ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

11 / 39
士官学校
観察は面倒 ―グラン歴754年


退屈な式がようやく終わる。

高すぎる天井が、お説教を反響するみたいだった。

 

グランベルに属する直系七家の当主全員の挨拶に加え、

諸国の王代理からの話、

校長の訓辞といい聞かされっぱなしだ。

いい加減耳を休ませろ。

 

ケツだって痛い。

椅子にはもっと柔らかいクッションをつけておいてくれよ。

これが、最初の訓練ってやつか。

 

この次は、なっがい廊下を渡り、教室で自己紹介でもするんだろう。

面倒だ。

大体、普通は貴族同士のつながりで誰が誰かなんて分かるもんだ。

教えねえのは、うち位なもんだ。

 

親父達は、肩書ではなく奥底を見てこい、なんて隠しやがった。

それにしたって、名前くらいは教えておけよ。

かろうじて従者たちから4つの末裔家が子女を送り出すことは聞き出せた。

 

小隊が入れる程度の大きさの教室に着き、予め指定されていた席に着く。

こっちの椅子はケツに優しそうだ。

席順は入学前の身体検査での身長を元にしているらしい。

なんでも生徒間で身分を気にしすぎるとまともな教育が行えないからだそうだ。

校長が言ってた。

 

そんなことより、早く話を終わらせてくれ。

 

周りを見回すと、俺よりかなり上の奴らが多い。

今年は叩き上げばかりってことか。

その方が堅苦しくなくていいだろう。

向こうにとって、俺みたいなのは厄介だろうがな。

 

同じ位のは、金髪の男に銀髪女、それに赤髪の男女。

 

……大体誰がどこの家なのか分かっちまった。

確かに肩書きを聞く必要は無かったな。

 

―――――

 

式の後で草臥れて、誰も口を開かない。

 

暫くすると、教師が壇上に立つ。

 

「まずは、みなさんの自己紹介から始めましょう。

学園内は身分を気にしないとはいえ、出身も教えてください」

 

そんなおためごかし、よく吐けるな。

早速矛盾しちまってるじゃねえか。

 

誰も口を開かない。

 

当たり前だ。最初に失敗したら目も当てられない。

下のがやれば、不敬と叩かれるかもしれない。

上の者もこんな火中の栗を拾ってやる義理はない。

 

仕方ない、3番目くらいにやってやるか。

 

隣のおっさんも気まずそうに目を伏せている。

 

先頭に座る赤い髪の小さな女が、立ち上がる。

勢いをつけ、振り返る。

広がる髪が日光を受け、周りを赤へ染める。

 

「口火を切るのは、この私。ヴェルトマーだけに」

 

あれが、アゼル公子か。

男と聞いていたが、女だったのか。

 

おっさんの肩が跳ねている。こいつの縁者か。

ってことは、ロートリッターかよ‼

お前すごいな。

 

「炎の紋章に仕えるコーエン家のユリスです。ファラの聖痕持ち」

 

朱鷹がいる家だ。

この教室で最上位ではないが、十分な家格だ。

 

「魔法科所属、いずれセイジ*1になります」

 

セイジ志望ってことは相当な腕があるに違いない。

トンビが鷹を生むなんて言うが、鷹は何を生むのかね。

 

なんでおっさんは安心した顔をしてるんだ?

傅役……なら学園に来るはずないよな。

 

「私の目標は、神器に負けない女になることです」

 

……?

理解できない。

 

おっさんが顔を押さえて、俯いてしまった。

 

教室の空気は凍っている。

ヴェルトマーなら温めろ。

 

「この前は吹き飛ばされた。

強くなって、神器が無くても解決できるようになる」

 

なんだ、こいつ。

なんで生きてる。

 

「縫物や料理、内向きのことが得意。

多分、この中で1番。

困ったことがあったら声かけて」

 

「代わりに力仕事は任せた。荷物とか運んで」

 

なんだ、こいつ。

 

……あんな奴と知り合いなんて、おっさんも辛いよな。

聖痕があるからって、あんな奴の下に着きたくないよな。

あんたには優しくしてやるよ。

 

同じく赤髪が、大きな音を立て立ち上がる。

 

「僕はヴェルトマー家のアゼルです。僕にも聖痕があります」

 

さっきの女の尻ぬぐいのつもりか。

 

おっさんが必死に身体を縮めてる。

こいつも……駄目なのか?

 

「同じく魔法科に所属します。

マージナイト*2を目指しています」

 

「僕は立派なロートリッターになって、

兄アルヴィスを助けられるようになりたいです」

 

「家にばかり居たので読書が趣味です。

これまで経験の無いことをやってみたいです」

 

普通、得意なことを言うもんだ。

そんなんじゃ、舐められるぞ。

 

だが、骨は有りそうだ。

あんな空気の中、切り出しやがった。

 

その勇気に続いてやるかね。

 

「我が名は、リデール*3

ヴェルトマー家にお仕えさせていただいております‼」

 

……おっさんに取られちまった。

 

―――――

 

ヴェルトマーの奴らの後はスムーズに進んだ。

あの爆発を食らったら、誰も緊張なんてしない。

 

おっさんの挨拶も効果的だった。

軍人らしいもので、他の奴らもそれに続きやすかったようだ。

……おかげで最後になっちまった。

 

男女に分かれ寮へ案内される。

女もそれなりにいたが、やはり男が多い。

 

俺はあのヴェルトマーの公子と同室だ。

早速、寝台に荷物を置き、荷ほどきを始める。

 

せっかくだ。

どんな奴か見定めてやる。

 

「作業しながら話そうぜ」

 

お互いに背を向け、荷物へ向かいながら言葉を交わす。

 

「まさか、あんたと同じ部屋になるとはな。

改めて、レックスだ。

これから3年も付き合うんだ。

家のことはいいだろ?」

 

斧は訓練場で借りられる。ほとんどが衣服だ。

鞄から出して、適当に置くだけで済む。

 

「ありがとう。僕はアゼル。

よろしくね」

 

……家格を鼻にかける奴ではなさそうだ。

3人もいるのだから、家を中心に派閥でも作ろうとしているもんかと思ってたぜ。

 

爆弾を投げ込む。

 

「それにしても、自己紹介には驚いたぜ。神器に負けない女って」

 

「僕も驚いた……」

 

……本気だな。マジかよ。

 

この様子じゃ仕込みじゃなさそうだ。

てっきり、下っ端にヘマを打たせて、

それを庇うお優しい主君ぶる腹積もりかと思ったぜ。

 

つまり、やべー女?

 

「ユリスは……あの子は勇気があるんだ。

誰もやりたくないことを率先してやったんだ」

 

勇気か。

神器に向かっていくのは無謀って言うんだぜ。

……親父には歯向かいたくない。

 

意識して明るい声を出す。

 

「でも、あのジョークはないぜ」

 

後ろから荷ほどきの音が聞こえなくなる。

 

「……あれはユリスのマイブームみたい。

うちの大人たちは、何でも炎に例えようとするから……」

 

こいつも家に確執があるんだな。

 

「でも、ユリスは嘘を言ったじゃない。

本気で頑張ろうとしてるから宣言したんだと思うよ」

 

意味が分からない。

 

「あんたの兄貴は神器を見せてないのか?

直系に傍系は勝てない。

……あんたにも分かるだろう、傍系ならさ」

 

「それでも、努力は出来る。

それに、聖戦士達だってダーナ砦の奇跡まで神器を授かってなかった」

 

……理解できない。

 

「兄さんは僕よりもすごいんだ。

魔法だけじゃなくて、7歳の頃から当主を務めている。

それでも、諦めたくないんだ」

 

「……僕は兄さんより弱い。それどころか姉さんよりも。

ファラフレイム以外の炎魔法なら、いつか僕も使えるようになる*4

そこでは、肩を並べられるようになりたい」

 

向こう見えずで底抜けだ。

こんな奴とこれから3年も過ごすのか。

うちでは、あり得ないな。

 

背後で動く気配がしない。

後ろを振り向く。

アゼルは先にこっちを見ていた。

 

目を背け、茶化す。

 

「流石はファラの系譜。アッツイものを抱えてるんだな」

 

「もう、やめてよ。

そんなすごいものじゃないよ」

 

「はは、直ぐに赤くなる。

かわいい奴だ」

 

「僕は訓練場で走ってくる。

行軍訓練がきついって姉さんから聞いてるんだ」

 

アゼルが部屋から駆け出した。

 

靴音に置いて行かれないよう、その背中に向けて声をかける。

 

「おいおい、初日だぞ。

同室のよしみだ。付き合ってやるよ」

 

荷ほどきなんざ放っておけ。

それよりも今は走りたい気分だ。

 

おもしれー男。

 

*1
魔法歩兵。闇以外の魔法と杖をBまで使える。

*2
魔法騎兵。三種の魔法と剣をBまで使える。

*3
アルヴィスの部下。

原作で不服な任務だろうが裏切らずにこなす。

*4
ファラ傍系のボーナスにより、マージナイト時点で炎魔法はAまで使える。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。