上杉謙信に転生したけどアルビノじゃない件   作:また連載増やしたよこの人

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不動明王の化身 生誕

「この子を身ごもった夜に、夢を見たの」

 

「夢、だと?」

 

「そう。炎の中から大日如来の怒りの化身、不動明王が、あたしのお腹の中に入ってくる、そんな不思議な夢を」

 

 そう、わたしが生まれる前に父と母に言われていたことをわたしは知らなかった。

 

 けれど、生まれてきたわたしに渡された木彫りの小さな不動明王の守り仏を握った瞬間。

 

『小娘、我が見えるか』

 

 目の前に現れた存在しないはずの炎の奥から、低い声が響いた。

 

『ふむ……貴様は、この越後を、いや越後だけではない。関東の秩序を正すに足る器よ』

 

『よかろう。我が眼を貸してやろう』

 

 言われていることはわたしにはよくわからなかった。ただ、その炎は熱くなく、あたたかかったのを覚えている。

 

 そんなことよりも、わたしは前世のことを思い出して混乱しっぱなしだったので、修験者や仏僧のありがたそうなお話しや宇佐見のありがたくないお話しを話半分にししか聞いていなかった。

 

 今思えば少しは覚えておくべきだっただろうに。わたしにしては貴重な原作シーンだぞ、何やってるんだ。

 

 

 

 それから数度の冬が巡り、虎千代と名付けられたわたしは、自分がアルビノではないことに気がつき。好き放題を………

 

 していた。

 

「ま、待ちなさい虎千代!猪に乗ってはいけません!」

 

「やだ!はやくてたのしい!」

 

 この琥珀色をした瞳でみると、野生動物は逆らえなくなるらしく、野生の猪を捕まえて乗せて貰っていた。もちろん母である虎御前と姉である綾の胃は死んでるだろうが、わたしにはかんけいない。

 

 ひゃっはーはやいぜ。

 

 

 

「虎千代、ご飯の時間だから戻ってこい!」

 

 ちちがおおごえでさけぶのがきこえる、ちちはこわい、もどらないとげんこつされる。ちちもそのあとおこられる。

 

「あい、わかった」

 

 ごはんはだいじ。うさぎもいのししもおいしくたべよう。すききらいはしない。つよくなれない。

 

「ちち、しゅごにはならないのか」

 

 食事中のちちに話しかける、ちちはつよい、しゅごになって越後の秩序を守るべきだとおもう。

 

「俺は守護代の血統だ、守護にはなれない」

 

「あさくらしはしゅごだいからしゅごになった。ちちもあきらめるひつようはない」

 

 父、成り上がりを目指すならもっと上を目指してほしい。

 

「その為には越後を統一しなければならん、まだまだ先だ」

 

 とらちよはかしこいのでちちをおうえんする。でもちちはひとをもっとゆるしたほうがいい。

 

 斬りすぎて味方が減っているから、本当に。

 

〜〜〜〜〜〜

 

「拙僧らは、叡山から来たもの」

 

「わたしどもは、高野山より」

 

「われらは、出羽の山より来た」

 

「わたしどもはみな、春日山に炎の輝きを見ました。偉大なる調伏の御力が、この春日山にお生まれになったことを知り、祝福に参りました」

 

 越後の偉大な存在なら、ここにいる、俺だ、と為景は顔をひきつらせた。

 

「ああ、ああ……虎千代さま。その琥珀色の瞳に宿る炎の力。これはまさしく、明王の御心を宿した証しにございます」

 

「われらの目に狂いはなかった。このお方は人にして、ただの人にあらず」

 

「末法の世の衆生を救うため、怒りの御力をもって生まれ給うたのです」

 

「不動明王に選ばれしお方――いえ、それどころか明王の御心を宿す御方。あるいは不動明王の顕現かもしれませぬ」

 

「人心が獣以下にまで堕ちた乱世に、煩悩を焼き払い、秩序の炎をもって世を正すお方」

 

 妻の虎御前がずっと以前から、この子は不動明王から選ばれて特別な力を与えられたと言い続けていたことを、為景は思いだしていた。

 

 あの噂が巡り巡って、とうとう「不動明王の顕現」などと言いだす坊主たちまで現れたというのか。

 忌々しい。

 

 この連中は噂を聞いて、こうして物乞いに来たのだ。

 

 あの世にならともかく、この世に、神仏などいない。

 

 いれば、主殺しを二度もやってのけた俺はとっくに地獄へ落ちていなければならんではないか。

 

 為景はそうわめいてつばを吐きかけてやりたかったが、得体の知れない修験者はともかくも、叡山や高野山から来た高僧たちをあしざまにするわけにはいかない。

 

 いぶかしんでいる為景を押しのけた巨漢の青年僧兵が、虎千代を前にして叫びはじめた。

 

「それがしの名は正覚院豪盛。叡山にて修行と武芸に励む僧兵にござる!」

 

「ほう……これはなんともお美しいお姿。だが、それだけではござらぬ」

 

 豪盛は虎千代の顔を覗き込み、息を呑んだ。

 

「その黒髪……そして、その琥珀色の瞳に宿る炎……」

 

「これはただの人のものではない。この異相、まさしく明王の相にござる」

 

「末法の世に、邪を調伏し秩序を正す力が、この御身に顕れておる」

 

「だが……惜しい!」

 

 豪盛は頭を抱えた。

 

「なんと、女であられるとは!」

 

「残念じゃ! 叡山は女人禁制の山。女は座主になることができんのじゃ!」

 

「女人に五障あり。女人は梵天王、帝釈天、魔王、転輪聖王、仏陀のいずれにもなれぬという」

 

「比丘尼の中でならば頂点を極めることはできようが、日ノ本の仏教界の頂に立つことは不可能……!」

 

 高野山から来た高僧も、静かにうなずいた。

 

「高野山もまた、叡山ほどではありませぬが同様。古き宗派はいずれも女人には厳しゅうございます……惜しいことです」

 

 虎御前は不満げに目をいからせた。

 

「女だからというだけで、出家の道はそんなにも厳しくなるのですか」

 

 僧侶たちは一様にうなずく。

 

「左様。女人が悟りを開き救われるには、まず男にならねばなりませぬ」

 

「それを仏の教えでは『変成男子』と申す」

 

「これほどのお方であれば、男になることも不可能ではありますまい」

 

 だがしかし、と出羽から来た修験者が言い放った。

 

「おう、そうだ。だが武家ならば、男女の区別はさほど厳しくない」

 

「この子は越後守護代、長尾家の娘である」

 

「当世流行の姫武将となれば――」

 

「天下に君臨する偉大な転輪聖王となり、必ずや日ノ本の歴史に義をその身をもって示し遺す偉人となられよう」

 

「それはいいな」と宇佐美定満がつぶやいた。

 

 為景は顔をしかめた。

 

「姫武将など、越後にはおらぬわ」

 

「いやいや為景さま」

 

 修験者はにやりと笑った。

 

「かつて天竺の王族の城にて釈迦牟尼が生まれたとき、とある聖者がこう預言したという。この子は、出家すれば衆生を救済する仏陀となり、王家を継げば、世界を支配する偉大な転輪聖王となる――と。虎千代さまもまた、同じ道に立っておられるのではあるまいか」

 

「衆生の魂を救う仏の道を歩まれるか」

 

「それとも……」

 

 修験者は、虎千代の琥珀色の瞳をじっと見つめた。

 

「姫武将となり、乱世に武威を示す転輪聖王となられるか、あるいは……。釈迦牟尼とは異なる道を歩まれるのかもしれぬ。このお方は、そのために、あえて女人として生まれてこられたのかもしれぬな」

 

 豪盛が大きく嘆いた。

 

「しかし惜しい……なぜ女に……まことにもったいない話じゃ!」

 

 修験者は首を振った。

 

「いや豪盛。今の乱世は、言葉と教えだけでは終わらぬ。末法の果ての世よ、自ら武器を取り、秩序のために戦う軍神こそが、人々から求められているのかもしれぬ」

 

 ええい、貴様らはもう出て行け、と為景が怒鳴り散らした。

 

「やくたいもない、くだらん会話を俺の前で続けるなッ! この世に、神も仏もいないのだッ! 越後の王は釈迦でも転輪聖王でも不動明王でもない、この俺だ! こんなガキがそれほど珍しいならば、好きなだけ山を探せ!」

 

 自分を無視して虎千代を褒め称え、あるいは「なぜ女に」と惜しがる彼らの態度が、自尊心が強すぎる為景には耐えられなかったのだろう。

 

 ことに、「姫武将となれば偉大な王になる」という預言が、気に入らなかった。

 

 越後では、戦は男の仕事と決まっている。

 

 それなのになぜこんな幼子に姫武将となった先の未来がわかるというのか。




 幼い虎千代ちゃんがひらがな文混じりなのは知識に頭が追いついてないからです。
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