前話後書きでも書かせていただきましたが、
keyによるエリドゥのハッキング〜アリスがkeyから意識を取り返すシーンは当作では全編カットしております。
そのため前回の終わりからの繋がりが若干おかしくなっているように思われるかもしれませんが、ご容赦いただけると幸いです。
そして、今話は原作先生に対するアンチ・ヘイト要素が多分に含まれております。
そう言った要素が嫌な方は後書きまで飛ばしていただけると幸いです。
ミレニアムで起きた一大事……天童アリスの連れ去り、要塞都市『エリドゥ』の攻略、そして『名も無き神々の王女』によるキヴォトス滅亡の阻止から、1週間が経った頃。
先生はミレニアム学区内の公園の東屋にて、ようやく少し落ち着いた現状に小さく溜め息を漏らしながらコーヒーを飲んでいた。
「”あれからアリスやモモイ達の仲もより深まって……これで、ひと段落なのかな?”」
勿論、まだ残っている問題は幾つもある。
例えばアリスの中にまだkey……ケイが残っているかは不明である。
かのAIがいまだにキヴォトスを滅ぼすつもりなのかは定かではないが……少なくとも、用心をする必要はある。
それに、失踪してしまったリオと、置いて行かれてしまったトキのこともある。
トキに関してはC&C、そしてヒマリに迎えられているようだが……いなくなってしまったリオのことは、不安である。
そして———
「”リオが言ってた、『彼女』……一体、誰だったんだろう……”」
そう言いながら、先生は当時……エリドゥ内にてリオと相対した時を思い出す。
『……やはり、こうなるのね』
『貴女達の想いを否定はしないわ。少なくとも【天童アリス】はゲーム開発部の一員であり、勇者である事を望む1人の少女であることくらいは理解しているから』
『貴女達が抱く怒りや悲しみが、分からないわけじゃない……彼女との会話がなければ、気づけなかったことだけど』
『だからと言って、感情に寄り添って未来を投げ捨ててしまったら、大切にしたはずの感情すら失うことになる』
『だから私は……失敗や喪失の後悔を喰らうことが分かっていても、未来に繋ぐために最も合理的な方法で、キヴォトスを滅亡から防ぐ』
モモイがリオに啖呵を切ってトロッコ問題の比喩に反論したあと、そのリオが答えた言葉……その言葉の中に、先生の心を突き刺すものがあるのを感じるが……今目を向けるべきはそこではない。
「”……リオにアリスのことを諭したのは、誰?”」
徹底した合理主義者で、アリスのことをキヴォトスを滅ぼす『名も無き神々の王女』とみなしていたリオ……そんな彼女が、最終的な結論こそ変えなかったとはいえ『天童アリス』を一人格として認めていたあたり、何かしらの変化があったように思える。
そしてそれに唯一関わっていると考えられるのがリオの言う『彼女』なのだ……最初こそトキのことかと考えたが、様子を見ていくうちにそれが違うことはすぐに察せられた。
だとしたら、一体誰が……
「それは、私です」
「”……⁉︎”」
突如思考に割り込んでくるような声に驚いた先生が横を振り向くと……そこには、黒いドレスに狼の面、白髪のロングヘアと一度見たら忘れられないような姿をしている女の姿があった。
初めはワカモと同じように仮面を着けるのが趣味な生徒かと思ったが……その超然とした態度に先生はどこか、かつて対峙した
「……君は、誰だい?」
「失礼、申し遅れました……
初めまして、こんにちは。私、ゲマトリアのアンテノーラと申します。
歓迎はされないでしょうが、どうか、お見知り置きを」
挨拶を終えると同時にカカと不気味な笑い声を漏らすのを見て、先生は黒服の「ククッ」と言うあの声を思い出し……同時に、過去に彼が言っていた言葉も想起した。
『もし、あなたの前にアンテノーラと名乗る女が現れたらご注意を。彼女もまたゲマトリアですが、あなたのような人はとても好きな一方、大嫌いでしょうから』
(“やっぱりゲマトリアだった……しかも相手は話には聞いていたアンテノーラ。
黒服に言われた時点で覚悟していたとはいえこんなにも早く相対するなんて……”)
驚きつつも即座に警戒体制に入った先生は改めて目の前の女に目を向けるが……仮面をつけているせいで表情はほぼ分からず、唯一わかるのはニヤついた口元のみ。しかも当のアンテノーラはニヤついたまま何も動かず、出会った直後でありながら完全に膠着状態に陥っていた。
「”……ミレニアムに、何の用かな。もしアリスのことを利用しようと考えているんだったら、もう既に手遅れだよ。もうアリスは、『王女』としてじゃなく、『勇者』として生きていくから”」
「酷いですね、ゲマトリアは理由がないと動いてはいけないと?」
「”悪いけど
「う〜ん、それはそうとしか言えないね……まぁいいや、私がここに来たのは先生、貴方に会うためですよ」
「”……私に?”」
あからさまに警戒を見せる先生にアンテノーラは苦笑する。
(……さて。ここからは先生を少し上げて、ドカンと落として、怒らせて……しっかり、
「そう。貴方に万感のお礼と……そして、ほんの少しの当てつけをしに来ただけですよ」
「”お礼、当てつけ……”」
「そ。まずはお礼として……キヴォトスを滅亡から救ってくださり、本当にありがとうございます」
ドレスの端を持ち、礼儀正しくお辞儀をするアンテノーラ。
しかし先生はその振る舞いに誠意はほとんど感じず、むしろ悪意……白眼視や、冷笑と同じような雰囲気を感じ取っていた。
「”……どうにも、本当の感謝には見えないけど”」
「いやいや、感謝はしていますよ、本当に。何せ私たちゲマトリアはキヴォトスがなくては存在意義を失う……それに私個人としてもキヴォトスでやるべきことがありますから、キヴォトスを救った英雄とも言える貴方に、感謝をしないわけないでしょう?」
アンテノーラの仮面の下から覗く口元はさらに歪み、まさにせせら笑う様な形へと変わる。口では褒めつつも内心は違う……先生にはそうにしか感じられず、どうにも居心地が悪い。
しかしその一方でアンテノーラはアンテノーラで、その内心は先生の想像とは少し違うものだった。
(嗤え。先生の在り方において気に食わない部分を想像し続けて嫌われる様な嗤いを浮かべ続けろ。決してキヴォトスを救ったこと……しかも、肉体的な部分において言えば人的被害ゼロで解決したことを、
嫌われ、疑われ、相当の
そう言った狙いに気づかれることは……絶対に、避けなければならない。
故にアンテノーラは先生への悪感情を想像し続けて表情を歪め続ける。
(……まあ、だからと言って納得のいかない部分はあるし、そこは問わせてもらうけど)
「”……キヴォトスを救うためにしたことじゃ、ない。ただアリスを助けたくて……”」
「知ってます。天童アリスを救うために皆で調月リオと飛鳥馬トキ、
そして同時に、
「”……!それはっ!”」
堰を切ったように……もしくは内心で引っ掛かっていたものが刺激されたかの様に先生が強く反応したが……実際にリオやアリスたちと話したことで悲しみ、そしてやりきれなさで既に満ち溢れていたアンテノーラの言葉は止まらなかった。
「違うとは言わせませんよ。彼女は確かに無慈悲にAL-1Sである天童アリスを破壊しようとしました……しかしその一方で皆から嫌われてでも、憎まれてでもミレニアムを、キヴォトスを救おうとしていた。
もし貴方が天童アリスを救った理由の一つに先生としての責任があるのだとしたら……彼女の覚悟もまた、理解できるんじゃないです?」
「”……”」
先生は何かを言おうとして……しかし、何かを言うことはできなかった。
リオに寄り添えていなかったこと……それは、アリスの一件が終わってからずっと先生の心を苛んでいたことだった。
今考えても、リオのやり方……アリスを犠牲にすると言うやり方は正しくなかったと思っているし、アリスを助けたことそのものに後悔なんて一切ない。
だが……リオもまた、苦しんでいたのではないか。
確かに過程や結論に正しくなかった部分があったとは言え……それでもなお、リオも大切な生徒の1人のはずなのに、その必死な思いを無碍にしたのではないかと言う罪悪感が先生の心を蝕んでいた。
「私は碌でなしの悪党です。彼女みたいな覚悟もなければ、責任に向き合う度胸すらない。
それゆえ私はエリドゥの一件において中立という立場で調月リオに接触し……そしてだからこそ、私はミレニアムを大事に思うあの覚悟に魅せられた。
そんな覚悟が…‥
別に貴方が成した功績は何の曇りもない素敵なものでしょう、だって私ですら認めるんですから
!
でも……その過程にあった輝ける覚悟を、神の如く……いや、まるで主人公の如く屠っていく様は納得がいかないんですよ!」
勢いを緩めず畳み掛けられるアンテノーラの言葉に、先生は歯を食いしばる様にして内心に広がる痛みを堪えつつ……同時に、黒服が言っていた言葉の意味をようやく理解した。
(“なるほど……私のことが大嫌いでしょうって、そう言うことか……”)
黒服が契約、そしてルールを重んじて行動をしていたのと同じ様に……目の前のゲマトリアは、責任や覚悟を重んじているのだろう。
たとえそれが生徒であれ大人であれ、責任に向き合うことを何よりもの美徳とし……その在り方に、劣等感すら感じているように見える。
「もしかしたらここが貴方と私における一番の違いかもしれませんが……私にとって、
故に私は、覚えてもいない使命という責任を負わされかけた天童アリスを嘆き……そして、覚悟を見せた調月リオに尊敬すら抱いた。
もしかしたら本当に全てを救ったあなたを見て調月リオは変わりつつあるのかもしれませんし、それを否定するつもりもありませんが……それでも、あの瞬間の彼女の覚悟は否定されるべきものではなかった……まぁ、こんな当てつけ、すべてがうまく言った時点でどうでもいいんでしょうけどね」
いつの間にか口元に浮かんでいた嘲るような笑みは消え、真意を述べるかのように滔々と話すアンテノーラに……先生は、どうしても気になあったことを一つ尋ねる。
「”なら……なんでリオに『天童アリス』について教えたの?リオの覚悟がぶれるかもしれないのに”」
「理由のうち半分は成り行きで。もう半分は……そうしないとフェアじゃないと思ったから、ですかね?」
「”フェアじゃない?”」
「
思考を辞めたら私みたいに成り果てちゃいますからねぇ、と自虐しながらアンテノーラは先生の質問に答える。
だがその僅かに戯けた口調とは裏腹に……アンテノーラの内心は焦りに包まれていた。
(……批判しようと急きすぎて不必要なことを話しすぎたかな、まだ嫌われきれてない……これだと変に同情されて計画ご破算もある……なにか、怒りや殺意を差し込ませられるタイミングは……)
そんな誰にも理解されないような葛藤を内心で抱えている最中、先生がさらに気になったのかとあることを……アンテノーラの意に沿い、二人の関係を完全に断絶させるきっかけの言葉を発してしまった。
「”……そこまで責任や覚悟を重んじるなら、なんでゲマトリアに入ったの?生徒のことを研究のための対象としか見ていないような組織に、あなたのような考えはそぐわないように見えるけど”」
その質問にアンテノーラは口元を再度悪辣に歪め……そして
「言ったはずですよ、先生。私は悪党に過ぎない……覚悟もなければ、責任に向き合う度胸すらないってね」
「”自分を最初から見放してるってことかい?”」
「ええ。それに……
ゲマトリアに入る以前から、疾うにこの手は生徒の血に染まっています故、ね」
「”な……”」
「勘違いしないでいただきたい。私には確かにある程度の倫理観はありますが……目的のためなら、いくらでもそんなもの無視できます。
貴方は調月リオのことを独善と言いましたが……キヴォトスすべてを救おうとしていた彼女を独善というなら、私はいったい何なのでしょうね?」
「”お前……!”」
アンテノーラの想像通り、先生は怒りを露にする。
当然だ、すべての生徒の味方になろうとしている存在だ……たとえその傷つけられた生徒が見知らぬ誰かであれ、彼の守りたい対象なのだろう。
(……その見知らぬ生徒というのが、
「随分とお怒りのようで。そんなに腹が立ちますか?殺してやりたいくらいに?それはそうでしょうなにせ……」
「”……もう、いい”」
先生の、普段なら絶対に生徒相手には見せないであろう冷たい声にアンテノーラは内心で歓喜する。
(完全に思惑通り……これなら、
「話している途中は、もしかしたら私とは相容れなくとも生徒たちの味方になってくれる人になるかもしれないと思っていた……でも、それは間違いだった。
「……ええ、ええ、貴方ならそうでしょうとも!
どうします?この場で私を殺してみますか?幾ら先生といえども、護身の銃くらいは持っているんでしょう?」
「”……いいや。生徒たちの教師として、誰かを殺すつもりはないし……それに、ゲマトリアであるお前が何も備えなしに私に会いに来るとは思えない”」
「……後者に関しては、まあそうですよ?これでもゲマトリアの中では武闘派ですから」
「”やっぱり……って、後者『は』?”」
思いがけない言葉に困惑する先生だったが……その様子を見るアンテノーラの目は、ひどく冷め切ったものだった。
まるで期待外れのものを見るその目は……仮面の隙間からそれに気づいた先生を、僅かにだが思わず仰け反らせるほどの冷たさで、かつ感情の映らないものだった。
「……先生として、生徒に見せられない姿をしたくないと言うその意気は分かりますがね。悲しいかなキヴォトスには私ほどじゃないにしても悪党はいますし、外道もいます。
それらが生徒に手を出した時を考えて……殺す覚悟くらいは、持っておくべきでは?とね」
「”余計なお世話だ”」
「それは残念。では、今回はそろそろ大人しく引かせていただきましょう」
そう言ってアンテノーラは後ろを向いてその場を立ち去ろうとして……何かを思い出したかの様に足を止める。
「先生、最後にちょっとした予言を聞いてもらいましょう」
「”どうせ、碌でもない予言だろう?”」
「カカッ、まさか。寧ろ貴方にとって素敵な予言ですよ……
『貴方は未来、大切な生徒たちと共に笑顔を浮かべながら、悪で灯されたエデンへの道を歩くだろう』、ってね。
それではさらばです。また邂逅する時を、互いに唾を吐き棄てながら待ちましょう」
そう言って東屋から本当に立ち去り…… 少なくとも、先生がその場を離れるまでは戻ってくることはなかったのだった。
Tips:悪で灯されたエデンへの道……当作のタイトルであり、アンテノーラが望む未来そのものである。
ただ、それだけなのである。
と、言うわけで先生との邂逅編でした〜
……正直、パヴァーヌ2章の原作先生については肯定も否定も出来る部分があるのでアンチ・ヘイトに絞って書くのは正直辛かったです……
次回or次々回のスバル回書きたくて急いで書き上げたのですがもし雑になってたら申し訳ないです……(因みにこっちはかなり糖度高めな予定です)
それと、前書きに従って後書きまで飛ばした方に向けて今話のざっくりとしたあらすじを書くと
先生と会う
↓
先生に感謝したり当てつけをしたりして、先生から嫌われにいく
↓
過去に自分自身にした実験を『生徒にした』と嘯き、目的通り先生から嫌われる
↓
最後に『貴方は未来、大切な生徒たちと共に笑顔を浮かべながら、悪で灯されたエデンへの道を歩くだろう』と言う予言を先生に言って別れる
と言った感じです。
正直先生に嫌われたことと最後の予言さえ覚えてれば大体は大丈夫なはずなので、この先も読んでくださるとありがたいです……
お気に入りや感想、評価等いただけると作者のやる気がO・ドライブしますのでよろしくお願いします〜
考察等もお待ちしております~
以前アンケートで決定した分岐世界のアンテノーラに関する短編ですが
-
今描いてるパヴァーヌ2章後に書いて
-
エデン条約編が完結した後に書いて