらそう答え、同時に装置……正確には端末と本体を手に取り、その中を確認していく。その中はゴルコンダの技術の粋が詰まったものではあったものの……決して、アンテノーラがその構造を理解できないものではなかった。

 

 

 

「これ……ヘイロー破壊爆弾からインスピレーションを得たのかい?」

「お察しの通りで。その辺りがわかるのを見ると、ご自身で改造も容易にできそうですね」

「まーね」

「……貴女の目的において、それは必須なのでしょうか?」

「……ん〜?」

 

 

 どう言う意味だ、と目付きを鋭くさせるアンテノーラにゴルコンダは続ける。

 

 

「ただマダムを弑するだけなら必要ないはずの代物です。私は黒服やマエストロと違い、貴女の目的は知れども過去は大雑把にしか知らない故……何故、そのような装置を求めるのか理解できないのです」

「そういうこったぁ!」

 

 

 ある種当然とも言える疑問にアンテノーラは一瞬だけ真顔になり……そして、悪意や狂気、そして一匙の自嘲の混ざった笑みを浮かべる。

 

 

「……誰からも忘れ去られるというのは、事実上世界に存在していないも同義であり、つまりは方舟(キヴォトス)から残される価値無しと追い出されたも同じ……そして私の計画の内で逝く、アリウスにおける最低最悪、そして何より無責任な存在なんて……誰からも忘れられて、方舟から蹴りだされてしまえばいいんだよ」

 

 

 そこまで言い切ったところで装置を一撫ですると、アンテノーラは再度ゴルコンダに問いかける。

 

 

「この装置に名前を付けてもいいかな、ゴルコンダ。ちょうどいい名前を思いついてね」

「ご自由にどうぞ。確かに私の発明品ではありますが、原案はあなたのものですから」

「そういうこったぁ!」

 

 

 

「なら、お言葉に甘えて……付ける名前は終幕を告げる角笛(ギャラルホルン)。私の計画において全ての最後に起動するこの装置には、ぴったりの名前だと思わないかい?」

 

 

 その言葉と同時に浮かんだ笑みは……先ほどの悪辣な物とは違い、とても儚く、それでいて万感の思いが詰まったものだった。




Tips: 終幕を告げる角笛(ギャラルホルン)……アンテノーラがゴルコンダに作らせた装置。
ターゲットとなる人物に特定のテクストを持つ人物に関する記憶を思い出せなくさせ、その上で辻褄合わせの記憶を作らせる性能を持つ。
尚、忘れさせた人物を視覚することで記憶の忘却は解除される。
アンテノーラはこの装置を改造して用いるつもりである模様。

というわけで、ゲマトリア会議回でした~
予告とは内容が変わってしまいましたが、ここでこの回入れないとパヴァーヌ2章に絡む理屈がつけられそうになかった故なので許してください……
後、以前の回でも書きましたようにこの作品での世界戦ではストーリー展開の都合上エデン条約編1章の前にパヴァーヌ2章が発生します、ご了承ください。


前書きに書いた言葉はアンテノーラの心中を表しているのと同時に、アンテノーラというキャラを設計する上で私が参考にした様々な作品の悪役を指してたりします。

後アンケートの結果に従い別時間軸のアンテノーラの話を書きます、ただし本編優先なのでそこだけはご寛恕を……

次回は別時間軸ルートのお話orスバルとの改めての会議になる予定です……


お気に入りや感想、評価等いただけると作者のやる気が禁断解放しますのでよろしくお願いします〜
考察コメ等もお待ちしております〜

次話更新はどちらが良いでしょうか?(回答選択肢には誇張された表現がある場合があります)

  • 本編でスバルといちゃつけ
  • 別時間軸でアツコを誑し込め
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