ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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エスリン(約3年後の姿)
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エーディン(約3年後の姿)
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南部二家は裕福 ―グラン歴754年

日中の明かりを受け、中庭を進む。

分かれ道で男女別に寮に入る。

 

あたしとユリスだけは3階へ登る。

他の女性とは2階でお別れだ。

 

荷物を抱えて、階段を上がるのが大変。

そこにある一部屋をこれから二人で使う。

 

家族や侍従以外の人間と一緒に暮らすなんて初めて。

お兄さまだって通ってたんだ。大丈夫。

 

それに、ユリスと一緒なら安心。

他の知らない子だったら無理。

 

あたし達の部屋は狭い。うちの支度室の方が広い。

それぞれのベッドに個人用机、荷物入れ、

クローゼット、それにナイトテーブルしか家具がない。

これじゃ、お茶会が開けないじゃない‼

 

「ほら、荷ほどき」

 

ユリスが促してくる。

 

この部屋で満足なの⁉

 

ユリスはもう鞄から荷物を取り出してる。

……あたしもやるしかないか。

 

鞄を開けると、大量の衣服と身の回りの道具が詰まっている。

後で他にも送って来るんだから、そっちに入れておいてくれればいいのに。

そうなら重い荷物を持って階段を上がらなくてよかったのに。

 

突然の叫び声。

 

「これを見よ‼」

 

ユリスが絵札を突きつけてきた。

 

「ならば、こちらもお見せしよう‼」

 

あたしも折り畳みチェス盤を突き出す。

 

ユリスも楽しみにしていたのね‼

 

自分で荷ほどきなんて面倒くさい。

でも、早く終わらせなきゃ。

そうしたら、アゼルにも遊び道具を持ってこさせて、遊びましょう。

 

―――――

 

取り出した服をユリスがブラッシングしている。

髪以外にもやるなんて、ユリスは本当に撫でるのが好きね。

 

「ティルテュもやる?」

 

「う~ん、

やってみようかな」

 

荷ほどきの気分転換に良いかも。

 

あたしの鞄の中からブラシを取り出して手渡してくる。

 

「どうやるの?」

 

「最初は埃を掻き出すの。

襟の裏とか、刺繍の細かい所に気を付けて」

 

髪とは違うのね。

 

「その後に、上から下に撫でてあげて。

毛流れを整えてあげるの」

 

生地を撫でる音が心地いい。

 

「ほら、綺麗になった。

この子達も鞄の中で窮屈だったんだね」

 

取り出した時よりも光沢がでてる。

服も髪と一緒なのね。

 

「あたし達も入学式でやられたし、おそろいね」

 

綺麗になると気分いいわね。

 

扉が叩かれる。

女中たちはここには入ってこれないんじゃなかった?

 

「新入生のお部屋で合ってるかしら?

今、お話しいいかしら?」

 

お姉さまが言ってたやつだ。

あたしの荷物にはサンダーがない。

ユリスの鞄にも魔導書がなさそう。

 

あたしたち2人なら、上級生相手でも何とかなるよね?

 

「はい、大丈夫です。

今空けますね。」

 

ちょっと待って‼

ユリス‼

お姉さまの言ってたこと忘れちゃったの⁉

 

武器は……ブラシしかない。

 

扉をユリスが開けようとする。

 

こうなったら、ユリスの影から不意打ちするしかない。

 

なんであたしより背が小さいの‼

もっと大きくなりなさい‼

 

「慣れないことで大変でしょう。

お手伝いに来たわ」

 

「私たちも苦労したもの。

一緒に片付けて、お茶でもしましょう」

 

二人もいる。

新人いびりだ。

あたしは詳しいんだ。

 

―――――

 

桃色の髪と目をした女性が立っていた。

 

「ここでは身分なんてないってことになってるけど、挨拶は大切よね。

初めまして、私はシアルフィのエスリン*1よ。印持ち」

 

シアルフィってことはバルドね*2

きっと、力が強いから避けられるようにしなきゃ。

 

後ろには、ウェーブがかった金髪金目の女性もいる。綺麗な人だ。

 

「私はユングヴィのエーディン*3。私も聖痕を授かっています。

あなたたちの同級生に、弟のアンドレイがいます」

 

軽く手を振ってくれている。

 

ユングヴィはウル*4

ここは、近距離。これなら狙撃はされないわ。

 

こっちもそっと手を振り返す。

……ピンクも振ってくれた。

 

武器を持ってない。

……こっちにはブラシとユリスがいる。

地の利もある。

 

二人とも、見た目は怖くないわ。

お姉さまよりは優しそうな顔。

 

「ご挨拶遅れてしまい申し訳ございません。

お二人に御足労おかけしました。

ほら」

 

ユリスの肩を掴んでいた手を引きはがされる。

そのまま、手を掴まれ、

立ち位置を入れ替えるように前へ出してきた。

 

ユリス‼

あたしも怖いのよ‼

手は握ってて‼

 

「……フリージのティルテュです」

 

「ヴェルトマー家に仕えるコーエン家のユリスです。聖痕を頂いています。

ティルテュともども、魔法科に所属します。

お会いできて、光栄です」

 

「あらあら、そんなに固くならなくていいのよ。

色々教えてあげる。仲良くしましょう」

 

「あと2年も付き合うんだし、本当に気にしないで。

本当に肩の力を抜けるのは、ここか、外部のサロンしか無いんだから」

 

あれ?

もしかして、絞めにきたんじゃないの?

 

「じゃあ、秘密の闘技場ってどこにあるんですか?」

 

ユリス‼

喧嘩売んないで‼

あたし達は魔導士‼

接近戦じゃ分が悪すぎる‼

 

「そんな噂があるのね。一緒に探しましょう。

他にも聞かせてちょうだいね」

 

あれ?

お姉さまの話って冗談だったのかしら?

同級生とはいえ貴族を叩きのめすのは、ないわよね。

 

「あら、片方のは終わっているのね。

二人で協力して荷ほどきをしていたのね。元からお友達だったの?

それほどお手伝いできることは、無いかもしれないわね」

 

優しい。

手伝ってもらって、早くお茶にしましょう。

 

「先輩方、ありがとうございます。

ですが、フリージ家次期当主夫人から、自力でやるように仰せつかっています。」

 

お姉さまの声真似をし始めるユリス。

 

「曰く、

甘ったれを叩きなおすいい機会だ。荒波で溺れるまでは助けるんじゃないよ」

 

あたしにを指さしながら言ってきた。

 

裏切り者‼

 

「随分厳しい方ね。

じゃあ、一頑張りの前に栄養補給をしましょう」

 

あたしの味方は、先輩たちしかいないわ。

 

―――――

 

部屋から出て、同じ階にあるサロンに連れて行ってもらった。

ここは、部屋よりも日差しがたくさん入る。

気持ちがいい。

 

「ここは、この階の生徒だけが使えるサロン。

お茶を自分でやらなきゃいけないのが、面倒だけど」

 

城にあるあたしの書斎と同じ位ね。

大きな暖炉がある。これなら冬でも寒くなさそう。

部屋よりもここで過ごした方が、楽しそう。

 

「ここを使っていいのは21時まで。

あんまり夜更かししすぎちゃ駄目よ」

 

「今はあたし達4人だけ。

他はこのフロアにいないから気にしないわ」

 

「エスリン。

いきなりそういうことを教えてはいけないわ」

 

ユリスが声を出す。

 

「お湯はどこでもらえばいいんですか?」

 

それはとっても大事。

お茶が無ければジュースを飲むしか無いからね。

ついでにお菓子の場所も聞いて。

 

「冬は暖炉でもいいけど、横の部屋で火を使えるの。

慣れないだろうから、最初は私たちが見ててあげる」

 

「良かった~。

てっきり訓練しか出来ない場所かと思いました」

 

「最初はそう感じるよね。

部屋だって、かなり小さくて何もないし」

 

やっぱり、みんなそう思うわよね。

ユリスが気にしてないから、驚いちゃった。

 

「慣れれば気にならなくなるわ。

それに、寝る前にエスリンと話せるのは楽しいわよ」

 

ユリスの手を捕まえる。

 

「夜のお話‼

いいわね‼いいわね‼」

 

そういうの本で見た‼

秘密のお話しとか、恋のお話しとか、そういうのでしょ‼

あたしは詳しいんだから‼

 

ユリスもこっちを見てる。

楽しみなのね‼

 

「ヒルダ様は友達がいなかったのか」

 

……。

お、お姉さまにはお兄さまがいたから……。

 

「物音はあまり立てないようにね。

下の階に同じ上級士官課程の生徒がいるから」

 

「消灯時間は同じく21時。

そこからは気をつけましょうね」

 

手を握り直して、ユリスへ合図を送る。

 

「「は~い」」

 

「それと、肝心なことを伝えておくわ」

 

エスリン先輩が真剣な顔になった。

 

「この階には、管理する女中と私たち以外は入れないこと。

顔見知りでも駄目。男は論外。

もし、見かけたら大声で叫びましょう」

 

「なぜですか?」

 

なんで?

 

「安全のためね」

 

「私たちの先輩が言っていたわ。

私たちみたいな女の子がこのフロアにはいる。

だから、悪さをする輩が出る*5

そんな奴らに入ろうと思わせないようにって」

 

エーディン様が補足してくれる。

 

「下には他の女生徒がいるから、ここまで上がってこれないわ。

でも、新しく来た子には絶対に伝えておかなきゃいけないから。

怖がらせちゃったかしら?」

 

……あたしのサンダーならユリスを守れるわ。

 

ユリスが口を開く。

 

「つまり、ティルテュは侍女に助けを呼べない」

 

っ‼

 

「あたしだって、やればできるもん‼」

 

エーディン先輩が微笑んでる。

あたしのこと、信じてないのかな。

 

「私も来たばかりの頃は苦労したわ。

エスリンに助けてもらったの」

 

こんな大人っぽい人でも大変だったんだ。

 

「さぁ、一緒に給湯室に行きましょう。

それで、お茶を飲んだら、荷ほどきを終わらせちゃいましょう」

 

エスリン先輩照れてる。

 

ユリス以外にも優しい人がいる。

ここで成長して、お父さまに褒めてもらいましょう‼

 

*1
原作主人公の妹。序章で唯一杖が使える人。

*2
聖剣ティルフィングを継承する家。

HP・力・技・幸運の成長率に+補正がかかる。

*3
原作の引き金になった人。

*4
聖弓イチイバルを継承する家。

HP・幸運の成長率に+補正がかかる。

*5
原作でも聖痕持ちの子女は攫われている。

自軍の女性も二名、幼少期にその様な目にあっている。

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