ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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原作とキャラが違うと感じる方もいらっしゃるでしょう。
記憶喪失直後なのでお許しください。


キューピッドは闇魔法より大変 ―グラン歴758年

まだ目が開ききらない時間にユーちゃんが来る。

涼しい風が窓から入る。

掛け布団を抱きしめていると、そのまま鏡台に運ばれた。

 

わたしの髪をユーちゃんの櫛が通るたび、だんだん眠気が抜けていく。

ぼーっとしていると、ユーちゃんに頭をゆすられる。

 

「朝シェイク。諸刃の剣」

 

目は覚めるけど、くらくらする。

頭を預けると軽く叩かれた。

でも、もう一回髪を整えてくれる。

 

「起きました。ゆるしてユーちゃん。

自分で着替えます。ちょっと手伝って」

 

「ドラちゃんは甘えん坊」

 

手には、動きやすそうな衣類を持っている。

普段はもっと装飾が多い。

実は少し苦手。なんだか窮屈。

でも、拾ってもらってるから言いづらい。

 

「その服は?

いつもと違うよ」

 

ユーちゃんも寝ぼけてるんだ。

一緒に二度寝したい。

ここに来たばかりの時みたいに、一緒に寝てくれないかな。

 

「今日はこっち。身体の記憶を探す」

 

何するんだろう。

 

改めて服を見る。

かなりヒラヒラしている。

どうやって着るんだろう。

 

―――――

 

ユーちゃんの力を借りて朝の支度を終わらせた。

朝ごはんを貰いに行くと思ったら、呼び止められる。

 

「今日は魔法を試そう」

 

ユーちゃんは大きな鞄を持っている。

いつの間に運んだんだろう。

ユーちゃんは小さいから、大変そう。

ベッドの上に置いて、手招きしてる。

 

鞄を挟んで、並んで座る。

中身を見せてくれる。

豪華な装丁の分厚い本が5冊並んでいる。

 

「炎・雷・風・光・闇。

どれに惹かれる?」

 

「一番きれいなのは光?だね。

でも、汚してしまいそう。

手に取りやすそうなのはこれ」

 

黒色の魔導書を両手で掴み取る。

日の光を吸い込む深い黒。

 

手に吸いついてくる。

でも、嫌な感じもする。

なんだか不思議。

 

ユーちゃんは何も言わない。

ただ、わたしの手を見ている。

 

「わたしの手に馴染むけど、

味方をしてくれないような気がする」

 

鞄の中に戻す。

あんまり長い間持っていたくない。

昔に嫌なことがあったのかも。

 

「アンビバレント。

光も持ってみて。

魔導書は食器。使い込んでも綺麗に保つことが重要」

 

金細工の付いた白い魔導書を差し出すユーちゃん。

 

朝日を反射して輝いている。

受け取ると、更に書が光った気がする。

初めて持つのに、身体の一部みたい。

 

「それはアルヴィス様がくれた。

ヤバ森探索でおねだりした」

 

当主様のだから豪華なんだ。

 

「なかなかアツイ奴。

止まったハートも動き出す」

 

ユーちゃんの眼差しはこの本に注がれている。

まるで信頼する友達みたい。

 

「たしかに暖かい感じがする。

森の明かりになってくれるんだね」

 

「もっと刺激的。

ドラちゃんと親和性があるみたい。

あげる。後で試そう」

 

「贈り物だよね。アルヴィス様からの」

 

それなのに、貰っていいのかな。

 

「……実はまだ使いこなせない。

その書も雑に扱われるより、

ちゃんと使えそうなドラちゃんの方が嬉しい」

 

ユーちゃんが表紙を軽く叩く。

わたしを撫でる時よりもぞんざい。

でも、気心が知れている。

わたし達もそうなれるかな。

 

「お名前を教えて。

この子のことを大事にしたいの」

 

持ち上げて、朝日にかざす。

反射だけではない輝きがある気がする。

 

「その魔導書は、上級光魔法オーラ*1

固有の名前はない。発想で負けた」

 

オーラ。

どこか耳馴染みがある。

 

胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。

 

「懐かしい感じがする」

 

ずっとわたしと一緒にいた、そんな気がする。

それがまたわたしの手元に戻って来てくれた。

そんな感覚がぬぐえない。

 

「記憶の手掛かりになるとは思いもしなかった。

どの魔法を使っていようが、私は差別しない。

炎を取らなかったことは根に持つけど」

 

赤い魔導書を手に取り、戦うポーズを取っている。

とても様になっている。

その本だけは、少し色あせている。

 

「炎の魔法も教えてね。

光より、もっと暖かそう」

 

「アチアチな奴。ヤケドするぜ」

 

顎に手を当てて、ユーちゃんがかっこつけてる。

身長もあいまって、子供みたい。

 

「ユーちゃんに杖使ってもらうから大丈夫だね」

 

わたしは空から落ちてきたらしい。

意識を取り戻さないから、

リカバーの杖*2をユーちゃんが使ったと教えてくれた。

わたしも誰かを癒せるようになりたい。

 

「ついでに雷も試してみて。

幼馴染のパチっ娘の十八番」

 

パチッコさん。

どんな人なんだろう。

きっと優しいんだろうな。

 

「雷は明るいし、光に似てるんだろうね。

わたしにも使えるかも」

 

「柔軟な思考は素晴らしい」

 

ユーちゃんが真面目な顔をしてる。

 

「でも、あまりそんな風に言わない方がいい。

愚弄と思われかねない。

系統ごとに誇りを強く持ちすぎてる人が多いから」

 

話を打ち切るように手を叩いた。

 

「つまり、魔導士はめんどくさい。

ついでに戦士も武器のこだわりがめんどくさい」

 

そうなんだ。

戦う人達は装備にプライドがあるんだ。

 

「……さっきはごめんなさい。

炎を光と混同してしまって」

 

炎の魔導書を振りながら答えてくれる。

 

「私は気にしない。

魔法は所詮道具。

炎がアイデンティティになっている所はあるけど、それはそれ。

むしろ、他魔法と混ぜて強くしたい」

 

「そんなことも出来るんですね」

 

目を逸らされた。

 

「……不可能。

息の合った術者が完璧に調整しないと、ただぶつかり合うだけ。

つまり、現実的では一切ない」

 

「わたしとならいつか出来るようになるよ。

ユーちゃんが教えてくれるんだから」

 

腕を組み、胸を強調するユーちゃん。

 

「良い心がけだ、我が弟子よ。

ちなみにうちでは、魔法とかを最初に教えることを火継ぎと呼ぶ。

まさか、私が火継ぎが出来るとは思ってなかった。感動」

 

深く頷きながら、感慨深そうにしている。

そんなに大事なことなんだ。

 

「ユーちゃんはそれする予定がなかったの?」

 

「うん。いつ嫁ぐか分からないから。

超絶完璧新妻になると、うちから出ていくことになる。

こういう風習は相手の家には無いと思う」

 

記憶が無くなったわたしに優しいユーちゃん。

また、失われる。

 

何も分からない内に。

 

「……いなくなっちゃうんだ」

 

ユーちゃんが立ち上がり、

わたしを正面から抱きしめてくれる。

小さくて暖かい。

包み込まれていると落ち着く。

 

「いつかはね。でも、今日じゃないよ」

 

ずっと一緒にいたいな。

 

「ヴェルトマーは婚期ノロノロ族。

それに今は時期が悪い。すぐには行かないよ」*3

 

―――――

 

いつも通り、私用の食堂に連れていかれる。

大食堂は人数が多く、驚いちゃうからと教えられてる。

 

だんだんと焼きたてのパンの香りがしてきた。

隣でユーちゃんのお腹が鳴ってる。

 

ユーちゃんが扉をあけると、先に当主様がいた。

 

「おはよう、アルヴィス様」

 

一切ぶれないカーテシー。

ユーちゃんに続く。

 

「おはようございます、アルヴィス様」

 

わたしはまだふらついてしまう。

練習として毎朝やっているけど、慣れない。

 

アルヴィス様は書類から顔を上げて、こちらを見ている。

 

「おはよう、二人とも。

席に着け」

 

―――――

 

朝食がそれぞれに配膳されていく。

白パンとチーズ、それに香草入りオムレツ。

デザートにはいちごもある。

朝日に照らされていて、新鮮そう。

 

オムレツを切りながら、ユーちゃんが注意する。

 

「アルヴィス様、またうねってる。

サボりすぎ」

 

アルヴィス様はユーちゃんと同じ赤髪。

だけどウェーブがかかってる。

 

またユーちゃんが叱ってる。

意外と身だしなみにうるさい。

 

「私が止まれば、国が止まる。

髪なぞに割く時間はない」

 

無理に固い表情をしている感じがする。

 

「王様気取り。

アグストリアのせいで忙しいのは分かる。

でも、乙女の変化に気付けないのは駄目」

 

服のことかな。

今日は動きやすいし。

 

パンにチーズを塗るナイフを、ユーちゃんから向けられる。

よく伸びるチーズだなぁ。

 

「ドラちゃん、アルヴィス様のことどう思う?」

 

アルヴィス様。

 

ユーちゃんと仲よさそう。

こんなわたしを置いてくれている。

見た目は少し怖いけど、悪い人では無いと思う。

 

「ユリス。

突然何を言い出す。

記憶を失った者にその様なことを聞くべきでない」

 

二人ともわたしを気遣ってくれているんだ。

なら、わたしもお返ししないと。

 

一旦、食器を置いてアルヴィス様の瞳をのぞき込む。

揺れる炎みたい。

なんだかわたしに遠慮がある気がする。

 

それなら、こっちから踏み込む。

わたしに出来るのはそれだけだから。

 

「寂しそうです」

 

アルヴィス様の食器も止まる。

 

普段は弟さんと食べてたってユーちゃんが言ってた。

今はわたしたちしか一緒に食べる人がいない。

 

「その様な事はない」

 

目を逸らされた。

 

「ごめんなさい。

でも、どこかそんな気がしました。

わたしは何もできないけど、側にいるくらいはできます。

話さなくても、となりに誰かいるだけで楽になりますよ」

 

何も分からなかった時、ユーちゃんが側にいてくれた。

記憶は戻らなかったけど、安心できた。

 

「必要ない……私は世界の責任を負う者だ」

 

腕を組んでわたしたちを見守るユーちゃん。

頷きながら、口はもぐもぐしてる。

 

偉い人でも、寂しくなるよね。

 

「なら、お話ししましょう。

わたしも記憶を思い出せるかもしれません。

きっと、楽しいですよ」

 

「……」

 

食器の音すら聞こえない。

 

困らせちゃったかな。

 

「ドラちゃんはまだマナーが不十分。

その試験として、当主様とのお茶会を命じる。

後で教えるから、お茶を振舞ってみせて。

私は闇系のお仕事があるから、二人でね」

 

ユーちゃんはいちごを食べ始めている。

 

「……その呼び方はなんだ。

名前は正しく呼ぶべきだ」

 

あだ名、気に入ってるんだけどなぁ。

今のわたしが手に入れたものだし。

 

「私のエゴと実益を兼ねてる。

ドラちゃんが当主から追い出されても、

私が責任を取ると態度で示している。

誰よりも男前な女、ユリス」

 

そうだったんだ。

ユーちゃんと離れなくていいかもしれないんだ。

どこに嫁ぐんだろう。ご飯が美味しいといいな。

 

「放り出す真似はしない。

保護する以上、当たり前だ」

 

「それだけだと周りは扱いに困る。

アルヴィス様は私にもっと感謝すべき」

 

「まともな方法を取れ。

貴様の私欲も含まれているのだろう」

 

「うん。リーネ様の真似。

シギュン様とあだ名で呼び合ったって言ってた。

……実はそういうのに憧れてた。

他に明るい話題もなかったから」

 

遠い目をしている。

ユーちゃんらしくない。

 

いちごのへたをお皿に投げている。

 

「……相手の許可を取ってからだ」

 

「わたしは嬉しいです。

なんだか、二人だけの約束みたいで気に入ってます。

アルヴィス様もどうですか?

アル様とか、ヴィー様とか」

 

アルヴィス様の手は止まったままだ。

 

ユーちゃんが膝からナプキンを取り、机の上に置く。

 

「気を使える女、ユリス。

無理強いなんてしたことない。

それより、ごはんを食べよう」

 

ユーちゃんのお皿は綺麗になっていた。

わたしとアルヴィス様はまだ残ってる。

 

「先に準備しておく。

ドラちゃんは食べ終わったら部屋に戻って来て。

急がなくていい」

 

立ち上がって、部屋から出ていくユーちゃん。

わたしにウインクしてきた。

 

アルヴィス様をわたしに任せてくれたんだね。

仲がいいからこそ、話しづらいこともあるよね。

 

「どっちがいいですか?

もっと打ち解けられますよ」

 

「……アルヴィスで頼む。

茶会を楽しみにしておく。それで許してくれ」

 

あだ名は好きじゃないみたい。

でも、お話しはしてくれそう。

 

「なら、好みを教えてください。

それに合わせてユーちゃんと用意します。

他にも、アルヴィス様のことも聞きたいです」

 

一緒に様々な話をした。

 

弟のアゼル様が好きな物。

よく読んでいた小説を教えてくれた。

あとで書斎で探してみよう。

 

姉のヒルダ様のすごい所。

魔法が得意で、ヴェルトマーを支えてたそう。

よく分からなかったけど、アルヴィス様が尊敬してるのは分かった。

 

のんびりしすぎて、ユーちゃんに連れて行かれちゃった。

もう少し話していたかった。

 

その話をしている間は、ずっと優しい顔をしていた。

終わりの時も朝ごはんが残ってた。

 

きっとこの人もわたしと変わらない。

それでも、我慢してるんだと思う。

*1
威力20、射程1~2、重さ20、光A。

原作では専門職か、ヘイムの血を持つセイジしか使えない。

*2
杖B。味方一人のHPを全回復。セイジなら使える。

*3
現時点でヴェルトマーの聖痕持ちはまだ誰も公式に結婚していない。ついでにアイーダも。

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