https://guide.fire-emblem-heroes.com/03001001000177/
キュアン
https://guide.fire-emblem-heroes.com/03007001000286/
エルトシャン
https://guide.fire-emblem-heroes.com/03011001000107/
夜の寝苦しさが減ってきた頃、
いつも通り家族からの手紙が来た。
「産まれた⁉」
お父様からの手紙にそう書いてある。
お兄さまのも確認してみれば、そっちにもある。
男の子らしい。きっと元気な子だ。
でも、肝心のお姉さまのには書いてない。
なんで?調子が悪いの?
顔が見たい。
きっとあの二人の赤ちゃんだから、厳つい顔をしてる。
でも、心は優しくて、決めたことは絶対に譲らない、そんな子になるはず。
それに恋人にはメロメロになりそうね。
あの二人がそうだもん。
あたしは詳しいんだ。
もし、体調が悪かったらどうしよう。
お姉ちゃんとして、撫でに行かなきゃ‼
―――――
授業終わりのまだ騒がしい教室。
あたしはクラスで切り出した。
「脱出するわよ‼」
「いつ出発する?私も同行しよう」
「ユリス‼」
思いっきり抱きしめる。
「君たち、うるさいぞ。
聖戦士の末裔たる自覚はないのか」
生意気な奴‼
「確かに穏やかじゃねえな。ぱちぱち娘」
「そうだよ。そんなこと良くないよ」
あんたまで‼
「お姉さまが弟を産んだのよ‼」
呆れたようなレックス。
「兄弟が増えたってわけか。
フリージらしい、麗しき家族愛って奴か」
「えっ‼
姉さんに子どもが生まれたの⁉」
アゼルが教科書を落として聞いてくる。
「なんで‼
あんたは‼
知らないのよ‼」
「アゼル、どうしたんだ。
君はヴェルトマーで、レプトール宰相の子どもでは無いだろう」
「あんたこそ何言ってんのよ‼」
「……ユリス、解説を頼む。
俺にはサッパリ分からん」
「答えはシンプル。アゼルを拉致する」
「僕⁉」
アゼルの手を引いて教室から出ちゃった。
男たちが顔を合わせてる。
「……俺たちはあの速さについていけない。
魔導士ってのは恐ろしいぜ」
「あんたたち、行くわよ‼」
ノロマ二人を掴んで追いかける。
あたしを置いて行っちゃ駄目‼
あたしがお姉ちゃんなんだから‼
―――――
ユリスは食堂にいた。
まずは、腹ごしらえってわけね。
らしくなってきたわ。
「私たち3人の先生、ヒルダ様のこと。
フリージ次期当主ブルーム様との間に長男を出産された」
「ようやく説明する気になったか」
「でもヒルダ様からの手紙には何も書いてなかった。
恐らく、ティルテュがフリージ城に帰って来てしまうことを危惧したんだと思う」
そういうことだったんだ。
「その心を汲むべきだ。蔑ろにすべきではない」
アンドレイの言うとおりだ。
「でも……会いたい……」
「……何とかしてやりたいが、思いつかねえ。
王都内なら休みに顔を出せばいい。
だが、フリージ城となると片道だけでも馬が潰れる」
最低でも2日必要。
それに騎士科は馬での行軍訓練をしてるけど、
あたしたちはやってない。
「……監視もある。
君たちにそれを抜けられるとは思えないね」
そうだ、ただ行って帰って来るだけじゃないんだ。
監視の目を潜る授業なんて無い。
「……僕たちには難しいのかな」
「私たちには、今すぐどうにかすることは出来ない」
……ユリス。
「無理かな……」
零れちゃった。
喉の奥がきゅっとなる。
「だから、共犯者を増やす。
我道追及系シスターと山賊ワナビ―」
ユリスが吠える。
「ぼさっとしない。走れ‼」
周りを見渡す。
「……つまり、どういうことだ。
まるで意味が分からんぞ……」
レックスもなんだ。
あたしだけじゃなかった。
「アゼル、説得」
「ユリス⁉
いくら優しい先輩でも、足になれって言うのは怒られるよ⁉」
「卒業旅行のプレゼント」
「ティルテュ、いい感じのお茶会は任せた」
「分かんないけど、分かった‼
お姉ちゃんに、まっかせなさい‼」
この間お父様が送ってくれた茶葉がある。
かなり特徴的な香りだから、合わせるお菓子は限られる。
王都だとまだしっくり来るペアが見つかってない。
シンプルになっちゃうわね。
なら、お兄さまの方はどうだろう。
渋みが強いから油分の多い茶菓子と合う。
それなら、いくつか候補がある。
「レックスとアンドレイ、情報収集」
「私は編み物。血尿が今、生かされる」
「君は言葉が足りない‼」
「つまり、共犯者になるとみてよろしいか」
「……」
「おいおい、水臭えな。
俺はとっくにそのつもりだぜ」
シスターって言ってたから、相手は女性。
しかも、かなり我が強いタイプ。
ということは好みがうるさい気がする。
なら、お兄さまのほうが合ってるわね。
お茶が駄目でも、お菓子を揃えれば対応できそう。
もう一人は山賊。
……分かんないわ。悪い人ね。
流石にそんな人の手を借りるのは……。
でも、会いに行くためには仕方ないわね。
……なんか、清濁併せのめるの宰相っぽい‼
―――――
あたし達と2年生が座学の日。
三階のサロンでお茶会の準備をする。
アンドレイから聞き出したエーディン様の好みに合わせた。
中々ペアが見つからなかったけど、
アゼとレックスが街中から良い物を見つけ出してくれた。
話が弾み、ポットが空になる。
給湯室にお湯を取りに行った後、本題を切り出す。
「……お願いがあります。
弟の顔を見に行きたいです。
手伝ってください‼」
カップを置く音が聞こえた。
「家族が恋しくなってしまったのね。
私もそうだったわ。
今年、アンドレイが来てくれて嬉しかったもの」
エーディン先輩もそう思うんだ。
「私は兄上がずっといたからな〜。
やっぱり寂しくなるのかしら。
来年からどうしましょう」
エスリン先輩はクスクス笑ってる。
ユリスが援護してくれる。
「婚約者も居なくなりますよ。
今のうちに思い出作りはいかがですか?」
「あら、まるで悪いことに誘ってるみたい。
エスリンはそういうのが好きだから、駄目よ」
窘めるエーディン先輩。
理由はあたしが説明する。
「お姉さま、えぇっと、義理なんですけど、
お兄さまの赤ちゃんを産んだんです。
それでその子の顔が見に行きたいんです」
「たしかに、会いに行きたいでしょうね」
「それに、お姉さまだけ手紙に書いてなかったんです。
だから、産後の肥立ちが悪いのかなって……」
お姉さまが来てから、怒られることが増えた。
エスニャ*1も本ばかり読んでないで外に出るように言われて迷惑そうにしてた。
おばあちゃまが亡くなった時も、追い回してきた。
でも、お姉さまはみんなの悲しみを吹き飛ばしてくれた。
きっと、お姉さまは大丈夫。
「……そうね。出産は一大事だもの」
「……私たちも他人事には思えないわ」
あたし達にとって、子どもを産むのは絶対の義務。
昔みたいなことがあった時、聖戦士の末裔が残ってなきゃいけない*2。
「私の母も、出産で逝ったと聞いています。
顔は肖像画でしか見たことが有りません」
空気が沈む。
あたし達のお母さまは、みんな小さいころに亡くなっている。
少し先の自分もそうなるんじゃないかって思っちゃう。
「お姉さまは、あたしとユリス、それにアゼルに色んな事を教えてくれたんです。
礼儀作法やお茶会、魔法だって教えてくれたの」
「教え方と厳しさが絶妙でした。
毎回、小さなご褒美を用意してくれた」
そうだ、ユリスの言う通りだ。
3人の授業の後には、毎回楽しいことがあった。
クロード神父さま*3の講話に連れて行ってくれた。馬車の中も楽しかった。
暴れてぐしゃぐしゃになった髪を怒りながら、整えてくれた。
お父さまたちと違って、優しく撫でられるのがとっても気持ちよかった。
お茶会を覚えるために、たくさんの紅茶の飲み比べをさせてくれた。
合わせるためのお菓子がたくさんあって美味しかった。
相手のことを考えながら準備する楽しさがあるって教わった。
あたしもそういうのが好きになった。
「だから……だから、あいたいの」
「とっても大切な人なのね。
出来ることなら力になるわ」
エーディン先輩‼
「先輩としてアドバイスもしてあげる。
贈り物の準備もしなくちゃね」
エスリン先輩‼
「ありがとうございます」
「ティルテュ、こっち向いて」
「なに」
甘い。
口に何かが突っ込まれた。
「茶会は泣く場所じゃない。いじめられても前を向く。
そう、おそわったでしょ?」
うん。
「本当に良い先生だったのね。
どんなものがお好みかしら?」
「何を手伝えばいい?
兄上もきっと力を貸してくれるわ」
先輩たちも手伝ってくれる。
あたしにはユリスも居る。
きっと、何でもできる。
―――――
三人の直系の先輩を訓練場に呼び出した。
優しい人たちだけど、許してくれるかな……。
レックスは見届け人、アゼルは号令の準備。
周りには多くの人だかりが出来ている。
「卒業旅行と馬を明け渡すの、どちらがいいですか?」
ユリス‼
いきなりすぎるわ‼
もっと……こう……段階を踏みなさい‼
「随分と物騒だね。どうしたんだい?」
シグルド先輩*4はやさしい。
エスリン先輩もいるし、きっと手伝ってくれる。
「馬泥棒は重罪だ。
あまりそのようなことを口に出すものではない」
……そうよね。
いきなりだもの、警戒するわ。
「私としては卒業旅行が気になるところだが」
キュアン先輩*5は協力してくれそうね。
「あなた方を共犯者にしに来ました」
ユリス‼
「俺は騎士だ。決して、非道には手を貸さない」
ほらぁ、態度が固くなっちゃったじゃない。
「その通りだ、エルトシャン*6。
何か理由があるかもしれないが、窃盗は良くないよ」
いえ、違うんです。
本当にドロボウしようとしてるわけじゃないんです。
「いいえ、違います。
あなた達を馬にします」
「……相変わらず、よくわからん後輩だ。
一体何だって言うんだ」
キュアン先輩も渋い顔になっちゃったじゃない‼
戦わなくても行けそうだったのに。
やるしか、ないのね。
「私たちとの決闘です。
私はこれを使います」
ほそみの剣を抜いて、振って見せる。
あの時、干し肉の串にしたやつだ。
煽るにはとってつけね。
「勝ったら相手の言うことを1つ聞く、この条件です」
「っ‼
俺をアグストリア出身と知っているはずだ‼
吐いた唾は飲めんぞ‼」*7
「私はあなた達、と言いました。そちらは3人です」
「落ち着いてくれエルトシャン‼
君は魔法科だったはずだ。ティルテュだってそうだ。
接近戦では怪我をしかねないんだぞ」
……うぅ。やっぱり怖い。
キュアン先輩が諭してくる。
「私たちは神器の担い手。
今、手元にはないがね。
それに挑むのは、いくら何でも無謀だ」
ユリスが懐から取り出した椿瓶を突きつける。
「どれだけ強力な相手だろうが、必要とあれば挑む。
それが炎の紋章。
私たちは、神器が無くても戦えますので」
言いすぎじゃないかしら‼
キュアン先輩の顔も怖くなっちゃった‼
「受けるのであれば、魔導士対戦士の位置までお下がりください。
開始の合図はこの瓶を中間へ投げ、割れた瞬間とします」
椿瓶を懐にしまう。
代わりに、足元の陶器瓶を拾い上げる。
高く掲げ、見せつけるように振ってる。
みんな、任せたわよ。
「……そこまでして成し遂げたい何かがあるんだね。
だが、決闘となれば手は抜かない。
君たちの覚悟を見せてくれ」
シグルド先輩もやる気になっちゃった。
背を向けてラインに向かった。
あたしも覚悟を決める。
「あたしはお姉さまと弟に会いたい‼
先輩たちには足になってもらいます‼」
あたしも挑発しなきゃ。
「また黒焦げにしてやるんだから‼」
ユリスが放物線を描くように中央へ小瓶を投げた。
陶片が散らばる。
先輩たちが恐ろしい顔で迫ってくる。
あたしは全力で魔力収縮。
ユリスはあたしの盾。
「「「「ファイアー」」」」
周りからたくさんの詠唱が聞こえる。
作戦通り。
中央に広がった油に引火する。
相手は驚いて、足を止めた。
やった‼
そこへ更に炎が降り注ぐ。
先輩たちに少なくないダメージが入ったはず。
正気に戻った‼
またこっちに来る‼
何発も食らっているのに‼
やばい、炎を抜けられた‼
エルトシャン先輩だけだ。
「おらぁ‼」
ユリスが更に前へ出て、剣を投げつけた。
「っ‼」
弾かないでよ‼
ユリスが飛びついて、先輩を炎へ押し戻す。
炎に包まれる前に、
「ティルテュ、任せた‼」
相棒の声がした。
任せなさい。
一撃よ。
「サンダー‼」
炎を砕き、衝撃で鎮火する。
飛来していた複数の炎すらかき消す。
周りの詠唱が聞こえなくなった。
中央には、誰も立っていない。
ゆっくりと立ち上がる、煤と破れた服をまとう人影。
「けん……かりますね」
落ちていたシグルド先輩の剣を取り、彼の肩を踏む。
そして、刃を首に沿える。
「まだ……やりますか」
「降参するよ。
君たちの覚悟を軽く見ていた」
あたし達の勝ち‼
魔法科のみんなも叫んでる‼
なんたって、直系の三人を打ち取ったんだもの‼
―――――
その後は大変だった。
協力してくれたみんなは、全力で喜んでた。
それだけじゃなく、騎士科らしい人も伝説に立ち会えたって言って大盛り上がり。
あたしはよく分からない内に持ち上げられて、空に放り投げられてた。
こんな風にされるのは初めて‼
怖かったけど、楽しい‼
あたしも弟に高い高いをしよう‼
黒焦げ4人衆はアゼルが端に運んでた。
レックスは突っ立ってぼさっとしてた。
見届け人なんだから、アゼルの手伝い位しなさいよ。
控えていてくれたエスリン先輩とエーディン先輩が、
ユリス達を杖で癒してくれていた。
あれだけの魔法にさらされたのに、直ぐに治る程度のダメージだったみたい。
ユリスみたいに魔防が高いわけでもないだろうに、すごいわね。
そのままあたしは食堂に運び込まれてた。
みんなから褒められて、撫でられ、もう一回空を飛んだ後、
エスリン先輩がやってきた。
「兄上たちが、こっちに来るようにって言ってるわ」
これ、絞められる。
あたしは詳しいんだ。
―――――
学園の外、知らない場所へと連れていかれた。
初めて行くような場所で、焼いた肉とお酒みたいな香りがする。
歩くたびに床は軋むし、人も多い。
お祭りがあったわけでもないのに、さっきの食堂みたい。
エスリン先輩が、店員に声をかけてから上の階へ進んでいく。
急な階段で登りづらい。
スカート、見えちゃいそう。
登り切ったら、突然雰囲気が変わった。
なんだか下の声も遠くなった。
さっきとは違い、テーブルが一切ない。
並んだドアしかない。
もしかして、命の危機?
こんなところに先輩たちがいるわけないもん。
でも、エスリン先輩がいるし……。
一室の前で止まり、ノックを5回する。変なの。
反対からも同じ回数が聞こえてから、先輩が扉を開けた。
「勇者の到来だ。盛大な拍手で迎えてやろうじゃないか」
キュアン先輩⁉
……怒ってない?
背中に隠れて、扉の先を窺う。
奥でユリスが倒れてる⁉
やっぱり、絞められるの⁉
「疲れて横になっているだけですよ。
怪我はもう治りました」
エーディン先輩‼
「さあ、入りましょう。
ここはご飯がおいしいの」
エスリン先輩が手を引いてくれる。
アゼルとレックスもいる。
よかった~、
絞められるわけじゃなさそう。
―――――
部屋の中は下よりもマシだった。
大きな円卓とベッドが一つ。
壁には地図や聖戦士の図版が掛けてある。
本や武器の手入れ道具が床に散らばっている。
足の踏み場に気をつけなきゃ。
サロンって感じはしないかな。
狭いし、明かりが足りない。
なんか悪い相談をする場所みたい。
いきなりユリスが立ち上がり、先輩たちへ頭を下げる。
「だまし討ち、失礼しました」
「……正直思うところはある。剣を投げたのもだ。
しかし、お前は俺に組み付いて炎に身を投げた。
その勇気は称えよう」
「あの口上は尖っていたな。それで人数を隠すのは上手かった。
まだまだ学園で学ぶことがあるな。特に策については。
なあ、シグルド」
「あまり指揮については言わないでくれ。*8
私も努力はしてるんだ。
それよりも、勝者の話を聞くべきだ」
先輩たちは怒ってないみたい。
よかった~。
「どんな作戦か聞かせてちょうだい。
なんだか私もワクワクしてきたわ」
エスリン先輩、私を前に出さないで。
もう少し手を握ってて。
やっぱり怖い‼
―――――
ユリスがみんなの注意を引いてから、発言する。
「秋の巡礼祭りの日に脱出し、
王都の門が閉まるまでに帰ってきます」
エッダ家当主が、数年に1度ブラギの塔へ巡礼する。
そこから無事帰ったことを祝うお祭り。
1か月くらい後ね。準備が色々できそう。
「おいおい、最低でも片道1日は必要だ。
それにお前らは馬で行軍できないだろ」
「早朝ワープで私たち三人と先輩たちでフリージ城へ飛ぶ。
エーディン様にお願いする」
「グランベルでは祭りの期間、
転移は禁止されていたと記憶しているが」
そうなの?
エルトシャン先輩は外国出身なのに、よく知ってるわね。
「そうだったはずだわ。
多くの参拝者も不満に思ってる。
その作戦は難しいんじゃないかしら」
駄目なの⁉
「……そうか‼
王都へのワープしか禁止されてないんだ。
だから、行くときだけは使える」
アゼルは知ってたのね。
しかも、先輩より詳しい。
良くやったわ‼
みんながアゼルの顔を見る。
「……グランベルの近衛は恐ろしいな。
抜け道ばかり見つける」
「ユリスだけです‼
僕と兄さんはそんなことしません」
「アゼル、お前もだ。
そこのヘンテコを見抜けるのは、同じ考えを出来る奴だけだ」
たしかにそうね。
アゼルもユリスと色々やってるもの。
「っ‼」
「はは、ヴェルトマーをやりこめた。
やるじゃないか、レックス。
これで溜飲が下がった。
それで、その後は?」
キュアン先輩の言質取った‼
これでもう怒られない。
「ヒルダ様と会談後、先輩たちの馬に乗ります。
それぞれ二人乗りなので普段よりは速度が遅くなります。
でも歩くよりはずっと早い」
「馬を潰すわけにいかないので、途中で降ります。
そこからの帰り道は、
予め合流地点に待機して馬を休めたエスリン様とレックスにお願いします」
「つまり、我らは乗り捨てされるということか。
敗者は勝者の命令に従おう」
あれ?
帰りの馬が2頭しかいないよ?
「ユリスはどうするの?」
胸を張って堂々と、ユリスは告げる。
「翌日先輩に乗せてもらう。
私は、ゆるりと帰る」
「置いて行けって言うの⁉」
「ヒルダ様はティルテュに立派になってほしいから、手紙に書かなかったんだと思う。
ティルテュが赤ちゃんを見る、
ヒルダ様の考えを守る、
両方達成するのが今回の勝利条件」
あたしの目を見て、きっぱりと言ってきた。
「でも……」
それだと、ユリスと先輩たちが校則違反になっちゃう。
「私はおひとり様限定一泊二日の神器ハーレム、卒業旅行をそえて。
貴公子に拉致されて一晩を明かすなんてそうそうできない体験」
……たしかに。恋愛小説みたい。
エルトシャン先輩が切り出した。
「俺にはレンスターに婚約者がいる。
だが、貴婦人への助力は騎士としてなすべきことだ。
俺はこの勇気ある後輩に協力しよう」
「女扱いされちゃった」
ユリスの茶化しで、エルトシャン先輩が苦い顔になった。
「私には目の前に婚約者がいる。
だが、エルトシャンに騎士の美徳を出されては引けない」
「前に言ってた食事のお誘い、この機会に受けてもいいよ」
「キュアン」
怖い‼
顔も声も怒ってないのに圧がすごい‼
エスリン先輩は絶対怒らせない‼
「……誤解を解いてくれ。
計画の穴を潰そう。先輩として見過ごせない」
「ちょっと待った、
いきなり直系が3人も城へ送り込むのは不味くないか?」
「ほら、早速見つかった。
レックス、よくやった」
本当によくやったわ、レックス。
切り込み隊長にしてあげる。
「なら先に知らせを送ればいいね。
祭りの時期だし、手紙を送ること自体は不自然じゃない。
早すぎると怒られるから、前日に着く感じで」
そっか、早いと脱走がばれちゃうんだ。
「あら、犯行予告みたいね。悪い子」
エーディン先輩が小さく笑いながら、注意した。
アゼル、照れちゃった。
ごまかすみたいに続ける。
「なんだかワクワクしてきちゃった。
こういう所で計画するの、なんか……ぽいでしょ?」
男たちが目を輝かせながら、訳知り顔をしてる。
エルトシャン先輩なんか腕組みしてる。
ぽいって何よ。
「たしかに、ぽい……。
なあ、シグルド先輩、あんたにもわかるだろ。
ここを秘密基地にしてるなら」
「ロマンだね。
みんな、一緒に考えよう。
授業よりも楽しい行軍演習だ」
「ここからは俺たちの出番だ。
下級生の作戦を磨き上げる。
作戦は達成されてこそ意味がある。
キュアン、地図はここにあったか」
「遅いぞ、装備選定を始めてる。
私たちはそれぞれ一つの武装。
魔導士は一冊を使いまわせ」
あたしの渾身のサンダーを食らったのに、もう元気だ。
次に戦うときはエルサンダーでも大丈夫ね。
もっと魔力の訓練をしよう。
「工程表は準備したよ。
私はまず門限から逆算していく」
「アゼル、俺たちも負けてられないよな⁉
何かしようぜ⁉」
「うぅん……。
なら、お祭りで混雑する場所を聞いてこよう。
外側は先輩達に任せるけど、レックスたちは帰り担当なんだ。
きっと普段とは違うと思うから」
「兄上たちったら、すっかりやる気になっちゃって」
「私たちは下からつまめる物をもらって来ましょう」
「炎と雷に焼かれてぐうペコ」
ユリスが再びベッドに倒れこんだ。
あれは痛かったわよね。うん。
―――――
3年生は学園での行動にある程度の自由があるらしい。
いいなぁ。
座学や実技の成績がかなり悪い子以外は、
少し授業を受けて、学校外での活動へ参加するんだって。
その成果を成績に反映するらしい。
それで冬が来る前に卒業して帰国する生徒も多いらしい。
あたしたちみたいな子は、鍛えた分だけ強くなりやすい。
それに事前に家で教えられることも多い。
たしかに勉強は知ってることが多いから簡単。
魔法だって学校全体の中でもトップクラス。
……まだ体力は足りないけど。
先輩たちは直系だから、特に暇してるらしい。
あのアジトもその時間を使って見つけたって言ってた。
だから、数日の外出も問題ないんだって。
このままいけば、あたしたちも3年生の頃にはやることが無くなっているかも。
お菓子を探して王都中を歩き回るのもいいわね。
それでガイドマップを作るの。
それなら、功績になるはずよね。
大脱出-エクソダス-まで、あと数週間。
あたしたちはそれぞれ出来る準備をしている。
……作戦名なんていらないと思う。ダサい。
あたし達女子は贈り物を作っていた。
赤ちゃん用の靴下や手袋を縫ってる。
こんなにも小さいなんて思わなかった。
ユリスが見本になるものを持ってきたけど、本当に合ってるのかな?
小さすぎない?
食堂で縫っていると、これまで知らない人たちからも話しかけてくれる。
そこで編み物のコツを教えてもらったり、お菓子をもらったり。
シレジアの子が、暖かくする縫い方を教えてくれた。
これで赤ちゃんが寒がることはなくなるね。
あたしはお返しに紅茶を淹れてあげる。
他にも繕い物がある人は自然にあたし達の周りでやるようになった。
ユリスは下手っぴな男子の手伝いをしてあげてる。
あの作戦からみんな気さくに接してくれる。
やっぱり何かを一緒にやると仲良くなれるのね。
ユリスは街の薬草小屋に通い詰めてる。
産後に役立つ野草を探してるんだって。
お姉さまはあまり紅茶を飲んでなかった。
そういうのが好きなのかしら?
でも、ユリスからとっておきの茶葉を探しておくよう頼まれている。
どういうことだろう?
あたしとセットで渡したいのかな?
アゼルは騎士科の生徒に周辺の地理について相談してた。
遅れないように頑張っている。
レックスとエスリン先輩は合流地点の側まで行って下見をしてくれている。
そこまで大変じゃないみたい。街道が整備されてるおかげだって。
あたしの最後の仕事は、犯行予告を書くことだ。
……これも普通に手紙って呼べばいいのに。
手紙には向こうで準備しておいてほしいものについて書いた。
行軍計画での道具をお願いするつもりだ。
そうすれば、向こうへプレゼントだけを持っていける。
みんな頑張ったんだから。
うまくいきますように。
―――――
早朝、転移室に集合し作戦を確認する。
みんな眠そうだけど、やる気に満ち溢れてる。
寝ぐせが残ってるシグルド先輩をエスリン先輩、レックスをユリスが直してる。
あたしとアゼルは贈り物に忘れが無いか確認する。
みんなで作った縫い物も入ってる。ぬいぐるみまで作れちゃった。
最初の足になってくれる先輩たちは、軽く身体を動かしてる。
武器もほそみの剣とほそみの槍だけ*9。
杖の準備をしていたエーディン先輩が呼んでくる。
「私の仕事はここで終わってしまうのね。
もう少しだけ、関わっていたい気もするわ」
「その分私が迎えを頑張るから大丈夫よ。
ほら、シスターは祭礼もあるんでしょ?」
これだけ準備したんだから、大丈夫‼
「そうね。
みんな、気を付けて帰ってくるのよ。
お祭りのごちそうは取っておいてあげる」
いいわね‼
勝利の後は宴‼
エーディン先輩は出来る女‼
「じゃあ、せっかくなら私に宣言させて。
脱出作戦-エクソダス-、開始」
おしゃべりが止む。
作戦名を告げると同時に先輩が杖を使う。
意外と気に入ってるの?
足元が浮く感覚。
ワープの光が私たち6人を包む。
やっぱり名前、やだなぁ。
―――――
光の先には、お兄さまがいた。
走って抱きつく。
「ただいま。
お兄さまおめでとう‼」
強く抱きしめ返してくれる。
「ティルテュ、本当にきてくれたんだね‼」
雷のにおいがする。おっきな身体。
帰って来たって感じ。
ユリスが横から話しかけてくる。
「ブルーム様、失礼します。
私たちには時間があまりありません。
早速、ヒルダ様とお子様の元へお願いします」
もうちょっといいじゃない。
―――――
抱き着いたまま、お姉さまの部屋に連れて行ってもらう。
「入りな」
この低い声、なんだか懐かしい。
去年のこの時期には採寸をしていた。
入る前にお兄さまが注意してくる。
「ティルテュ、抱き着いてはいけないよ」
そんなことしない。
ユリスが扉を開ける。
「相変わらず、あんたらは驚かせてくれるね。
直系4人を連れてくるなんて、ここは暗黒帝国じゃないんだよ」
この口の悪さがお姉さま。
痩せたし、あれだけこだわっていた髪に艶がない。
でも、目だけは前と同じで強気。
「囚われのお姫様には、これくらい必要でしょ?」
ユリスが変なことを言ってる。
お姉さまはうちの女王様よ。
―――――
その後、アゼル以外の男性はお兄さまに連れていかれた。
赤ちゃんはイシュトーって名前だった。
手紙で知ってたけど、顔を見て教えてもらうと弟が出来たって実感がわく。
指を出すと、小さな手で掴んでくれた。
かわいい。
大きくなったら、あたしが魔法を教えてあげる。
お姉さまとユリスみたいに火継ぎみたいなことをしてあげる。
うちにはそういうのないけど、なんかいいでしょ。
イシュトーには、あたしの赤ちゃんに教えさせてあげるね。
イシュトーが寝ちゃった後、お姉さまから怒られた。
でも、あたしたち三人の頭を撫でてくれた。
みんなで作った贈り物を渡した。
紅茶を渡したら、ユリスが突然号泣し始めた。
泣いていて言っていることが分からなかったけど、
お姉さまのことを言っていた気がする。
アゼルもつられて泣き始めちゃった。
あたしは泣いてないもん。涙目にはなったかも。
お兄さまに泣いている所を見られて、大騒ぎになった。
驚いて大声を出したから、イシュトーまで泣きだしちゃった。
お姉さまに怒られてた。
学校も楽しい。
だけど、やっぱり家が好き。
―――――
「あんたら、いつまで寛いでるんだい。
校則破りになっちまうよ。
逃げ帰った負け犬扱いだ、そうなる前に帰りな」
「えぇ~。もうちょっといた~い」
「そうだね。
このままだと、直系ハーレム独占アヴァンチュールにならない」
「ユリス……。
いつまでそれ言ってるのさ。
でも、行かないとね。先輩たちを待たせてる」
「あんたらの荷物は無駄が多い。
ここらはうちの管理下だ。割符があれば物資は補給できる。
迎えの馬も合流地点で替えな。後で取りに来るんだよ。
それに合わせた物を詰めさせた」
出産の後でも、しっかりしてる。
いつものお姉さまだ。
「ティルテュ、名残惜しいけどお別れだ。
行軍は時間内にたどり着くことが重要だ。
頑張るんだよ」
頭を撫でられ、促される。
この雑さが隠しきれてないのがお兄さま。
「分かったわ、お兄さま。
行ってきます‼」
イシュトーの頬を突いて部屋を出た。
お姉ちゃんも、頑張るわ。
だから、元気に大きくなりなさい‼
―――――
太陽が登ってきて、心地がいい陽気。
時間さえあれば、ピクニックにちょうどいいわね。
それからの帰り道は順調だった。
あたしはキュアン先輩、
ユリスはエルトシャン先輩、
アゼルはシグルド先輩の馬に同乗している。
エスリン先輩がそう振り分けた。
ユリスの冗談だと分かってがいるけどキュアンに釘を刺す、
これが重要なのって縫物中に教えてくれた。
大人だ……。
三人とも直系だから、それぞれの国一番の駿馬を操っているらしい。
つまり、三大国家最高の馬が揃ってるってこと。
キュアン先輩が自慢げに語ってた。
馬に乗らないから分からないけど、かなり早いみたい。
荷物も軽くなったし、これなら想定より早く着きそう。
何もなければ、門限までに帰れるかもしれないって。
アゼルに任せていた学園への侵入ルートはいらないかも。
道中は先輩たちとお話しをした。
シグルド先輩はグリューンリッター*10のこと。
出身を問わないから、髪色がカラフルなんだって。
たしかにうちは銀髪ばっかり。
キュアン先輩はレンスター*11の話。
お酒造りが有名で、甘いワインもあるんだって。
それなら好きになれるかも。
エルトシャン先輩は妹さんのこと。
来年学園に来るんだって。面倒を見るよう頼まれちゃった。
あたしの後輩‼
任せて‼
他にも学園での思い出をたくさん聞いた。
―――――
遠くに合流予定の町が見えてきた。
「二人とも、この後は覚えてる?」
アゼルが答える。
「勿論。レックスたちが待っている予定だね。
ユリスは……置いていく」
「どうにか……ならないの?」
実はもう一頭馬を連れてきてるとか、何かないの?
「諦めて」
そんなこと言わないでよ‼
「少し真面目な話をする。
先輩たちに思うところはあるだろうけど、口を挟まないでもらいたい」
なんだか風が冷たい。
「二人は今後、部下を切り捨てなきゃいけない場面が出てくる。
今回はその訓練」
「アルヴィス様も、それは苦手。
そうなりそうな時に神器を使ってた」
あの怖い人も……そうなんだ。
「最近イザーク*12がきな臭いってお父様の手紙にあった」
戦争になるかもしれないのね……。
お父さまたちと会える時間が減っちゃう。
「私はもしかしたら、そこに嫁ぐかもしれない。
婚姻で止めるためか、戦後の和平か。
だから部族名一覧が入ってた」
蛮族に⁉
「そうでなくても、いつかどこかに行く。
これも部下を使うこと。
二人はそういうことに慣れなきゃいけない」
「……そうならなきゃ駄目なのかな」
「駄目。
自分と下に付く者のためにならない」
「なんでそんな話するのよ‼」
「私もしたくない。
でも、慣れるチャンス」
「戦争が激しくなれば、3年経たずに戦場行きかもしれない。
私は、そこで二人が泣くのが嫌」
「だから、その練習もしよう。
今日は私が死ぬわけじゃない」
「だから大丈夫」
そんなこと言わないでよ……。
―――――
だれも口を開かない。
あたし達は皆、聖戦士直系から続く家。
ユリスを除いて。
遡れば、ユリスのおばあちゃんだってヴェルトマー家出身。
でも、降嫁して今は主家じゃない。
戦場では囮だって必要。学校でも習った。
誰を行かせるか決めるのは、あたし達。
フリージとしての役目。
これからは、逃げちゃいけない。
お父さまからそれだけは許さないって習った。
でも、そんな……。
合流地点の町に着いた。
―――――
馬小屋の側にレックスがいた。
あたし達も馬から降りる。
「随分早かったじゃないか。姉さんと弟には会えたか?」
ユリスが答える。
「元気そうだった。ヒルダ様には叱られちゃった」
「なんだか疲れているみたい。
みんなにライブの杖を使うわね」
エスリン先輩が気遣ってくれる。
「ならアゼルとティルテュを先にお願いします」
置いていかなきゃ駄目……なのよね。
「ユリスもよ」
エスリン先輩……。
「?。
私は今から酒池肉林の宴。気力はそこで吸い取る。
これから必死に学園に帰る二人を優先すべき」
「お前も帰るんだよ。
仲間外れなんざ、水臭い」
レックス‼
「馬で行軍出来ない」
そうよ。
魔法科で乗馬行軍なんてやってない……。
「君たち、作戦の爪が甘い。
この僕が指摘してあげようじゃないか」
「アンドレイ‼」
なんであんたが居るのよ‼
今はあんたに付き合ってる場合じゃない‼
「まず、費用の工面。
ワープの杖の修理費はどうやって捻出するつもりだ。
脱走のための費用はどこの家だって出さない」
あたしをイラつかせて何がしたい‼
「俺とアンドレイが、闘技場で稼いでおいた。
あそこの床は冷たかったぜ。
まあ、男磨きには悪くなかった」
あれ?
「次に、計画の甘さ。
その日のうちに帰れるのであれば、協力者も募れた。
数を動員し、より多く乗り継げば、行軍速度を上げられる。
君たちは食堂であれだけ人を集めたんだ。
人を使うことを覚えたまえ」
アンドレイ⁉
「僕のような実戦的な者から見れば、稚拙極まりない。
鍛錬も知識も足りない。
軍師気取りで役割を振って楽しかったかい?」
憎たらしい顔でユリスを見つめてる。
「ありがとう、アンドレイ。
来てくれたことの方が嬉しい」
「……恥辱にまみれた顔のほうが、僕にとっては嬉しいけどね」
もしかして……⁉
アゼルが手を取った。
「アンドレイ、ありがとう。
君のおかげで、僕たちはユリスと一緒に帰れる」
あたしは肩を叩く。
「よくやったわ‼
ユリスにそのパッツンを整えてもらえる権利をあげる‼
とっても気持ちいいから、感謝しなさい‼」
ユリスを離さないように抱きしめる。
「行軍訓練はたどり着いてこそ意味があるの。
ユリスも最後まで行くわよ‼」
鼻に髪の毛があたってこそばゆい。
柔らかくてあったかい。
あたしは、置いていきたくない。
「君たちの友情を見ていたら、熱い物がこみあげてきた。
二人とも我らもそれに倣おうじゃないか。
窮地にはお互いの力になる、そう誓いを立てたい」
「キュアン、いい提案だ。
私は聖戦士バルドに誓おう」
「護衛の次は誓約か、物語のようだ。
だが、悪くない。
我が騎士道に」
「彼ら風に言えば、……ぽいだろう‼
レンスターに」
あたしもつられて背筋を伸ばす。
血・道・名、どれも重い。
その見届け人として身を正す。
静かになった後、
誰からともなく笑いだした。
「これが我らの卒業旅行、
何とも素晴らしい物になった。
さあ、今日は飲み明かそう」
先輩たちは肩を組んで、宿屋へ行っちゃった。
あたしたちも、ずっとあんな風でいたいなぁ……。
―――――
あたし達はのんびりできない。
王都に向けて出発した。
道中はお互いの話で盛り上がった。
闘技場での異常に強い金髪のイザーク剣士。
何回も負けたらしい。何か不思議な奥義を使うんだって。
斧との相性が悪いだけじゃないの*13。
イシュトーの話。
本当に小さかった。あの手袋や靴下よりも小さかった。
会ってない奴らは信じてなかった。
必要なくなった侵入経路。
食堂で仲良くなった上級生や下士官の子達から教えてもらったんだって。
有名になり過ぎて監視の順路になってるのもあるって言ってた。
そんな話をしているうちに、王都の門が見えてきた。
お祭りのせいで出入りが激しく、
通行確認の待機用小部屋でかなり待たされた。
普段なら貴族用の通路で直ぐには入れるんだけど、
今日は貴族も多いから待つんだって先輩が教えてくれた。
待っている間に、
ユリスがあたしたちの髪を整えてくれた。
気持ちいい。
いい加減、椿瓶を見せびらかすのをやめさせた方がいいわね。
―――――
学園が見えてくる頃には、夕方になっちゃった。
門限ギリギリになったけど、間に合った。
門の前には、大きな影があった。
「やばい、親父だ。
避けて入るぞ」
あんなに大きな人がいるんだ。
「レックスのお父さんなのに?」
たしかに。
挨拶くらいすればいいのに。
こっち見てる。
「ランゴバルト卿*14とは初対面だ。
レックス、僕たちを紹介してくれ」
「親父が来たってことは、絞められるってことだ
……お前らも道連れだ。
仲間外れはなしだ」
目が合った。
熊だ。
「貴様等、馬を降りろ」
低く威圧するような声。
急いで馬を降りる。
「エスリン様、大変でしょうが3頭をお願いします」
ユリス、エスリン先輩も居てもらいましょうよ。
なんか怖い。
「口を開く許可を与えていない」
「名も知らぬ者の許可など必要ですか」
「生意気だ。名乗れ」
「日が暮れるまでに門を潜らなくてはなりません。失礼します」
ユリス‼
名前くらいいいじゃない‼
誰にでも喧嘩を売るのはやめなさい‼
あたしの手を引かないで‼
熊に近づきたくない‼
「……親父、何の用だ」
「貴様等が王都を抜け出したと聞いた。
灸を据えに来た」
手が離される。
「ならば、私からご説明させていただきます。
ティルテュ達は門の中へ」
‼
「僕も残った方がよさそうだね。
転移について思いついたのは僕だから」
アゼル、震えてる。
レックスがいつもより小さい。
そんなに怖いんだ……。
アンドレイも固まってる。
あたしは、ユリスを置いていかないって決めたんだ。
「レックスとアンドレイは行きなさい。
あたしが言い出したんだもん。話す義務があるわ」
あたし達3人ならこの熊にも負けないわ‼
先輩たちも倒してるんだもん‼
「……待てよ。
親父がいるんだ、俺も行く」
レックス‼
無理しなくていいよ。
「それでは、場所を変えましょう。
ここでは大来の邪魔になります」
大熊が口を開く。
「中庭でよい。
気掛かりは無くなるだろう」
あたし達4人を連れて門を潜った。
―――――
移るなり、告げてきた。
石畳に大きな影が落ちている。
「弁明しろ」
「私はコーエン家のユリス。以後よろしくお願いいたします」
夕日の中でカーテシー。
熊相手に出来るの、すごいわね。
あたしは怖い。
「貴様等はしくじった。反省を述べろ」
アゼルがあたしたちの前に出て、答える。
「えぇっと、色々あります。
直系の先輩方を力で言うことを聞かせたこと、
転移のこと、
王都を抜け出したこと、それに」
遮って、問いただす。
「レックス、恥じることはないか?」
射貫くような目。
お父さまはあんな風にあたしを見ない。
「……無い。
俺は友のために出来ることをした。
いい男は友情を捨てないもんだ。
母さんならそう言う」
鼻を鳴らして、ユリスへ向き直る。
「鷹の娘。貴様はどうだ」
「想定以上の大勝利。
門限までに全員校内に入れました。
卿のおかげです、ありがとうございました」
「ふん、わしに捕まっているではないか」
「祝祭に親子が集う、御目出度いことです」
ユリス⁉
今関係ないでしょ⁉
「貴様等は未熟がすぎる。
なぜわしが此処にいるのか考えが及ばぬ」
たしかに。
なんでばれたんだろう?
「計画がどこかで漏れたんですか?」
アゼルが聞いてくれた。
あたし達の中で言いつけるような人はいないし……。
「貴様等は騒ぎすぎた。
学園外のわしの耳まで騒動が届いた」
「すいませんでした‼」
あたしも頭を下げなくちゃ。
「ならば、気分が良かったのでは?」
ユリス⁉
「剣と槍の使い手は私たちが討伐しました。
そこには斧の末裔がいた。
これほど鼻が高いことはないでしょう」
「……俺なんて、大した事してねぇよ。
闘技場とお前らを運んだくらいだ」
振り返って、アゼルが叫ぶ。
「レックスが居なきゃ成功しなかった‼
君がどう思おうが、僕には必要だった‼」
うん、レックスが居なきゃ駄目だった。
ユリスが切り替えるように発言する。
「つまり、卿は祭日に息子を褒めに来た。
いいお父さんですね。
うちはハゲで、微妙なお土産ばかりを寄越してきます。
つまらない話を満足するまで投げつけたら、またどこかに行ってしまいます」
「愚か者‼
灸を据えに来たと言ったはずだ」
咆哮だ。
身体が押されてる。
ふんばらなきゃ。
「計画が筒抜けでは逆手に取られる。命取りだ。
漏洩したことにすら気付けない間抜けを、戒めに来てやったのだ。
防諜もしろ。それが軍略というものだ」
「ご指導ご鞭撻、痛み入ります。
学園では習わないことのようです。
先輩方もここに居ればよかったのに」
「言い訳なぞいらん。
死んだ後には出来ぬ」
「祭日だ。ここまでにしてやる。
貴様等は拙い。
だから、わしが出向く羽目になった」
門へ向かって歩いていく。
巨影だけが、伸びる。
ユリスが呼び止める。
「次は上手くやります。
卿、子供への贈り物をお忘れですよ」
背中は動かない。
「ユリス⁉
……いいんだよ。別に……」
「斧こそ最強と証明しろ。
学園一の戦士となった暁には、てつのおのをやる」
そう言って、立ち去った。
リーガンの小紋章とは一切関係が無い。
多くの人から好感持たれる性格。
原作で情に非常に篤い。
原作で自分の王より名声を集める人。
序章の蛮族の指揮官(ゲラルド)並み。
FEでは聖戦からこのシステムが実装された。