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ディアドラ
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微笑みを作り、教えられた台詞を諳んじる。
大理石の床が冷たく、玉座の間の天井へ声が吸い込まれていく。
「王城へようこそお越しくださいました。
本日のご訪問を、心より歓迎いたします」
これまで何回も言った。
返事も同じようなものばかり。
それへの返答も慣れきって、飽きちゃった。
相手はいつも感動するか、恐ろしいものを見たような顔をする。
横のユーちゃんは冷たい顔で何かを書き留めている。
何がわかるんだろう。
ここには、ナーガの温かさしかない。
―――――
御前の謁見が終わり、次は訓練。
服を着替えて、地下訓練場に行く。
反乱軍が攻めてきているし、
暗黒神との戦いで必要だから鍛えさせられている。
アルヴィス様が居るのに、必要なのかな?
この時間はユーちゃんと身体を動かせるから好き。
宮廷司祭がいるから、あだ名では呼べないけど。
少し遅れてユーちゃんも到着。
わたしたちは動きやすい格好。
ヴェルトマーの時のものより手触りがいい。
どっちにしても、さっきよりは気分がいい。
「本日は出来るだけ私に直撃させてください。
命中しなければ、相手は倒せません。
予定が詰まっていますので、5回だけに限定します」
早速始めるみたい。
もう少し、のんびりしたいのに。
ナーガを構える。
人の動きが遅くなる。
わたしだけの世界。
魔力収束もすぐに終わる。
範囲を狭めて、威力も軽めにする。
全力でやった時は、王都中が大騒ぎになっちゃったからね。
ユーちゃんも1発しか受けてないのに、満身創痍になっちゃった。
「ナーガ」
白い光が一瞬で訓練場を塗りつぶす。
光の奔流が竜となり、ユーちゃんを襲う。
魔法が消えるまでは、明るすぎてどこにいるか分からなくなっちゃう。
地下はかなり広いのに、不便。
外ならそんなことなかったのに。
「当たっていません。直線では容易に回避できます」
司祭に手を振っている。
ユーちゃんの服に傷はない。
あれで外れたんだ。
「行使後は対象が見えません。
そのような状況でどう直撃させるというのですか」
前みたいな話し方がいいなぁ。
なんか冷たい感じがする。
「あと4発です」
教えてくれないんだ。
ケチ。
―――――
2発連続で唱えてようやく当てられた。
片方を囮にして、間髪入れずに放ったら命中。
前は普通に避けられていたのに。
ユーちゃん、ボロボロになってる。
横たわって荒い呼吸。
肉の焦げた臭いもする。
……毎日こんな風にするのは嫌だな。
ヴェルトマーの時前みたいにオーラやライトニングでやりたい。
それならユーちゃんもほとんど怪我しない。
その傷を司祭から借りたリカバーの杖で直す。
出血が治まり、傷口が塞がる。
傷跡も元の肌に戻っていく。
スキンケアだって、ユーちゃんに教わった。
毎日面倒だけど、頑張っている肌が汚れなくてよかった。
こんなことのために、杖の使い方を覚えたくなかった。
ユーちゃんの息が整った頃、おもむろに立ち上がった。
「殿下、あと1発です。
今のは効果的でした。
ですが、一撃で命中させられるようになりましょう」
……治せるけど、傷つけたくない。
―――――
訓練の後は、お昼ご飯。
この時もテーブルマナーの練習。
ヴェルトマーの時よりも厳しい。
ご飯は前よりも豪華になったけど、常に量がすくなめ。
銀皿の数が増えた分、小鳥の餌みたいになっちゃった。
毎日しっかりコルセットをしなきゃいけないせいだ。
ユーちゃんが滅べと言っていた気持ちが、心の底から分かった。
正面でユーちゃんも食べるけど、遠くなった。
今日のユーちゃんは、アグストリアの貴族設定。
会話も毎回パターンに沿ったものばかり。
わたしらしさを出しすぎると、怒られちゃう。
ユーちゃんは、なんかいつもよりゆっくり食べてる。
普通のユーちゃんと話したいな。
―――――
鏡台の前に座るアルヴィス様の後ろで、髪をとかす。
寝室でアルヴィス様に相談してみる。
「ユーちゃんが疲れているみたいです。
それに、わたしもお休みしたいです」
鏡に映る渋い顔のアルヴィス様。
前より感情を露わにしてくれるようになった。
こんな表情でも嬉しい。
「ディアドラ、慣れないことを強いて苦労をかけるな。
会談のためすぐとはいかないが、休みを作る。
ユリスのことは気にするな。この程度、慣れている」
わたしは気にかけてくれるのに、ユーちゃんにはないんだ。
「せめて魔法の訓練は休ませてあげてください。
毎日ナーガを受けるのは大変です。
今日も連続で2発耐えてました。
ユーちゃんを傷つけるのは、心に来ます」
眉間の皺が深くなっちゃった。
櫛を通しながら、頭を撫でる。
「……必要なことだ。
他に耐えられる者も少ない。私か陛下くらいだ。
知っての通り、陛下は御病気だ」
おじいさまは床から出ることが少なくなってしまった。
最初の頃は毎日ナーガの使い方を教えてくれたのに。
反乱軍が近づくにつれて元気がなくなっていった。
信頼していた人に裏切られたからみたい。
わたしも忙しくて、たまに顔を出すことしかできない。
前みたいにお父様の話も聞きたいのに。
「少しでいいから、ユーちゃんと一緒に居たいです」
「普段から共にいるだろう。
本来なら使者として各地へ派遣している」
「違います。
筆頭近侍のユリスじゃなくて、ユーちゃんです」
鏡越しに瞳をのぞき込む。
「最近、アルヴィス様はユーちゃんを見ましたか?」
赤い瞳が松明みたい。
揺れているけど、アルヴィス様も目線だけは逸らさない。
「あいつも私と同じだ。
必要であれば、いくらでも耐えられる」
「ユーちゃんは何も選んでません。わたしと同じです。
気が付いたらここにいるだけです」
「ディアドラ……お前は、私を受け入れてくれた」
アルヴィス様が、目を閉じてしまった。
櫛が髪を通る音だけが響く。
細かい歯のものと入れ替える。
悲しい思いをさせたい訳じゃないのに。
でも、ここで止まったら、いつかユーちゃんが壊れちゃう。
「それとこれとは別です。
おじいさまに出会ったら、ナーガを押し付けられただけです。
ユーちゃんも突然そんな役職になっちゃっただけ。継承者の責任も無いのに」
わたしたちに付き合って王城に来たユーちゃん。
ヴェルトマーの時からお姉さんと滅多に会えないって言ってた。
ここでユーちゃんのことを考えるのは、わたしだけ。
「あいつに言葉は不要だ」
目蓋を開いて、わたしへ視線を返してくる。
心の底からそう思っているみたい。
「ユーちゃんは、アルヴィス様のこと面倒くさいお兄さんって言ってました。
妹に甘えすぎです。
アルヴィス様はユーちゃんに、何を返してあげましたか?」
俯いてしまった。
「……私達には必要ない」
最後に椿油を馴染ませる。
アルヴィス様も大切に思っているのに。
わたしのことは心配してくれるのに。
何もしようとしてくれない。
「必要です。ユーちゃんもわたしと同じ。
ユーちゃんの側に誰かいますか?」
「……」
道具をしまう。
「今日だけはわたしが横に行きます。
何も分からなかった時、わたしの側で寝てくれたのはユーちゃんです。
王女特権も使っちゃいます」
部屋を飛び出す。
……アルヴィス様は来てくれないんだ。
―――――
部屋の中には、書類に向かうユーちゃんがいた。
いくつもの書類が積まれている。
こんな時間にやらなくてもいいのに。
「殿下、何かございましたか?」
まだ筆頭近侍のつもりだ。
目の下に影が出来ている。
お化粧でごまかしていたんだ。
「今はユーちゃん。
アルヴィス様も命令で黙らせたよ」
後ろからユーちゃんを持ち上げる。
小さいからわたしでも運べる。
ベッドに放り投げる。
―――――
寝台の上のユーちゃんへ、逃がさないよう覆いかぶさる。
わたしの方が背が高いから、簡単に抑えられる。
「ユーちゃんは何が辛いの?」
手首を抑える。
護身術として、教えてくれた。
「唐突。
誰にでも運ばれる身長が辛い」
「そうじゃないってわかるでしょ。
最近いつも辛そう」
「神器のサンドバッグ、ユリス。
ほぼ毎日ナーガは辛い。
練習と分かっているけど、毎回命の危機を感じる」
ユーちゃんの肌が目に入る。
傷跡は一切ない。
それでも、残光が残っている気がする。
あの魔法に耐えてるんだもんね。
怖いし、痛いよね。
わたしも訓練の後にお肉を食べたくない。
「……ごめんね。
って、それじゃないでしょ。
それっぽいこと言ってごまかすんだから」
ユーちゃんの手首に力を入れる。
煙に巻かれるところだった。
惑わされなくなったのは、王城での成長。
「ばれているなら、仕方がない。
でナーガ漬けがきついのも事実」
「ユーちゃん、話してよ。
聞くだけしか出来ないけど、きっと楽になるよ」
顔を背けられる。
「……ドラちゃんに言えるようなことじゃない」
片手で顔をこちらに向ける。
「それを決めるのはわたし。聞かなきゃ分からないよ」
目だけ逸らされる。
身体を乗せて、顔を近づける。
暫くもがいていたけど、動きが止まった。
「……私は、ドラちゃんに謝りたかった。
私が上手くやっていれば、ドラちゃんが王様に会わなくても済んだかもしれない。
聖痕だって、知人や書物を探れば先に分かった可能性もある。
普段の職務にかまけて最善を尽くさなかった。
そのせいで、ドラちゃんが辛い目に合ってる」
「許します。
アルヴィス様と結婚すれば、いつか分かったことだよ」
「それだけじゃあ、ないでしょう?
ユーちゃんのことならなんでも分かるんだから」
「これはドラちゃんと関係ない」
「それでもわたしは聞きたい。
ユーちゃんのことだから」
ようやく、私を見てくれた。
ザクロみたいに綺麗な目。
手首を解放する。
「愛憎渦巻く現代社会。
聞いたら気分が落ち込むこと、間違いなし」
きっと、楽しくないことなんだろう。
「それでも聞かせて。
沈んでも、二人で一緒に寝れば大丈夫」
腕を回して抱きしめる。
さっきまで、体重をかけ過ぎないようにしていたから疲れちゃった。
しばらくすると、ユーちゃんが背中を叩いてきた。
横に転がり、わたしも仰向けになる。
「……今日だけね。
その、言いづらいけど、
夜はアルヴィス様と居ないと色々、……ね」
何が言いたいんだろう?
「ごまかされないよ、早く話す」
片手を掴む。
今度は、指を絡ませる。
「寝る準備ぐらいはさせて」
ユーちゃんに腕が振られる。
「アルヴィス様の髪はとかしたよ」
「ドラちゃんはまだでしょ。見ればわかる」
「わたしがユーちゃんのをやる。
わたしのはまかせた」
久しぶりに、やってもらえる。
―――――
入口を閉め、二人してお互いの髪をとかす。
この部屋には最低限のものしかない。
鏡台も椅子も一つ。
鏡の前は、書類の山で使えない。
ベッドの上で一緒に櫛を動かす。
月明かりの下、髪が擦れる音しか聞こえない。
春先の夜は少し寒い。
だからこそ、お互いの体温が気持ちいい。
―――――
二人で向き合ってベッドに入る。
ユーちゃんのことを見たいから、カーテンは開けたまま。
月光でも赤い髪は綺麗。
でも、ランプにシェーダーがかかっているみたい。
風が吹けば消えちゃいそう。
ユーちゃんの手を握りしめる。
「分かった、話す。
聞くのが嫌になったら言って。
それか、とっとと寝て」
「待ってました」
手に力を込める。
ユーちゃんは一度目を閉じ、深呼吸をする。
わたしの目は見てくれない。
「今、反乱軍が王都に向かっているのは知っている?」
「聞いたことあるような」
シレジアに隠れていたのに、突然出てきた。
それで、ドズル家当主を倒したらしい。
今はフリージ当主が討伐に行っているらしい。
出征式が長かったから覚えてる。
「私と一緒に育ったアゼルがそこに行ったまま。
多分、生きてはいると思う」
「……アルヴィス様の弟さん?」
ヴェルトマーでとても大事に想われている人。
読書が好きで、わたしも蔵書を楽しませてもらった。
「そう。3歳から一緒に育った。
この前ドラちゃんが会ったヒルダ様に教わっていた」
……どれがヒルダ様だろう。
人と会いすぎて分からない。
「アゼル様が心配なんだね」
「それもある」
なんだか、言いづらそう。
片手で頬を撫でる。
「……きっとみんなに置いて行かれるのが苦しいんだと思う。
昔から切り捨てられる覚悟はしていたつもりだった。
実際に置いてきぼりにされると、私の想いは弱いと突きつけられた」
そんなことを考えていたんだ。
わたしはユーちゃんに置いて行かれたくない。
「反乱軍は2年前に出たんだよね」
「その頃までに、私の親友たちはそこに全員行ってしまった。
それだけじゃない」
「学友の一人が、最近反乱軍にやられてしまった。
その親友たちと一緒に学園で学んだ仲。
偉そうに愛人になれとか言われたけど、私はその人のこと嫌いじゃなかった。
親友たちもそう思っていたはず」
恋人、ではなさそう。
威張り散らす人だったのかな。
でも、なんだか複雑な関係だったのかも。
「……お名前を教えて」
それでも、ユーちゃんにとって大切な人。
わたしも覚えておきたい。
「駄目、ドラちゃんには背負えない。
何を言われようが変えない」
目を合わせて、断られてしまった。
「わたしは王女だよ。覚えておくべきだと思う」
「ドラちゃんは王女の幼虫。
未熟者に詰め込むのを教育とは呼ばない。
そんなことをしたら、血尿を出し続ける羽目になる」
「……分かったよ。わたしが立派になったら教えて」
アルヴィス様みたいにはいかない。
王女特権なんて、使いたくない。
「それでよろしい」
また、どこかを見始めた。
「他にも、多くの人が私に想いを置いて逝く」
「素直になれない不器用熊は、息子への伝言を託してきた。
自分で伝えないと意味がない。
生きている間じゃなきゃ、何も返せない」
「親バカ片眼鏡は、娘についての手紙をいくつも寄越してきた。
自分が死ぬまで開けるな、なんて言い残して出征した。
私じゃなくて、力だけの息子にやらせるべき」
誰のことかは分からない。
教えてもくれないんだろう。
誰も、ユーちゃんのことなんて考えないんだ。
「私は……何もできない。
伝言を届けられることも約束できない。使者失格」
赤い瞳が揺れている。
「ユーちゃんだから託されたんだよ。役職にじゃない」
「他にもある。
7歳からの親友を反乱軍に行かせてしまった」
ユーちゃんは涙を流している。
月明かりで雫の通り道が輝いている。
わたしは何も言えない。
分からないのに、口を挟めない。
ただ小さな手を握りしめる。
それなのに話し続けるんだね。
「最後に会った時、私のことばかり出してしまった。
自分なりに頑張っていたのに、否定してばかり。
用意してくれたお菓子と紅茶も、考えることもしなかった。
一生懸命やったことに気づかれず、否定され続ける。
あの娘を深く傷つけた。
だから、アゼルと同じになった……」
多分、パチッコさん。
とても大切にしているお友達。
うるさいけど、いつも素直な子って言ってた。
ヴェルトマーに居たら、楽しそうだと思ってた。
「ユーちゃんは人間でしょ。間違うことだってあるよ」
「宣言した目標には、光の上級魔法が足りない。
使いもしない闇だけは出来るのに」
「家のことも、教育も完璧に出来ない。
婚姻で他との架け橋になることは、目途すら立ってない。
望まれた役目すら果たせてない……。
私は、ヒルダ様みたいになれない……」
「ユーちゃんはユリスだよ。ヒルダさんじゃない。
わたしもまだ幼虫なんでしょ」
「私は……椿瓶に背いた」
指先が震えている。
わたしの熱を送り込もうと、握りこむ。
「忙しさを言い訳に状況把握すらしていない。
アゼルたちが今どうなっているのか分からない。
ファラ失格」
椿瓶のことは何回も聞いた。素敵な贈り物。
ヒルダさんから貰った、ユーちゃんの宝物。
わたしもいつかユーちゃんから何か貰うつもりだった。
「でも、火は消えていないんでしょう。
だから泣いている」
ユーちゃんを思いっきり抱きしめる。
なんだか久しぶり。
今までは抱きしめられる側だったけど、こっちもいいね。
「ヴェルトマーっぽかった?」
いつもみたいに話しかける。
ユーちゃんは腕のなかで、スペースを作ろうとしている。
力を強めたけど、押し退けられちゃった。
「ポエミー不足。
それに泣いてない」
「ふふ、そういうことにしておいてあげる」
ユーちゃんも素直じゃなくなった。
この城は、人を冷たくする。
目をこするユーちゃん。
「……もしかして、泣いてた?」
「ごまかしじゃなかったんだ」
そんなことあるんだ。
「……これは久しぶり。
限界が近かったみたい。
ありがとう」
私を強く抱きしめてくれる。
やっぱり、こっちの方が好き。