とある日の深夜、トリニティ総合学園の一室。
そこでは二人の少女がお茶会を楽しんでおり、時にはその様子をカメラで撮影するなど、一見すると高校生らしい非常に青春していて和やかな空間であるかのように思える。
……もっとも。
そこにいるのがティーパーティトップの一人であり、同時にサンクトゥス分派の首長である百合園セイアと。
ゲマトリア一の武闘派であり、同時に同輩である存在を弑虐しようとしているアンテノーラの二人だと言う時点で……このお茶会が、そんな穏当なものではないことが明らかだろうが。
狼面に黒ドレスである普段とは違い、面を外し、白いワンピース風の服とその上から白いコートを羽織ると言う、白い髪と合わせるとあまりにも真っ白すぎるアンテノーラ。そんな彼女が優雅に紅茶を啜る中、少し疲れたかのようにグッタリとしながらセイアが呟く。
「……これで、用意するべきビデオレターは全部かい?使われると予知していた数よりはずっと多かったが」
「まぁね。絶対に必須なのは桐藤ナギサ宛と聖園ミカ宛の2つだけど……万が一トリニティ全体にこの計画を巻き込むことになったら、シスターフッドや正実、場合によっちゃ自警団にも君の言葉を届ける必要があるからねぇ」
「……それを使う未来は私は見ていない、と言っても?」
「勿論。君にとっては違うかもしれないけど、私にとって未来なんてちょっとしたことで崩れる砂上の楼閣に過ぎないから」
セイアにとって常に悩み続けている命題に対し、当たり前のようにアンテノーラは答える。
「……私としては、君がそんな簡単に未来を変えられると思う理由がわからないんだ。しかも小規模な出来事じゃない、アリウス全体やエデン条約そのものにすら響くような未来を、だぞ?」
「逆にだけど……未来なんて所詮は人の想いと、あとは少しのサイコロの目の連続で成り立つだけのグラグラしたものだよ?そんなもの、吹けば飛ぶような代物でしかないでしょ」
「人の想いを軽んじ過ぎてはいないかい?君の言説に則るなら運命を強固にするのは、そう言った感情だと思ったんだが」
「だからそれ以上の強い感情を私が持つんだよ。強い怒りと大いなる侮蔑、そして『ベアトリーチェを絶対に殺す』、っていう絶対に折ってはいけない信念を持った私が、運命を変えられないとでも?」
「そう、だろうか。まぁ、私はここでこの後すぐに昏倒することになるから、その様子を見ることはできないんだがね」
諦めたかのように頭を横に振るセイアに、アンテノーラは少し悲しげな微笑みを浮かべる。それはまるで、目の前にいる少女の退場を心底悲しんでいるかの様に。
「なんだい、その目は。君からすると、私と言う
君の計画に乗らない場合の方がトリニティに、それどころかアリウスやゲヘナに被害が出るから仕方なく乗ってるだけで、君の計画に納得できてはいないわけだよ?」
「だとしても、本来こんな悪どい謀略に巻き込まれるべきでない君を巻き込んで、あまつさえ怪我すらさせてしまうと言うのはね」
「仮にもティーパーティのホストになった身として、謀略に巻き込まれるのは覚悟の上さ。
……それでももし気に病むのだったら、今からでも計画を私好みに修正しないかい?
そうしてくれるなら、私も喜んで協力することを約束するし……なんなら、ナギサやミカだって手伝ってくれるだろうさ」
「それはダメ。この計画は、最後まで全てが私の望みそのものでできているから……折れる場所は、ないよ」
「……ならせいぜい、全力で計画を隠すと良いさ。君にヘソを曲げられるのが怖い以上、私は君の計画に手を出せないけど……先生やこの先結成される補習授業部、アリウスにいる君の仲間だって、君の真意を聞けば、その計画の完遂を邪魔するだろうからね」
セイアの忠告を笑いながら聞き流そうとしたところで……大事なことを思い出したのか、真剣な表情を浮かべてセイアに向き直る。
「そうだ、その補習授業部についてだけど……彼女らに君からは干渉する気はないの?白洲アズサに関わるメンバーである以上、何もしないのは少し気がかりだと思うけど」
「ふむ。私からはこの後の白洲アズサとの邂逅、そして夢での先生との会話に収めるつもりだったが……こうなったら、少しくらい私の手で未来を変えれる可能性に、手を伸ばしてみるとしよう」
その言葉と同時にセイアは近くにあった紙に幾らかの文字を書くと、ティーパーティのホストにしか使えない判を押す。気になって後ろから覗き込んだアンテノーラは、そのあまりにも非常識な内容に一瞬絶句し、セイアの肩を掴んで叫び出す。
「正気⁉︎この内容は、事実上
「ゲマトリアじゃない、
「……どうなっても知らないからね?」
あまりにも想定外のセイアの行動に思わず頭を抱えてしまったアンテノーラ。しかしそんな彼女を無視してセイアは先ほど書いた書類、そして先ほどまで撮っていたビデオレターが入ったデータ媒体をアンテノーラの手に握らせ、さらに声をかける。
「さて、そんな悩める君には悪いが一つ伝えたいことがあってね。今から言ってもいいだろうか」
「……了解、情報は多いに限るからね。ましてや、未来を見る君からの情報なら尚更」
立ち直ったのか頭をゆっくりと上げる様子を見つつ、セイアはこの先起こる最も重要になるであろう事態を告げる。
「……連邦生徒会で近々、大きな動きがある」
僅かに苦々しげな表情で言うセイアに対し、想定外だったのかアンテノーラは驚いたように目を見開く。
あの連邦生徒会長がいる場所で大きな動き……しかもセイアがいう雰囲気からするとおそらく不穏な動きが起こると言うのが、イマイチ想像できないのだ。
「あそこで?あんまりそう言う噂は聞いてないけど……」
「ならそうだね……確か
「共犯者だなんて大袈裟だよ。あの子は……ただの、悪友だよ」
連邦生徒会にいるかの友人の顔を思い浮かべながらアンテノーラは言う。
昔一枚噛んだ事件で知り合っただけの仲だったが、話してみたら思ったよりもイイ性格をしており……共に強い
確かに彼女なら大きな事件があれば伝えてくれるだろうが……
「にしては、君はその『大きな動き』について教えてくれないんだね。多分その後来るであろう“先生“については人となり程度は教えてくれたのに」
「それについては単純さ。予知夢で得たもの含めても持っている情報量が少ないんだ。
先生の方はある程度見れたんだが、もう一つの出来事については……それが起こる詳細なタイミングも、なぜ起きるのかも分かっていなくてね。正確な情報を提供できない以上、あまり軽々に言うのもどうかと思ったんだ」
「りょーかい。ま、不正確な情報をあらかじめ教えられるよりはマシだからね」
意図は理解したよ、と頷き、再び知略の渦へと潜るアンテノーラ。その目が汚泥よりも濁りきっていることには……目の前のセイア以外、誰もいなかった。
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「さて、そろそろお開きにする時間だけど……その前に少しだけ、時間をもらっても?」
アンテノーラが考え始めてから数分、突然立ち上がったかと思うとそんな言葉を急に投げかけた。
「構わないが……一体、何を?」
「君はこれから夢の世界に閉じ込められ、ただ世界が進むのを観客の視点から観劇するしかないでしょ?だったら、せめて開演前の前口上を、とでもね」
悪戯っぽく笑いながらそう言うとアンテノーラは軽く咳払いをし、あー、あーと小さく声をあげ……そして、大仰な身振りで語り始める。
「まだ回収されていない伏線が数多く残されていますが、ここで一度舞台裏へ引かせていただきます。
私の代わりにこの先を務めるのは、十年近くに及ぶアリウスの負の歴史に結末をもたらす方です。
どうか、盛大な拍手でお迎えください────」
セイアはその口上を聞きつつ、僅かにだが言われた通り拍手をして見せる。
その様子に満足したのかアンテノーラはニヤリと笑い、さらに芝居がかった口調で口上を語り上げる。
「彼女こそ、これまでのアリウスの歴史を見た者であり、今この瞬間にこの部屋へと足を踏み入れたもう一人の賓客にして、自らアリウスのために歩み続ける────
白洲アズサです!」
その言葉を言うや否やアンテノーラはその場から姿を消し────同時に白洲アズサが扉を勢いよく開け、部屋へと駆け込んでくる。
あまりにも完璧なタイミングに僅かに苦笑しつつも、これから自らに降りかかる一瞬の肉体的な苦痛……そして、そこから始まる悲しくも綺麗なトゥルーエンドへの道を、見守ることしかできない精神的な苦痛に思考が移っていく。
(せめて、この劇の行末に……祝福が在らんことを)
そんなことを願いながら、セイアは用意していたもう一つのカップを取り出すと紅茶を注いで目の前の少女へと差し出す。
「……よく来たね、白洲アズサ……まずは、お茶でもいかがだろうか?」
Tips:実は百合園セイアとは以前から交流を深めているレベルで仲が良い。……アンテノーラ、お前本当にゲマトリアか?と言われそうだがこれでもれっきとしたマッドサイエンティストなゲマトリアのメンバーである。
一応書いておくと現状アンテノーラの真意を知っているのは
黒服、マエストロ、ゴルコンダ&デカルコマニー、セイア、連邦生徒会の悪友です。
強い野心を抱えた連邦生徒会の悪友……一体誰なんだ……
後、セイアが書いた書類に関してもいずれ出てくるのでそんなんあったな程度で覚えててください。
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