上杉謙信に転生したけどアルビノじゃない件 作:また連載増やしたよこの人
あれから数年が経った、背も大きくなって、ますます手強くなったわたしはまたもややりたい放題した。
「虎千代!待ちなさい!それは父上の馬で」
「こっちの方がはやい、楽しい!しばらく駆けて来る」
あちこちで迷惑をかけて夕方帰ったらちちにバレて雷を落とされた。馬が潰れない程度にしたのに。
そんなこんなで為景と綾と虎御前の胃に穴が開くような、と言っても為景には開かないだろう生活を繰り返していると。
「こいつが春日山の暴れん坊虎千代か、小娘かと思ったらこの歳のわりに背があるな」
「わたしに何しに来た、うさみ。熊との相撲を見に来たのなら今日はお休みだぞ」
「は? 熊と相撲?! 冗談きついぜ、まったく。今までもう何度も挨拶したのに、たやすくは懐かねえな。まるで野生の動物だ。だがな、オレは越後一の軍師と呼ばれる男! 今回は切り札
を持ってきたぜ!」
ドジャーン!
うさみが、兎のぬいぐるみを背後から取り出した!
「どうだ! 愛らしいだろう、かわいいだろう! オレさまが夜なべして自分でこしらえた、究極のめでぐるみだーッ! 虎千代、お前にやろう! 懐け!」
ところどこに縫い目の粗がある、あと造形がちょっとものたりない。
「下手くそ、わたしに針と糸と鋏を貸せ。縫い直してやる」
これでも家庭科5、クラスのみんなが服を破いた時に繕ってぬいぬい委員長と呼ばれていたのだ、そのわたしにこの程度の出来でぬいぐるみを出そうなど片腹痛い。
「おおー、一瞬で解体されて縫い直されて可愛さ5割増しのぬいぐるみに……。って違う、今日は虎御前さまも綾ちゃんもいねえようだし、このオレがてめえを散歩に連れていってやるとするぜ!」
「これに乗っていくといい、頑張れば二人乗りが出来る」
「げ、でかい猪。六尺はあるだろこれ……」
体長2mを超える大イノシシがそこには現れていた、こいつが1番速くて強いのだ。なかなか言うことを聞かせるのに苦労した。
「外はちょっとこわい、けど馬で駆けたときは色々助けてもらって楽しかった。またあの人達にお礼したい」
割とわたしは怖がりで、血を見るのも、戦いも、あまりすきではない。
「……。かしこい子だな、お前は。坊主どもは、お前が生まれた時に、偉大な人間が誕生したと騒いでいたっけな。あの頃のオレは、要はお前の見た目がすごいって話だとばかり思っていたが、どうやらお前の本質、お前の希有な価値というものはお前の精神そのものにあるようだ」
わたしが生まれてすぐの頃はほとんど覚えてない、えらいお坊さん達とうさみが来てたのは覚えてる。
「もっとも、オレさまは幼女愛護家じゃねえ。お前をオレの理想のために教育して、志を遂げるためにがんばってもらおうって魂胆だ。お前にはその器があるが、育てねえと才能は伸びねえ。甘やかしたりはしねえぜ」
「うさみは武芸をもっと育てるべき。隠れた才能がある、武器は多ければ多いほど理想には役にたつ」
「ええい、口先ばっかり先に立つガキはこれだから……」
「それで、うさみの理想とはなんだ?」
「義ってやつだ」
「義ではご飯は食べれないぞ、みながご飯を食べれるのは秩序があるからだ。みながいがみ合い、いつ斬りかかられるかわからない時はご飯も食べれない。うさみは義のために飢え死にすることは出来ないだろ?」
「なんで説得しようとしたら俺が秩序の大事さを説かれてるんだ、これじゃ意味ねぇ。よーし、本なんぞいくら読んだって、ほんとうのことはなにもわかりゃしねえんだからな。人間ってのは、実際に歩いて体験しなきゃあ、なにひとつ理解できねえんだ。いいか虎千代。観る者は、観られる者なんだ。観られる者がいなければ、観る者も存在しねえ。ってことはよう。目をつぶり耳をふさいでなにも観なければ、そいつはこの世に存在していないのも同じだってこった」
「うさみ、逃げた」
「逃げてない」
「逃げた」
「逃げてない」
言い争いながら、宇佐美は馬に、わたしは猪に乗りながら春日山を下りる途中、山道に一頭の大きな熊が出た。
人間と出会ったせいか、驚いたらしく興奮していた。
宇佐美は「おっと。熊鍋にするか」と目をギラつかせたが、わたしが止め
た。
「久しぶり、怪我は治った? この間は崖下に投げ飛ばしてごめんなさい」
「おいおい、顔見知りかよ。こりゃ悪かったな」
熊は気にするなと言いたげに首を振るとスタスタと去っていった。
「猪とうさぎの肉は食べる、生存競争だから。熊は山が豊かにならないと増えない、山から追い出されて人里に出て来るぐらい増えた熊は鍋にしてもいい」
春日山は定期的に戦に材木を持って行かれて若干禿げ山に近くなっている、これではね。
「変なところで冷酷というかなんと言うか……」
熊と相撲やら猪で慣れてしまったのか、これぐらいではもううさみは驚かなくなってしまったようだ。
宇佐美は春日山を降り、猪を帰らせると、わたしを馬の背に乗せて、ふもとの府中の町へと
向かった。
府中はもともと越後の都だった町だが、合戦が続いているために、長尾為景は一族の者や重臣の家族・人質などを春日山城に移動させていた。
近頃では、為景自身も春日山城で政務を執ることが増えていて、府中は政庁の町から商業の町へと変わりつつあった。
なにしろ直江津の港がほど近く、貿易で栄えている。
府中へ向かう途中の村に、宇佐美は立ち寄った。
「オレさまにとっては昔なじみの村だ。ここなら合戦中でも安全だぜ」
たくさんの布を運んでいた若い娘たちが、「宇佐美さまよ」と声をかけて
きた。
宇佐美定満は身分の別なく民に接し、特に若い娘には甘いと評判。みな、
彼に土下座などしない。
「宇佐美さま、お久しぶり!」
「また姫武将にしたい子がいたら、ぜひ連れていって!」
「わかった、わかった。今は、算術が得意な子を探している」
宇佐美家は家臣団がいちど全滅しててな、人手が足りないんでこうして村や町をまわって小姓を集めるんだ、と宇佐美が虎千代にささやいた。
「うさみ、なぜ女の子ばかりを? もしかしてこどもさらい?」
「オレの美学だ」
「ねえねえ、樋口さんとこのお子さんはどうかしら?」
「ああ。あの子、頭いいもんねー」
「ところで、その黒い髪の女の子は誰?」
「宇佐美さまのお子さま? かわいいー」
「ああ。親戚の子だ」
「かわいい!」
「猫みたい」
「その草はもしかして青苧か?よい税収になると聞いたぞ」
「正解、この青苧で織った織物は、都の公家さんに高値で売れるの。府中の商人さ
んが直江津の港から船で都や堺に売りにいくのよ」
越後といえば青苧だよね、太閤立志伝説でもよく買い付けたものだ。
「青苧の草は、このあたりで育てているのか」
「もっと山奥の魚沼のほうね。わたしたちは、青苧を魚沼商人から買い求めて、皮を割いて糸にしてから府中の商人さんに売るのよ」
家庭内手工業でプチ加工貿易みたいな感じか。なるほど……。
「そうか。山と村と港がみなつながって、ひとつの特産品が流れてゆくのだな。それも、海を渡って……目には見えなくとも、すべてはつながっているのだな」
この口はよく喋る! 割とわたしの口は達者のようだ。
「この子は、まだ海を見たことがないんだ。ずっと山にこもっていたからな。オレたちは直江津の港へ行く」
「捕れたてのお魚をたくさん食べてね!」
「あまり魚は出ないな、美味しいのか?」
「直江津にあがってくる魚は、みな美味しいわよ!」
「これで戦さえなければ、越後はいい国なんだけどね」
「それは言わない約束でしょう」
「なにしろ守護代さまが毎日のように敵を作っては戦、戦だもの……そのたびに兵糧を持っていかれたり槍を持たされて軍役を押しつけられたりで、村の男たちはすっかり空っぽ。ひどい時は、飢えた侍が襲ってくるし」
戦は嫌いだ、損をするのは民だから。雑兵もほとんどは百姓あがり。
「……しっ! 宇佐美さま以外のお侍さまに聞かれたら」
「な、なんでもないのよ、お嬢ちゃん!」
どの時代でも変わらない、人間のよくないところだ。やっぱり戦は嫌いだ。
「戦場で殺し合って血を流しているとな、遠征に出稼ぎに来た足軽などの中には盗人や放火魔になるやつもいる。むろん、あまりに派手に暴れれば目上の者に知れて罰を受けるが、戦ってのはそういうものだ。乱取りと言って、合戦に勝ったついでに周囲の村を略奪してまわるのもまた、戦の一環のようなものだよ。いわば勝ち戦のご褒美だな」
「しかしそれで民がやせ細れば、後々困るのはわたしたちなのでは」
「……そうだな。越後で繰り返されている戦は、欲の戦なのさ。越後の王の座を巡って、守護だの守護代だの豪族国人だのが何十年にもわたって欲の戦を続けているんだなこれが。世の秩序を守る
ためには、時には戦は避けてとおれねえ。だが醜い欲の戦がだらだら続けば、
つきあわされている兵もまた堕落するわけだ」
「どれもこれも越後の王が強くないからです、わたしは強くなって越後に秩序を取り戻す、越後を強くして他の国の草刈り場にならないようにする」
「それは……そうなんだが……」
「なんだ?うさみ、義の精神多いに結構。でも、義を通すには力が要る。秩序を作るには力が要る。うさみもよく知ってるだろう」
馬はしずしずと進み、うさみとわたしは直江津の港に着いた。
これが海か、広いな、そして青い、とわたしは歓声をあげた。
うさみはいそいそと釣りの準備を始めた、美味しい魚をつってくれ。
「なあ虎千代。釣りってのは一見なにもしていないように見えて、実は魚と戦っているわけだ。というか、時間との戦いだな。なにもせずに魚を釣り上げる瞬間をじっと待ち続ける……魚という目的があるのに動かないってのは辛いことだぜ。だが、この我慢こそが勝ちにつながるんだなあ」
「………ぐぅ」
「寝るな!……ったく大器なんだか鈍感なんだか」
いけない。意識が飛びかけた。さっきから目を酷使しすぎたかもしれない。
「なあ虎千代。少し難しい話だが、お前ならわかるだろう。越後の武家どもは、みな、欲に取り憑かれて多かれ少なかれ悪鬼になっちまっている。大本はお前の親父さんだが、上田の長尾政景もまだガキだが悪鬼さ。お前の親父さんを倒しても、次は政景が。政景を倒してもまた。そもそも上杉家にはもうまともな人材が残っていねえから、守護の復権なんぞ無理だ。関東の事実上の支配者だった関東管領も、下克上の波に呑まれてさらに没落するだろう。悪鬼羅刹の輪廻とでも言うのかな。きりがないんだ」
「わたしが守護になって秩序をもたせればいい、そのうち姫武将になってむにゃ……」
ゆすられて目を覚ます。はっ、また?
「とはいえ、仏の教えなんぞで悪鬼どもが調略できるはずがない。言葉はただの言葉だ。問答無用に悪鬼を踏みつけ黙らせる「力」が必要だ。つまり、義のために悪鬼と戦い踏みつけて従える者が」
「義でわたしは心服させられるとは思わないけれど、力が要る、という点には同意します」
「まあ聞け。今の乱れた越後には、義のために戦う者が必要さ。オレみてえに一族の復讐とかそういうドロドロとしたものを背負っていない、心の美しい者がな。軍神・毘沙門天のような存在が。悪鬼どもの穢れた心を、誰かが人間の心に戻してやらなければならねえ」
「うむうむ、そうですね。残念ながらわたしの出来そうな仕事ではない」
「そうだよなぁ、お前さん、今話してる限り、毘沙門天というよりは明らかに不動明王だもんなぁ」
原作上杉謙信と同じぐらいの謎パワーと偏食せず、適度な運動で作り上げられた健康ボディーがあるけど、わたしにはうまくいっても越後の秩序を守るのが精一杯だ、誰があんな報酬の出ない義戦に家臣を巻き込んで越後を疲弊させたいというのか。むにゃ、ねむ。
「……すやすや、ぐう」
「確かにこいつには王の器がある、こうやって敵側の将のよこで迷わず眠れるところとかもそうだ、でもこいつに義を教え込むの相当苦労するぞ?けど他に候補もないしなぁ………」