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エーディン(約3年後の姿)
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日中の明かりを受け、中庭を進む。
分かれ道で男女別に寮に入る。
あたしとユリスだけは3階へ登る。
他の女性とは2階でお別れだ。
荷物を抱えて、階段を上がるのが大変。
そこにある一部屋をこれから二人で使う。
家族や侍従以外の人間と一緒に暮らすなんて初めて。
お兄さまだって通ってたんだ。大丈夫。
それに、ユリスと一緒なら安心。
他の知らない子だったら無理。
あたし達の部屋は狭い。うちの支度室の方が広い。
それぞれのベッドに個人用机、荷物入れ、
クローゼット、それにナイトテーブルしか家具がない。
これじゃ、お茶会が開けないじゃない‼
「ほら、荷ほどき」
ユリスが促してくる。
この部屋で満足なの⁉
ユリスはもう鞄から荷物を取り出してる。
……あたしもやるしかないか。
鞄を開けると、大量の衣服と身の回りの道具が詰まっている。
後で他にも送って来るんだから、そっちに入れておいてくれればいいのに。
そうなら重い荷物を持って階段を上がらなくてよかったのに。
突然の叫び声。
「これを見よ‼」
ユリスが絵札を突きつけてきた。
「ならば、こちらもお見せしよう‼」
あたしも折り畳みチェス盤を突き出す。
ユリスも楽しみにしていたのね‼
自分で荷ほどきなんて面倒くさい。
でも、早く終わらせなきゃ。
そうしたら、アゼルにも遊び道具を持ってこさせて、遊びましょう。
―――――
取り出した服をユリスがブラッシングしている。
髪以外にもやるなんて、ユリスは本当に撫でるのが好きね。
「ティルテュもやる?」
「う~ん、
やってみようかな」
荷ほどきの気分転換に良いかも。
あたしの鞄の中からブラシを取り出して手渡してくる。
「どうやるの?」
「最初は埃を掻き出すの。
襟の裏とか、刺繍の細かい所に気を付けて」
髪とは違うのね。
「その後に、上から下に撫でてあげて。
毛流れを整えてあげるの」
生地を撫でる音が心地いい。
「ほら、綺麗になった。
この子達も鞄の中で窮屈だったんだね」
取り出した時よりも光沢がでてる。
服も髪と一緒なのね。
「あたし達も入学式でやられたし、おそろいね」
綺麗になると気分いいわね。
扉が叩かれる。
女中たちはここには入ってこれないんじゃなかった?
「新入生のお部屋で合ってるかしら?
今、お話しいいかしら?」
お姉さまが言ってたやつだ。
あたしの荷物にはサンダーがない。
ユリスの鞄にも魔導書がなさそう。
あたしたち2人なら、上級生相手でも何とかなるよね?
「はい、大丈夫です。
今空けますね。」
ちょっと待って‼
ユリス‼
お姉さまの言ってたこと忘れちゃったの⁉
武器は……ブラシしかない。
扉をユリスが開けようとする。
こうなったら、ユリスの影から不意打ちするしかない。
なんであたしより背が小さいの‼
もっと大きくなりなさい‼
「慣れないことで大変でしょう。
お手伝いに来たわ」
「私たちも苦労したもの。
一緒に片付けて、お茶でもしましょう」
二人もいる。
新人いびりだ。
あたしは詳しいんだ。
―――――
桃色の髪と目をした女性が立っていた。
「ここでは身分なんてないってことになってるけど、挨拶は大切よね。
初めまして、私はシアルフィのエスリン*1よ。印持ち」
シアルフィってことはバルドね*2。
きっと、力が強いから避けられるようにしなきゃ。
後ろには、ウェーブがかった金髪金目の女性もいる。綺麗な人だ。
「私はユングヴィのエーディン*3。私も聖痕を授かっています。
あなたたちの同級生に、弟のアンドレイがいます」
軽く手を振ってくれている。
ユングヴィはウル*4。
ここは、近距離。これなら狙撃はされないわ。
こっちもそっと手を振り返す。
……ピンクも振ってくれた。
武器を持ってない。
……こっちにはブラシとユリスがいる。
地の利もある。
二人とも、見た目は怖くないわ。
お姉さまよりは優しそうな顔。
「ご挨拶遅れてしまい申し訳ございません。
お二人に御足労おかけしました。
ほら」
ユリスの肩を掴んでいた手を引きはがされる。
そのまま、手を掴まれ、
立ち位置を入れ替えるように前へ出してきた。
ユリス‼
あたしも怖いのよ‼
手は握ってて‼
「……フリージのティルテュです」
「ヴェルトマー家に仕えるコーエン家のユリスです。聖痕を頂いています。
ティルテュともども、魔法科に所属します。
お会いできて、光栄です」
「あらあら、そんなに固くならなくていいのよ。
色々教えてあげる。仲良くしましょう」
「あと2年も付き合うんだし、本当に気にしないで。
本当に肩の力を抜けるのは、ここか、外部のサロンしか無いんだから」
あれ?
もしかして、絞めにきたんじゃないの?
「じゃあ、秘密の闘技場ってどこにあるんですか?」
ユリス‼
喧嘩売んないで‼
あたし達は魔導士‼
接近戦じゃ分が悪すぎる‼
「そんな噂があるのね。一緒に探しましょう。
他にも聞かせてちょうだいね」
あれ?
お姉さまの話って冗談だったのかしら?
同級生とはいえ貴族を叩きのめすのは、ないわよね。
「あら、片方のは終わっているのね。
二人で協力して荷ほどきをしていたのね。元からお友達だったの?
それほどお手伝いできることは、無いかもしれないわね」
優しい。
手伝ってもらって、早くお茶にしましょう。
「先輩方、ありがとうございます。
ですが、フリージ家次期当主夫人から、自力でやるように仰せつかっています。」
お姉さまの声真似をし始めるユリス。
「曰く、
甘ったれを叩きなおすいい機会だ。荒波で溺れるまでは助けるんじゃないよ」
あたしにを指さしながら言ってきた。
裏切り者‼
「随分厳しい方ね。
じゃあ、一頑張りの前に栄養補給をしましょう」
あたしの味方は、先輩たちしかいないわ。
―――――
部屋から出て、同じ階にあるサロンに連れて行ってもらった。
ここは、部屋よりも日差しがたくさん入る。
気持ちがいい。
「ここは、この階の生徒だけが使えるサロン。
お茶を自分でやらなきゃいけないのが、面倒だけど」
城にあるあたしの書斎と同じ位ね。
大きな暖炉がある。これなら冬でも寒くなさそう。
部屋よりもここで過ごした方が、楽しそう。
「ここを使っていいのは21時まで。
あんまり夜更かししすぎちゃ駄目よ」
「今はあたし達4人だけ。
他はこのフロアにいないから気にしないわ」
「エスリン。
いきなりそういうことを教えてはいけないわ」
ユリスが声を出す。
「お湯はどこでもらえばいいんですか?」
それはとっても大事。
お茶が無ければジュースを飲むしか無いからね。
ついでにお菓子の場所も聞いて。
「冬は暖炉でもいいけど、横の部屋で火を使えるの。
慣れないだろうから、最初は私たちが見ててあげる」
「良かった~。
てっきり訓練しか出来ない場所かと思いました」
「最初はそう感じるよね。
部屋だって、かなり小さくて何もないし」
やっぱり、みんなそう思うわよね。
ユリスが気にしてないから、驚いちゃった。
「慣れれば気にならなくなるわ。
それに、寝る前にエスリンと話せるのは楽しいわよ」
ユリスの手を捕まえる。
「夜のお話‼
いいわね‼いいわね‼」
そういうの本で見た‼
秘密のお話しとか、恋のお話しとか、そういうのでしょ‼
あたしは詳しいんだから‼
ユリスもこっちを見てる。
楽しみなのね‼
「ヒルダ様は友達がいなかったのか」
……。
お、お姉さまにはお兄さまがいたから……。
「物音はあまり立てないようにね。
下の階に同じ上級士官課程の生徒がいるから」
「消灯時間は同じく21時。
そこからは気をつけましょうね」
手を握り直して、ユリスへ合図を送る。
「「は~い」」
「それと、肝心なことを伝えておくわ」
エスリン先輩が真剣な顔になった。
「この階には、管理する女中と私たち以外は入れないこと。
顔見知りでも駄目。男は論外。
もし、見かけたら大声で叫びましょう」
「なぜですか?」
なんで?
「安全のためね」
「私たちの先輩が言っていたわ。
私たちみたいな女の子がこのフロアにはいる。
だから、悪さをする輩が出る*5。
そんな奴らに入ろうと思わせないようにって」
エーディン様が補足してくれる。
「下には他の女生徒がいるから、ここまで上がってこれないわ。
でも、新しく来た子には絶対に伝えておかなきゃいけないから。
怖がらせちゃったかしら?」
……あたしのサンダーならユリスを守れるわ。
ユリスが口を開く。
「つまり、ティルテュは侍女に助けを呼べない」
っ‼
「あたしだって、やればできるもん‼」
エーディン先輩が微笑んでる。
あたしのこと、信じてないのかな。
「私も来たばかりの頃は苦労したわ。
エスリンに助けてもらったの」
こんな大人っぽい人でも大変だったんだ。
「さぁ、一緒に給湯室に行きましょう。
それで、お茶を飲んだら、荷ほどきを終わらせちゃいましょう」
エスリン先輩照れてる。
ユリス以外にも優しい人がいる。
ここで成長して、お父さまに褒めてもらいましょう‼