悪で灯されたエデンへの道   作:乃木楓斗

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ここまでアンテノーラがただ交渉するだけの甘々な女と化してたのでここでゲマトリアらしい一面も見せておかなければ

後、今回の後書きTipsは本作におけるネタバレ要素です。見る際は自己責任でお願い致します。


#3 嗤へヤ嗤へ

「本当に久しぶりだね、マエストロ。最後に君に会ったのは前の集会以来だったかな?」

「ああ。その後は私が創作に苦心していたか、もしくはそなたがあちこちへ飛び回ってるかだったからな」

「ははっ、何はともあれ会えて嬉しいよ……と、言いたいところだけど」

 

 

 そういうとアンテノーラは部屋を見渡し、そこには二人しかいない事を再度確認する。

 無論、彼女が言うようにマエストロと会えたことに不満はない……むしろ、ゲマトリアの中では同じ現象を研究した一番の友人とすらいえる仲だ、喜ばしい限りである。しかし……

 

 

「……実は、今日はゴルコンダに用があって来ていてね。この時間ならいると思っていたんだけど……」

「彼なら先ほど黒服と話をしに出て行ったはずだ。すぐに戻ると言っていたあたり、情報交換でもしに行っているのだろう」

 

 

「あらら、ちょっと来るのが早すぎたか……ならマエストロ、少し話さないかい?高尚な君の時間を奪うのは申し訳ないけど、さすがに暇でね」

「構わない。むしろ私も後で黒服と話すことがあった、それまで待つとしよう」

 

 

 そういうと同時にマエストロは壁に背を当てて楽な姿勢をとり、アンテノーラもまた狼の面を外して机にどっかりと腰かけた。ベアトリーチェが見ていれば品のない女だというのだろうが、目の前の男はそうは言わないだろう。

 

 

「で、最近はどうなんだい?創作に熱中ではなく苦心しているといったあたり、随分と行き詰っているようだけど?」

「そうだな。正確には様々なアイデアが浮かんでは来るのだが……恥ずかしい話、私自らの理想にすらそのアイデアが届かないのだ」

「ひゅう……それは些か、理想が高すぎるんじゃない?君の芸術への熱意や真摯さは知っているけど、それでも技術面で不可能な面はあるんだから」

 

 

 アンテノーラの言葉に、マエストロはギシギシと体を軋ませながら微かに笑う。その様子に訝し気な表情を浮かべるアンテノーラに向き直ると、続けて言葉を紡ぐ。

 

 

 

「確かにそうだとも。だが、()()()()()()()を見てしまっては……それに可能な限り近づきたいと思う気持ちが止まらないのだ」

 

 

 

 その発言に────アンテノーラの表情が凍る。

 

 

「貴下はあの在り方を()()()宿()()()()()()()と嘲って言っていたが……ある種、使いようによっては崇高の再現に最も近いものにすらなると言える。

 それを見てはもう、嘗ての私の理想など習作にしか見えないのだ」

「……マエストロ。君が言うそれはどこまで行っても少し恐怖で彩られた複製(ミメシス)でしかないよ。

 それに生み出すには知識と恐怖、なにより()()()()()()()()()()()があって初めて出来うるものだけど……その器を、制御できるの?」

「無理であろうな。だからこそ、別のアプローチで近づきたいのだが……どれも、満足いくものではなかったのだ」

 

 

 

 黒服の研究次第では制御の方法も見えるのかもしれないがな……そんなことを呟きながらマエストロは再度壁にもたれる。

 マエストロの言葉に僅かに顔を顰めつつもアンテノーラは息を吐き、彼が言うところの最高傑作について考える。

 

 

……恐怖(Terror)で構成された存在でありながら、それに新たな解釈を与えることで本来コインの裏側の存在であるはずの神秘(Mystery)にすら化けることができる意思持つ複製(ミメシス)

しかしそれはアンテノーラからすると媒体が少し異常で、与えられた解釈が壮大だっただけの唯の複製でしかなく……同時に、ただ一つの願いを叶える為の道具でしかないのだ。

 

 

「そんなものを有難がるくらいなら前に君が言ってた……ヒエロニムスだったっけ?それを作ったほうがずっと君にとって良い経験になると思うよ」

「ああ、ヒエロニムスの制作は()()()()()()()()()

「は?なんでさ、最高傑作ができると興奮していたじゃん」

「……貴下に恨まれたくなかったのでな」

「私に恨まれたくない?」

 

 

 それはどういう意味でだ、とアンテノーラが問いかけようとした、その瞬間だった。

 

 

 

 

「おや、貴女も既に到着していましたか……アンテノーラ」

 

 

 先程までは誰もいなかったはずの空間に一人のスーツの男……黒服が、いつの間にか鎮座していた。

 

 

「おお、黒服じゃないか。元気にしていたかい?」

「ククッ、それなりには。暁のホルスの件で若干手を焼いていますが、それ以外はいつも通りです」

「……いつも通りの忠告だけど。あんまり強引に契約を結ばせると反感を買って酷い目に遭うからね?」

「ご忠告痛み入ります……と言っても、することは変わりませんが」

「だろうね」

 

 

 そんな顔を合わせるたびのいつもの会話を終えたところで、アンテノーラは思い出したかのようにマエストロに向き直る。

 

 

「……それで?私に恨まれたくないってどういうことなわけ?」

「それはだな……」

「簡単な話です。ヒエロニムスの降臨にはトリニティの地下に封印されている教義、そしてアリウスのロイヤルブラッドが必要になるのですよ」

 

 

 マエストロがご自慢の長広舌で話し始める……前に、黒服がその理由を簡単に説明してしまった。

 

 

「……黒服」

「申し訳ございませんが、私もこの後彼女に伝言があるので簡単に伝えさせていただきました」

「仮に制作した場合それをダシにベアトリーチェに無理やり協力させられて、結果私と敵対する可能性があるから、ってこと?」

「……大方、その通りだ。他の理由もあるが、一番の理由はそれだ。ゲマトリア内での立ち位置は皆平等であるべきだが、貴下とベアトリーチェどちらかにしか味方できないのであれば、私は貴下の方を選ぶつもりだからな」

「……主義がまるで合わないもんね、君とあの女……って、他の理由もあるって言った?」

「ああ、何せ……」

 

 

そこまで言うとマエストロは黒服と向き合い、一度頷き合って……そして、アンテノーラにこう告げた。

 

 

 

 

 

 

「貴下の計画に下手に触れて、怪我を負いたくはないからな」

 

 

 

 

「私の計画……」

 

 

 

「無論、()()()()()()()()()()ではない……貴下の真の目的とも言える方のな」

 

 

「……それを知ってるのは、私をゲマトリアに勧誘した黒服だけのはずだけど。喋っちゃったわけ、黒服?」

「直接は話していませんよ。ただ、貴女の略歴やゲマトリアに勧誘した時の様子……そして、ゲマトリアに入る時に貴女が出した条件である『一度だけゲマトリアに仇為すことを許すこと』を教えはしましたが」

「……それは、教えたもほぼ同義なのよ。まぁ、ベアトリーチェにさえ言っていないなら良いけど。君たち、邪魔しないでしょ?」

 

 

アンテノーラの言葉に黒服は沈黙し……マエストロは、僅かに不機嫌さを声に纏わせながら言葉を発する。

 

 

「ゲマトリアの一員として言うのなら、貴下の行動は契約に則ったものにすぎない以上邪魔立てをする気はない。だが、マエストロという一個人としては……あまり協力したいとは言えないな」

 

 

「……へぇ?」

 

 

「私は貴下を求道者としての同士……良き友人としてすらも思っている」

「……わーお、情熱的だねぇ」

「そんな友であるからこそ、貴下がその目的……不躾である事を承知の上で言うとしたら()()に囚われ続けているのを見ているのは、好ましくはないのだ」

 

 

 珍しく感情論を全面に出したマエストロの言葉に……アンテノーラは。

 

 

「……ッカ……」

「……?」

 

 

 

 

 

「カーカッカッカッカッカカカカカカ!言うねぇ、マエストロ!思わず笑い出してしまったよ!ああ、笑いすぎてお腹が痛いよ、どうしてくれるんだい⁉︎」

 

 

 

 

 

 アンテノーラは、高笑いした。

 

 

 しかも嬉しそうに笑うのではない。声は愉快そうにしているが、その目は澱んだ溝川のように濁り切っている。

 その突如の豹変ぶりにマエストロと黒服は身構えるが…… それを気にせずアンテノーラは続ける。

 

 

「確かに君たちからしたら妄執にしか見えないだろうさね!

 でも!私にとってはそれが生存意義(Raison d'être)であり、これ以外に望むものなんてないのさ!芸術に、研究に狂っている君たちなら理解できるだろう⁉︎」

 

 

 それはあまりにも狂気に満ちた発言だったが……二人は、なにも言い返すことができなかった。

何せ目の前の少女の言うことは彼らに取って容易に理解できることであり……先ほどの説得も、駄目で元々のつもりで言っただけなのだから。

 

 

「……そうだな、失礼した」

「いいや、私を心配して言ってくれたのはわざわざ『不躾だが』なんて言ったあたりから理解してるよ。あの女相手だとそんなこと言わないでしょ?」

「私としても、怒りに身を任せて色彩に手を伸ばす……なんてことさえしなければ別段手を下す用意もありません。ご自由に、たった一度の『ゲマトリアへの仇』を為してください」

「安心しなって、私としても色彩はその来訪を許せないものだし……その対策への研究には、可能な限り協力をするつもりだよ」

 

 先ほどの狂気からまた一転、アンテノーラは先に見せた激情が嘘かのように普段の軽薄な口調に戻る。

 どうにか目の前の少女の暴走を抑えられたと安堵したところで、黒服が思い出したかのように口を開く。

 

 

「そう言えば言い忘れていましたが、ゴルコンダから少し約束から遅れるとの伝言が……」

 

 

「その伝言の必要はありませんよ、黒服」

 

 

 

 その言葉に全員が気づいた時には、そこには絵画を手にコートを着た顔無しの紳士……ゴルコンダとデカルコマニーが立っていた。

 

 

「ゴルコンダにデカルコマニー。ずいぶん遅かったね……もしかして、あの女から何か言われた?」

「ええ。かつて私が作った作品を幾つか提供するようにと」

「相変わらずゲロカスだなぁ、あの女……」

 

 苦笑しつつもそう呟いたところで軽く辺りを見渡すと、すでに黒服とマエストロはその場を去っていた。

 こちらの案件に下手に関わらないよう抜け出したというところだろう。

 

 

「それで、どういったご用で私を?いつもの様にその靴や剣のメンテナンスでしょうか?」

「それもあるけど……新しい依頼をしたくてね。特定のテクストに関する記憶に作用する機械というものを考えているんだけど……」

 

 

 かくしてアンテノーラは計画に必要なピースをゴルコンダに依頼を進め。

 また一つ、彼女は自らの目的……もしくは、見るも無惨な妄執の達成へと、足を進めるのだった。




Tips:■■における総力戦の前口上

恐怖とは、いったい何なのか。
これは此処キヴォトスにおける神秘と裏返しの関係としての存在ではなく、概念としての「恐怖」そのものです。
もちろん答えは人の数だけ無数にあるでしょうし、そのどれもが思考に値する素晴らしいものだとは思いますが……私は、それを「正体不明」だと考えます。
“それ”が齎すものが利であれ害であれ、その正体、思考、原理を知らないでいることに人々は何よりも強い恐怖を覚えるのは事実と言えるでしょう。

さて。
複製は堆積した感情、そして媒体があればキッカケ一つで起きうる事象ではありますが……なら。
人工的に生み出した感情に、これまた用意した媒体があれば……誰にだって、複製は作れるのではないかと。
さらに言うなら。
正体不明の噂から生まれた恐怖という感情と、その正体という媒体。
しかもその正体は■■に芯の髄まで染まりきっている。
これほど媒体に適した存在など、誰もいないでしょう。

……であれば。
最期の議題は一つ。テーマは、何か。
正体不明の噂から生まれた正体不明の存在に、どんな解釈を与えるのか。
……外の世界について、ゲマトリアから知識を仕入れることができたのが救いでした。
其は■であり、■であり、馬であり、■■■■■■■であり、狼■■でもある。
あらゆる何者でもあり、今、何者であるかは誰にも分からない。
そんな存在として解釈されるのが、悪事によって生み出された正体不明には相応しい。

前口上はこれで終わりです。
あなたたちがする事はただ一つ。
■■……■■を示す■の複製。
要は其ですらない紛い物ですが……其に限りなく近い存在である、■を。
どうか、どうか、しっかりと■■■くださいね?

                     ────アンテノーラによる前口上


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わざわざ隠す必要も無かったかもしれませんが、その方が味があるということでご了承を。
ネタバレにならない程度で何書いてるか簡単に言うと、途中で出てきた『最高傑作』についての駄文です。
実は結構設定や方針、結末は考えていたりします、これでも……


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