当作品はストーリーの展開都合上、パヴァーヌ2章がエデン1章より先に入っています。
本来のストーリー順とは異なりますが、ご了承ください。
ミレニアムサイエンススクールを一言で表すなら?
機械仕掛けの学校。
技術屋の集まり。
ゲヘナとはまた違う自由な学校。
きっと人によって様々な答えがあるだろうし、不正解はあれども正解などは存在しないだろう。
そして、アンテノーラもまた、今この瞬間にその問いに一つの解を得ていた。
「……あれだね。新進気鋭で、技術の粋が集まってて……だからこそ、裏打ちされた技術を逆手に取られると脆い、そんな感じだね。
私の
そんなふうに呟く彼女は現在、ミレニアムの敷地内……その中でも、多くのミレニアム生が出入りするモノレールの駅であたりをそっと見渡していた。
ミレニアムに潜入していると言う都合上制服も偽造のそれを着ているため、下手にキョロキョロしてお上りさん丸出しの挙動をすれば怪しまれてしまう……ただでさえ
「とは言え、一度は名も無き神々の王女には接触したいんだよねぇ。
ただの生徒のように過ごしているって話だし、セイアの予言でも語っていない内容なら今は捨て置いても良いんだろうけど……その正体が正体だしなぁ」
……名も無き神々の王女。
かつて無名の司祭によって作られた存在であり、キヴォトスを滅ぼすために作られたオーパーツ。
いくら生徒を利用するような倫理観のゲマトリアといえど、キヴォトスに滅びられるのは流石に困る……
それに、アンテノーラにとってはキヴォトスの存続はそも
故に、知らぬ間に勝手に滅びられては困るのだ。
「……補習授業部設立時期はナギサと相談して決めている。それまでの間にうまく解決できれば良いんだけどねぇ……」
そんなことを呟いていると、ふと頭が重くなったような感覚がアンテノーラを襲い、同時に軽い気分の悪さが胃を蝕んできた。
「熱中症……?嘘、こんなまだ夏本番にもなってない時期に……?」
……アンテノーラが言う通り、現在は春が終わった頃、いわゆる初夏ということで滅多に熱中症になる人などいない時期なわけだが……余りにもの
「痩せ我慢は得意なはずなんだけど……スバルとのデートで、私まで甘えたになったかなぁ……ああ、恥ずかしや恥ずかしや」
兎に角、倒れて目立つ前にどこかに座らないと……そう思ってふらつく足を叱咤してベンチを探していると、朦朧とした目には映らなかったのか、アンテノーラは自分よりも背の低い誰かにぶつかってしまった。
「ぐっ……」
やっばい、倒れる。
そう覚悟して目を瞑ったアンテノーラだったが、いつまで経っても背に地面と衝突した衝撃が走ることはなく……代わりに、誰かに抱き止められたような感覚が彼女の身を包んだ。
「大丈夫ですか⁉︎今、アリスが助けますからね!」
「ごめんね。ぶつかって迷惑をかけただけでも申し訳ないのに、飲み物までくれるなんて……」
少女との激突未遂から10分が経った頃。
近くのベンチでエナドリに口を付けていたアンテノーラは、自分を抱き止めてくれた少女……天童アリスにお礼を告げていた。
「大丈夫です!困っている人を助けるのも勇者の仕事ですから!」
「勇者か……良いね、大事なものを守る素敵な在り方だよ」
アリスの天真爛漫な回答に微笑みながらそう答えるも、アンテノーラの心中は酷くざわついていた。
(天童アリス……黒服の報告が間違ってないなら、彼女こそがかの『名も無き神々の王女』のはずだけど……なんというか、毒気を抜かれるなぁ)
何せ全くキヴォトスへの悪意は感じられないし……むしろ、誰かを助ける勇者としての在り方を望む始末だ。アンテノーラとしては
(……とにかく、今は体を休めつつもこの子から色々聞いてみないと。幸い今は『名も無き神々の王女』としての使命を果たす気がない……というか、自分がそうである自覚すらなさそうだし、今のうちに布石を打てれば……)
「…… それで、君はアリスちゃんっていうのかな?」
「はい、ゲーム開発部の天童アリスです!病人さんは、なんていう名前なんですか?」
「病人さんって……そうだね、ボタンって呼んでほしいな」
「ボタン、ですね!コントローラーのボタンでしょうか?」
「いやぁ、どちらかというとお花だね。ほら、このお花」
元気いっぱいでかつ天然なアリスに少し振り回されながらも、アンテノーラはスマホで牡丹の花の写真を検索してアリスに見せてやる。
「綺麗なお花ですね!これがボタンの名前の由来ですか?」
「ん〜どうだろ、当たらずも遠からず、かな?」
「……?どういうことですか?」
「実はボタンって名前につく花は他にもあってね。こっちが由来って感じ」
そうして別の花の写真を映し出してアリスに見せると、為つすがめつ観察された後興奮した様子で話しかけてきた。
「似てますが、違う花です!こんなお花たちもあるんですね!」
「そうだね。今見せた花……天竺牡丹っていうのが私の名前の由来だね。まぁこれだけだと天竺の要素がないからあれだけど……説明が面倒だから今回は見逃してくれると嬉しいかな」
「むむ……気になりますが、分かりました。それで、ボタンはこの花が好きなんですか?」
「そうだね。花としても綺麗だし、これをモチーフにした香水も好きだね。そうそう、後は花言葉なんかも……」
「”おーいアリス、そこにいるのかな?”」
突如会話の間に割り込んできた声にアンテノーラは警戒を強めたが……逆に、アリスは嬉しそうな表情でそちらの方へと視線を向ける。
果たしてその視線の先にいたのは……アンテノーラがミレニアムに潜入したもう一つの理由でもある、かの先生の姿だった。
「先生!来ていたんですね!」
「”うん。ゲーム開発部のみんなに会いに行こうと思ったら、アリスの声が聞こえたから……ところで、そこの子は?”」
「……初めまして。私のことは、ボタンって呼んでくれると嬉しいです」
「”ボタン、だね。アリスと知り合いなの?”」
「いえ、少し体調を崩していたところを助けてもらいまして……」
「今にも倒れそうだったので、肩を貸してここまで連れてきました!」
「”偉いね、アリス。それで、ボタンの体調はどうなの?”」
「立ちくらみみたいなものです。普段自分の研究ばっかりで、碌に学校にすら行かない生活をしてたバチが当たりましたかね」
「”健康に気をつけて、運動もしないとダメだよ。今日みたいに助けてくれる人が常にいるとは限らないんだから”」
「なるほどその通りですが……先生が所属するシャーレも相当忙しく、仕事に忙殺されていると風の噂で聞きましたが?先生こそ、休めているので?」
「”うっ、それは……というか、そんな話まで流れてるの⁉︎”」
「ええ、私の耳に届くくらいまで」
そんな会話……『ボタンと呼んで』だったり、『碌に学校に行かない』などと嘘にならない程度に誤魔化しを交えた会話を続けながら、アンテノーラは表面上はクスクスと笑いつつも、内心では冷静な視点で観察していた。
(……これが先生……なるほどどうして、話してみるとその優しさや甘さがよくわかる)
悪い人ではない、むしろ底抜けの善人。しかも生徒たちからの信頼も厚いときた。
敵対すれば絶望的な一方、うまく操れば最強のワイルドカードになりうる……そんなことを思っていると、先生からはまるで普通のことかのように、しかしアンテノーラ視点では余りにも意外な提案を持ちかけられた。
「”シャーレのことを知っているんだったら、よければ今度見にきてみない?もしボタンが良いなら、所属してくれると助かるんだけど……”」
「……私が、ですか?」
「”うん。君がいうように実際仕事は忙しいから手伝ってくれたら嬉しいし……それに、ボタンも外に出ていろんな生徒たちと会う、良い機会になるんじゃないかな”」
(……私の正体を知らないからとは言え、無防備過ぎません……?)
「……いえ、止めておきましょう。私の長年の研究も割と佳境に入っている今、シャーレの二足の草鞋にして中途半端にはしたくないので」
「”そっかぁ……でも、もし研究がひと段落したら、一度シャーレに遊びに来てほしいかな”」
「ふふっ、そうですね……」
先生からの『未来』の話に表面上では肯定的に、内心ではどこか
「その時が来たら、是非」
アリス、そして先生との邂逅から1週間。
熱心な潜入調査の末、調月リオが建造している謎の要塞都市・エリドゥの存在や位置の特定、そして天童アリスを取り巻く環境の情報こそ手に入れたものの……肝心要の、『名も無き神々の王女』についての情報はほとんど手に入らなかった。
「参ったね……セイアから未来を聞き出すことができない今、いつ何が起きてもおかしくない状態から変われないんだよねぇ……」
ミレニアムの校舎……その中でも滅多に使われていない教室にてアンテノーラは自らが集めた情報や推測を纏めた資料を読んでいたが……どうにも前に進まない状況にヤキモキしながら水を一口飲んでいた。
彼女にとって最も重要な事柄であるエデン条約。
ただでさえそれの途中に不穏な厄災の種が残り続けるのは御免なのに、しかもそれがキヴォトスの存否に関わるものなんて……と暫く頭を抱えていたが、突然吹っ切れたように前を向くと、小さな声で呟いた。
「……天童アリスにもう一度会おう。先生との邂逅があったから詳しくは聞き出せてないんだし、今からでも遅くはないはず」
そう言って教室を出た彼女の目に映ったのは。
「……え?」
意識を失い、大慌てでミレニアムから運び出されている才羽モモイ……そしてそれに付き添う先生や多くの生徒たちの姿だった。
「……やられた。まさか外部に起動装置……いや、起動ソフトと言うべきか?があるタイプだったか……」
モモイが運ばれているのを目撃してから暫くして。
彼女の身に何があったのかをどうにか状況証拠や目撃情報から推理した限り、どうやら『名も無き神々の王女』には起動のための
「……キヴォトスを滅ぼし得る以上、セーフティは必要……なんでそれに気づかなかったんだ、私は……!」
自分の知らないところで、自分が何かしら干渉できたかもしれない事故、事件が起こる。
それはどうにも悔しく、やるせない感情を生み出すものであり……そしてそれは同時に、ある種アンテノーラにとっての
幸いなことにアンテノーラは、未来を知るはずのセイアがこの件について言及していないと言う前提を知っている……つまりはこの件がキヴォトスを滅ぼすことはなく、きっと先生が解決してくれるのだろうと言うことが予想できる。
と言うか、むしろ下手に手を出して未来を狂わせてしまう方が危険なのだろう。
が、しかし。
「……『名も無き神々の王女』と言う存在について知っていたのに対処できなかった、これは私の責任でもあるか……」
ミレニアムの前に立つものとして、ミレニアムを、キヴォトスを救うためにどれだけ嫌われようともアリスのヘイローを破壊すると言う責任を負ったリオほどでは無いにしても……自らも、知識が多少なりともありながら動けなかったことに対する責任を取らなければならないと思考を進めていた。
知識ある者としての責任感、キヴォトスの存在が前提であるゲマトリアとしての義務感、そして彼女自身が抱えているトラウマ……それらで混ざり合った思考回路を回し続けた後、アンテノーラは能面のような真顔でたった一言、呟いたのだった。
「……今度こそ。せめて、天童アリスに会いに行こう。私のような碌でなしに、ならないようにするためにも」
……リオがついに行動を起こし、アリスを捕らえてエリドゥに連れてきた直後。
アンテノーラもまた、単独にてエリドゥへの潜入を果たしていた。
「認証装置だのなんだのでロックを随分と仕掛けてくれたけど……
そう言いつつエリドゥに入った彼女は周囲を見渡し…… 中央に立った、大きなタワーに目を向ける。
「順当に行けば、あそこにいるだろうけど……調月リオに顔を合わせかねないか。とは言え天童アリスの破壊を目的にしている以上、さっさと行かないと間に合わない……!」
わずかな逡巡の末、アンテノーラはタワーへと足を進める。
無論、多数の監視がある以上そう簡単には進めないわけだが……
「監視カメラも、生体認証も、所詮は姿形や肉体の在り方を見極め、問うだけの木偶……そんな物、
そう言うと同時にアンテノーラはタワーへと駆け出す。
時に高所へと登って監視カメラの目を奪い。
時に地を張ってセンサーを躱し。
そして時に、監視カメラや生体認証等のロック全てを
そして、時を同じくした頃。
天童アリスは、心の底から悲しんでいた。
自分がこれからヘイローを破壊されること。
自分がモモイを傷付けてしまったこと。
自分がミレニアムにとって『魔王』の如き存在であったこと。
そして……自らを壊そうとしている調月リオの言葉も理屈も、理解できてしまうこと。
もしリオの言うそれが理不尽なものだったのなら、反抗できたのかもしれない。
だが、彼女の言葉は不思議なほどにアリスにとって納得できてしまう内容であり……きっと、事実であろうことも理解できた。
ゲーム開発部のみんなと一緒にいたい。
勇者として生きていたい。
そんな想いが浮かんでしまうたび、現実とぶつかり合って苦しくなってしまう。
今はまだリオの準備……アリスのヘイローを破壊するための機械の最終調整が行われているが故に、完全な隔離部屋の中とは言え意識を保っていられるが……もう直ぐ、それもできなくなってしまうのだろうか。
そんな思考に支配されてまた悲しみに襲われそうになった、その時だった。
「……ボタン、ですか?」
「ご名答。最も……今の私は、『ボタン』としてきているわけじゃ無いけどね」
突如部屋の扉が開き……そしてそこには、10日ほど前に出会ったボタンと名乗る少女の姿があったのだった。
Tips:ボタン……前話でも書いた通りアンテノーラの変装。
ミレニアムの制服の上に白衣という服装で、髪色が黒色になっており、銀縁の眼鏡をかけている。
と言うわけで、パヴァーヌ2章突入編でした〜
次回がアリスとの会話回、その次で先生と『アンテノーラ』の初邂逅を書きたいつもりですが……予定は予定、大きく変わるかもしれませんのでご容赦を……
今話でアンテノーラの
もし興味があれば、ぜひ継続して読んでくださると嬉しいです。
お気に入りや感想、評価等いただけると作者のやる気がSSS級侵略しますのでよろしくお願いします〜
考察等もお待ちしております〜
以前アンケートで決定した分岐世界のアンテノーラに関する短編ですが
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今描いてるパヴァーヌ2章後に書いて
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エデン条約編が完結した後に書いて