「“ここが、正義実現委員会の教室……例えば、ハスミとかがここで活動しているのかな?“」
クレタとヒフミに案内されて次の目的地へとやってきた先生は、その扉の前で自身がかかわりを持つ生徒の顔を思い浮かべながらそう呟いた。
「はい、ハスミさんやツルギさんがここに入っていくのを何回か見たことがあります……といっても、一般生徒からするとそうお世話になりたいお部屋ではありませんが……」
「まぁ、ここに来るってことは何かやらかしたか何かされたかの人が大半ですからね……」
「”なるほど……”」
二人の会話に先生が頷いていると、ヒフミがふと何か思い立ったのかクレタの方へと振り向く。
「クレタ先輩はここに来ることはあったりしたんですか?ティーパーティでも上の方の立場だって聞いたんですけど……」
「何度かは、はい。演習訓練に合同で参加させてもらったことがあったので」
「”演習訓練?”」
「有事を想定して正義実現委員会が演習してたことがあったので、それに参加を。
本来ティーパーティは参加する必要はないのですが、私は政治家というよりは暴力装置なので」
「ぼ、暴力装置ですか……?」
クレタの言葉にヒフミは面食らうが、クレタは自らの言葉を否定せずさらに続ける。
「護衛兼調査官ですからね……しかも調査はブラックマーケット含めたキヴォトス全域なので、そりゃあ切った貼ったは付き物です」
「”随分と苦労していたんだね……それで、戦闘訓練のために演習に参加していたわけと”」
「そんなところです。もっとも正実の戦い方のスタンスとは合わなくて、今年の春以降は参加してませんが……さて、入りますよ」
すべての質問に答えたところでクレタは扉へと向き直り、コンコン、と扉にノックをする。
その音に気付いたのか「は、はい……!」と少し驚いたような声が扉の向こうから微かに聞こえ……その声の主に心当たりがあったのか、クレタは満足そうに頷いた。
「どうやら、二人目の部員はいるようです……よっと」
言い切ると同時に扉を開くと、そこには少し気難しげな表情をしたピンク色の髪の少女……下江コハルが腕を組みながら立っていた。最初は先生とヒフミを見てかさらに険し気な表情を浮かべたが、その横にいたクレタを見た途端驚いたように目を見開いた。
「クレタ先輩⁉」
「久しぶりだね、コハル。この前の演習以来かな?」
「はい、あれからも訓練は続けてます……ところで、一緒にいるそこの二人は……?」
先ほどまでの表情から一転、まるで警戒するような目つきでヒフミと先生を見るコハルにクレタはクスリと笑いながら二人のほうに向かいながら口を開く。
「こちらの男性は先生……少し前にキヴォトスに来られた方で、今回は成績が振るわなかった子たちのために補習授業をして下さる方です。そして隣にいる2年生の子は阿慈谷ヒフミさん。ちょっとした事情でテストを受けれなくて、補習授業に参加することになった方です」
「あ、あはは……」
「”初めまして、コハル……で、良いのかな?”」
「下江、コハルです……」
「な、何かしてしまったんでしょうか……」
「”ただちょっと、人見知りなだけだと思うよ。クレタとは落ち着いて話せてるみたいだしね”」
「た、ただ単純に知らない相手だったから、警戒してるだけなんだけど⁉」
「”多分、それを『人見知り』っていうんじゃないかな……?”」
「うっ……」
出会って早々のコント見たいな掛け合いにクレタは面白そうに小さく笑う。
それに恥ずかしさを覚えたのかコハルは顔を赤くしながらくいっと顔を横に向けると、つんけんした口調でここに来た理由を問い始めた。
「そ、それで正義実現委員会に何の用……ですか」
「私相手に敬語なんて使わなくていいよ、コハル。私たちがここに来たのは補習授業を受ける生徒を呼びに来るためで……そのうちの一人が今、ここに閉じ込められているらしくてね」
「え、それって……」
コハルが何かに気付いたように目を見開いたとき、後ろからギィ、と扉が軋みながら開く音が響き……開いたその先から一人の少女……なぜか、スクール水着を着た少女が歩いてきた。
「こんにちは。もしかして私のことをお探しでしたか?」
「「「「え?」」」」
その場にいた水着少女以外の全員が同じように唖然とした声を漏らす中、当の本人は平然と微笑みながら先生やヒフミ、そしてクレタの前へと歩いてくる。いち早く正気に戻ったクレタがその少女の前に立つと、苦笑いを浮かべながら挨拶の言葉を口にした。
「初めまして。同僚たちから話は時折聞いていますよ……浦和ハナコさん」
「あら、ご存じだったんですね……紫荊クレタ先輩」
「ええ。後輩からは勧誘の対象に、上司からは良き友人として話は聞かされていました。もっとも……まさか初対面が水着姿を見るとは思っていませんでしたが」
何とも言えない表情で固まるクレタを横に、顔を真っ赤にしながらコハルが腕をぶんぶん振り回しつつハナコのほうへと向かう。
「待って!その格好で出歩かないでよ!ちょっとぉ!」
「……何か問題でもありましたか、下江さん?」
「あるに決まってるでしょ!なんで学校の中を水着で徘徊するの⁉」
「ですが、学校の敷地内であるプールでは、皆さん普通に水着になられますよね?ここもあくまで学校の敷地内で……」
「まぁ言いたいことは分かるし、学校指定の服装ではあるけどね……」
赤面したまま威嚇する猫のように声を上げるコハルと、ようやく心中の整理がついたのか口を開いたクレタにハナコはさらに微笑みを浮かべながら続ける。
「なら、問題ないですよね?トリニティ指定の服なんですから、本来私以外も校内で着ていいはずのものです」
「そ、そんなわけないでしょ!ほかの誰もそんなことしないわよ!」
「私も良いとは言ってないしね……後、私も水着は御免かな。ハナコみたいな抜群のプロポーションなら似合うんでしょうけど、私みたいなガリドブスには水着は合わないでしょうし」
「”似合う似合わないの問題とは違うと思うけど……あと、クレタは普通に素敵だと思うけど”」
「そ、そうです!確かに少し……まぁ、痩せてますけど、そんなに自嘲するほどじゃ……!」
腕をまくって針金のような腕を晒しながら自虐するクレタに先生とヒフミがフォローを入れたところで、ハナコの目線が二人へと移る。
「ところで、大人の方、ということは……先生、ですね。改めまして、こんにちは。なるほど、もしかして補習授業部の?」
「”うん、それで呼びに来たんだけど……”」
「とりあえず一回牢屋に戻れ、この公共破廉恥罪!」
「……とのことなので、また後程お会いしましょうね?」
そう言いながらコハルに引きずられていくハナコの姿に、先生は「う、うん……」と言いながら小さく手を振ることしかできなかった。
クレタとヒフミも沈黙してしまい変な空気感になってしまった中、牢屋に送り返してきたコハルが荒い息を吐きながら戻ってきた。
「ええと……ハナコさんは、この後どうなるんですか?」
「そんなの当然死刑よ!エッチなのはダメ!死刑!」
「そ、そんなはずはないと思いますが……」
その瞬間、クレタがまるで爆笑をこらえるように口元を手で押さえながら噴き出した。
唐突な爆笑に困惑するほかの3人だったが、ひきつった笑いを漏らしながらクレタがゆっくり口を開く。
「エッチなのはしけい……私のこと、言ってる……?」
「えっと、それはどういう……あ」
一瞬困惑したコハルだったが、その瞬間目の前の先輩の苗字を思い出す。
「
「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」
「分かってますよ……ただ、ホントに自分を呼ばれたみたいで、笑いが……」
「────っ‼」
先ほどまで穏やかな雰囲気を醸し出していたクレタが爆笑する様に先生とヒフミもつられて笑う。
無論、今のは偶然でありコハルに悪気がないのはよくわかるが……にしても、あまりにも完璧すぎたワードチョイスに二人の笑いも少し深まり、何なら扉の隙間から聞こえていたハナコも笑っていた。
「と、とにかく!あいつを後で連れて行くんでしょ⁉いったん、制服は着せるから……!」
「”そうだね、あとは二人だけど……”」
「えっと、次のメンバーは……白洲アズサさんですね」
ヒフミが次のメンバーの名前を言った瞬間、クレタの眉が少し上がり……同時に、正義実現委員会の部屋の扉も開いた。
「ただいま戻りました」
「任務完了です!現行犯で白州アズサさんを確保しました!」
「はい……はいぃっ⁉」
「あ、ハスミ先輩にマシロ……お疲れ様です」
「コハルさん、お疲れ様です。って、あれ……?」
「先生?」
仕事から戻ってきたマシロ、ハスミからの言葉にヒフミが困惑し、同時にハスミとマシロが先生の姿を見つける中……クレタの瞳は、その向こう。
ガスマスクを顔に着け、シュー、シューと呼吸音を鳴らしている少女に、向けられていた。
「……君が、白洲アズサなんだね。アリウスからやってきた、心優しい……」
クレタが万感の思いを込めて呟いたその言葉は、しかして微かすぎたためか誰の耳にも、届くことはなかった。
Tips:紫荊クレタ、実はあまりトリニティの生き馬の目を抜くような環境は好きではなかったりするため、ある程度ハナコのバックグラウンドを知ってからはかなり同情している。
というわけで、コハル、ハナコとの邂逅でした~
本当は前回ここまで書くつもりだったのですが、執筆環境にガタが来たためもうしばらくはこのくらいの分量になるかもです……
ここ最近アンテノーラやスバルの描写がなくて作者的にも物寂しいですが、次々回あたりで百合要素ありの回を書くつもりですので何卒……
お気に入りや感想、評価等いただけると作者のやる気がギャラクシールドしますのでよろしくお願いします〜
考察等もお待ちしております~