足の痛みが無くなった頃、外出許可が僕たちに与えられた。
学校にも慣れ始め、多少のゆとりがあっても良いと判断されたかららしい。
ただし、学園区画だけに限られている。
外出と言われても、これまでしたことが無いからよく分からない。
姉さんとティルテュに会いに行く以外で屋敷を出たことがない。
それも馬車に乗せられて揺られるだけだった。
王都とヴェルトマーの邸宅を移動する時もワープだった。
外の道を歩くのは、どんな感じなんだろう?
よし、聞いてみよう。
「リデールさん、聞きたいことがあるんだ」
ロートリッターで頼りになる人だ。
兄さんに神器の管理を任されたこともあるって聞いてる。
「なんでしょうか、アゼル様」
「外出なんだけど、何をすればいいのかな?」
「なかなか難しいことを聞かれますな。
ただ街中を歩き回る、
それだけでも気が晴れるものです」
そういうものなんだ。
「本来なら、護衛を買って出るべき所です。
ですが、ご自分で街を探検する。
その楽しみを奪うのは忍びありません。
他の騎士には内密にお願いしますね」
「探検……探検かぁ」
屋敷には様々な探検小説があった。
騎士を勇者にする精霊の湖。
恋を求める戦士に速さを授ける岬。
秘境を切り開いていく。
そんなロマンをこの王都でも味わえる‼
よし、ユリスと行こう‼
「アゼル様、もしやユリス様を誘おうとなされていませんか?」
「すごいや、リデールさん。
ちょうどそう思ってた」
「……それはよろしいのですが」
そんな顔をするほどの何かがあるのかな?
「男同士というのも乙なものです。
そこで見つけたものをユリス様に披露されてはいかがでしょうか」
確かに。
ユリスには驚かされてばかりだ。
たまには、こっちの番だ。
「おいおい、面白そうなこと話してるじゃないか。
置いてきぼりなんて水臭いぜ」
「レックスが居れば心強いね。
アンドレイ、君も一緒に探検に行かない?
探検には斥候が居なくちゃ」
「僕は遠慮する。訓練で忙しい。
精々僕のために情報を集めてきたまえ」
アンドレイに頼られちゃった。
「分かった。
今回は、僕たちが斥候だね」
情報をしっかり集めよう。
「アゼル様、お小遣いはお忘れなく。
それと所持金は複数の場所に分けてお持ちください」
リデールさんがそう言って、送り出してくれる。
―――――
僕たちは走って校門を潜り抜ける。
振り返れば、士官学校がそこにある。
本当に、出ちゃった。
なんだか空が明るくなった気がする。
「早速帰りたくなったのか?」
「違うよ。
初めて自分の足で外に出たから、なんか不思議な気分」
「行軍で嫌になるほど外に行っただろ。
まあ、俺も分からなくはないさ」
「レックスも初めてなの?」
「いいや、何回かうちから抜け出したことはある。
直ぐに見つかって、連れ戻されたけどな」
「なら、正式な外出は初めてだ。
とりあえず、あっちに行こう‼」
「それより人が多い所にしよう。
そっちの方が、何かある確率が高い」
―――――
それから、街の中を歩いて回った。
気になる店を見つけるたびに、入っていく。
赤い髪の店員さんが目を引く預かり所*1。
戦闘用の武器や装飾品を預かってくれるらしい。
街中を歩く時、多くの装備を持ち歩くわけにいかない。
だから、その時に利用してね、って店員さんに教えてもらった。
僕は魔導士だからあんまりお世話になりそうにないなぁ。
そもそも、武器って家や訓練場に置いておくよね。
次に占い屋*2。
おじいさんが僕の顔を見るなり、告げてきた。
「エーディンのことが気になっているようじゃ」
ズバリ的中させられてしまった。
……まだ誰にも言ってないのに。
占いって当たるんだ。
街にはすごい人っているんだね。
でも、お金払わなくていいのかな?
それに闘技場*3。
ここは士官学校生が近いから、平均的な質が高いらしい。
だから、予想が難しくてヒリつくっておじさんが言ってた。
賭け事はいいかな。お金はあるし。
それに、参加者は勝てれば賞金がもらえるらしい。
レックスは参加したそうだった。
今の僕だと勝ち抜けそうにないや。
まだ戦いながら魔法が使えない。
兄さんなら出来るんだろうな……。
よし、帰ったら訓練だ。
―――――
一通りの店を見て回った後、レックスが切り出してきた。
「秘密基地って憧れないか?」
「すごい憧れる」
山中の洞窟。
引き潮でしか通れない道の先にあるアジト。
どれも、心が躍る。
「先輩から聞いたんだが、
俺たちみたいなのはそれぞれが王都の中に作るらしい」
そうなんだ。
ってことは、今までも見かけたのかもしれない。
街中に隠すって言うのは新しい視点だ。
「いいね‼
建築はどこにお願いしようか?
王都ならヴェルトマー邸を作ってもらった所が頼れると思う」
兄さんに相談しなきゃ。
……でも、兄さんも驚かせたいな。
呆れたような声のレックス。
「はぁ、お前にはロマンが足りない」
「そんなことないよ‼」
「いいか、作るんじゃない。
見つけ出して、秘密基地にするんだ」
「そんなの押し入り強盗じゃないか⁉」
基地は欲しいけど、犯罪は駄目だ。
「おいおい、人聞きが悪いなぁ。
一体何を想像しているんだ」
「だって……建築せずに基地を手に入れるんでしょ?」
「物騒だな。店を探すんだ」
「店?
さっき色んな店を見たじゃないか」
どの店も秘密基地らしさは無かった。
「秘密基地ってのは、秘匿されなきゃならない。
だから、個室かそれに近いものがある場所じゃなきゃならん」
……長い時間居ても問題ない所ってことだね。
レックスが肩を回し、身体を伸ばす。
「探すなら、本気でやるぞ。
覚悟はいいか?」
僕も軽く跳ねて、走る準備をする。
「ここからが本当の探検の始まりってことだね」
「勿論だ、らしくなってきたな」
―――――
人通りから離れた、日の光も差し込まない裏路地。
「こういう小道に”本物”はあるんだよ」
路地の入口にいる猫に睨まれた。
「いや……これは危なそうだよ」
「男は度胸!何でもためしてみるのさ」
奥から何かが壊れる音。
急いで僕たちは引き返した。
―――――
女子生徒に人気の製菓店。そうユリスが言ってた。
紅茶と甘い香りが心をほぐしてくれる。
笑い声と楽器の音も聞こえてくる。
破壊音じゃない。
「ここならおやつも食べれていいんじゃない?」
レックスが半目で睨んでくる。
「お前、
もしかしてエーディン先輩へのプレゼント探しをしてるんじゃないだろうな」
「違うよ‼
でも、ここだっていいでしょ。
焼き菓子も美味しいし」
……これからそれも内緒で探そう。
腕を組んで真剣な顔。
「明るすぎる。
もうちょっと……こう……影があった方がぽいだろ」
「たしかに」
ここには、秘密感が無い。
―――――
個室のある書店。
膨大な本が影を落としている。
読書のために長くいてもいい。
軽食もある。完璧だ。
「ここは⁉
静かで、落ち着いていて……何というか、ぽいでしょ」
「確かにぽい。
秘密基地として悪くない。
でも、本に囲まれてると腹が痛くならないか?」
「レックスが食べ過ぎたせいでしょ‼」
「お静かに」
睨まれちゃった。
「「ごめんなさい」」
「ここは、俺たちにはまだ早い。
もう少し、羽を伸ばせる所がいいな」
賛成。
―――――
夕闇に包まれながら、学園に帰る。
足が重い。
「結局、見つからなかったな」
「……うん。
何回も注意されちゃったね」
「財布、すられたな」
「……うん。
リデールさんの言う通りにして良かった」
「暫く、行けないな」
「……うん。
もっと外にいたいね」
学園の門に着いてしまった。
ここを抜けた時は、あんなにワクワクしたのに。
初めての外出がこんな風に終わっちゃう。
もっと、なにかすごいことが起きて、
乗り越えて終わると思ってたのに。
……そうだ、門限も初めてなんだ!!
レックスに呼びかける。
「秘密基地が簡単に見つかってもつまらないよね」
「……お前の言うとおりだな」
「これは俺たちの探検で、秘密基地なんだ。
簡単に終わるほど安くないよな」
「大変なのも探検っぽいよね!!」
「ああ‼
次は何をするか分かってるよな⁉」
「情報集め!!
僕はクラスで聞いてみるよ」
「俺は先輩だ。
直系ってのはどこもいけ好かないと思ってたが、先輩たちはサッパリしてる」
「よし、僕たちの探検はこれからだ!!」
守衛が僕たちを見つめている。
少し、恥ずかしい。
走って、食堂に向かう。
訓練と探検の準備。新しい目標が見つかった。
外出ってすごい。ユリスに話したいことがたくさん増えた。