ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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ヒルダ(約35年後の姿)
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FE風花雪月のヒルダちゃんではありません。
ゴネリル家ではなくヴェルトマー家です。


髪は油が好き ―グラン歴743年

アルヴィスに初対面で下着を見せつけながら、

寂しい奴、とのたまったらしい娘を待つ。

 

そのせいで初回は身だしなみについて教えることになった。

……意味が分からない。

 

ヴァルターの子にして、アイーダの妹。

忠義の家からアゼルのために送り出された娘。

 

これだけなら、幼くとも利発な子供に思える。

少なくとも、当主を蔑ろにすることはないはずだ。

 

聞いた話と同一人物とは思えない。

あるいは、当主の心底を見通す程の天才児なのか。

こんな朝早くなら本性を隠せないだろう。

見極めてやる。

 

「無礼が有ってもご容赦下さい。

ユリスへ教育を受けさせてやれなかったのです」

 

……あの薄毛親父に言われたら、何も言い返せない。

その娘が生まれた年に錯乱した父の後始末。

それにあたしとアルヴィスの後見を担ってるんだ。

少しくらい生意気なガキでも受け入れてやる。

ただで引き受けるんじゃない。子育ての実験台として使い倒してやる。

 

―――――

 

「ヒルダ様*1

コーエン家のアイーダ様、ユリス様がお見えです」

 

「通せ」

 

姉に連れられ、妹が支度部屋へ入ってくる。

整えられていない赤髪が朝日に照らされている。

 

簡素な恰好だ。流石に少し寒いんじゃないか。

アイーダは化粧もしていない。

 

姉が一歩前に出て、口上を述べる。

 

「ヒルダ様、

朝早くからお時間を戴きありがたく存じます」

 

姉が妹の背を軽く押す。

 

「コーエン家のユリスともうします。

つつしんでごあいさつもうしあげます」

 

眠気でふらついたカーテシー。

最低限は仕込めてるんじゃないか。

あの親バカ、心配しすぎだよ。

 

「ヒルダだ。

これからあんたの面倒みてやる。

数年は付き合うんだ。固くならなくていい。

外ではしっかりしてもらうよ」

 

「じゃあとなりのへやでねる」

 

扉に向かって歩いていきやがる。

 

アイーダを見やる。

苦笑を浮かべてやがる。

 

これは……初めて見るタイプだな、本当に。

 

先代の後始末の結果、

こうなってしまったのなら放り出すわけにいかない。

 

「……飲み物をやるから、目を覚ましな。

私も眠いんだ。ローズマリー多めのを持ってきな」

 

侍女に言いつける。

 

「はちみつおおめ、さとうおおめ」

 

「身だしなみより言葉遣いのレッスンをしてやりたいね」

 

―――――

 

さわやかな香りのするカップが運ばれてきた。

嗅ぎなれないのか不思議そうな顔をする小娘。

 

「まずはそのまま飲んでみな」

 

早速口をつけた。

音を立てないことも教え込まなきゃならないね。

 

「すっぱ‼

つけものドリンク⁉」

 

あまりの酸味に目を見開く。眠気は飛んだようだね。

 

砂糖を必死にぶち込む。

甘味をいくら入れても紅茶程は甘くならない。

図々しくなけりゃ教えてやったがね。

 

アイーダが飲み終える頃に切り出す。

 

「随分な振る舞いをしたらしいね。この小娘は。」

 

侍女にテーブルを片付けさせ、支度部屋の用意を始めさせる。

 

「……はい。

説明させていただきます」

 

顔を歪めて答えるアイーダ。

事前に聞き及んでいた内容とほとんど同じだ。

 

だが、文字通り馬車から飛び出したのは聞いてない。

 

……これを育てるのか。

 

「アゼルはよろこんでたよ」

 

あの子が大声ではしゃいだらしい。

アゼルは母親に似ておとなしい子だ。

そんな姿を私も見てみたいもんだ。

まあ、アルヴィス含めあたしらはどちらかといえば厳つい。

どうすりゃいいか分からないね。

 

「言葉遣いは後日だ。

いきなり詰め込んでも覚えられないだろ。

今日は身だしなみについて教えてやる」

 

小娘に教えることは数えきれないほどある。

あたしも本領の管理で頻繁に会ってやれない。

土台となる部分を伝え、リーネや姉と実践させて磨かせよう。

 

「どうしてお洋服を正しく着なきゃいけないと思う?」

 

アイーダを見習ってもう少し言葉を柔らかくするのもありだな。

でも、立場を教え込むならこのままの方がいいか。

 

「かわいくなくなるから」

 

まだ酸味が口に残っているようで、眉間にしわが寄っている。

 

「間違ってはいないね。それもある。

他には思いつくかい?」

 

評定者気取りの薄毛に腹が立つことはあるが、その立場は案外悪くない。

あたしと違う視点を自分好みに再構築するのはいい気分だ。

 

「うごきづらくなる」

 

正装をしたことがない奴の考え。

ハイヒールにコルセット、そこに魅せ方も加わるんだ。

本格的になるほど動きは制限される。

女を縛るものは数知れない。

 

「まだユリスには早かったわね。

見た目はあなたを周りにどんな人か教えてくれるの。

お父様が頭を気にしているのはその理由もあるの。

だから、あまり触っちゃだめよ」

 

親をダシにしやがった。アイーダも意外と言うもんだ。

あたしは流石に控えておこう。

ヴァルターには世話になってる。

 

「綺麗なものには金・時間・努力が不可欠なんだよ。

要は、あんたがどれだけ大事にされているかを見せているんだ。

だから、見た目はないがしろにしちゃならない。

家族がわざわざ用意してくれたものをあんたが台無しにすることになる」

 

俯く小娘。

アイーダに習い、卑近な対象を持ち出した効果はあったようだね。

 

アイーダへ顔を上げ、声を出す。

 

「わかった。

姉さま、ごめんなさい」

 

言っても分からない程愚かでは無いらしい。

生意気だがひねくれてはいない。

 

「いいのよ。これからは気をつけましょう。

でも、馬車から飛ぶのは本当にやめてね」

 

アイーダは、降りる時は誰かと手をつなぐのよと続ける。

 

相当堪えたようだ。

アルヴィスとアゼルに置き換えてみれば、確かに恐ろしい。

私の子供にもそうしよう。

 

「なら、次行くよ。

先ずは、髪の手入れを教えてやる。

そのために、あんたらには身繕いせずに来るよう言いつけたんだ」

 

―――――

 

立ち上がり、支度室へ先導する。

鏡台へ座り、アイーダ達に側に立つよう指示する。

 

鏡越しに小娘を観察する。

新しい部屋に来て、集中力が散漫だ。

 

「月並みな言い方になるが、見た目は女の武器。

そして、髪は女の命なんだ」

 

私の黒髪を勢いよく広げる。

 

「他人を引き付けることも、遠ざけることだってできる。

結い方次第で別人に化け、隠したいものから目を遠ざけさせる。

バッサリ切れば意思表示にもなる」

 

実践の前に髪の重要性について教えてやる。

 

小娘はそれよりも朝日に照らされる香油瓶に目を奪われている。

ガキと欲張りは光り物に目がないからね。

 

「アイーダ、あたしの髪をやりな。

見本になってやる」

 

「失礼します」

 

目の粗い木櫛を渡し、始めさせる。

 

―――――

 

ゆっくりと時間をかけてやりな。

上の方を掴んで束にするとやりやすいよ。

毛先がある程度整ったらもう少し上にも手を出す。

そして最後は根元までしっかりやるんだよ。

 

次は細歯の角櫛を使いな。

これもさっきと同じ。毛先から段々登っていくんだ。

面倒なのは諦めな。それに意外と気持ちがいいんだよ。

 

絡まりがなくなって、櫛がするっと滑るようになったらヘアオイル。

毛先だけだよ。上に付けるとだらしなく見られる。

 

編み込みも教えてやりたいところだが、後にするよ。

あたしを含め三人の女がいるんだ。時間がかかる。

先ずは普段の手入れだけを覚えな。

 

鏡台の前を小娘へ譲る。反対にあたしはその後ろへ。

 

―――――

 

「あたしらは戦場にも行くんだ

自分で出来るようになっておかなきゃ恥かくよ」

 

中腰になり、手触りを確かめる。あたし達より細く柔らかい。

頭頂部は朝日に照らされ、赤の中に光の環が現出している。

鎖骨までしかない短さではあるが、時間をかけ丁寧に梳いていく。

 

必ず毛先からだ。守らないと痛い目みるよ。

櫛は歯と歯の間が広い方から使うんだ。細かいのは後。

 

絶対に衣類用のブラシは使うんじゃないよ。

 

気持ちいいからって体を揺らすな。やりづらいじゃないか。

 

角櫛で髪を整えながら、改めて髪を大切にするよう説く。

 

「ファラの系譜らしい、炎より熱い赤なんだ。

大切にしてやりなよ。

あたしと違ってな」

 

自重気味になってしまった。

小娘に言っても仕方がないだろうに。

 

聖痕よりもこの色が欲しかった。

誰から見てもどこの生まれか分かるこの紅が。

ヴェルトマー家で仲間外れみたいじゃないか。

 

「ヒルダ様のはこげた色。

火がつよすぎたのね‼」

 

頭頂部まで梳き終わり、軽く撫でる。

 

「……そうかい。あんたは焦がすなよ」

 

懐から母様に貰った香油瓶を取り出す。

椿油を毛先へ垂らす。

 

「カメリアをやる。

これを洗髪前は地肌、その後は髪に塗りな。

もちろん、まとめる時にも役立つ。

いつも持ち歩くんだよ。

あんたは整える機会が多そうだからね」

 

「髪を焼いてしまったらまとまらなくなっちゃうわ。

そんなことしたら駄目よ」

 

空気を変えるようにアイーダが注意する。

確かにこの娘ならやりかねない。

杞憂ということはないだろう。

 

「これがあればこげてもだいじょうぶ‼」

 

「本当にわかってるんだか……」

 

突然、道具箱から香油瓶を取り出し、

太陽にかざしだした。

 

「かみはぶき。オイルもちあるく。

てきになげて、もやしやすくなった‼」

 

……本当に初めて見るタイプだ。

娘の教育なんて、もっと楽で心穏やかなもんだと見積もってたよ。

 

「さあ、これでひと段落ついたよ。

体験の次は実践。

ユリス、アイーダの髪をやりな」

 

驚いたような顔でこちらを見てくる。

 

あんたは今日大したことをしてない。

実験台になるくらいわけないだろ?

 

―――――

 

「痛いわ。もっと優しく」

 

「毛先からって教えただろ‼

アイーダまでハゲさせるつもりかい‼」

 

―――――

 

「しあげにオリーブオイル。

ケチらず、ダバー」

 

「サラダでもつくる気かい‼

オイルは指先で広げるんだ‼」

 

子供の教育は大変だ。

あたしはやっていけるんだろうか。

 

実子の前に体験しておけてよかったとするしかない。

……ユリスみたいな子じゃないことを祈るばかりさ。

*1
原作で専用クラスを持っている人。

本作ではアルヴィスとアゼルの異母姉。

見た目は悪役令嬢の母親みたいな人。

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