悪で灯されたエデンへの道   作:乃木楓斗

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不要必要はもう決まってる……
-『Shadowverse』、『勅令の咎人・イステンデッド』より



#30 情は時として錠となりて

「……って言う感じで、どうやらトリニティの方も先生を軸に動き始めたみたいだね……アリウス(こっち)側も、計画を進めないと、だね」

 

 

 トリニティにて補習授業部が結成されてから、時を僅かに異にした頃。

アンテノーラの元研究所(アジト)にて彼女は、クレタ視点のトリニティの様子を心底愉快そうにスバルへと語っていた。

 

 

「となると、あなたの計画が大きく進むのもここからですね」

「まぁね。正直やるべきことは色々ある……ベアトリーチェへの接触に誘導、お為ごかしまで……自分の計画とはいえ吐き気するね」

 

 

 ウエッ、と吐き戻すようなジェスチャーを見せるアンテノーラにスバルは苦笑しつつ、組んでいた腕に僅かに力を込める。

 

 

「とは言え、それをしないとマダムを出し抜けない……そうなんですよね?」

「まさしく。こっちがうまくお膳立てしないとアイツの計画はすぐに狂う。アイツの計画が狂っていないように見せるには、アイツとトリニティ、そしてアリウス生全員に手勢を差し込まないといけないんだよねぇ」

「で、そのアリウス生の手勢が私であると」

「イグザクトリー(そうだね)……と言ってもスバルを単なる手勢扱いはしたく……ない、けど」

 

 

 

 途中で自分の言っていることに気づいたのか、ほんの僅かに顔を朱に染めながらアンテノーラは呟く。

幸い姿(・)勢(・)の(・)都(・)合(・)上(・)その顔をスバルに見せることは無かったが……それでも尚、その言葉に情感がこもっているように感じたスバルもまた、顔を若干赤くしながら微笑む。

 

 

「……大事に思ってくれてるんですか?」

「……これでも本来はもっとビジネスライクに行く予定だったんだけどなぁ。それがここまで本心曝け出すような関係になるって、君が人たらしなのか私特攻なのかどっちなんだい……?」

「さぁ……でも少なくとも、私もあなたに相当絆されましたし、変えられましたよ……出会った頃は、もっと擦れてた自覚はありますから」

 

 

 

 もはや惚気話にしか聞こえない会話を交わす2人だったが、ふとアンテノーラが真剣な表情を浮かべながら呟いた。

 

 

「スバルは……私に、失望しなかったよね」

「失望……ですか?」

「そ。アリウスに協力するのは実利の為で、私たちは対等ですよ〜みたいなことを言ってたのに……実際は、ただの私の罪滅ぼしがメインで、ある種上から目線で救おうとしているとも取れる目的だったことに」

 

 

 自嘲するかのように暗い口調で零すアンテノーラにスバルは少し驚いたように目を見開き……そして、微かに笑うとその頬を優しく引っ張る。

 

 

「そういうところですよ、アンテノーラ」

「そ、そういうところ……?」

「本来ならもっと恩を売るようなやり方で私に首を縦に振らせる方法だって取れたはずです。なのにそれをせず、寧ろ断る自由をしっかり用意してくれましたよね?」

「だから、それが偽善みたいな下心にしか見えないだろうって……」

「確かに下心があったのかもしれませんが……その下心にとてつもなく罪悪感を感じていたでしょう?」

「……」

 

 

 図星を突かれたアンテノーラは思わず黙り込み、そんな可愛げのある様子にスバルはクスリと笑う。

 

 

「あなたは気づいていないかもしれませんが、そう言う誠実であれないことに苦しんでいるところが普段の行動や言葉から垣間見えるんですよ……だから、信用できるって思ったんです」

「……買い被りすぎだよ。私は碌でなしさ……故郷を裏切ってここまで生きてきた、ね」

「その裏切りにも罪悪感を抱いているんでしょう?だからマダムを殺すと言う決断に踏み切ったんですよね」

「それは……裏切り者の悪党としての、せめてもの矜持なだけだよ」

 

 

 アンテノーラは口元だけを歪めて笑おうとしながらそう口にする。

彼女のその言葉こそ最後まで言い切った、芯の通った言葉に見えたが……その一方で本人の気づかないうちに僅かに頭は下がり、肩は落ちていた。

そんな目の前の少女にスバルは何かを堪えるような表情を浮かべつつ、小さく溜め息を吐いた。

 

 

(……本当に、痛々しいですね。故郷から逃げ出した過去にずっと縛られ続けて……自殺する気はないって言ってましたが、それでもいつか消えてしまうんじゃないかと思えてしまう……)

 

 

 背こそ高いものの、折れそうな程痩せ細っている体。

すぐに自分を傷つけるような発言をし、それを是とする程に壊れかけている心。

更には以前見たような発作的な自傷癖もあると来ている……心配になるのは当たり前の話である。

そんな感情に襲われ、思わずまた組んでいた腕に力を込めてしまいそうになったところで……一瞬咳き込みながらアンテノーラがぐるりと顔をスバルの方へと向け直した。

 

 

「その、ところでさ。ずっと気になっていたことがあるんだけど……」

「何ですか、アンテノーラ?」

 

 

「その……なんで私、抱きしめられてるのかな?ここに来てから今まで、ずっと抱き枕みたいにされてるんだけど……」

 

その言葉にスバルは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐにしっとりとした笑顔を浮かべながら抱きしめなおす。細すぎる体にダイレクトにかけられた抱きしめる力の強さやスバルの体の感触に、アンテノーラは困惑と照れが織り交ざった表情を浮かべながらもう一度問い直した。

 

 

「あ、あのースバル?なんで抱きしめられてるのかなって……」

「あなたが無茶なことをしないようにするためです……前回、会いに来たその瞬間に自分の手をメスで刺そうとしてたのは誰だと思ってるんですか?」

「あ、あ~……あれは、ほんとに気が高ぶってただけで……」

「一部とはいえあなたの過去を聞いて、この先また同じことをしないとは思えないんです……おとなしく抱かれていてください」

「あ、あはは……はい……」

 

 

 スバルからの圧のある答えにさすがに屈したのか身じろぎするのをやめ、おとなしく抱き枕にされるアンテノーラ。それに満足したのかスバルはこくりと頷くと、近くにあった椅子へと腰掛けると自らの膝の上にアンテノーラを乗せる。

先ほどまで以上に互いの体が密着しあい、周りに誰もいないとはいえ流石にこれは……と思ったのかアンテノーラは再びスバルのほうへと視線を向ける。

 

 

「あの、流石にこれは……その、そもそも私のほうが身長高いんだし私を膝に乗せるのはしんどいでしょう……?」

「3㎝差なんて誤差ですし、体重は圧倒的にあなたのほうが軽いですから持ち上げるのに困りませんよ」

「お、女の子が自分の体重のことを話すのはよくないんじゃないかな……?」

「そこまで太っている自覚はないので別に構いません……むしろ、あなたの軽すぎる体重を心配したいくらいです。まぁ、事情が事情(絶望からくる拒食症)だけに食べろとは言えませんが……」

「うーん正論、何も言い返せないや」

 

 

 ついに反論するのをあきらめたのか、アンテノーラは脱力してスバルの体に身を任せる。

自分の裏切りで傷ついた被害者、これから辛い仕事も頼むであろう協力者……そんな相手に身を預けてしまうことに強い罪悪感を抱きつつも、すぐに忘れそうになる人肌の温かさ……しかも、憎からず思っている相手のそれに、アンテノーラは抗いきれなかった。

 

 

「それでいいんですよ、アンテノーラ。せめて今はリラックスしてください」

「……私なんかを抱きしめても、薄い板を抱いてるのと変わらないと思うんだけどね」

「そんなことは無いです……それにこの先忙しくなったり、計画の都合で人員が増えたりしたら……こうして二人でいれる時間も少なくなるでしょうから……今のうちに、時間を共にしたいんです」

「……え?そんなこと言ったっ、けェ⁉︎ が、ゲホッ……」

 

 

 想定外の言葉にアンテノーラは驚いた表情と共に身を起こそうとして……スバルの腕にそれを止められ、むしろその衝撃で息が止まって咳き込んでしまう。慌ててスバルがその背を撫でて呼吸が落ち着いたところでスバルが再度口を開いた。

 

 

「……以前、言っていましたよね。私にもやってもらうことがあるって」

「まぁ、そうだね」

「ですが、アリウス側でできることは限られます……それこそ今やっている、あなたから供給される食料や資材を分配するくらいです。なら他にできるとしたら……」

「人材の補填、まぁ間違ってはないよ。と言っても、計画上スバル1人でできなくもないんだけど……」

「無駄にこの件を広めたくないあなたが人を増やすべきだと思うほどの案件なのでしょう?あとで詳細は聞きますが、それなら逆らう気はありません」

「それなら、良いけど……それにまぁ、スクワッドにもいずれこちらに寝返ってもらう必要はあるし、人員を増やすのは間違っていないよ。でも……」

 

 

 そこまで行ったところでアンテノーラは少し考えるように首を傾げ……そして、頬を赤く染めながら小さく呟いた。

 

 

「スバルが望むなら、時間を作って個人的に会いに来るよ。君こそ分かってないみたいだけど……私も君に随分と、絆されてるわけなんだから」

「……本当ですか?」

「嘘を吐く必要がどこにあるのさ。と言っても、私みたいな下衆に態々貴重な時間を使うのは良くな……みぎゃっ⁉︎」

 

 

 自ら会うことを望んでおきながら、この期に及んで尚も自分を卑下するような言葉を漏らすアンテノーラだったが……突如、耳朶に軽い痛みと温かい吐息、そして柔らかく濡れた何かの感覚が走る。

その感覚の正体を瞬間的に理解したその瞬間、ア(・)ン(・)テ(・)ノ(・)ー(・)ラ(・)の(・)耳(・)か(・)ら(・)唇(・)を(・)離(・)し(・)た(・)ス(・)バ(・)ル(・)は(・)真っ赤な顔で声を漏らす。

 

 

「私が!会いたいって言ってるんですから……そこで変に、自虐しないでください!……って、あれ、アンテノーラ⁉︎」

 

 

 返事のないアンテノーラに慌ててその様子を伺ったスバルの目に果たして映ったのは。

 

 

 顔を真っ赤に染め上げたまま気絶している、初心なアンテノーラ(想い人)の姿であった。

 


 

「……あのさぁ。君、つまりは私なんだけど。本当にやる気あるの?」

 

 

 所変わって、アンテノーラは自らが以前夢にて訪れた花畑にいつの間にか来ているのに気づいた。

慌てて直前までの状態を思い返すことで、自分がスバルに耳を甘噛みされた衝撃で気絶し、そのまま夢見に落ちたことにようやく気づいた。

そしてかけられた声の方向に振り向くと、以前と同じように自分……髪色背丈が違う、過去の自分に目が合った。

 

 

「……流石に、自分でもこれはどうなのって感じだね……」

「だろうね。私も君も等しく『私』一個人なんだから、同じ思いなのはわかるよ。

で、どうなのさ。本当にやり遂げられるの?」

「安心して、そこは大丈夫だから」

 

 

 もう1人の自分からの疑念の言葉に、意外にもアンテノーラは即座に言葉を返す。

 

 

「確かに、情に絆されてるのは事実だし……情が計画への錠になる程度、十分に理解してるさ」

「なら……」

「でも」

 

 

 そういうと、アンテノーラは凄惨に笑う。

 

 

「そもそも私がアリウスから逃げ出していなければ、スバルも私なんかに情を持つことはなかった……その責任は、すべて私にしかない」

「……へぇ?」

「だから私は成さなければならない、アリウスの物語を……『幸せ』に導くために」

 

 

 その言葉に、もう一人のアンテノーラも縹色の髪を梳りながらカカと笑う。

 

 

「我ながら歪な責任感だね……いいじゃん」

「下衆外道の悪党なんだ、せめてこれくらいの責任は持たないと」

「なら、良いよ。十全に成すべきことを成して……その末路を、笑いに染まったものにしな」

「当然」

 

 

 そんな会話を交わしながらアンテノーラは、自らの体が目を覚ますのを待ち続けるのだった。

 

 

「『明くる日に 崩る肢体に 披く孔 笑ひて歩む 黄泉路への旅』……そんな、素敵な未来が訪れんことを、だね」

 


 

 ……アンテノーラとのあれこれがあってから、数日後。

彼女の要請通りにするならだれを協力者にするべきか……そんなことを考えながら一人廃墟で考え込んでいると、ふと後ろから足音が響くのに気が付いた。

 

 

(……あれ?今日はアンテノーラが来る日ではなかったと思いましたが……)

 

 

 そんな事を思いながら足音のほうに振り替えると、そこには見覚えのない人物……否、あ(・)ま(・)り(・)に(・)も(・)黒(・)い(・)、人物かすらわからない存在が立っているのが目に入った。

 

 

「あなたは……?」

「初めまして、梯スバルさん……私のことは、どうか『黒服』とお呼びください」




Tips:アンテノーラ、実はド受けのネコ。
とんでもなく恋愛に対して初心なのが相まって今回の話のようなことが起きる。


と、言うわけで久々の百合回でした~。
百合はいいですね、書いてて精神が洗われる()

そして最後のシーンで少し驚かれた方もいるかもしれませんが、次回はまさかの黒服とスバルの対話回となります……
原作から大きく外れている今作はどこへ向かうのか、もしよろしければ次回もお楽しみにお待ちいただけると幸いです!

お気に入りや感想、評価等いただけると作者のやる気が輪廻∞しますのでよろしくお願いします〜
考察コメ等もお待ちしております〜
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