ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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フリージは出歯亀ばかり ―グラン歴755年

ユリスに手を引かれて転移室にいた。

 

「ヒルダ様に会いに行くよ」

 

魔法光が私たちを包む。

視界が白に染まる。

眩しい。

 

―――――

 

手が離れていく。

 

「あんたら、下がりな。

呼ぶまで来ないでくれ」

 

熱が遠くなる。

 

「なら私を案内して。

お湯とお菓子を取ってくる」

 

座らされた。

 

―――――

 

「アルヴィス、会うのは初めてだろ。

イシュトーだ」

 

「まま」

 

母の顔を見る幼児。

 

「あんたの叔父さんだ」

 

「あたしの、弟だ。

おっかない顔してるが、心配性なだけさ。

仲良くしな」

 

幼児が差し出される。

 

「抱いてやんな。この子にだってあんたと同じ血が流れてる」

 

抱きしめる。暖かい。

 

「へたくそ。イシュトー様がかわいそう」

 

取り上げられた。

ユリスがそのまま抱えている。

 

「たしかにあの抱き方はない。

アゼルの時のことを忘れちまったようだね」

 

「あの子はもっと大きかった」

 

「あんたが小さかっただけだよ」

 

ユリスがイシュトーを外へ連れて行く。

 

温もりが消えた。

 

―――――

 

目の前にカップが差し出される。

中には、柑橘と野苺の乾物がある。

 

ユリスが湯を注ぎ、小皿で蓋をした。

 

「少し待ってて」

 

「懐かしいね。リーネから教わったのか」

 

「うん、ヒルダ様はラズベリー多め」

 

「そうだ。

でもあたしの好みはもっと多めだ。それに林檎はいらない。

教わり切れなかったみたいだね」

 

「好みが変わっただけ。それに今覚えた」

 

昔、勝手に開け、蓋についた水滴をまき散らし、リーネに怒られた。

 

ユリスが小皿を取る。

 

「ほら、アルヴィス様出来たよ」

 

暖かい。

 

酸味が広がる。蜂蜜の甘さもだ。

これでは甘すぎる。

 

「ユリス、蜜が多い。

果実の酸味が殺されている。

お前が甘党だからといって、なんにでも限度がある」

 

「その通りだ、アルヴィス。

今日のは甘すぎる。

後でもう一杯いれな」

 

―――――

 

静かに三人で果実茶をすする。

身体に熱が戻って来た。

 

朝の陽ざしに気が付く。

鳥のさえずりも耳に届く。

私は夜を越していたのか。

 

姉様の表情も見える。

 

これほど痩せてしまったのか。

フリージは居心地が悪いようだ。

 

「……そんな驚くような顔をするんじゃない。

子供を産んだ後はこんなもんだよ」

 

不満げな顔でこちらを見る。

 

「私、子供産みたくないかも」

 

「あんたはポンポン産みな。

本当に……そうしな……」

 

「……そんなに辛かったの?」

 

「ああ……」

 

情感がこもっている。

 

ユリスが立ち上がり、姉様の横に立つ。

 

「頑張ってたもんね。

頭撫でてあげる」

 

「それなら髪をやれ」

 

懐から櫛と小瓶を取り出すユリス。

姉様が瓶を見て、顔をそらした。

 

「前よりは髪質が戻ったね。

それとアルヴィス様が誤解してる」

 

梳きながら、時折髪を撫でている。

私が、何を誤ることがあるのか。

 

姉様が得意げに言い放つ。

 

「ヴェルトマーは男ばかりで、女っけが少ないからね。

ユリスの他にはアイーダくらいしかいないだろ。

いい機会だ、教えてやる。

こっちに来な」

 

姉様の側へ椅子ごと移動する。

彼女はユリスから櫛を受け取り、私の髪を触り始めた。

耳元で囁かれる。

 

「……ヴェルトマーにいた頃はこんなこともしてやれなかった。

ここならやってやれる。

ここに来たのも、辛いことだけじゃない」

 

顔を離し、先ほどと同じ声色で続ける。

 

「あんたも女は体を冷やすなってのは聞いたことがあるだろ。

紅茶も良くないんだよ、子供が欲しい時は。

だから、あたしは香草茶ばっかり飲んでたんだ」

 

そうだったのか。

私も姉様に茶会の作法を習った。

果実茶の方が良い、当時はそう思ったものだ。

 

「あんなに紅茶にうるさかったのに、よく我慢出来たね」

 

「あいつには7年も待たせたんだ、こっちも義理がある」

 

当然のように返す姉様。

 

「紅茶絶ちも同じ位やってたんだね。お揃い夫婦」

 

茶化すようなユリス。

手を口に添えて、身体を捩っている。

 

「からかうんじゃないよ。

それに、まだ終わっちゃいない。

せめて二人は産まないといけないからね」

 

「アツアツ。

ブルーム様は譲らないんだ」

 

ユリスの動きがより大きくなった。

振り払うように手を動かす姉様。

 

「生意気に磨きがかかったね。

学園で何やってんだい」

 

照れ隠しだ。

姉様はブルームのことを本当に愛している。

姉様を絆した熱は、彼の中で燃え続けているようだ。

 

「ヒルダ様のクソダサ二つ名を超えようとしてる。

五相のユリスは嫌」

 

懐かしい。

在学中に光以外の全上級魔法を使いこなせるように姉様。

三相の公女と称されていると自慢された。

 

「あんた、魔法は4種類だけだろ。

闇にも手を出したね。

学園で見せるんじゃないよ」

 

マンフロイに習ったのか。

神器すら道具と言い切るユリスだ、あり得る。

 

「分かってる。だからいい感じの考えて。

今だと、露出淑女、食堂の双女神、行軍だけにはいてほしい女、くらい」

 

私も聞いたことがない。

こいつに関しては、いつものことだ。

リデールには、より細かい報告書を上げさせなくては。

 

「あたしのがマシじゃないか⁉

それに、その、なんというか……大丈夫かい?」

 

確かに、ただの汚名か便利使いされている印象を受ける。

 

「最初のは、ヒルダ様のせい。

あのドレスはすごい反響だった」

 

どの様な格好だろうか。

ヒルダとユリスのことだから、弁えているはずだ。

だが、露出とは……。

 

「おい、アルヴィス。

この子の縁談はふえたのかい?」

 

反射的に答える。

 

「全く」

 

ユリスを送り出すには格が足りない家ばかりだ。

シアルフィかユングヴィなら格は足りるが、あの当主たちの元へは送りたくない。

 

ユリスはこれまでよくやっている。

苦しませたくない。

決して浮気をせず、こいつに苦労を掛けない男でなければ。

 

エッダは論外。

 

ドズルは学友のはずだが、浮ついた話を聞かない。

なぜだか、ランゴバルト卿からユリスが気に入られてはいる。

だが、話が来ない以上、興味が無いのだろう。

 

「……もしかして、私モテない?

ヴェルダンでは熱視線に囲まれたのに」

 

こいつの見た目だけなら、そうなる。

だが、深く付き合う学園ではそうはいかないのだろう。

 

「まあ、嫌われてはないようだね」

 

「ティルテュと一体どこで差がついたのか……。

胸も髪も知識も勝ってる」

 

「身長と愛嬌と言動、それと家格に尽きるね」

 

「……ヒルダ様は相変わらず厳しい。

イシュトー様には優しくしてね」

 

「ここには甘ちゃんしかいない。

あたしが鬼になるしかない」

 

「本当に、程度は間違えないでね。

たまに夜、うなされる」

 

真剣な顔でそう言い放った。

それ程までに姉様は厳しかったのか。

 

「あたしはそんなヘマしない。

それより、アゼルはどうなんだ。

あの子は優しい子だ。舐められてないかい。

必要なら多少の道具や魔法指輪*1も融通してやるよ」

 

「私より人気者。

継承者三人を倒す前も、みんなから可愛がられてた。

倒してからは、魔法科で一番下士官を集めやすくなった」

 

アゼルも元気なようだ。

報告書で知っていても、話は別だ。

あの子の真っすぐな心は、人を温める。

 

「恋はなかなか上手くいってない」

 

「あの子もついに……大きくなったねえ」

 

「聞いていない、説明しろ」

 

呆れたような声で窘められる。

 

「無粋だねぇ……アルヴィス。

代わりにあたしが聞いといてやるよ」

 

興味の色は隠せていない。

 

「乳兄弟の絆は、鬼嫁より強い。

でも、勘違いしないように言っておく。

私でもティルテュでも無い。

純情な片思い。願わくば、叶ってほしい」

 

フリージの公女ではないのか。

幼い頃からの付き合いがあるだろうに。

アゼルがその気なら、

この家と近くなりすぎるが、認めるつもりだった。

 

「元からあんたらは候補に入ってないよ。

それで、誰なんだい」

 

身を乗り出す姉様。

 

兄として弟の恋路は把握するべきだ。

助力は惜しまない。

 

ユリスが立ち上がり、カップを煽る。

置いた音が、やけに響く。

 

「しつこい。

アルヴィス様も元気になった。

本題に入る」

 

もう少し、この時間を続けたい。

 

―――――

 

席を元の対面に戻される。

ユリスがカップを入れ替え、紅茶の準備をしている。

 

「まずは、私が状況説明。

ヒルダ様には話せないこともある、許して」

 

「分かってる、あたしもヴェルトマー産まれだ」

 

先ほどまでの彼女たちは居なくなった。

この場には、炎の紋章を抱く者しかいない。

 

「先日、他国でこれが見つかった」

 

ユリスが机に指輪を置く。

宝石が付いているわけでもないのに、赤く輝いている。

この光が目を逸らすことを許さない。

 

「これはシギュン様のもの。

彫刻と特徴を目録で照合し確認済み」

 

言い淀む姉様。

 

「……ああ、そうだよ。

あの子はこれをつけさせられてた」

 

「一応、性質も説明する。

これは、ファラ傍系、あるいは直系が近くにいると光を放つ」

 

「アルヴィス、覚悟は出来てるんだね」

 

姉様が、私に問いかける。

 

「……はい。知らなければなりません」

 

ここまでか。

 

「辛いことだ。いつでも止める」

 

「じゃあ、外で待ってる。

……寂しくなったら、いつでも呼んで」

 

ユリスは紅茶を私たちの前に置いて、退出してしまう。

扉がやけに遠い。

湯気だけが残された。

 

ヒルダが述懐する。

 

「あたしは、当時シギュンとそこまで変わらないくらいだった。

だから、義理の母娘といってもそこまで険悪な仲じゃなかった」

 

「その指輪は父様がシギュンへ常に着けるよう命じていた。

隠れても近くに行けば見つけられるようにって。

屋敷の中で潜伏なんて、できないだろうに。

それのせいで、あたしが近づくとリーネが急いで支度をはじめた」

 

ヒルダは指輪を手に取り、弄ぶ。

 

「……これがどこで、どうして見つかったかは言えないんだろう。

なぜシギュンが居なくなったか、それを話せばいいんだね」

 

日光にかざす。

そのような事をせずとも輝いているのに。

 

机に置いて、話を続ける。

 

「先代当主はシギュンを過剰なまで束縛した。

一切家から出さず、いくつかの部屋以外への外出を禁じた。

だから、子供部屋の側に食堂がある。

あんたとアゼルが使ってた所さ」

 

「仕事ができない近衛のため、王子は義務を果たすべく邸宅を訪れた。

王子とシギュンは、偶然出会ってしまった。

いつしか二人は仲良くなった」

 

「しばらくして、シギュンの腹が膨れ始めた。

そこから、先代は不安定になった。

ある日、呪いにまみれた遺書を残して自殺。

その後シギュンはいなくなった」

 

「……こんなもんさ。

だから、ヴァルターは王子を嫌ってる」

 

ヒルダは、紅茶で喉を潤す。

これで終わりのようだ。

 

「アルヴィス、まずは紅茶を飲みな。

それはユリスとティルテュが王都を抜け出して持ってきたもんだ」

 

戦利品とユリスが言っていた。

普段のものより、やけに水色が濃い。

今の私に、この熱はいらない。

 

「……私には王子が分かりません。

優しい、兄のような存在でした。

でも、姉様やアゼル、リーネ、ユリスも苦しめた」

 

卓上遊戯を教えてくれた。定石もだ。

一緒に新たな戦法を生み出そうと、言い合いもした。

思考中に鼻の下を撫でる癖は、今も変わらない。

 

「あたしにも分からん」

 

「我が家を苦しめたのは王子、でも助けてくれたのもクルト兄さま」

 

若造と武人から侮られた時は、いつでも訓練に付き合ってくれた。

魔導書が擦り切れて、管理者に叱られた。

 

「そうだね」

 

「こんな馬鹿げたことをした。なのに、賢い方だ」

 

私の政策を添削し、討論することでお互いに研磨しあった。

老いた王の代わりに、ほとんどの執務を担っている。

最善ではないが、国家は運営できている。

 

「同じ人とは、思えません。

実は違う人間なのでは?」

 

臣下の妻と密通するような好色。

だが、今でも誰も娶らない。

 

「……王子だよ」

 

「あんたは鈍い所がある。

シギュンは想像している何倍も縛られていた。

大人が見れば妻を虐めているようにしか見えなかった」

 

弱き者を捨て置けないクルト兄さまらしい行動だ。

疫病で村を焼く決断を下したときも、泣いていた。

民と私たちのために。

 

胸が熱くなる。

 

「あたしを憎め。

シギュンのことを庇わなかった。

あいつを殺したのはあたしさ」

 

低く、唸るような声。

守るために泥を被る。

いつもそうだ。

 

赤い輝きが目に入る。

視線を逸らせない。

 

クルト兄さまが我が家を壊した。

だが、父上にも非があった。

父上は無才で、母上に値する自信がなかった。

 

朱色が私を引き戻す。

何も、立たない。

 

「……憎悪が湧いてこないのです。誰にも」

 

歪だが、父上は母上を愛していた。

母上も父上に応えようとしていた。

 

「あんたが優しいからさ」

 

あぁ。

クルト兄さまも苦しんでいたのだ。

この神血に支配された理に。

 

「それよりも、王子に対する哀れみが湧いてきました。

愛する者を失い、子供と生き別れになってしまった。

自分が壊した家を、平然とした顔で支え続けた。

矛盾の狭間に立ち続け、それでも聖者として振る舞いつづけた」

 

個人と神器の長という不調和にすりつぶされた。

それでも、いまだ立ち続けている。

このままだと、王子も父上と同じになる。

 

「……アルヴィス、ここにはあたし達しかいない。

ユリスを呼んでもいい。

悲しんでいいんだ。

もうあたし達は地獄を越えてるんだよ、

弱みを出したって死にやしない」

 

我らは、この構造の中に居続けている。

 

「ヴァルターに叱られました。

王子を神格化するなと。

全く、その通りだ。

私はクルト兄さまを見ていなかった」

 

「彼は王に比べて優秀だ。

だが、グランベル王国には足りない」

 

宰相やヴァルター程の力量も無ければ、それを活用も出来ない。

 

「彼は聖ヘイムの末裔だ。

だが、聖人ではない」

 

血は力の源でしかない。

 

なおも、指輪は輝き続けている。

我らの血に反応する。

神器と変わらない。

 

「この世はまだ地獄です。

血を持つだけで責務を果たせぬ者も、無理やり席を押し付けられる。

どれだけ優しい人間でも、その先に狂気に陥ってしまう。

聖戦士の長すら内包する仕組みが必要だったのです」

 

当主たちは既に潰される寸前だったのだ。

だから、あれほど無責任でいられる。

私は気づいてやれなかった。

 

「アルヴィス‼

今のあんたがそうだ‼」

 

「それでも構わない。

あんな苦しみを味わう者が居なくなるのなら」

 

アゼルには、あの思いをさせられない。

あの灯だけは消させない。

 

「姉様、父上が亡くなった後を覚えていますか」

 

私だけでは成し遂げられぬ。

労苦に耐え、それでも折れない信念を保てる者が。

 

「……あんな地獄、忘れられるわけがない。

無能な癖、消えたらなおさら忙しくしやがった。

あんたも7つで当主に就かされた」

 

当主簒奪を疑われぬよう、自ら家業から離脱した女。

 

「それはなぜですか」

 

家中粛清を自ら買って出た女。

あの時、情を捨て去った。

代わりに乱暴な口調を身に着けた。

 

「あたし達がヴェルトマーだからだ。

今ではフリージだが、炎は消え去っちゃいない」

 

針の筵で意思を貫ける女。

 

貴方が必要です。

 

「血のせいです。

姉様が恋人と一緒になれず、心を殺して家政を司ることになったのも。

それほど窶れるまで追い込まれたのも、神血があるせいです」

 

「あんたは今錯乱してる。

第一、血が無けりゃ神器だって使えなくなっちまうよ」

 

あれは統治のための道具。

そこまで引きずり落とす。

 

「そんな武器があるから、人は縛られる。

持つ者は責任に追い詰められ、増長し、狂う。

父上はそうだった」

 

父上、貴方の弱さも薪にする。

置いては行かない。

 

「……父様が弱かっただけだ」

 

「そうです。

直系でなければ、ただの男として私達と共にいたはずです。

結婚式で、姉様を送り出したのは父上だったはずなのです」

 

「現当主たちだってそうだ。

世俗を嫌う者。

騎士道に殉じたい者。

娘を探しに行けない者。

武人でいたい者。

能力は有れど家族を優先したい者。

どれも、継承者としての責任と向き合おうとしない。

そうすれば王子か父上のようになってしまう。

そうならぬため、目を逸らさねばならない」

 

「血は無くせない。

ロプトに対する備えなんてお題目じゃない。

あたしたちは生きてるんだよ」

 

「姉様は私も狂ったとお思いか。

そんな絵空事を口にしていない」

 

「そうだよ。正気じゃない」

 

「姉様、火継ぎを覚えていますか。

我らは火種である、そう教えてくれましたね」

 

「……ああ。

だが、全てを燃やせとは教えてない。

辛いことでも最初に踏み出す、そして燃え尽きるまで周囲を照らせと伝えた」

 

「私はファラの系譜の末席にある者。

そして、聖騎士マイラの末裔でもあったのです。

例え、どんな暗黒の中でも正義を為したい」

 

ユリスがそう言った。

ロプトの血にも正義はあった。

双方を継ぐ私が、血を人の下に帰す。

 

沈黙が降りる。

唇が震えている。

瞳孔が開き、椅子が軋む。

 

ようやく焦点が合う。

 

身を乗り出し、掴みかかる。

カップを弾き飛ばした。

床には破片と茶が広がる。

 

濡れても、指輪は輝き続けている。

 

「……⁉

何言ってるんだ⁉

あたしとあんたは姉弟だ。そんなことはない‼」

 

貴方は優しい人だ。

口には出さぬが、情が深い。

邪神の末裔であっても、弟と呼んでくれる。

 

「……っ⁉

まさか……シギュンが⁉」

 

「その指輪は、邪教が潜む地で見つけました。

古巣へ身を寄せたのでしょう」

 

「母上は父上だけでなく、血にも縛られていた。

だから、私を置いて行った。

あの家に居続ければ、確実に殺される」

 

母上も苦しんだ。

邪血を持つ恐ろしさが私には分かる。

私は、征伐も隠蔽もしている。

 

血が露呈すれば、愛する者たちも命と尊厳を落とす。

 

「善も悪も、お互い血に絡めとられている。

人ではその渦中に飲み込まれてしまう」

 

暗黒教団員も苦しんでいる。

邪法を行わずとも、ただ子孫であるというだけで迫害される。

 

「絶対の法による支配。

人に出来ぬのなら、用意するまで。

我らのような悲しみを世界から無くせる。

姉様、共に終わらせましょう」

 

差別の無い世界。

人が血ではなく、その人を見れる世界。

 

「……アルヴィス、何をするつもりだ」

 

「王子には姫がいます。

そのお方を国王に据え、私はその横で法を敷きます」

 

そのお方には、心安らかに過ごしていただく。

既に十分息をひそめて隠れ住んだのだ。

我らのようには、しない。

 

「……無理だ。そんな噂聞いたことがない」

 

「それは姉様が、家業から離れてくれていたからです。

この指輪もその任務で発見されました」

 

母上の拘束具を見せつける。

血のような光を放っている。

 

「聖血は民にとっては疎まれるんだそうです。

だから、ナーガの直系ですら暗黒教団と共に隠れ潜む。

万民にとってすら、血の束縛は枷になっています。

所詮、血は力を与えるものにすぎません。

それ以上ではならない」

 

「……アルヴィス、外に漏らしちゃならないことを口にしている。

あたしはフリージだ」

 

「姉様にだって覚えがあるでしょう。

血が邪魔だと。

それがあるから背負わされる。

そんな社会は間違っている」

 

「あたしはあんたほど真面目じゃない。

気楽に捉えている」

 

「ところで、イシュトーには聖痕は出ましたか。

まだでしょうね。幼すぎる」

 

聡明な貴方なら、これで分かるはず。

 

「何が言いたい」

 

「ブルーム。

あれが当主として立ち続けられるとお思いですか?

何年間、重責に耐えられると思いますか?

父上のようにならない保証が出来ますか」

 

武勇だけで、当主の器がない男。

愛情深い彼を苦しませたくない。

 

「……それは……あたしが支える」

 

「ユリス。

あいつはヴェルトマーじゃない。

ただ、聖痕が出ただけだ」

 

傍系の苦しみは、貴方が一番知っているはず。

 

直系を産めなかった故、貴方の母は死んだ。

私が産まれるまで、先代の愛人たちからも馬鹿にされ続けてきた。

その後も、その印のせいで、長い間家から離れられなかった。

 

「リーネの死体を整え、たいまつで焼いたのもあいつです。

それが最後の授業だと、言い残されたそうです。

今も学園で友の情報を集めさせられている。

裏切り者になった気持ちでしょう」

 

「……」

 

妹であり、娘。

その女が苦しむことを貴方は良しと出来ない。

 

「リーネは平民だ。

父上に手を出され、姉妹同然の母上からも離された。

アゼルを産み、それからは監禁生活。

命をもって尽くしても、ユリスにしか看取って貰えず、土には還れなかった」

 

「……」

 

末裔でなくとも、血は絡めとる。

我らだけではない、平民ですら苦しんでいる。

 

「さて、イシュトーはどうなるでしょうか。

5歳までには分かります。

夫と同じ、それとも姉様と同じ聖痕止まり。

あるいは、リーネのように発現すらしない」

 

何も考えられなかった私に熱をくれた幼児。

あの小さな鼓動を思い出す。

イシュトーには、書類と侮蔑の視線に彩られていない世界にあってほしい。

 

「どうなろうが、血に支配された世界に産まれ落ちた」

 

立ち上がり、赤を飲み干す。

この生暖かさが私には丁度良い。

冷静に、されど熱を持ち続けている。

 

指輪を握りこみ、光を漏らさない。

 

ヒルダへと、手を差し出す。

 

「我らが作り上げましょう、血で苦しまない世界を」

 

世界に対する聖戦。

その胸に火種が残っているなら、立ち上がるはず。

*1
原作でいう○○リング。例:パワーリング(力+5)。

対応するステータスを+5するアイテム。

基本的に敵の戦利品以外では手に入らない。

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