ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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流れが掴みづらいと思うので後書きで軽く整理します。

ユリスの物語はあと5話で終わります。


紋章に誓える? ―グラン歴758年

クロード神父を迎えると、話があるとのことだった。

 

城の小汚い大部屋にうちの主要メンバーだけが集められる。

海賊の根城に会議室なんて高尚なものはない。

机も地図すらないただ広いだけの部屋だ。

 

酒瓶や武器がそこら中に転がっている。

壁には略奪品と思われる品が飾られている。

日の光も入らず、照明だけが薄暗く部屋を照らす。

なんだか、先輩たちのアジトを思い出す。

 

シグルド様が代表して口を開く。

 

「クロード様、皆に状況を説明していただきたい」

 

神父の巡礼以外に目的があったのか。

神聖な世界には、戦時下も関係ないものと思っていた。

つまり、それだけ重要な要件。

 

「私がこのような時期に巡礼した理由をお答えします。

まずは、グランベル王国の状況からご説明します。

ティルテュ、貴女は退室しても良いのですよ」

 

正直、助かる。

アグストリアにずっと居たからな。

国内の現状なんざほとんど知らねえ。

イザーク戦もどうなってんのか気になる。

親父達のことだから、生きてはいるだろうが。

 

「あたし、むずかしいことは分かんない。

でも、聞いておいてユリスにも教えてあげたい」

 

ユリスが情報を掴めていない。

相当忙殺されてるな。

王国内で何かあったのは間違いない。

 

「……楽しく無い話です。覚悟しておきなさい」

 

ティルテュはピンと来ていなさそうだ。

 

神父の口ぶりからして政治か。

この軍にはティルテュと俺たち反王子派の家、

シグルド様とユングヴィ姉妹の王子派の家の子息がいる。

加えて、中立のヴェルトマーまで揃ってる。

 

ここでは争いなんてないが、王都で当主たちがやりあってるんだろう。

そりゃあ、気まずいよな。

 

神父には伝えられないが、イザークの王女までいる。

政治的には聞かせるべきじゃないが、仲間に隠し事をしたくない。

 

シグルド様が目で神父を促す。

 

「では、お話ししましょう。

イザーク遠征からの帰り道、クルト王子が暗殺されました」

 

神父の落ち着いた声が響き渡る。

 

誰も声を発せない。

 

王子が殺された。

神器の長を持っている奴がやられる。

 

人間程度じゃない。

暗黒神を下すための魔導書が負ける。

想像できない。

 

俺たちのイチイバルやゲイボルグより強いんだぞ。

親父のスワンチカでもだ。

 

それに王子には跡継ぎも居ない。

年老いたアズムール王しか聖ヘイムの血は残っていない。

つまり、イザークの策略だな。

 

「え~!?

嘘でしょ!?」

 

ティルテュの声が場に響く。

 

誰だって信じられない。

こいつも知らないあたり、国内でも秘密にされているのか。

 

「宮廷では常に王子の側にいたバイロン卿*1とリング卿*2が疑われています。

反王子派が多数を占めている以上、その様な風向きになってしまいました。

神託により真実を確かめ、陛下へ伝えるべくブラギの塔に参りました*3

 

王子暗殺には、並みの戦士じゃ足りない。

絶対に直系が複数必要だ。

それなら、親父とレプトール卿でも足りるはず。

 

だが、元から敵対的な立場にある以上、そう簡単には近づけないだろう。

出来たとしても、気を抜くはずが無い。

そんなところか。

 

シグルド様が問いただす。

大将には動揺が無い。事前に知らされていたな。

 

「ティルテュ、君はレプトール卿の娘だ。

なぜ来たんだ」

 

旗色を明らかにする必要がある。

さもなくば、吊し上げになる。

 

大将とはいえ、嫌な役回りを押し付けちまった。

同じような立場の俺が率先すべきだった。

 

「あたし、そこまで考えてなかった……。

神父様が無事に帰ってこれるようにって……。

でも、お父さまはきっと間違ったことはしてないはず。

神父様、真実を教えて」

 

身体の前で祈るように手を握っている。

 

やっぱり、こいつは知らなかった。

父親に対する信頼は大したもんだ。

 

多分、親父達がやったんだろうな。

……馬鹿だぜ。

 

「イザーク戦争が激化した原因、

マナナン王*4の殺害もレプトール卿が仕組みました。

イザーク征服の口実のためです」

 

ティルテュの顔が青ざめる。

……初めて見る顔だ。

そんなの、一生目にしたくなかった。

 

アイラが柄に手をかけた。

殺気が部屋に満ち始める。

 

親兄弟と祖国の仇、そして幼いシャナンに流浪を強いた奴。

その娘が目の前にいる。

気持ちは分かる。

 

だが、させない。

俺も斧に手をかける。

勝てるなんざ思わないが、壁にはなってやる。

 

神父が続ける。

 

「王子暗殺を企み、その罪をバイロン卿とリング卿に擦りつけました。

実行犯にはランゴバルト卿もいます」

 

……やっぱり親父もか。

何がしてえんだよ。

 

「……ほんと……なんだよね……」

 

「お姉さま……さみしがってた……。

産まれたばかりのイシュタルも見せられてない……。

帰ってきたら……紅茶飲むって言ってたのに……。

お父さま……どうして……」

 

床にへたり込み、俯いている。

祈りを捧げているようにも見える。

声を殺そうとしているが、漏れている。

 

アイラも柄から手を離した。

今の状態じゃあ、こいつは逃げられない。

諦めてくれて助かった。

 

「レプトール卿の野望は明確な罪です。

ですが、ブラギ神にも見通せない邪悪な意思が背後にうごめいています」

 

斧を握りしめる。

 

そんなこと言われても慰めにならねえよ。

こいつがどれだけあんたと、父親を信じているか知ってんだろ。

こいつは、あんたのこと本当に気に入ってんだ。

そこまでにしてくれよ。

 

「……ッ‼

まさか、……暗黒教団が‼」

 

あいつらも関わってんのか。

 

だが、親父のやったことは許されない。

親父と兄貴の首で済めばいいが。

 

……俺も年貢の納め時だな。

あのアンドレイだって、当主をやってんだ。

労苦を下に押し付ける奴を、いい男とは呼べない。

ブリアン*5たちが立派になるまでは助けてやるか。

 

「そうです。

バイロン卿の命脈はまだ絶えていません。

決して軽挙妄動に走ってはなりません」

 

神父を無事に王都へ送り届ける。

それが俺の最後の仕事になるかもな。

 

「……お父さまを止めなきゃ。

あたしはトードの末裔……。誤りを正す稲妻。

あたしは……詳しいんだ……。

なんで……お父さまが……教えてくれたのに……」

 

震える手が魔導書を取り落とす。

 

こいつには、やらせない。

 

最悪の時は俺が、親父諸共討つ。

神器があろうが関係ない。

先輩たちやユリスの力を借りて、殺る。

 

―――――

 

ティルテュのすすり泣きだけが響く。

アゼルが抱きしめて落ち着かせようとしてる。

 

足音が外から聞こえてきた。

扉を叩くことなく、許可を出す前に飛び込んできた。

 

「錦旗を掲げたグランベル軍が、我らに投降を呼びかけています‼」

 

……は?

 

斧を取り落とす。

石床から鈍い音がする。

 

ティルテュの泣き声しか聞こえない。

 

「フリージ家、ドズル家の当主旗も見えます。

反逆者シグルド一味を捕らえると申しております。

歯向かうなら、容赦はしないとのことです」

 

親父は敵対派閥の次世代も潰すつもりか。

だが、ここには中立のヴェルトマーとエッダもいる。

 

……邪魔者全てを葬る。

本気で、簒奪するつもりか。

 

「そんな……王は神父を待てなかったのか……」

 

シグルド様は壁に背中を預け、ずり落ちていく。

 

「何のためにエルトシャンまで死なせて戦ったんだ‼」

 

拳を叩きつける。

壁が砕け、破片が飛び散る。

バルドの血に、石壁が耐えられなかった。

 

そのまま蹲ってしまった。

 

シグルド様はまだ立ち直れそうにない。

 

俺が反逆人の息子として、立ち向かわなければ。

 

拾い上げた斧の柄尻で床を叩き、天高く掲げる。

 

「聞いてくれ、みんな‼

俺は、シグルド様に斧を捧げる‼

柄じゃないが、俺も聖戦士の末裔。悪事に手を貸すつもりはねぇ。

親父を討つ。

オイフェ、作戦をくれ」

 

「えっ⁉ですが……」

 

「ガタガタいってる場合か。

継承者相手だ、時間がねえ。

お前は作戦を考えとけ」

 

アゼルがティルテュから離れ、立ち上がる。

 

「戦うつもりがある人は、ここに残って戦いの準備。

そうじゃない人は、ブラギの塔に行って。

クロード様、引率お願いします。

あなたが聖地に居れば蔑ろにされないはずです。

最悪の場合でも、それなりの兵力があれば下手なことはされません」

 

アゼルも分かってくれたか。

 

「レンスター組とシレジア組、それとラケシスは絶対そっちに向かって。

シャナンにアイラさん……ごめん、戦いが始まったらどさくさに紛れて逃げて」

 

政治方面が抜けてた。

俺も頭に血がのぼってるな。

 

「おい、ここまで来てそれはないだろ。

俺は王宮よりこっちが気に入ってるんだ」

 

レヴィンが食ってかかる。

 

アゼルは顔を逸らさない。

 

「ごめん。

君が戦うとシレジアまで巻き込む。

民を巻き込むのは、君も嫌だろう」

 

「それはそうだ。

俺が死ねば王位継承争いは終わる。

どうなろうが叔父上は、グランベルと戦わないさ」*6

 

レヴィンの意思は固そうだ。

直系が一人でも多く欲しい場面だ。

正直助かる。

 

「私も共に戦います。

兄上と同じく、正道を歩み斃れるのなら後悔は有りません。

それがノディオンの生き方です」

 

ラケシスもか。

地元住民の協力も得やすくなるな。

 

「あたしも……戦う。

お父さまの目を覚まさせてやるんだから‼」

 

膝は笑ってる。

だが、トローンをこちらに突き出している。

 

……嫌な決意をさせちまったな。

 

―――――

 

兵士全体に伝えたが、誰一人塔へ向かう奴は出なかった。

背中を撃つわけがないって、分かってるだろうに。

全く、頼りになる奴らだぜ。

 

勝てるなんざ思わないが、

逃げ出せる位の隙は作ってやらないとな。

 

もう一度、集合し軍議を開く。

継承者二人は勿論、騎士団も恐ろしい。

 

重装魔法兵を主体とするゲルプリッター。

ティルテュの家の騎士団。

機動力を駆使して対抗するしかない。

 

重装斧騎兵のグラオリッター。

うちの騎士団だからこそ、その恐ろしさが骨身にしみている。

固い、強い、早い。

魔法に弱い位しか弱点が思いつかねえ。

 

暗い雰囲気の中、扉が叩かれる。

まさか、ロートリッターのおかわりは無いよな。

 

今度は見慣れない奴が入ってきた。

 

緑髪で白い軽装鎧。

うちのフィリーと似ている。天馬騎士か。

明らかにシレジアの女だ。

 

レヴィンを連れ帰りに来たか。

それにしても、タイミングが良すぎる。

 

「私はシレジア天馬騎士団団長のマーニャ。

シレジア王女ラーナ様の命令で、シグルド様達をお迎えに参りました」

 

「……祖国に裏切られた私を救ってくれるというのか」

 

壁にもたれたままのシグルド様が顔を上げる。

 

お人よしの大将が、疑っている。

 

……親父のせいか。

本当に取り返しのつかないことをやりやがった。

 

「今はシレジアに退避し、名誉が回復されるまで機をお待ち下さい。

我ら天馬騎士団が護送します。

追討軍に神器が二つあろうが、無事送り届けて見せます」

 

この部屋で、初めて光明が見えた気がする。

 

*1
シグルドとエスリンの父。

*2
ブリギッド・エーディン姉妹、アンドレイの父。

*3
ブラギの塔にエッダ直系が行くと、真実や未来が見える(原作)。

*4
イザーク有力氏族の王。アイラの父。

*5
レックスの甥。直系。

*6
シレジアは先王の弟(=叔父上)とレヴィンのどちらが王位を継ぐか揉めている。

その争いを疎み、レヴィンは国から出奔した。




この流れは原作と同じです。

・イザーク遠征の帰路、クルト王子暗殺(レプトール&ランゴバルド)
・バイロン卿とリング卿が行ったとされている(冤罪)
・シグルドは父と共謀しているとされ、自国の軍に追われる立場になった
・シレジアへペガサスで空を飛び脱出。
・何かが暗躍している可能性あり

登場人物は全てを把握できているわけではありません。
それぞれの持つ情報で判断しています。
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