全ては執筆環境のIPadが文鎮と化したのが悪い(自己怠慢に対する言い訳)
「お待たせしました先生……おや、どうやらヒフミさんとも無事合流できていたみたいですね」
ナギサ及びミカとの密談から数分後。
少し小走りで先生が進んだであろう道を追ったクレタは、これから会いに行く予定だった茶髪の少女……阿慈谷ヒフミと話している先生を無事見つけることに成功した。
「”大して待ってないし大丈夫だよ、クレタ。ヒフミともなんで
「あはは……ペロロ様のゲリラ公演にだけはどうしても行きたくて……」
「……一応経緯は聞いていましたが、本当だったんですね、それ」
ヒフミの補習授業部所属理由にクレタは苦笑する。
モモフレンズにカルトな人気があることはクレタも承知だったが、ここまでヘビーなファンはそう多くないないだろうと半分畏怖半分ドン引きの視線をヒフミに向けていると、視線の意味に気付いたのか目をそらしながらも反論の言葉を口にし始めた。
「違うんです、試験の日程は確認してたはずなんですけど、何かの手違いで……」
「まぁ、それなら気持ちも……まぁ、分からなくはないですが。ちなみに試験の日と被っていることがわかっていたらどうしてたんですか?」
「そ、それは……でも、公演には……」
そんなクレタの質問に真剣な顔で考え始めてしまったヒフミを見て、先生とクレタは一瞬顔を見合わせた後、軽く噴き出しながら生暖かい視線を再びヒフミに向けた。
そしてまたもやそんな視線を向けられたことに気付いたヒフミが恥ずかしそうに反論をして……を繰り返していると、さすがにまずいと思ったのかヒフミが声を上げる。
「そ、それより!そろそろ他の皆さんにも会いに行きませんか?まずはみんなで、どうすれば落第せずに済むかの計画を立てないと……」
「”そうだね。今更過ぎたことの話をしても仕方ない……うん”」
そう言ってヒフミが指さすほうへ向かおうとする先生だったが……向かおうとする足と、その時の先生の表情に僅かに、逡巡のようなものが混ざっていたのにクレタは気づいた。
「不安、ですか?」
「”……え?”」
「ほかの生徒に会いに行くのに、僅かながら躊躇いを持っているように見えたので」
「”躊躇い、か……”」
「せ、先生、何かあったんですか……?」
少し不安げな顔を見せるヒフミに先生は大丈夫だよと呟きながら笑顔を向け、そしてクレタのほうへと向き直った。
「”……実は、少し前に生徒との関わり方を間違えてしまったことがあってね。ちゃんと向き合って、しっかりと話をして寄り添ってあげなきゃいけなかったのに……一時の対立から、そういったことをせずに会うことが無くなってしまったんだ”」
「先生……」
「”だから、躊躇いというよりは怯えに近いのかもね。もちろん、今度こそすべての生徒の味方になりたいと思ってるけど……どこかでまた、失敗してしまうのかもしれないって。
ごめんね、ナーバスになってるところを見せちゃって。先生がするべきことじゃなかったね”」
弱々しい笑顔でそう語る先生の内心はその言葉を紡いでいくたびに沈んでいった。
ミレニアムにて調月リオに向き合うことができなかったこと……そして、在籍していたミレニアムからいなくなってしまったこと。
複雑な過程があったとはいえ、生徒に自ら居場所を去る判断をさせてしまったことは恥ずべきことでしかない……しかも去った地というのが本人が何よりも守ろうとしていた場所だったことを考えると、猶更である。
そんな先生の珍しい弱音、そしてそれを誤魔化そうとするような空元気の笑顔を見てヒフミは悲しげな表情を浮かべ……一方のクレタは、ふむと顎に手を当て考えるそぶりを見せた。
「先生。あくまで私の考えであって、若輩者の生徒が言っていいことなのかはわかりませんが……一つ、アドバイスというか、エールというか……そういうのを言っても?」
「”……うん。生徒にこんな重い内容の相談をして、アドバイスを受けようなんてのは先生としてまずいかもだけど……これから他の生徒に会いに行く今、しっかり心を持たないとだからね”」
クレタの提案に先生は一瞬躊躇いを覚えたものの、今これから自分がすべきことを考えてか素直にうなずいた。その様子に満足したかのようにうなずくと、興味深そうにこちらを見やるヒフミにも一瞬目をやり、そして静かに口を開き始めた。
「先生。貴方は生徒に向き合うことができなかったことをひどく恥じて、そしてこれからの自分に不安を抱いているようですが……そんな折れてもおかしくない内心を抱えつつも、ここにきて補習授業部の皆さんの助けになろうとしている時点で、その失敗を乗り越えたいと思っているはずですし……実際、その思考は
「”……”」
「先生の話を聞く限り、先ほどの件はまだ
人間は誰もが間違え、時に罪を犯し、それでもなお前に進み続けるべき存在です……だから、先生も今度こそ守るべき生徒に目を向けて……そして、もう一度件の生徒に会いに行けばいいと思います」
「”……そう、だね”」
「視野を広げて生徒をしっかり見て、救いを必要としているなら手を貸し、対立してしまったとしてもその真意を理解してあげる。単純な話ですけど、これを意識するだけで変わると思いますよ」
最終的なクレタのシンプルなまとめに先生が嬉しそうにうなずくと、クレタはこれから逝くべき先へと身を翻す。
「……さて、そろそろ行きましょうか。先生の手を待っている子供たちは、少なくともこの地にも何人かいるんですから」
そう笑いかけながら歩を進め始めたところで、先ほどまでの話を聞いていた道中ヒフミがおずおずと手を上げる。
「あの……さっき、クレタ先輩は取り返しのつかないこと、と言ってましたけど……本当にそうなったのを、見たことがあるんですか?」
「ありますよ?」
あまりにも軽い口調での衝撃の発言に、先生とヒフミは瞠目してクレタを凝視する。
しかしクレタはその視線に一切動じず、苦笑しながら何かを思い出すように遠い目を彼方へと向けた。
「そうですね……反面教師として、その実例も話したほうが良かったですか」
「じ、実例って……」
「とある愚か者の話ですよ……自己保身から裏切りを選んで逃げた、ね」
「”裏切り?”」
クレタの口から飛び出した剣呑すぎるワードに、先生は苦しそうな表情を浮かべる。
それはまるで、生徒に向き合えなかった自分をその言葉に当てはめようとするように。
「ええ。そいつは、かつて大切な友人たちと暮らしていましたが……ある日、よくないことが起きると直感して逃げ出したんですよ、一人でね」
「”……”」
「ただ逃げ出したことに罪悪感を抱いていたんでしょうね……何年もたってからそいつはかつての友人たちに会いに行きました。
が……時すでに遅し。彼女の直感通り友人たちには口に出すのもはばかられるような悲惨なことが起きて、心が壊れてしまった……そういう話です」
「く、クレタ先輩はどこでそんな話を……」
「……ティーパーティの調査官である以上、アングラには詳しいんですよ」
そういうとクレタは肩をすくめ、苦々しげな表情を浮かべる。
「そいつと顔を合わせることはないはず、ってのが私からすると唯一の救いですね。私の信条からすると、本当に大嫌いなタイプなんで、ええ」
「”その人は、今はどうしてるの?”」
「碌で無しの悪党に成り下がり、さらには自暴自棄で少しおかしくなったらしいです。まあ、裏切り者の末路にはふさわしいのでしょうね」
歪んだ笑顔を浮かべながらそう吐き捨てたクレタに、さすがに先生も思うところがあったのか少し眉根を寄せながらクレタに問いかける。
「"思うところがあるのはわかるけど……少し、言葉がキツすぎるんじゃないかな"」
「これは失礼。ですが、裏切られた側の人達についても知っている以上……どうしても、ね」
そう呟いたところで場の雰囲気が落ち込みきっていることにようやく気がついたのか、クレタは笑顔に切り替えながら二人の方に向き直った。
「ええっと、反面教師な話してこんな雰囲気にしてしまった私が言うのもあれですけど……そろそろ他の皆さんのところに行きません?
正直私が先生に言いたかったのは『これからは生徒へより広い視野で目を向けよう』ってことだけですから」
先生はきっと前を進もうとする生徒の力になれますから、と先導を始めようとするクレタに、先生はそっとその肩に手を置く。
「”クレタ”」
「……なんです?」
「”もし、さっきの話も含めて抱え込んでる話があったら、先生に相談してほしいな。クレタも、大切な生徒なんだから”」
「わ、私もできることは少ないですけど……先生に話しづらいことなら、相談に乗ります!」
先生からの言葉にクレタは一瞬ぽかんとした表情となり……そして、
「……機会があれば、そうしますよ」
と、少し苦笑しながら答えると、今度こそ他の生徒たちに会うべく次の目的地……正義実現委員会の部室へと向かうのだった。
というわけで、先生とクレタの対話回でした~
今回短くて申し訳ないです……本当はほかの補習授業部と合流するところまでは書きたかったのですが……
先にも書いた通り執筆で使っていたIPadが文鎮と化したのでもうしばらくの間この分量になるかもしれないです……
週一はなるべく維持するようにいたしますのでご了承お願いします。
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