窓の無い部屋。
そこには王国に所属する末裔の長が集う。侍従すら許されない。
各々、神器を象った彫刻が肘掛けに備えられた席に着く。
「それでは、イザークに関する会議を始めます。
ヴェルトマーは中立として進行役を努めます」
息を吸い、告げる。
「炎の紋章に誓って、私情は挟みません」
ヴェルトマーは暖炉。
平等に参加者を暖める。誰も贔屓しない。
そして、余計な物は焼き捨てる。
「初めに現状確認から。
イザーク*1内で有力なリボー氏族を中心に、戦の兆しが確認されています。
戦略目標は把握できていません。
外征の場合、歩兵中心のためシレジア*2方面でなく、ダーナ*3への侵攻が懸念されています。
低いですが、内戦の可能性も捨てきれません。
マナナン王*4に対し力を見せ、影響力の確保を目的としているのかもしれません」
これはヴァルターに集めさせた。
奴であっても、文化が異なる彼の地には手を焼いたそうだ。
主へ顔を向ける。
「まずは王子からお願いします」
立ち上がり、皆の顔をご覧になる。
「皆の者、よく集まってくれた。
ここは当主と次世代だけが集まっている、腹を割って話そう。
腹の探り合いは時間の無駄だ」
聞く者を落ち着かせる声。
それでいて、実務的な発言。
「私と反対する意見でも蔑ろにすることは無いと聖ヘイムに誓う」
空気が締まる。
血の誓約は重い。
だが、諸侯への保障としては最上だ。
もう一度六家を見回し、仰る。
「まずは私の意見から。
二つの理由から静観が良いと思っている」
「対外関係の悪化を回避したい。
先の病魔では、交易で諸外国に恩を作ってしまった。
その記憶が薄れぬうちに戦争を起こすべきでない」
あの時は多くを失った。
閉鎖による物資不足に陥った村が、そのまま野盗となった。
ロートリッターが物資を護送し、殲滅した。
雪深いシレジアからも物品を集めた。
彼らを刺激することは好ましくない。
最悪、各国が協力し多方面作戦になる。
「次に我らは聖戦士の末裔だ。
いたずらに戦禍を広げてはならない」
血の重さを我らが軽んじてはならない。
十二の長ともなれば、猶の事。
「王子、よろしいか」
目線でランゴバルト卿*7を促す。
「ドズルはイザークへの逆侵攻及び、
アグストリアへの失地回復を望みます」
王子を真っすぐと見つめ、請願した。
イザークへの対応が議題だ。
ある程度話させたら遮る。
巌が立ち上がり、吠える。
「我らは戦士の末裔。
どこまで行っても武門。
武には武で答えるのが筋」
そこまでは理解できる。
だが、熱くなりすぎだ。
ほんの少し魔力を練り、目線を向ける。
優れた武人の彼なら気が付く。
着席し、続ける。
「ドズルは先の屈辱を忘れられません。
戦に負け、領土を失うのなら飲み込めます。
だが、それすら許されなかった。
病魔を超えるためとはいえ、我が一門の恥辱は抑えがたい。
父祖が守り育てた地を取り戻し、広げねば溜飲は下げられぬ。
武人の誇りを取り戻すためにも騎士の国と一戦交えたい」
机を叩き、熱弁を振るうランゴバルト卿。
矜持と怒りは理解できる。
だが、視座が戦場で止まっている。
神器の継承者はそれだけで良いのだろうか。
理が無いわけではないが、イザークとは関係ない。
議題を戻さなければ。
そこへレプトール卿*8が水を差す。
「それは些か行きすぎだろう。
我がフリージも煮え湯を飲まされた。気持ちは同じだ。
だが、耐えがたきに耐える必要がある」
気難し気な顔が、一層ゆがんでいる。
彼の領地もアグストリアへ切り売りしていた。
眉間を揉み解した後、意見を述べる。
「宰相として発言します。
このままでは、王国は衰退します。
疫病の後遺症もですが、それ以上に交易が不味い」
彼とヴァルターだけが、市場を見てあの予兆を察知した。
政を司る者らしい視点だ。
軽んじることはできない。
我らを見渡し、指の動きを交えて解説を加える。
「王国は大陸中央に位置していたことで、貿易中心地の地位を築いていた。
だが、度重なる厄災により、商人たちは迂回路を作り始めています。
まだ規模は小さい。だが、関税を回避出来る。
いずれ既存よりもそちらが使われるようになりかねない」
確かに各地の内偵から流通量減少の連絡を受けている。
一時的なものだと考えていたが、恒久的な損失になり得るのか。
更に大きく動く宰相。
視線は王子に向けられている。
「だからこそ、イザークへ侵攻すべきだ。
王国の力を示し、交易路を守れると喧伝する。
そうなれば商人は利益が減ろうが安全を選ぶ。
戦争は最大の広告になるでしょう」
王子はわずかに顔をゆがめた。
反論をなされない。
筋は通っている。
だが、力を経済のためだけに振るうのには抵抗がある。
レプトール卿は椅子に背を預け、落ち着いた様子で述懐する。
「私は子供たちに負債を残したくない。
初孫も産まれた。
あの子達に、立ちはだかりかねない危険を取り除かせていただきたい」
沈黙が降りた。
如何にもフリージらしい考えだ。
ヒルダは完全に受け入れられたのだな。
家族の未来を軽視すべきでない。
だが、そのためだけに侵略するのは正しいのだろうか。
直系としては個人に寄りすぎている気がする。
バイロン卿*9が王子だけを見て発言する。
「反対の主張をさせていただく。
シアルフィは王子の意見に賛同する。
理由は至極単純、我らは騎士だからだ。
主君の命に従う」
聖剣の模造彫刻を掴む。
忠誠は美徳だ。
だが、ここはアグストリアではない。
神器を担う者として、世界を考えることをしないのか。
それでは雑兵と変わらない。
誰も続かない。
まだ若く、代理であるから、
ユングヴィへこちらから話を向ける。
少しだけ微笑みを浮かべておく。
「ユングヴィの意見はいかがですか。
本領守護のため、
当主リング卿*10代理に息子のアンドレイ様がいらしています」
顔に汗かき、引きつった顔の若者。
あれがアゼルの同級生か。
マゴーネからは、真面目で危いと聞いている。
ユリスは自分を見てほしくて甘えたい子と言っていた。
……意味が分からない。
助け船は出してやろう。
「アルヴィス卿、ご紹介ありがとうございます。
当主から言付けを預かっています」
声が上ずっている。
当主たちに囲まれ、頼れる者もいない。
私にも覚えがある。
予め私は内容を受け取っている。
補佐はしてやる。踏み出して見せろ。
「その前に少しだけいいかな」
穏やかな声がした。
「王子っ‼。
……どうぞ」
主君からの呼びかけ。硬くなるのも無理はない。
「大丈夫だ、 責なんかしないよ。
我らは同じ国の聖戦士の末裔、安心してほしい。
リング卿と君を分けられる分別を皆備えている。
それと、よければ君自身の意見も教えてほしい」
新人の擁護と力量を図ろうとされている。
思いやりと実利を兼ねるクルト王子らしい手だ。
「はい‼」
強張りが抜けたな。
王子からのお言葉は、心強いものだ。
「……では、ユングヴィとしては静観を支持します。
我が姉ブリキッド、継承者の捜索に力を尽くしたいからです。
そのためにも対外感情を逆撫でしたくないとのことです」
我が子は愛おしいのだろう。
だが、神器を持つ責任を果たそうとしていない。
南の諸侯は道義的責任を軽んじている。
「僕個人としては、侵略すべきだと思いました。
レプトール宰相の発言で気付かされました。
僕が士官学校入学前の時点でユングヴィにおける流通量が減っています。
我が家はミレトス*11とヴェルダン王国*12に面しているのにです。
対処できるなら早急に行うべきだと思います」
自身の持つ情報を正確に伝えようとしている。
そして場に飲まれず宰相の話を理解し、応用した。
当主としてはリング卿よりもこの青年の方が適している。
バイロン卿といい、神器の担い手が必ずしも優れているわけではない。
父上もそうだ。
単純な手腕で言えば、
当時でも娘のヒルダ、聖痕すら無いヴァルターの足元にも及ばないだろう。
現代なら、アイーダに私もいる。
まだ足りないが、アゼルとユリスはファラの系譜に恥じぬよう努力を重ねている。
父上に巻き込まれただけのリーネですら、命が絶えるまで尽くした。
認めたくはないが、元暗黒教団員達には優れたものが多い。
能力だけで言えば、我が家の政務官にも並びうるものもいる。
信頼は置けないが、炎の紋章を汚すものは未だ一人もいない。
「ありがとう、アンドレイ。
君も事態を真剣に考えていてくれた。
こんな相談をしているが、
君のような若者が居れば未来は明るい」
王子の賞賛に顔を輝かせている。
王子も考えられる臣下の方が好ましいようだ。
早くリング卿の代わりになって欲しい。
「小僧、前よりも男になった」
口角泡を飛ばす舌鋒を披露したランゴバルト卿が褒めた。
場の空気が柔らかくなる。
我らは対立することもある。
だが、同じ聖戦士の末裔。
将来有望な仲間は、心強い。
まだ発言をしていない家へ促す。
「よろしければ、エッダ家の考えをお聞かせ願いたい」
目を伏せたまま、答える。
「私たちは神意に従う家です。
世俗に疎い。
人倫に悖る事が無いのであれば、全てをお任せします」
涼しい顔で言ってのける。
職務と家は不可分だ。
だが、治める者としてここに居る。
継承者として民を導く姿勢は見せるべきだ。
強欲や狡知として知られる当主たちは責務を果たさんとしている。
一方、名声を持つ当主たちは疎かにしている。
両立出来ているのは王子だけだ。
―――――
内応接室の決まりの席へ腰を下ろす。
窓から午後の光が机を横切っている。
短時間で終わるだろうから、何も持ってこさせなかった。
「若、集まりはいかがでした」
気軽な声で尋ねるヴァルター。
結果を共有し、今後の動きを決める。
「様子見だ。王子の案が採用された」
「意外ですな。
先んじて攻めるものかと」
言葉の割には軽い声音だ。
「その意見もあった」
「過半数で可決されると予想し、準備を始めてしまいましたよ。
内訳は斧、雷、弓」
リング卿ではなく、若手が当主だったらそうなっていた。
「なぜそう考えた」
「若、単純ですよ。
当主が頭を回せるからです」
当主たちへ思うことはある。
だが、そこまで行けば中立を保てなくなる。
「……流石にそれは口が過ぎるぞ」
相変わらず、緊張感のない様子。
「ここでしか言えませんよ。
それに外れてしまった。
久しぶりに教鞭をとらせていただきましょう」
報告だけの予定だったのだが。
これは長くなりそうだ。
「若、直系についてどうお考えですか」
「神器を扱える者であり、世界を導く責任を持つ者」
当主に就いてから、常に心掛けてきた。
ヴァルターが切り捨てる。
「幻想です。
それも、継承者が最も抱いてはいけない類だ」
無意識に強張る。
肘掛けを握りしめた。
神器は自明だ。
そして、影響力が最も大きい個人でもある。
「下にはそう信じていてほしい。管理が楽になる。
ですが、上の者はいけない。
個人的に目指すのは構いませんが」
「事実、直系は政治を司っている」
「ですが、それに見合った能力を持つとは限らない。
先代様を考えれば、説明の必要はありませんね。
能力以上の責任感に押しつぶされました」
……ヴァルターが最も苦労していた。
父上の事を出されては何も言えない。
「加えて、ヴェルダン王国という反証です。
末裔ですらない王が蛮族を束ねている。
しかも、穏健とされる人間が。
つまり、束ねる者が直系である必要はない」
蛮族と揶揄されるが、国は国。
バトゥ王は英明とは言い難いが、優しいお方だ。
反論出来ない。
「……だとしても、神の如き力を恣に出来る」
神器は力を与えるだけではない。
戦士として最大効率で動けるようになる。
信条が無ければ、力に溺れかねない。
しないからこそ、聖戦士なのだ。
「ですが、無敵ではない。
物量を用いれば戦闘でも倒せる。
絡めとってしまえば、損失は少なく済みます」
近衛として神器の相手は教え込まれた。
我が一門らしい考え方だ。
「あくまで、神器を扱える存在でしかないのです。
ですが、神器は戦略を変えてしまえる。
だから、継承者が敬われる。
個人ではなく、神器の威を借りているだけなのです。
勿論、天上から与えられた神秘性もありますがね」
ヴァルターは咳払いをして、まとめる。
「つまり、継承者は神器なくして価値はない。
そして、神器は力であり人品を保証しない」
「……何が言いたい」
私の目をのぞき込むヴァルター。
「若、よそへ理想を押し付けるのはお止めください。
それがご自身のためにもなる」
優し気な声だ。
「……その様な事はしていない」
「貴方は7つの頃から良くやっています。*13
上に立つ者としての才を持ち、磨き続けた。
そして、何より歪まぬ心があります」
私を持ち上げるということは、切り込むつもりだな。
「ですが、他家はそうではない。
大抵どれかは欠けている。
そして、我を優先する傾向にある」
……そう思うことはある。
だが、彼らも私と同じなのだ。
「我らには炎の紋章があります。だから、歪まない。
だが、他は違う。
自らを律する存在が無いから愚行を慎めない」
聖戦士の血では縛るのに不足とでも言うのか。
「いつまで語るつもりだ」
ヴァルターは目を伏せて告げた。
「では、結論を。
クルト王子を理想化するのをお止め下さい」
あまりにも不敬だ。
貴様が王子を好まないことは知っている。
「看過できない」
おどけるように続けるヴァルター。
「魔力を高められては弁明のしようがない。
彼には才能がある。
そして、研磨もしている。
だが、心まで清いわけではない」
王子は我欲で動かない。
王の執務を自ら肩代わりしている。
「十二聖戦士の長だ。
それに、どれ程ヴェルトマーを助けていただいたか忘れたわけではあるまい」
聖ヘイムの血だけは別格だ。
祖先を束ね、暗黒帝国を打倒した。
その後に世界へ秩序を敷き、今に至る。
ヴァルターは拳を固め、耐えるように答えた。
「……ええ、大変なお世話になっています」
苦汁をなめたような顔だ。
ヴェルトマーの存続を重視しているヴァルターにとって、
他所からの援助はそれ程までに苦々しいものだったのか。
気づいてやれなかった。
「ならば、なぜそう宣う」
「勘違いなされているご様子。
私は王子を悪と言いたい訳ではありません。
王子への過信がよろしくないと申しています」
虚を突かれた。
私を批判していたのか。
「そのような事は、ない」
事実、王子は優秀だ。
才知溢れると評されている。
「では、王子の案を私の視点から評価します。
様子見で何もしないのは下策です。
何の利益も得られない。
むしろ損しか無い」
「ならば、火蓋を切れと言うのか」
「それも手です。
ですが、四方八方に手を尽くせば、待ちの一手も利を産みます」
こいつは老練だ。
あの宰相と同じ視点を持っている。
自らを高め、王子を補佐するために解説を待つ。
「講釈を聞こう」
「恩を売れます。
ダーナへ動きを伝えれば、グランベルに保護を申し出るかもしれません。
そうなれば、事実上の保護国となります」
王国とイザークの間にある友好都市ダーナ。
東部の流通拠点であり、影響力を増せば将来的な利益が見込める。
だが、そう簡単には行かない。
「それは上手く行った場合の話だ」
「他には、イザーク近辺での軍需物資の買い占め。
彼の国が内部で争うのであれば、それを勝たせたい方へ売り儲けが出ます。
外征なら、物資補給が出来ず行軍速度が落ちます。
どちらでもなければ、買い付けた地域との友好、
それと主戦派の威勢を削ぎ戦を遠ざけられます」
「私以上の策、宰相なら思いつくはず。
ですが、彼が王子の反対派だったため提案しなかったのでしょう。
王子が気が付いているかは分かりません」
つまり、王子を未熟と言いたいのか。
不足を補うのが家臣の務め。
我が身の不足。
「私見ですが、王子は人を見る目を養えていない。
そして、その心がどう動くのかにも鈍感な所がある。
だから、あのような命を我らに下す」
なぜ、その話が出る。
「姫の事か。
国家安定のためだ。そこまで言うこともないだろう」
「……はぁ」
言葉の代わりにため息を吐くヴァルター。
呆れたように批評する。
「それほどの大事なら、もっと早く下命すべきです。
我らなら飛び回るついでに情報収集も出来ました。
そして、そのことが婚姻を先延ばしにする理由にならない」
「……それは否定できない」
正論だ。
だが、事情があった。
こいつは人の気持ちを無視する所がある。
妥当だからこそ、反論できない。
「喉も乾きました。もう終わりにします。
王子も決して完全無欠ではありません。
若ほどの人材は直系にはいません。
他へご自身の考えを当てはめるのはお止めください」
ヴァルターは外の侍従に飲み物を頼んでいる。
それでも、我らは神から授けられた武具に選ばれた。
正道を歩まねばならない。
継承者にそれが出来ないのなら、仕組みが必要だ。
直系すら縛り付けられる程の何か。
指で机を叩く。
神意による統制は無理だ。
解釈は出来るが、その真意を読み取ることは出来ない。
そして、ブラギの長は俗世を無関係とし、我関せず。
さらに強く、大きな音が出る。
絶対者すら首を垂れる秩序だ。
その者すら従えば、誰も逆らえない。
それを実現出来るほどの権力は王国には無い。
だが、到達すれば公正な世界が開かれる。
こいつに言わせれば役者不足の王子だが、穢れ無い心をお持ちだ。
そうすれば、血すらも関係ない。
……呪われた者ですら、胸を張り、あの聖者の背を仰げる。
「……努力はしよう」
言が正しいなら、聖痕ですら大した価値を持たない。
だが、それを持つ者は皆、力をつくしていることを知っている。
学園の生徒達は互いの長所を持ち寄り、1日でフリージ城への往復を実現した。
問題が無い訳ではないが、日々系譜に恥じない努力をしている。
ヒルダはアゼル達を育て上げ、今でも支援してくれている。
それにフリージの家政と一家と配下の育成も担っているそうだ。
ヴァルターが手ずから紅茶を注ぎ、差し出してくる。
「若、そう固くならないでください。
今回も愛娘たちの話を聞かせてください。
なかなか会えない分、楽しみなのです」
私も背もたれへ体重を預ける。
ヴァルターは香りを楽しみながら、話を待ちかねている。
「ユリスのは最も驚いたものだけ、それ以外は無しです。
これ以上、頭を涼しくしたくはない」
大して残っていないだろう。
それ以上は無い。
「……私にはどれが最も恐ろしかったか判別がつかない」
すかさず反駁される。
「ならいいです。
終わり。
アイーダだけです」
急に前傾するから、茶が零れた。
菓子にもかかった。
「いや、脅しではない。
本当に私も困惑している。
……親は知るべきだ。
だが、あれらはあまりにも……」
この老臣への意趣返しのつもりで口から出てしまった。
だが、こいつには世話になっている。
それに……衝撃が強すぎる。
ヴァルターは姿勢を正し、話を聞く気になっている。
親の顔から鷹に戻っている。
「その様子では、真にまずいようですね。
先にお聞かせください、ユリスの命は無事ですか」
一思いに終わらせよう。
「問題ない。
レンスターとノディオン含む、継承者三人の命を奪いかけ、
王配候補となっている」
「はぁ⁉」
叫び、飛び上がる。
放り出された白磁が床に散らばった。
口にして後悔した。
ヴァルターの滅多にみられない姿を楽しむ余裕すらない。
ある意味、奴が理念の体現者だ。
幼い頃からリーネとヒルダの代理として、拙いながらも勤めていた。
あいつなりの正義のため、神器を携えた私に何度も立ち向かって来た。
させはしないが、王配にすら手が届きかねている。
聖痕を持ちながら、神器をただの道具と言い切る。
既存の秩序に縛られぬことばかりする、あのユリスが。
理屈は合うが……ユリス……。
ユリスかぁ……。
本作では当時に当主に就いたとしている。