けど、悪党ってのはそんなに息苦しくは無い。
「”……ようやく着いた。確か、迎えにきてくれる生徒がいるってメールには書いてたけど……”」
ミレニアム、ひいてはキヴォトス全体の命運を賭けた一件から数週間……新しい依頼を受けてトリニティ総合学園にやってきた先生は、大きな門の前で来ると聞かされていた迎えの生徒を探していた。
見覚えのない名前の生徒ゆえ、すぐには見つからないだろうか……そんなふうに内心ため息を吐いていた先生だったが、ふと後ろから肩を突かれる感覚に気がついた。
慌てて振り返ると、そこに白い制服姿で青髪の少女が微笑みながら立っている姿が目に入る。
「見つけました。貴方が先生ですね?」
「”うん、そうだよ。それを聞いてくるってことは……もしかして、メールにあったお迎えの?”」
先生からの疑問に青髪の少女はニコリと微笑みつつ頷くと、丁寧なカーテシーをしながら自己紹介の言葉を紡いだ。
「初めまして、先生。私はトリニティ総合学園3年生、ティーパーティサンクトゥス分派の
「”クレタ、だね。私は先生。知っているだろうけど……シャーレって言う組織で、生徒のみんなからの依頼や困りごとを解決しているよ”」
「ええ、知っていますよ。先生の噂はティーパーティにまで届いていますから」
「”ティーパーティ……少し調べたけど、トリニティの生徒会みたいなものなんだよね?”」
「ええ。ナギサ様やミカ様から後で詳しく説明されるでしょうけど……まぁ、3つの派閥から成る生徒会だと思ってくだされば」
そう言いながらクレタはナギサとミカが待つ部屋へと先生を先導しはじめる。
旅行ガイドのように校内を流暢に説明するクレタに関心しつつも、もう少しティーパーティのこと……そして、クレタ自身のことも聞きたいと思ったのか、案内が途切れたタイミングで先生はクレタへと声をかけた。
「”ところで、クレタはティーパーティ所属って言ってたけど……具体的には、何をしてるの?”」
「私ですか?私は主にサンクトゥス分派首長の護衛、および調査官をしていますね」
「”サンクトゥス分派の首長って、今日私を呼んだ二人のうちどちらか?”」
「いいえ。今は体調を崩している、入院中のもう一人の首長……百合園セイア様のことです」
「”体調を……病気なのかな?”」
「私はそう聞かされています……何せ私が休暇を貰ったその日に容体が悪化したとのことでして」
しかも面会謝絶なんで会ってないんですよ、とクレタは口を尖らせながら呟く。
(“面会謝絶……いつかお見舞いに行けたらいいな”)
そんな顔も知らない少女……正確には夢で一度会っていて忘れているだけなのだが、ともかくそんな相手の容体に心を痛めていると、目的地についたのかクレタは扉の横に立ち、深々と礼儀する。
「こちらがナギサ様、ミカ様が待つ部屋になっております……どうぞ、お入りください」
それからの話は、ミカによる茶々入れを除けば極めて順調に進んだ。
「”……つまりまとめると、成績が悪い生徒4人に補習授業を行って再テストに合格するようにする。クレタは勉強の補佐をしてくれるって感じかな?”」
「ええ、その理解で間違いありません。一応、ミカさんやクレタさんから何か付け足したいことはありますか?」
ナギサによる確認の言葉に、ミカは「私はないよ〜⭐︎」とウィンクをしながら答えたが、それに対しクレタはスッと手を上げながら口を開いた。
「一応、私はティーパーティの業務があるので常に補習授業部に参加はできません……時間がある時は顔を出しますが、こればかりはどうも、でして」
「”分かった、クレタも無理はしないでね”」
クレタの言葉に、ナギサは予想外だったのか目を見開きながら彼女の方へ向き直る。
「ティーパーティの業務、ですか?私は何も与えていませんが……」
「……セイア様は、補習授業部の件と並行してエデン条約に関する調査も行えとのお達しでして。と言うか、以前からエデン条約がうまく行くように動くよう命じられていたのですが、終了期限を命じられていませんので」
「せ、セイアちゃんって結構部下使いが荒かったの……?」
「いえ、これは半分私の意思でもありますので問題はないです。なんとしてもエデン条約は為されるべきですので」
ナギサ、そしてミカからの質問に簡単に答えたところで、クレタは先生の方へと振り向く。
「すみません、先に補習授業部のメンバーを探しに行ってくれないでしょうか。少しだけナギサ様とミカ様に用がありますので……」
「”分かった。さっきリストの名前を見たけど、知っている生徒の名前があったからモモトークで声をかけてみるね”」
「阿慈谷ヒフミさんでしょう?私も以前、アビドスの一件で護衛をしたことがあるので存じていますよ」
「”うん、ヒフミのことだけど……アビドスの時、クレタもあそこに来てたの?”」
「ええ。と言っても行き道の護衛だけでしたが」
「”分かった。ヒフミと少し話すだろうから、そのタイミングで合流しようか”」
「ええ、お願いします……」
そう言って先生は席を立ち、またねと手を振りながらティーパーティの執務室から離れる。
それを見届けた後……クレタはその目を先ほどまでとは違う、ティーパーティに相応しい謀略家の如き鋭い目つきへと変えながら空いている椅子へと座り込んだ。
「……雰囲気変わったね〜、クレタちゃん」
「護衛である以上暴力装置であることは自認していますが、それはそれとしてここでやっていける程度には謀略も好んでいますので」
「それで……用とは何なのでしょうか?先生に席を外してもらったあたり、あまり明るい話ではなさそうですが……」
「ええ、まさしく……と言っても、言伝のようなものですが。もちろん、お二人ともに」
その言葉にナギサとミカは目を見開く。
なにせ今のトリニティの時世では複数の派閥に粉をかけることは蝙蝠のような立ち振る舞いに見られると言うことで、あまり好まれないのだ。
にも関わらず、フィリウス派とパテル派両方、それもそれぞれのトップに伝言。
「……へぇ〜、誰から?」
「ミカさんは心当たりがない人ですよ」
「……ちょっと待って、会ったこともない人から伝言?」
「会ったことがないかはさておくとして、ミカ様宛にも伝言はありますよ」
「逆に言うと、私には心当たりがある人ですね?」
「ええ、ナギサ様ならすぐに見当がつきますよ。何せ……
その言葉にミカは「ええ……?」とドン引いたように顔を引き攣らせるが……ナギサは、以前会った狼面の少女を即座に想起した。
「……クレタさん。あなたは、彼女と繋がりが?」
「え、ナギちゃんほんとに心当たりあるの⁉︎そんなあからさまにヤバそうな人……モゴッ」
一瞬でミカの口にロールケーキをぶち込んで黙らせつつも、ナギサは目の前で静かに笑う少女に目を向ける。
「繋がり……果たして私と彼女の間に繋がりが、関係性があると言えるかは極めて怪しいですが……少なくとも、アレの意図を理解した上で伝言を伝えるくらいはできますよ?」
煙に巻くようなクレタの言葉にミカはロールケーキを咥えながら首を傾げ、ナギサは神妙な面持ちで考え……そして、頷く。
「……彼女は、何と?」
「『計画は順調だよ、桐藤ナギサ。なにせ私の手勢は彼方此方に入り込んでいる……』」
「クレタさん、あなたのように?」
「
「大、悪党……」
クレタからの伝言にナギサはアンテノーラを顔を合わせた時のことを思い出す。
……自らを疑えと忠告し、怪しい雰囲気を隠さず醸し出し。
されどその計画は自らの身を危険に差し出すこと前提の、自殺志願者のような一手。
責任を重んじ、他者の責任にも目を配ろうとするアンテノーラを、ナギサは彼女が自称するような悪党とは思えなかったのだ。
「……随分と、その狼さんは好き勝手してるみたいだけどさぁ」
ナギサがそんな考えに耽っていたその時、ようやくロールケーキを食べきれたのかミカが紅茶で口直しをしながら呟く。
「その人、本当に信用できるの?ナギちゃんは評価してるみたいだけど、私は今のところ……」
「それなのですが」
疑念の言葉を告げようとしたミカだったが、そこに間髪入れずクレタが割って入る。出鼻を挫かれたことにミカは若干ムッとした表情を浮かべたが、極めて真面目な表情のクレタに何か思ったのかそのままおとなしく話を聞き始めた。
「ミカさんへの伝言はこうです……『どう言った形でもいいから、
「……へぇ?そんな疑わしい誘いに私が乗ると思ってるの、その狼さんは?」
「まさか。ですが、『百合園セイア、白州アズサ、アリウス……これらの関係について、私は知っている』……こう伝えれば、ミカ様は否が応でも来ると言っていましたので」
「……ッ……あ、れ?」
思わず舌打ちしかけたところで、ミカの頭脳はクレタの発言にあった違和感に気づく。
(……あれ?セイアちゃんの事を知ってるなら、なんでナギちゃんが同席するのを認めるの?
いや、そもそもナギちゃんはどこまで知ってるの……?)
そう思いながら慌ててミカはナギサの方を振り向くと、ナギサは全て知っていると言わんばかりに静かに頷いた。が、それが余計にミカの混乱を加速させる。
(もし私がセイアちゃんのしたことをナギちゃんが全部知ってるなら、いくら相手が幼馴染の私でも許さず断固として動くはず……なのに、こんな静かな対応なのはどうして?ナギちゃんが嘘の情報を渡されたのかな、それとも……)
「……待って」
そこでようやく一つの可能性に思い当たったのか、ミカはハッとした表情を浮かべた後即座にクレタに詰め寄る。意味深な笑みを浮かべ続けるクレタに構わず、ミカはついに事の根幹に関わる疑問を尋ねた。
「…… ねぇ。
「……さすがはティーパーティ三代派閥における一角の長。これだけの言葉で気づけるとは」
ミカからの言葉にクレタは一瞬瞠目するも、少し嬉しそうな……否、微笑ましいものを見たと言わんばかりの笑顔を浮かべる。
「安心してください、セイア様は昏睡状態ではありますが無事です……そしてそれもまた、あの気狂いとセイア様が未来視を踏まえた上での計画通りでもあります」
「……信じて、いいんだよね?」
「私からはなんとも。一つ言えるとしたら、自分で見て、聞いて、そして自分の判断で決めて下さい、としか」
「自分、で……」
ミカはその言葉を復唱し、飲み下すように深呼吸する。
(セイアちゃんが殺された……少なくともさっきまでそう思ってたことは、私の考えなしな行動がきっかけだった。もしクレタちゃんの言う事が本当でも、セイアちゃんが見てた未来でも私は考えなしに動いて、同じように襲われてる……
もし、もしまだやり直せるチャンスが本当にあるなら、私は……)
そんな思考の渦にミカが沈んでいく中、ふとクレタが別の方向へ視線を向けると、そこには少し驚いたような表情を浮かべているナギサの顔があった。
「どうしたんです?そんなに目を丸くして」
「……あなたは彼女……アンテノーラさんとは関係性があるかすら怪しいとすら言っていましたが……言っていることは、彼女に近いと思いまして」
「……そうなの、ナギちゃん?」
「ええ。自分で考えて決めろというのが、まさしく」
「そっか……」
ナギサのその言葉で何か思うところがあったのか再度沈黙し……そして、クレタに体を向ける。
「クレタちゃん。さっきの話、一対一でっていう条件なら受けるよ」
「わかりました……近いうち、『間違いなくこの人だ』と確信できるような見た目の人が来ますので」
「その人に話しかければいいんだね?」
「ええ。それからこの3人以外には秘密にしておいてください……特に先生には、絶対に」
「わかった……その人、先生と仲悪いの?」
「犬猿の仲もびっくりなレベルです……そうだ、もう一つだけお願いがあるのですが……」
そう言ったところで彼女は胸元につけていたロケットペンダントに触れ、その蓋をそっと外す。
「……あれと私を似ている、というのは止めてほしいですね。私、今回こそ伝言をしていますけど……最後に目指すところが全く同じなだけで、私、あの気狂い大っ嫌いですから」
そう言いながらクレタはペンダントの中に収められていた写真……
Tips:
まだまだ明かせないことばかりだが少なくともアンテノーラと関わりがあり、アンテノーラが大嫌いな模様。
というわけで、新ネームド本格参戦回でした~
結構書くのに苦戦しました、はい……
しかも伏線がまだ丁寧に書けてない部分もあるし
次回はこの続きから……といいたいところですが、50%くらいの確率でゲマトリアに入った時の様子を書いたEX回を書くかもです、お待ちいただけると幸いです~
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考察等もお待ちしております~