ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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※10話としてこの話を執筆していましたが、予約投稿のミスで抜けてしまっていました。


頭がパンクしそう ―グラン歴753年

高窓から日差しが姿見を照らす。

この部屋には生地ばかりで秋らしさがない。

色が多すぎる。

 

布地を湿らせないようにここでは飲み物も飲めない。

染みでも作ろうもんなら台無しになっちまう。

 

身体を冷やさぬよう、ストールを多めに巻きつける。

 

「ヒルダ様、ヴェルトマーの方々がいらっしゃいました」

 

「今日はここに連れてきな。サロンでも訓練場でもないよ」

 

あの子達を引き合わせたのもこんな季節だった。

そして、この時期にしたのも同じ理由だ。

 

あとどのくらいあの子達に教えてあげられるだろう。

せめてあたしの手が届く所にいる間は面倒を見てやりたい。

 

そっと、腹部に指先をはわせる。

……巡るのは、季節ばかりだね。

 

―――――

 

侍女に連れられて、3人組がやってきた。

 

「ヒルダ様、今日もよろしくお願いします」

 

相変わらずアゼルは律儀だね。

ユリスは周囲を眺めている。

何が始まるのか図ろうとしているのか。

 

「魔法じゃないの?」

 

あんたはサンダーを使いたいだけだろ。

もう少しでエルサンダーに手が届きそうだからって訓練場に入り浸りだ。

騎士たちもいい気になって、うちのお姫様に魔法を見せびらかしやがる。

 

「あんたらは、来年の春から士官学校に通う。

その下準備を今日から始める」

 

「えぇ……。

魔法の練習の方がいいよ……」

 

ティルテュは意外と人見知りだからね。

誰かと引き合わされるのかと怯えている。

早めに用意を始めて正解だった。

 

「何それ、アゼルは知ってる?」

 

「兄さんも行ってないし……。

王都にあるってことしか知らないや」

 

この子達は基本的に邸宅から出さないようにされている。

外に出たのは馬車での移動と初陣くらいじゃないかね。

 

「まずは、制服の採寸から始めるよ。

今やっておけば冬の間に仕上げられる。

計測には時間がかかるんだ。その間、学園について話してやる」

 

既に選抜は始まってる。

あそこにいるのは、敵といずれ敵対する奴ら。

それと、ほんのわずかの心を許せる相手。

……運が良ければね。

 

少なくとも、あたしの時はそうだった。

今でも同じかは知らないが、備えはさせてやれる。

 

「ティルテュ、あんたはその衝立の向こうにいな。

流石にアゼルだって恥ずかしいだろう」

 

子供同士の仲がいいのは家にとってメリットだ。

でも、まだティルテュがどこに嫁ぐのか決まっていない。

義父やブルームのことだ。時間はかかるに違いない。

 

「しかたないわねぇ〜。

じゃあ、こっちでお茶でも飲んで待っててあげる」

 

仕切り板の向こうへかけていく。

 

「この部屋じゃ飲食禁止だ。後にしな。

あんた、最近お茶会に凝ってるんだから披露してやりなよ」

 

早速侍女に果物を確かめさせている。

茶器についてああでもない、こうでもないと呟き始めた。

 

「アゼル、最初はあんたから採寸するよ」

 

上着を脱ぐ手伝いをするユリス。

そのまま侍女に預けた。

 

「ユリス、リーネに採寸のことは仕込まれてるね。

あんたは記録に回りな」

 

―――――

 

侍女たちが巻き尺をアゼルの首へ当て始める。

くすぐったそうに身をよじっている。

 

あたしが嫁いだ時と比べて、大きくなった。

背はユリスを追い越して、肩幅も広くなっている。

まだ高い声だが、いつまで聞けるのかね。

 

「あんたら、士官学校について何を知ってる?

改めて知識の確認だ。言ってみな」

 

女中が巻き尺で肩幅を測り、数値を読み上げる。

ユリスがその数値を記録する。

 

「あたし、知ってるよ〜。

お兄さまとお姉さまが出会ったの、そこでしょ」

 

甲高い、憎たらしい声だ。

ユリスは記録用紙から顔を上げ、ニヤついてやがる。

アゼルも気になるようでチラチラとこちらを見ている。

あんたらは採寸に集中しな。

 

「そうだよ。

あんたらのお相手も見つかるかもしれないね」

 

またも向こうから黄色い声が上がる。

侍女たちは胸囲を読み上げ、腕へと移る。

 

切り替えるため、咳払いをする。

 

「ともかく、あんたらは14歳から上級士官課程の魔法科に3年通う。

同級生の年齢は様々だ」

 

「僕たちと同じ位の子だけじゃないんですか?」

 

「そうだよ。

概して、十二聖戦士の家は若いうちに送り出す。それにも幅はあるけどね。

だが、叩き上げもいる。

アルヴィスの従騎士もあんたらと同じに入るんじゃなかったかい?」

 

「リデールさんが忙しそうにしてる。

いつも以上にしごかれてた」

 

観察分析を任せるには、不安がぬぐえない。

ユリスとリデールだけで上級課程を確認しきれるだろうか。

 

あたしからもユリスに指導すべきだ。

だけど、越権行為になっちまうか……。

 

だとしても、ティルテュの事実上の側付きとして仕込む分には問題にはならない。

 

「基本的に男女別の寮で暮らすことになる。

休日には帰れるが、そんなことするんじゃないよ。

逃げ帰った負け犬と見なされる」

 

これくらい言っておかないと、毎週ティルテュが帰って来かねない。

 

「えぇ……」

 

楽しい場所じゃないって伝わったかね。

余計な希望は、あんたらを苦しめるだけだ。

 

「寮では基本的に自分のことは自分でやることになる。

侍従も連れていけるが、内部でのことはさせられない。

洗濯みたいなことは任せていい」

 

部屋の清掃と身だしなみ程度をやればいい。

ティルテュにも教えてはいるが、ユリスが補ってくれるだろう。

 

あたしの時にもそんな相手がいて欲しかったね。

 

「評定は座学と実技で行われる。

あんたらにとってはそれほど難しくないはずだ。

なんたって、このあたしが教師だったんだからね」

 

この子達には聖痕がある。既に魔法は実践級だ。

知識もそれなりに仕込んである。そこらの凡々とは比べ物にならない。

この冬は先んじて軍事論を軽く教えてやろう。

 

「まぁ、先に体力づくりくらいはしとくと楽になるよ」

 

魔導士や末裔の若造の鼻っ柱を叩き折るつもりなんだろうが、あれは本当に辛かった。

ごまかしがきかないからね。

まあ、聖戦士の末裔なら体力なんて直ぐにつく。半年もすれば気にならなくなるさ。

 

最後にアゼルの首の付け根から床までを測る。

背も高くなったね。

 

「めんどくさ~い……」

 

あたしは何でも教えてやる程お人よしじゃない。

せいぜい、苦しみな。

 

「ほら、次はティルテュ、あんたの番だ」

 

わざとらしい声で待ちくたびれたと主張しやがる。

 

「アゼルはこっちで待ってて」

 

ユリスはアゼルに上着を着せて、あたしと仕切りの向こうへ行く。

 

―――――

 

侍女たちへ視線で合図を送る。

この子に時間をかけすぎると面倒だ。

侍女たちが同時にティルテュの周りで巻き尺を当て始める。

ユリスはアゼルの時よりも側に近寄って、意識を引いている。

分かってるじゃないか。

 

こっちは言葉で採寸を手伝う。

 

「授業についても簡単に教えておいてやる」

 

「戦術や歴史みたいな授業は、所属する科に関わらず同時に行われる。

つまり、あたしたちの魔法科、それと騎士科、加えて救護科が集まる。

これが基本の座学となる」

 

項目ごとに指を立て、じゃじゃ馬の注意を引く。

 

「逆に、それぞれの専門は分かれる。当たり前だね。

将来の上級兵科のために、別の所も覗きに行くことになるだろうね」

 

侍女たちが腰回りへ移り始めた。

くすぐったさに甲高い声を上げている。

くびれも見え始めて、女に近づいてきたね。

 

注意を引くために子どもたちへ問いかける。

 

「あんたらは何になるつもりか決まってるのかい?」

 

「サンダーマージからマージファイター‼

ご先祖さまと同じ魔法戦士に決まってるわ‼」

 

家族愛が強いフリージ家の娘らしい選択だ。

 

「僕はマージからマージナイト。

やっぱり、ロートリッターに憧れてるんだ。

それに機動力があれば、兄さまのお手伝いが出来る」

 

アゼルも男の子だね。

測定で分かっていたとはいえ、大きくなった。

 

続けようとしない背中へ向けて、茶化す。

 

「ユリス、あんたはどうなんだ。

まさか、また知らないなんて言うんじゃないよな」

 

この数年でこの子も十分魔法を使えるようになった。

アゼル程制御が巧みではなく、ティルテュ程の威力もないが、もう少しすれば十分実戦に連れていける。

特に、魔法防御はこの子が頭一つ抜けている。

魔法に対する盾としてなら、今すぐでも申し分ない。

 

「私はセイジになりたい。

炎魔導書が擦り切れた時でも、他の魔法と杖で戦い続けたい。

それならこれが一番」

 

随分な言い草じゃないか。

初陣で何かあったのかね。アルヴィスと出たって聞いている。

危険なことなんて、あるはずないだろうに。

 

突然、ティルテュが目の前のユリスに抱き着く。

揺れ動かないように強く抱き返すユリス。

 

前までは同じ身長の二人だったけど、

今ではティルテュの鼻のあたりに頭が来る。

 

「あたしとおんなじで杖も勉強するのね‼

アゼルは仲間外れ。あたしたち女の友情のかち~‼」

 

「上級になる前は僕と一緒で色んな魔法を学ぶんだよ。

乳兄弟の絆の方が強いに決まってるよ」

 

「モテ女、ユリス。私は最強‼」

 

……この子も、もう隠せなくなってきたね。

背は低いが、女の身体になってきた。十分使える。

 

そのうち、この子もコルセットを嫌いになるんだろうね。

あんたもついにあれを味わうんだね。

あたしは待ってたよ。

 

「セイジだけ剣を使わないだろう。

それに光魔法も中級まで覚えなきゃならない。

一番の仲間外れはあんただよ」

 

「……ヒルダ様のいじわる。

もっとモテモテな時間を味わいたかった」

 

「次は、あんたの番だ。

制服の細かい所も決めなきゃならない。

とっとと終わらせるよ」

 

―――――

 

ユリスの採寸も終わり、制服の細部を決める。

 

基本の型さえ守れば、どのように飾り付けてもいいことになっている。

この部分が一番難しく、重要だ。

 

まずは、財力の誇示。

これが出来ない奴は、そもそも上級仕官じゃなく下士官課程に行きな。

貴族でもないのにこちらの敷居を跨ぐ奴は、無謀か、強者だ。

本物は貴族が面倒を見るから、問題はない。

 

次に、真の貴族かの判定。

制服ってのは、豪華にすればいいってもんじゃない。

ドレスみたいに飾り付けたら動きづらくて仕方ない。

なにより、”制服”だ。

バーハラ士官学校への所属を示せなくては意味がない。

余所者がやりがちな過ちだ。あたしらグランベル諸侯は絶対にしくじれないよ。

 

それに、基本から逸脱しすぎないだけでは不十分。

真に正しい制服とは、家格に合ったものだ。

上位者が質素だと、舐められる。

叩き潰すのは簡単だ。だが、面倒だ。

下が華美なら、自らを無知を喧伝する。

 

大抵は1年もすれば分を弁える。

そうせざる負えなくなっちまうのが、士官学校だ。覚えておきな。

 

―――――

 

侍女たちに見本を持って来させ、机に広げていく。

子供達は手に取り、光にかざし、自分だけの制服を考える。

見当を付けた子から、それぞれの上半身を模した像に貼り付けていく。

 

ティルテュは駄目だ。

派手すぎるボタンや大きな刺繍を選ぶ。更に隙間を埋めるように付け足している。

ドレスを作るつもりなのかね。それは今度だ。

そんな恰好であたしの授業を受けたことなんて無いだろうに。

 

王族がいない上、直系がこの子達の同年代にはいないと聞いている。

まして、うちは当主が王国宰相だ。この子が一番豪奢な制服にしても白眼視はされないだろう。

それに、この子がフリージ家にとって大切にされているのを示すのも、未来の嫁入り先への宣伝として悪くない。

どうせうちの男どもはもっと飾ろうとするだろう。

 

だからこそ、あたしが止める。

この子が制服の手入れが出来るとは思えない。

出来たとしても、すぐに壊してしまうに違いない。

美しいものは小さなほつれがあるだけで、それを引き立てるだけになる。

リーネ仕込みのユリスならどうにかはするだろう。

だが、従軍する時に自分で対処出来なくては意味がない。

 

反対に、アゼルは欠けている。

ヴェルトマーにしては地味なものばかり選んでいる。

質実剛健なあの家としては悪くない。優しい灯のようなこの子らしい選択だ。

 

だが、同期にフリージやドズル*1、ユングヴィ*2がいる。

そいつらに見劣るのは許されない。

王国の懐刀がみすぼらしくては、王家すら軽んじられる。

 

ユリスは悪くない。

先に二人を観察し、それよりわずかに等級の落ちる素材を選んでいる。

同じ聖痕持ちだとしても、主家ではない。その自覚を抱いていることを服装で主張しようと努めている。

加えて、少ない装飾を活かす配置を心掛けて、位置の微調整を繰り返している。

この子だけは、自らの武器として飾りを選定している。

……身についてるじゃないか。

*1
斧の神器を継承する家。

*2
弓の神器を継承する家。




原作では神の血を引いていると、HP+対応したステータスに成長率ボーナスが付きます。
軍人的には見ると、かなり大きなアドバンテージですよね。
強固な貴族制の裏付けになっているように思えます。

クラスについて補足します。
原作ではLv.20でクラスチェンジ(CC)を行い、能力上限や武器レベルを向上させられます。

ティルテュは魔道歩兵として完成度の高い「マージファイター」へ。
アゼルは機動力で戦場を駆け回る「マージナイト」になります。
下級職の際は癖があり育成の難しい二人ですが、CC後は一線級のユニットになってくれます。

ユリスの目指す「セイジ」は、味方側で唯一魔力上限が30に届く魔道歩兵です。
原作で魔力30に届くのは最大でも7人。

・アルヴィス(神器で事実上40)
・レプトール
・ユリウス(アルヴィスの息子)
・ユリア(アルヴィスの娘)
・ヒルダ
・イシュタル(ヒルダの娘)
・セティ

ちなみに、原作ラスボスは魔力25です。
ファラなら傍系でも達成できるのに、ロプトウス直系が届かないんですね。

原作についてご存じですか?

  • 聖戦の系譜をプレイして覚えている
  • 触ったことはある
  • FEシリーズはやったことがある
  • FEシリーズに触れたことはない
  • 全く知らない
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