「さて、私の過去話も終わったことだし……そろそろ、今からの話をするべきじゃないかな?」
アンテノーラが自らの過去……ノルンという名前で生きていた時の話を粗方語り終え、ひと段落ついたころ。その場にいたリオとアリスが何も話し出さないのを見かねてか、少し気まずそうな表情ながらもそう提案した。
……もっとも、沈黙したくなるような気分にさせられた原因の本人には言われたくなかったのか、珍しくリオが頭が痛そうに目元を押さえながら口を開く。
「……こんな空気にしたあなたがそれを言うのかしら?」
「私の過去を嘆いてくれるのは悪くない気分だけど、生憎時間もないでしょ?もう直ぐ先生が来るかもしれない今、アリスをどうするかは決めないとでしょう?」
「……どうすると言っても、私の方針は『名も無き神々の王女』の破壊から変わっていないわ。
ここで3人で話していて、確かにAL-1Sにおける『天童アリス』としての人格がキヴォトス滅亡を望んでいないことくらいは察したけれども……それでも、再度暴走を起こしてキヴォトスの破壊が起きたらどうしようもない」
「……そうだね。本当に、それはそうなんだ」
頭が痛いと言わんばかりに額に手を当てながら、アンテノーラは近くの椅子に座り直す。
何せリオの言っていることは間違っていない……と言うか、全くの同意見なのだ。
アンテノーラからすると『天童アリス』は少しぶっ飛んでいるところこそあるものの、誰かの役に立ちたいとかんばっている健気な少女である……それこそ破壊、殺害なんてもっての外だと思っている。
だが、その一方でどうあがいても彼女は『AL-1S』でもあり、『名もなき神々の王女』なのである。
それが内蔵されているプログラム故のものであれ、想像通り外部に
当然であるが、キヴォトスが滅べばそこに属する
「やっぱり、アリスは魔王で……倒されるべき存在、なんでしょうか……」
逃れがたきこの先の未来、そして自らの生まれた意義を考え、悲しげな声でそうつぶやくアリスだったが……それに対し、アンテノーラは悲しげながらもかすかなほほえみを浮かべつつ口を開いた。
「……そこのリオは君のことを魔王って喩えたみたいだけど。私からすると君は魔王というより『魔王の血を引いた勇者』、なんだよね」
「魔王の血を引いた……勇者?」
「そ。君自身は勇者として生きてたいと思っているけど、生来持っている
「……確かに、喩えとしては正確ね」
こくりと頷いてくれるリオにクスリと笑みを漏らし……そして、アンテノーラは二人に背を向けながら再度語る。
まるで、アリスが勇者として生きるべきか、魔王として破壊されるべきか……どちらに感情が傾いているかを、隠すかのように。
「そして、魔王の血への対抗策としてリオはアリスごとその血脈を断とうとし……ゲーム開発部や先生たちは、それは横暴だと止めに向かってきている。果たして彼ら彼女らがアリスの問題を解決できる方法を持っているかは分からないけどね」
「そうね。少なくとも私は天童アリスのヘイローの破壊以外でこの件を低リスクで終わらせる方法は思いついていないわ……もう少し時間があれば、何か変える方法もあったのかもしれないけど」
「まぁ、それは過ぎたこととしか言えないさ……というか、問題はそこじゃない。私が言いたいのは……
「それは……つまり、貴女が懸念しているのはそこじゃないってことなの?」
「
リオの答えにアンテノーラはニヤつき、拍手をしながらそう答えるが……賛辞を受けた側のリオ、そして側から聞いていたアリスからすると意味不明でしかなかった。
何せ今の発言はこの状況下でどちらにつく気もないのにこの場に居座っていると言うのと同義である……まさか、本当にアリスを励ますためだけにきたのだろうか?とリオが首を僅かに捻りながら考えていると、逆にアンテノーラから問いかけが返ってきた。
「先に一つ聞きたいんだけど……リオ、アリスのヘイローを破壊する算段そのものはついているみたいだけど、安全な実行までにはまだ時間がかかるんじゃない?」
「……ええ。そしてその調整の途中に、きっと先生たちは来るのでしょうね」
「うんうん。ところでそんな状況下で一番まずいことって何だと思う?」
「……アリスが、キヴォトスを滅亡させてしまうことですか?」
「半分正解。正解は、
アンテノーラの答えは、リオにとって想定外……ではなく、むしろもともと直面している問題であった。
何せ先生が来なかったとしてもヘイロー破壊の準備中に全てが始まってしまう可能性だってあるのだ……トキが対応しようとしてくれるだろうが、必ず上手くいくとは言い難い。
しかも現実には先生やゲーム開発部、C&Cまでアリスを取り戻しに来るのだ……リオもトキも対応できない
「貴女がそれを懸念しているということは……」
「お察しの通り。私は君と先生たちが戦っている間、そして先生たちがアリスの問題を解決する前にアリスが暴走した時……アリスのヘイローを、破壊するためにここに残っている」
アンテノーラは2人に背を向けたまま、しっかりとそう口にしたが……ほんの僅かにだが、その声は震えていた。
「ノルン……」
「アリス。私は別に君に死んでほしいわけじゃない……むしろちゃんと才羽モモイに謝って、再度勇者としてこの先へ進んでいってほしいと心底思っている。
でも……キヴォトスを、
「……はい」
「ある種、私は究極のどっちつかずなのかも知れない。でも、私がいる限り……キヴォトスを、滅ぼさせはしないよ。
その言葉と同時にアンテノーラは振り返り、同時に真剣な表情で見定めるようにリオの方に体を向ける。
「リオ、あくまで私の存在は万が一の場合の強引なセーフティでしかない。だから万が一の際に私がアリスを破壊した場合、何も悪影響がないとは言えない……だから、君は君で正しいと思う道を進みな」
「……言われるまでもないわ。ここでの話を通して、感情面において何も思わないのかと言えば嘘になるけれど……それでもキヴォトスを……そしてミレニアムを滅亡から防ぐにおいて、最も合理的な手を取ることがミレニアムの生徒会長としての役目だもの」
リオのその言葉を聞いてアンテノーラは頷き……そして、最後に、と前置きをしてからゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……きっと、もっと良い方法があったのかも知れない。時にリオ、君に関してはセミナーやゲーム開発部にもっと早くからコミュニケーションをとっていれば、たとえ破壊を渋られても他の解決方法を見つけることには協力してもらえただろうし……私にしたって、『名も無き神々の王女』の存在を知っていた以上、もっと主体的に動けていた部分はあった」
「……耳が痛い話ね」
「だけど……たとえ今後悔しても、そして罪悪感や義侠心からアリスを解放しても、それでキヴォトスが滅べば元も子もない。
だから今は、私たちは動き出すしかない……私は中立的な立ち位置にいることしかできないし、アリスが破壊されることを良くは思えないけど……それでも、君がキヴォトスのことを想って動いているのを理解していることだけは伝えておくよ」
「……分かったわ。天童アリスのことは……そして、『AL-1S』のことは任せたわよ」
「了解」
その会話を最後にリオは中央の部屋へと戻り……アンテノーラは、アリスの方へと向く。
「改めて、申し訳なかったね……少なくとも『天童アリス』にはこんな目に遭う筋合いがないのは分かっている。それでも私には……」
「……分かっています。アリスがゲーム開発部や先生たちを大事に思っているのと同じくらい、ノルンは故郷を大切に思っているんですよね?」
「……ああ」
「だったら、謝らないでください。ノルンはただ、守りたいものを守るために動いている……勇者みたいな人ですから」
(勇者、か……私みたいな悪党には、一番似合わない言葉なんだけどね……)
却ってアリスから慰められ、そこで言われた自分への言葉に苦笑し……そして大事なことを言うと呟くと、その表情を真剣な顔に戻す。
「……改めて、言っておくね。私は先生とリオ、どちらかによって君のキヴォトスを滅ぼし得ると言う脅威が一時的以上に無効化される……それまでに君が暴走したら、君のヘイローを破壊してでも止めにかかる。逆に言うと、それ以外の理屈で君のヘイローを破壊するつもりはない……信じられるかどうかは分からないけど、宣言しておくよ」
「アリスは、ノルンが言ったことを信じます」
「へぇ?初めて会った時には名前を偽り、過去に至っては故郷を裏切った私を信用できるの?」
「……アリスがノルンと初めて会った時、ノルンは『ボタンって呼んでほしい』って、言ってましたよね?」
「ああ、だから信用なんて……」
「なんでその時、
そういえば、アリスは間違いなく信じていたのに」
その指摘に……アンテノーラは驚いたように目を見開き、そして軽く頭を押さえながら小さく溜め息を吐いた。
「あぁ……もしかしてバレてる?可能な限りとはいえ
「はい。ノルンは誤魔化すことはあっても、嘘はつかない人だって、アリスは思いました」
「はは……やっぱりこういう言葉遊びは純粋な子には効きにくいのかな?全部気づかれちゃってるや」
自嘲するように苦笑するアンテノーラだったが、それを無視するかのようにアリスはアンテノーラへと目を合わせる。
「だから、本当に切羽詰まってしまった時以外、アリスのヘイローを破壊しないこと……それを信じたうえで、リオとみんなの決着がつくまでここにいます」
「……分かった。じきにリオによって一度眠らされるだろうけど……もし、君がまた目を覚ませたなら……その時は、さっき言った『お礼』を用意しておくよ」
「……はい!」
その言葉を最後にアリスに接続されていた機械が動き出したのか、アリスの意識はぱたりと失われてしまった。
「アリス……君が無名の司祭によって背負わされてしまった重荷に心からの悲しみを。そしてリオ……君が立場故に背負わざるを得なかった責任に、心からの同情を。この程度のことしか言えず、君たちに手を貸せない屑で申し訳ないけど……せめて、思いだけは届くように、ね」
そう呟いたアンテノーラの顔には、沈痛なる悲しみ……そして、自分のようにだけはなってくれるなと言う切実な願いがこもっていたのだった。
リオが発ち、アリスが眠りに落ちてから数十分が経った頃。
アリスの側にて彼女に問題がないかを確認しつつ、カメラで外の様子を伺っていたアンテノーラは外の様子……調月リオが用意した関門であるアヴァンギャルド君やアビ・エシュフを装備した飛鳥馬トキが突破されていくのを見て、複雑そうな表情で唇を歪めていた。
「……セイアの予言でこの件が触れられていなかった時点で、こうなることが予想できていなかったわけじゃないけど……そうか、リオが負けたのか……」
そう呟くと同時にアンテノーラは溜め息を吐いていた。
倫理的な、そしてアンテノーラの個人的な思想的な観点からすると、リオが負けることは喜ばしいことでなければならないのだろう。
だが、リオもまたミレニアムを、キヴォトスを大切に思っており……それを救うために動いた結末にしては、あまりにも酷ではないかともアンテノーラは考えていた。
(きっと、先生はリオの在り方を一切受け入れないでしょう……確かに、1人で突っ走ってしまった部分は責められるべきでしょうし、私も咎めはしました。でも、こんな結末は……)
「……後でもう一度リオに会っておこうか。それと、先生にも……
そう言いながらアンテノーラはその姿を壊れたAMASのものへと変え、部屋の片隅にて先生たちが来るのを静かに見守っていくのだった。
Tips:アンテノーラ、『無貌のロキ』なんて力を持っていながら実は嘘を吐くことを強く忌避している。本当のことを隠すことはいくらでもする一方、明確に嘘を吐くことは滅多にしない。
というわけで、リオ及びアリスとの会話回でした~
今話はどちらかと言うとアンテノーラのスタンスを示す回になりましたね……正直内容が重過ぎて書いてて消費カロリーがエグいです。
そして重要なことのためここで先に書かせていただきますが、
この先のkeyによるエリドゥのハッキング〜アリスがkeyから意識を取り返すシーンは全編カットとなります。
と言うのも基本的には原作沿いでありアンテノーラは動かなかったこと、原作からの変化部分は回想にて十分補完できること、本編で書きたい内容がそこにはほぼないことから書く必要が薄いと判断した為です。
いよいよ次話は遂に先生との初対面となりますが……あらかじめ断っておきますと、恐らく今作一番のアンチ・ヘイト回になります。
読む・読まないの判断は皆様にお任せするしかありませんが、どうかご了承ください。
あと正直今回ばかりは週一投稿守れるか心配です。
タイトルは
それと、今話の内容について以前の回に矛盾点が一箇所存在していたため修正いたしました。
詳しくは『#18
お気に入りや感想、評価等いただけると作者のやる気が超天フィーバーしますのでよろしくお願いします〜
考察等もお待ちしております~
以前アンケートで決定した分岐世界のアンテノーラに関する短編ですが
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今描いてるパヴァーヌ2章後に書いて
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エデン条約編が完結した後に書いて