ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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連打は有効 ―グラン歴777年

皇宮の奥は静かなまま。

重苦しい声が響く。

 

「皇子、ようやく準備が出来ました。

神たる貴方様しか出来ない、御業をお見せください」

 

一体どんなことをさせられるんだろう。

また子供同士の殺し合いでも見せられるのかな。

 

「つまらないことではないだろうな」

 

「死者蘇生です。その下準備に時間がかかっていました」

 

僕にはそんなことが出来るんだ‼

 

そんなことも出来るなら、きっといつか母さまとユリアを見つけることだってできる。

 

やっぱり、ロプトウス*1はすごい。

 

持っているだけで、嫌な気持ちもどうでもよくなる。

身体も勝手に動くし、黒竜の守りで怪我もほとんど負わない。

それだけでもすごいのに、命を自由に出来るんだ‼

 

「貴方様の成長と世を満たす闇が増したおかげです。

イザークで挙兵した解放軍どもはこのことにすら気付いておらぬでしょう。

目障りでしょうが、皇子の忍耐力の賜物です」

 

解放軍も僕たちに貢献してくれているんだ。

イシュタルとの時間を奪ってくるだけだと思ってた。

 

「それでは、地下まで御足労を願います」

 

神書を取り出す。

指先がじんと痺れ、身体の芯に熱が灯る。

足取り軽く、マンフロイの後に続く。

 

―――――

 

月明かりの差し込む廊下を抜ける。

地下階段の手前でマンフロイがランタンをつける。

 

しばらく下っていくと、広い空間にたどり着く。

ここは変な臭いと嫌な涼しさがある。

マンフロイが燭台に火をともしていく。

 

ここは、訓練所だった場所だ。

父上にユリアと一緒に炎魔法を教わった。

母さまは不安そうにリカバーの杖を持っていたっけ。

その後は僕達だけの庭園でピクニックをした。

 

地下には十二の棺が立ち並んでいる。

それに、大きな作業台や工具が並んでいる。鋸や槌まである。

 

左から7番目の前でマンフロイが足を止める。

蓋には炎のマークが施されている。

 

「この中に貴方様の下僕となる者が眠っております。

暗黒の力を注ぐことで、目覚めるのです。

さあ、神書を携え、生命の理を蹂躙してお見せ下さい」

 

正面に立ち、石棺に触れる。

 

黒い魔導書を左手に構える。

さっきよりも感覚が遠くなり、闘志が湧いてくる。戦闘には最適だ。

 

自然と周りに瘴気が立ち込める。

魔力を高めるにつれ、明かりが見えなくなってくる。

右手に全てを集め、棺の蓋に触れる。

 

闇を注ぎ込まれた棺がはじけ飛ぶ。

破片は黒龍の守りに阻まれ、私には届かない。

 

中には、赤い髪の小さな女が居た。

 

「その者は、そう、十二魔将が一人、ズィーベン。

生前は忌々しい存在でした。今や貴方様のしもべ。

貴方様の意思こそ、これの意思。どの様な命令にも従順に従います。

普段は的当てにでもお使いください」

 

目が開かれる。

真っ赤な瞳だ。光が灯る。

ゆっくりと周りを見回している。

手を開閉し、動きを確認しているようだ。

 

こんな小娘。拍子抜けだ。

悲鳴を上げさせて楽しめということか。

甚振るには矮小な存在の方が向いている。

 

「アルヴィスの配下でした。

奴に見せれば、さぞ面白い顔をすることでしょう」

 

愚かな父上。

私を遠ざけるから、マンフロイに仕返しされるんだ。

 

目の前の女が、手の開閉を止める。

こちらの目を見て微笑んでいる。

自らの置かれた状況すら理解できていないようだ。

こんなもの、下仕えと変わらない。死者蘇生だといっても、大したことは無い。

興ざめだ。

 

こちらに左手を差し出してきた。

見れば、大きな縫い目が目立つ醜い腕だ。

私の側に控える者には相応しくない。

 

いつの間にか、視界が床へ移っていた。

頬に少しの熱がある。

 

顔を上げると、醜悪な手が迫る。

 

「この馬鹿野郎‼」

 

えっ?

 

再び、視界が床へ動かされる。

 

―――――

 

「いい加減旦那を寄越せ‼」

 

今度は壁が見える。

何が起きてる。

 

「人事考えろ‼

いきなり奥のトップとか頭沸いてんのか‼」

 

肩を殴られる。

書を取り落としてしまった。

急速に身体の感覚が戻ってくる。

皮膚が熱を持ち始める。

 

守りが無くなっちゃう。助けを呼ばなきゃ。

 

「マ、マンフろ」

 

息が、吸えない。

腹に膝が刺さっている。立っていられない。

尻を蹴っ飛ばされて床に転がる。

 

なんなのこいつ⁉

 

「ナーガやめろ‼

マジやめろ‼

私はステーキじゃない‼」

 

背中を何度も踏みつけてくる。

踵が背骨に当たる。

 

両肘をついて、胸元を庇う。

手で、そこにある感触を確かめる。

 

「報告しろ‼

アドリブばっかじゃん‼」

 

庇っている腹を蹴り上げてくる。何度も身体が浮かされる。

吐きそう。

 

蹲ったまま絞り出す。

 

「マンフロイ‼」

 

蹴りが止まった。

きっと魔法で止めてくれたんだ。

やっぱりあいつは僕のためになる。

 

足音が離れていく。

 

「ローブ外せ‼

周りに合わせろ‼

だから嫌われるんだよ‼」

 

顔を上げると、マンフロイに掴みかかっていた。

魔導書を奪い取り、それで老人の顔面を殴ってる。

 

あいつは敵だ。

何とかしなきゃ。

 

落ちている魔導書へ這いよる。

書を掴む。息が戻る。

 

「ロプトウス‼」

 

地下を満たす瘴気が黒龍と化す。

立ち並ぶ棺をなぎ倒し、あの女を飲み込んで、天を穿つ。

轟音を立て、石材が降ってくる。

 

立ち昇る粉塵が視界を塞ぐ。

崩れた天井から、月光が差し込む。

 

暗闇に居たせいで目が慣れない。

 

瓦礫の上に人影が落ちてくる。

音を立て、床を転がる。

 

立ち上がり、埃を払っている。

 

「アルヴィス様じゃない?」

 

こちらを見つめる女が、見当違いのことをほざく。

全身傷だらけで、背中に至っては肌の色が若干違う。

 

「それは父上だ」

 

こいつは一撃で殺せないのか。

女なぞ、イシュタル以外は私に近づけもしないのに。

 

「似ていたから見間違えた。

八つ当たりだった。ごめんなさい」

 

優雅に頭を下げた。

 

なぜ、立ち上がれる。

 

「初めまして、私はコーエン家のユリス。謹んでご挨拶申し上げます」

 

月下のカーテシー。

身にまとう端切れをつまみ、一切ぶれはない。

 

「お名前をお聞かせ願えますか?

私の御親戚」

 

なんで、平気なんだ。

 

*1
威力30、射程1~2、重さ12。

装備時魔防+5、相手の攻撃力半減。

神器持ち原作主人公でも最大5ダメージしか与えられない。

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