ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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ティルテュ虐は健康にいい。
ヒルダ様もそうお思いなるだろう。

ティルテュ(別衣装)
https://guide.fire-emblem-heroes.com/03005001000985-2/

FEHに詳しいわけではありませんが、フリージー家の衣装になんというか情念を感じてしまいます。


ちょっと太ってる ―グラン歴757年

ユリスが久しぶりに、

何日も王都に滞在するってアイーダさんから教えてもらった。

アグストリア内乱が収まり、その対応を王が決めて、

ユリスが勅使として届けさせるまでの間休めるってお姉さまが教えてくれた。

 

おやつの時間にお茶に誘った。

フリージ城で顔を合わせることはあるけど、ユリスとは話せない。

お姉さまたちと仕事の話をしたら、すぐに出て行っちゃう。

 

でも、今日は大丈夫。

ワープで王都の邸宅に行き、ユリスを待つ。

侍女のみんなも指示した通りに用意してくれた。

 

本当なら、お姉さまとアゼルもここにいてほしかった。

お姉さまはアグストリアへの防壁として、フリージ城から離れられない。

それに、お腹に赤ちゃんがいる。

ユリスにも大きくなったお腹を撫でさせてあげたかった。

今度アグストリアに行くときに、それだけはさせてあげましょう。

 

なかなか来ない。

足をぶらつかせる。

 

ここなら、あのうるさいマナー講師もいない。

お姉さまさえ忙しくなければ、あんな奴いらないのに。

どうせだから、あたしも給仕の格好をすれば良かった。

 

アゼルはうちのお隣、アグスティ城*1にいるらしい。

学園卒業後に突然出て行っちゃった。

シグルド先輩の軍で頑張ってるんだって。

顔出しに来ればいいのに。

……お姉さまが怖いのね。

 

アゼルらしくない。

いつも本ばかり読んで、あたしに手を引かれてたのに。

レックスと一緒らしいから、きっとあいつのせい。

 

従者の子がユリスの到着を伝えてきた。

あの子が居れば、紛れるよね。

 

―――――

 

相変わらず小さい。

侍女の子よりも背が低い。

前より、少し痩せたみたい。顔色は悪くない。

 

突然、ユリスが撫でてくる。

 

「寂しそう」

 

寮では、一緒に整えあった。

お互いに触りあって、髪質も覚えてる。

 

「みんな居なくなっちゃうんだもん……」

 

同級生はみんな戦場に行っちゃった。

ユリスは王の使いとして走り回ってる。

あたしだけ、家の中。

 

こっちも撫で返す。

さらさらしていて、ずっと触っていたい。

 

「力弱くなった?」

 

きっと、イシュトー*2ばかり撫でてたからだ。

 

「そんなことない。

訓練ばっかりやってるんだから。

トローンだって完全に使いこなせるようになったの」

 

軽く魔力収束して見せる。

 

あたしだって、戦場に行けば活躍できる。

学園にいた頃には制御しきれなかった魔法だって、使いこなせるようになった。

 

ユリスに抱きしめられた。

髪が顔に当たる。背中も撫でてくれてる。

この子は、暖かい。

 

「お茶会でしょ。振舞って」

 

顔をハンカチで拭われた。

泣いてないもん。ゴミが付いてただけ。

 

―――――

 

今日のために色々なお菓子を用意した。

ユリスは色んな所に行ってばかりだから、

リフレッシュできる爽快な香りを楽しめる茶葉。

それに合うものばかりを揃えた。

 

バターたっぷりのクッキー。

色んな形のマドレーヌ。

ふわっふわのシフォンケーキ。

 

あの子は意外と大食いだから多めにしておく。

少ないと、気が付いたらなくなっちゃう。

あたしもいっぱい食べたい。

 

ポットからユリスのカップに注いでいく。

とくとく音がする。

湯気と香りが広がる。

この瞬間が好き。

 

こんなのも久しぶりだ。

 

お姉さまは紅茶を飲めない。

お兄さまとエスニャ*3もそれに付き合ってる。

ハーブティーも悪くないけど、紅茶が好き。

 

それに、アグストリアのせいでピリピリしてた。

お茶会もなんだか開きづらかった。

 

「いい香りだね。ティルテュの紅茶なら嫌じゃない」

 

ユリスは果実茶派だったけど、紅茶も好きなはず。

 

「好みがかわったの?

……もしかして、赤ちゃん?」

 

「旦那どころか、彼氏もいない。

干物ユリス。運びやすいね。

ティルテュこそ、どうなの?」

 

そうよね。

あたしがユリスのことで、知らないことなんてないもん。

 

「あたしも、まだきまんな〜い。

戦争ばっかりだから難しいんだって。

花嫁修業ばっかりで、あきあき。

お姉さまに教わったことを、もう一回やり直してるの。

お裁縫だって、学校で慣れたし」

 

前に習ったことの繰り返し。

学園みたいに、実践することも出来ない。

何も面白くない。

 

「それはキツイ。

私と同門、ヒルダ塾の卒業生。

今更習うことなんてない」

 

学園に入る前はアゼルも含めてあたしたちで勉強した。

礼儀作法も魔法もなんでもお姉さまが教えてくれた。

おかげで、学園では食堂の双女神なんて崇められちゃった。

 

「そうよ‼

あいつったら、

あたしのこと何も知らないと思ってる‼」

 

「ティルテュは賢い、天才、ピカピカ娘」

 

これもレックスの影響。

雷魔法が光るからってそんなあだ名をつけられた。

ファイアーだって、光るじゃない。

 

「褒めてない‼」

 

「訓練ばかりって言ってたけど、それのこと?」

 

ユリスは知らないのね。

このあたしが、強くなったこと。

さっきは手加減しすぎたかしら。

でも、やり過ぎるとみんなを怖がらせちゃうし……。

 

「それもよ。

他には、家で魔術の練習。

他の時間はイシュトーと一緒にいる」

 

「ヒルダ様は?元気?」

 

「対価を寄越しなさい。

お茶会すら利用する、それが出来る女ティルテュ」

 

あの講師から習った。

出来る夫人は、茶会でこそ戦う。

些細な機微、言葉尻からも相手を丸裸にする。

 

あたしにだって、やればできる。

 

ユリスがクッキーのお皿ごと持ち上げた。

私からだと届かない位置で抱えてる。

 

「スイーツは全部私のもの。

対価には痛みが伴う」

 

「あぁ‼待って‼

まだクッキーは食べれてない‼

教える‼」

 

「ならば、一枚だけ下賜して進ぜよう。

贈呈なら死ぬほどやってる」

 

「ケチ‼」

 

「自分だけ愚痴った罰」

 

そうだ、ユリスのことを聞いてない。

茶話は始まったばかり。

ここからがあたしの腕の見せ所。

 

―――――

 

苛烈な交渉の末、お皿を置いてもらえた。

和解の証に、口に一つ放り込まれる。

 

バターが強烈に主張してる。

紅茶がないと、少しキツイくらい。

 

でも、それがいい。

マリアージュをもって完成される。

あたしの選択は正しかった。

 

「ユリスはどう?

痩せたけど、無理してない?」

 

ご飯あんまり食べられてないのかな。

外国だと買い物とか大変そう。

 

「世界を股にかける女ユリス。

毎日が行軍訓練」

 

蘇る、苦痛。

最後まで慣れることのなかった、あの訓練を毎日。

あたしには、耐えられない。

 

「地獄‼

もっと、なんか面白いことないの?

色んな所に行くなら、もっと、こう、おいしいものとかさ」

 

キュアン先輩には、レンスターのワインとかを教えてもらった。

うちにある旅行記も読んだ。

各国のグルメに関して、あたしは詳しい。

ユリスにも教えてあげたい。

 

そこへ行って、実際の話やお土産なんかをもらう。

これぞ相互互恵関係。家政の目指す先。

 

「味なんて分からない。

移動の後は、すぐ公式行事。

何はともあれ、コルセット滅ぶべし」

 

「意外ね。

各国への使者なら、グルメツアーみたいなことも出来そうなのに」

 

大変なのね。

それにコルセット嫌いは相変わらず。

 

……行軍の後に締め付けられるのは嫌ね。

 

「基本行動食。

たまに王宮で食べるくらい。

それも、今のグランベル相手だから微妙」

 

「なんで?

私たちが勝ってるんだから、

豪華な物を出されるんじゃないの?」

 

「基本怖がられてる。特にお父様の娘だから。

ダッシュで帰る。

それに王都はいいけど、他は物資を集めづらい。

だから、たぶん出される物のグレードも低くなってる」

 

ユリスのお父さんって会ったことないかも。

ハゲってことしか知らない。

たしかにハゲ親父って厳ついわね。

 

そんなお父さんだから、ユリスが怖いもの知らずなのね。

 

「なんか思ってたのと違うわね。

それじゃあ、良いことは全くないの?」

 

外に出るって意外と面白くなさそうね。

アゼルも、ヴェルトマーに居ればよかったのに。

 

「魔法と杖のレパートリーが増えた。

移動中に騎士が教えてくれる。

実戦派ユリス」

 

ユリスも強くなってるんだ。

我がライバルに、相応しい。

あたしも、もっと強くなりたい。

 

「実戦?

ユングヴィのこと?」

 

「それもある。

移動中に野盗に襲われることもある。

おかげで、念願のセイジ*4に成れた」

 

すごい‼

上級兵種じゃない!!

 

ユリスに先越された……。

あたしはまだ、サンダーマージのまま。

マージファイターには、しばらくなれそうにない。

やっぱり、実戦って大切なのね……。

 

……あたしは、いつになったら戦えるんだろう。

あれだけ学校で頑張ったのに、使えない。

まるで、学園には遊びに行ってたみたい。

 

「王の使者って結構危ないのね。

安全だと思ってた」

 

ユリスが強くなったのは嬉しい。

でも、怪我してほしくない。

 

「まともな軍はちょっかいかけてこない。

そうじゃないのはやって来る」

 

山賊とか?

 

「ユリスなら大丈夫でしょ。

それよりアゼルよ‼

あいつ、シグルド先輩の所にいるんでしょ!?

伝令とかで会ってないの?」

 

アゼルがシグルド軍にいることは、

ユングヴィの時にシグルド先輩から教えてもらったみたい。

 

「シグルド軍には行ったことない。

うちの誰かか、王直属のフィラート卿*5

逆乳兄弟バリア」

 

「ユリスが行ったら、そのまま居付いちゃいそうだもんね」

 

ユリスはアゼルについていきたいはず。

一緒に育ってきたんだもん。

でも、あたしを置いていかないで。

 

「そんなことしない。私は高い女。

三食あったかご飯が無きゃ駄目」

 

シフォンケーキを差し出す。

 

「お手頃ユリスの愚痴を聞いたげる。

何でも言って」

 

「未婚煽りがつらい……。

大抵の所で言われる。

そしてジロジロ見られる」

 

また背中をみせてるのかな?

 

「えぇ~、嘘っぽい。

相手だって貴族なんでしょ?

下士官の子達だってそんなことしなかったよ」

 

「正直、グランベルが周りのこと蛮族って言う理由もわかった気がする」

 

「……そんなに?

あたし、外国に嫁ぎたくないかも。

それよりユリスの縁談は?」

 

何か明るい話題が欲しい。

 

「……分かんない。相手の予想すらつかない。

今は顔見せも兼ねて使者にされてるんだと思う」

 

ヴェルトマーもユリスのことを考えてるのね。

 

「前は目星ついてたの?」

 

「自惚れた発言をする。

シグルド様かアンドレイあたりだと思ってた」

 

「えっ‼

アンドレイのこと好きだったの!?

それにシグルド先輩!?」

 

学校ではそんな様子なかったのに。

考えてみれば、たしかにアンドレイと距離が近かったわね。

演習でも組むことが多かった。

あたしの目をかいくぐるなんて、やるわね。

 

……っ!!

これ、恋愛小説のやつだ!!

愛する二人が運命に翻弄され、引き裂かれる。

最後には再開してハッピーエンド!!

あたしは詳しいんだ!!

 

「その二人が候補だと思ってた。

アンドレイは非直系の次期当主。

直系の姉が見つかっても、私位の女なら家を割らない。

シグルド様はワンチャン。正直、ラケシスとくっつくと思ってた。

噂だとヴェルダンの女性と結婚したらしい。

統治の正当性と後ろ盾確保のためだと思う」

 

シグルド先輩、結婚したんだ。

知らなかった……。

 

アグスティ城はフリージ城から近いし、

お祝いに行けないかな?

贈り物は何がいいかな~。

 

「恋愛は分からない。どうせ決められた相手になるし。

第一、恋なんて触れたことがない。

母には会ったことない。

姉さまは仕事漬け。

……うちって、パサパサ……」

 

テーブルに肘を突き始めた。

 

クッキーをねじ込む。

 

「口もパサパサ」

 

カップに紅茶を注ぐ。

湯気が広がる。

 

「うるおいが取り戻された。

水も滴るいい女。

ティルテュの予想も、聞く?」

 

侍女の子に、次のポットをお願いする。

 

あたしのもあるんだ。

未来の旦那様は早めに知っておきたいしね。

好みにあったお菓子を用意してあげたい。

これは明るい家族を築くために必要な事。

 

あたしも肘を突く。

手を組んで、ユリスに顔を寄せる。

 

「……聞く。本気の奴ね。

おふざけは無し」

 

ユリスも同じ態勢で向かい合う。

ルビーの瞳があたしをのぞき込む。

 

「真面目にクルト王子。

エーディン様は攫われてたから」

 

言葉に撥ね飛ばされる。

 

「うっそ!?」

 

私、王妃様!?

大変だぁ。花嫁修業が厳しくなる。

だから、もう一回させられてるのか。

 

マドレーヌがねじ込まれる。

こっちもバターが効いてる。

……バターばっかりね。

お茶会の準備、失敗したわ。

 

「あくまで予想。

王妃ユリスもあり得なくは無い。

……ヒルダ様にしごかれるね」

 

それは駄目。

おかしくなる。

 

「お茶で洗い流しましょう」

 

花嫁修業を忘れたい。

 

―――――

 

情報とは、富が通じない茶会の貨幣。

味方には配り、敵には制限する。

それが女の闘い。

 

ここで、実践してみよ。

 

「ユリスは、今の情勢とか分かる?

教えてあげようか?」

 

「完全には把握できてない。

渡り鳥だから」

 

食いついた‼

これなら、できそう。

 

「ならば、情報通のティルテュお姉ちゃんが授けよう。

私は詳しいんだから、任せなさい‼」

 

鉄則その1、信頼できる提供者であること。

そもそもあたしだから無問題。

 

「まず、学園卒業前に起きたイザークの暴走。

お隣の友好都市ダーナに突然攻めてきたの。

それの成敗にお父さま達が出立したって訳」

 

鉄則その2、相手の理解度を確かめる。

基本的なことから教えてあげる。

 

「素人質問で恐縮ですが、

なぜダーナは侵攻されたのでしょうか」

 

そんなの、あたしのデータにないぞ!?

 

「イヤミな言い方‼

……なんで?」

 

そんなことしたら、戦争になるって分かるはずなのに。

 

「なんでだろ。全然わからん」

 

ユリスも知らないんだ。

じゃあ、いっか。

 

「卒業前のことじゃない!!

ユリスもそこまでは知ってるでしょ‼

次よ、次」

 

「どれ?

シレジアの王位継承闘争?

トラキアによるキュアン様の空き巣狙い?

アグストリアのイムカ前王暗殺の噂?

他にもあるよ」

 

当たり前のように、スラスラ並べてくる。

 

「そんなに色々あったんだ。知らなかった……。

ちがーう‼

全部グランベル関係ない‼

ヴェルダンでしょ。エーディン先輩も関係してたじゃない」

 

主導権を取り戻さなきゃ。

 

「不戦条約を破って攻めて来たの。

イザーク征伐で騎士が居なくなってて、大変だったらしいわ。

その功績で、シグルド先輩は聖騎士に叙任されたんだから*6

 

「私もちょっとだけ助力した。

メティオは当てづらい。

この程度か、情報屋」

 

指を曲げて徴発してくる。

 

鉄則その3、動揺は表に出さない。

それ自体が情報なのだから。

 

ねじ込みたいけど、我慢。

 

「……そうだったわね。

なら、ヴェルダンへの懲罰は!?

そっちは詳しくないでしょ!?」

 

鉄則その4、相手の欲する情報を提示する。

その頃ユリスは各地に行ってたはず。

 

「森の蛮族達が攫ったエーディン先輩を、シグルド先輩達が助けに行ったの。

噂だと、キュアン先輩夫婦も助けに来たとか。今でも参陣してるんだって。

脱出の誓いは本物だったんだね」

 

本当に約束を守ってるの、すごい。

あたしもあんな風になりたいな。

 

「全く新情報が出てこない。私の方が知ってる。

シグルド様はそこでイザークの王子を見つけ、かくまってるとか」

 

なんで、そんなに詳しいのよ。

あたしは、王国にずっといたのに……。

 

「そうなんだ……初耳……」

 

クッキーがねじ込まれる。

 

「何が情報通だ、身の程を弁えろ。

それにティルテュはイシュトーの叔母さん。

若作りには早い。家系図捏造は犯罪」

 

……バターがしつこい。

 

「あくまでこれは噂。多分、反シグルド派の陰謀。

聖騎士に叙勲された途端、反乱の口実を集める必要がない。

あの先輩は裏切ったりしそうにない」

 

シグルド先輩なら大丈夫。

優しいあの人がそんなことするわけない。

 

「でも、先輩なら助けちゃいそうだよね。

脱出の時も罠にはめたのに、進んで協力してくれたし」

 

「……たしかに」

 

マドレーヌをねじ込み返す。

ユリスもバターまみれになりなさい。

 

「通は、情報を精査するものよ‼

分かったか‼」

 

手と額をテーブルにつけ、

降伏を示すユリス。

 

「参りました。

アグストリアのことを教えてください。

これ、手付金です」

 

シフォンケーキを差し出してくる。

口に含む。

 

ふわふわね。

これはバターの味がしない。

他とは、食感も味も全く違う。

アクセントとして良いね。

あたしのチョイスは、間違いだけじゃなかった。

 

「教えてしんぜよう。

ラケシスが同じ連合のハイラインから攻められて、先輩が助けたの。

なんやかんやあって、アグストリアの南を平らげたってわけ*7

 

その国境にいるけど、実はそんなに知らない。

 

「なんやかんやって何ですか?」

 

「現在裏取り中よ。

曖昧な情報を流さないのがポリシーよ」

 

鉄則その5、分からない時は煙に巻く。

これは完璧。

 

「私もそこら辺について知らない。

開戦時、まだアグストリア内にいたから驚いた」

 

「大変だったね。

なんか王の一人が自分の村から略奪してたのを、先輩が止めたんだって。

そしたら大戦争になったみたい。

それがこの間、やっと終わったんだって*8

 

「意味が分からない。

……本当に」

 

なんだか遠い目。

脱出が辛かったのね。

 

「おかしいよね。

徴発ならまだしも、自分の村から略奪って。

それに、冬前に終わっちゃうなんて。

たしか春の終わりに始まったよね?

イザークより早いよ。

多分、エルトシャン先輩は戦わなかったんじゃないかな」

 

「それでも意味が分からない。

百歩譲って、神器を使わないとしてもクロスナイツがいる。

それに国境のフリージ城も攻められなかったんでしょ。

キュアン様が神器を持ち込んだとしても早すぎる」

 

最強の騎士団がいるのに、うちには一切被害が無かった*9

お姉さまたちは、こっちに仕掛けて来ないことにピリピリしてた。

 

「……なんでだろう?」

 

「……盟主が人気ないとか?

エルトシャン様も口を濁してた」

 

ユリスも知らないんだ。

 

「でも、騎士道って人だから裏切ったりしないよね」

 

エルトシャン先輩は頑固な人だった。

だから、騎士らしくないことはしないと思う。

 

「うん……。

私たちでは解けない謎」

 

カップを傾ける。

音を立てちゃった。

 

「先輩たち、戦ってないといいね。

あんなに一緒だったのに」

 

別の家に生まれたのに、いつも三人でいた。

なんだかあたし達みたい。

先輩たちが、切り裂かれてほしくない。

 

また、クッキーがねじ込まれる

 

「情報不足で悩んでも意味がない。

別の話をしたい」

 

悲しい話題はお茶会には似合わないわ。

 

―――――

 

「噂だと、イザーク遠征がもう少しで終わりそうとか」

 

明るい話題ね!!

そういうの、待ってた!!

 

「そうよ‼

ついに、お父さまも帰ってこれるの‼

お兄さまは行ったり来たりだったけど、

ようやく帰って来るの‼」

 

「ブルーム様も移動ばっかりだったんだ」

 

お兄さまはワープを使ってもいいから、

そこまで大変そうじゃなかった。

 

国家使者も使えてもいいじゃない。

それならユリスと、もっと会える。

 

「うん。

対アグストリアの防衛と、お姉さまに会いに」

 

お兄さまたちは、今もラブラブ。

あたしもあんな風になりたい。

 

「ティルテュ、

まだヒルダ様のこと教えてくれてない」

 

そうだった。

まだ、教えてない。

 

侍女たちを見渡す。

 

「みんなも内緒にして。

我が家最大の秘密だよ‼」

 

みんな、小さくうなずいてくれる。

ビッグニュースだから、溜めをつくる。

 

「つまり、ベイビー。

叔母さんって呼ばれる数が増えるね」

 

「知ってたの!?」

 

最近ユリス、うちに来てなかったのに。

お姉さまが手紙出してたのかな?

 

「ヒルダ様のことで隠したいことなんてそれくらい。

城主が妊婦だと防衛が辛い。

アグストリア戦が終わったばかりに広めてはいけない」

 

「そうだけど……。

もっとびっくりしてほしかった」

 

ユリスは、色々知ってる。

あたしはずっと、国内にいたのに……。

 

「びっくらぽん」

 

変なポーズで訳わかんない事を言ってる。

いつものユリス。

なのに、こんなにもあたしと違う。

一緒に育ってきたのに……。

 

お菓子が、もう残って無い。

ねじ込んで黙らせられない。

 

側にだれも居なくなっちゃったみたい。

あたしだけが、ここに残ってる。

 

「ほら、今年の秋には巡礼祭があるでしょ。

脱走に利用したやつ。

数年に一回なんだから、今回は参加しよう」

 

「……うん。

クロード神父も巡礼*10の準備で忙しそうだった」

 

きっと、お祭りならみんなと会える。

アゼルやレックスだって、帰って来る。

同じ軍に居るんだから、先輩たちだって来てくれるかも。

それで、脱走の時みたいになるんだ。

 

「神父は当主としての初巡礼。

お祭りも大きなものになる」

 

「そういえばそうね」

 

神父様は、あたしのことを慰めてくれてる。

おばあちゃまの時も、今だって。

お話しは難しいけど、ちゃんと伝えようとしてくれる。

だから、大好き。

 

「戦後のアグストリアを通るから大仕事。

賊に襲われるかも。

エッダ家の当主を狙う命知らずはいないだろうけど」

 

そうだ、神父様が危ない。

あたしが付いて行けばいいんだ。

アゼルだって、自分で飛び出した。

あたしにだって、やればできるもん。

 

「そうね、きっと巡礼祭は楽しくなるわ‼」

 

神父はフリージ城を通る。

その時に、護衛をかってでればいい。

あたしも神父と凱旋するんだ。

ユリスにも負けないくらいになって、驚かせてやる。

 

置いていかれたりしないんだから‼

*1
元アグストリア諸公連合の首都。シグルド軍が制圧した。

*2
ブルームとヒルダの長男。

*3
ティルテュの妹。

*4
原作ではアルヴィスや風の神器継承者がなれる。

*5
原作で城を制圧するとシグルドへの伝令に来るおじいさい。

*6
原作でもこの功績で叙任される。ほとんど呼ばれることはない。

*7
原作でもそんな感じ。

エルトシャンはシャガール王に幽閉されていた。

*8
原作でも数か月程で終わったと思われる。長くて半年。

本作では夏~秋の期間の戦争としている。

*9
その指揮官であるエルトシャンが王に囚われていた。

その軍も北の守りについていたと言及されている(2章冒頭)。

*10
アグストリア北西の聖地ブラギの塔へ詣でる。




成長率が固定されているキャラの中で、地味にティルテュは幸運成長率50%と4位タイです。

1位(70%)と2位(60%)はユングヴィ組(ウル神族補正有)。
同率2位のもう一人は代替キャラになっています。

ティルテュはトード直系なので、HPと技にしか補正がありません。
つまり、自前でトップクラスのラッキーガールということです。
ティルテュと同値がフィンやクロード(ブラギ直系補正有)、アレスなので、意図を感じてしまいます。

ちなみに、アゼルとレックスは20%。最下位の直系+αに次ぐ数値です。
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