ファラの聖戦 ~椿油和え~   作:AKI久

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……実の子供には弱火 ―グラン歴777年

誰一人控えていない廊下。

午後の日差しの中には私だけ。足音も、一つだけ。

ヒールが高く響いていく。

 

私達が揃うと給仕も近づけなくなる。壁の向こうに控えることも出来ない。

自然に溢れてしまう魔力を抑える術なんて誰も知らない。

気を付ける以外に、やりようがない。

 

扉の前で足を止める。

 

何かが、足りない。

あたりを見回しても、当然のように誰もいない。

 

「イシュタルです。入室してもよろしいでしょうか」

 

今日は、魔力圧がしない。

 

―――――

 

見慣れたサロン。

大きな窓が日光を部屋に取り込んでいる。心なしか普段よりも明るい気がする。

変わっているのは、一つだけなのに。

 

そこには、ユリウス様と見慣れない人がいた。

ユリウス様から半歩下がった位置に目を伏せて控えている。

 

赤髪の小さな女性。ユリウス様と同じ位かしら。

黒く目立たない装いに、控えめな装飾しかつけていない。

光竜を模した彫刻が刻まれた箱を抱えている。

 

身だしなみからして暗黒教団の手の者では無いでしょう。

彼らは私達の慣例を平気で無視する。

同じ黒でも汚れではない、気品のある黒色ね。

 

きっとヴェルトマーからの給仕ね。

でも、私達と一緒にいて大丈夫かしら。

先程まではユリウス様だけだったから耐えられたのかもしれないわ。

それとも、この子が居るからユリウス様も気を使っていらっしゃるのかしら。

 

「イシュタル。来てくれてありがとう」

 

今日のユリウス様は昔みたい。

目を離せなくなる魅力ではなく、素直な優しさが溢れている。

 

それに、なんだか普段よりジロジロ見てくる。

私の頭からつま先まで検分しているみたい。

 

なんだか、恥ずかしいわ。

母上がデコルテと肩の開いたドレスを選んだせいね。

 

女性は私ではなく、ユリウス様を冷ややかに見ている。

咳払いをしている。それにユリウス様が反応し、口が開かれる。

 

「そのネックレス、昔送ったものだよね‼

着けてくれて嬉しいよ‼」

 

気付いてくれた。

以前にユリア様と一緒にプレゼントして頂いた物。

これを思い出そうとしていたのかしら。

 

私はお返しに香油瓶を送ったわ。

大事にして頂けていると嬉しいのだけど。

 

ユリウス様が私の手を取って、机に導く。

侍従とは言え、人前で触れあうのは気恥ずかしいわ。

こういうことは二人きりで大切にしたい。

 

それにしても、ユリウス様はとてもご機嫌ね。

 

「ねえ、イシュタル‼

今日は変わったお茶を用意したんだ‼」

 

椅子の横まで行くと手が離される。

ユリウス様は、自らの椅子へ飛ぶように座った。

女性がさり気なく私の椅子を引いてくれる。

私が着席すると元の位置に戻って行った。

 

「失格」

 

突然、女性が箱で殴る。

ぽんと軽い音がした。

 

ユリウス様の頭が少しだけ沈む。

その音だけが、室内に残る。

 

私達はすぐには動けない。

女性だけが、箱の表面を軽く払っている。

 

一呼吸入れる。

意識的に魔力を高め、空気を押し下げる。

 

この子のためにも立場を弁えさせないと。

たとえ、恐怖でこの場に二度と立ち入れなくなるとしても。

 

「……どこが?」

 

被害者は女性へと振り向いて、不思議そうな顔をしている。

……ユリウス様が、受け入れている?

 

「全部。申し訳なくて泣きそう」

 

女性がこちらに向き直る。

 

「突然の指導、どうかお許しいただきたい」

 

頭を深々と下げてきた。

ユリウス様もそれに続く。

 

「なんか、ごめんなさい。

これから直すから許してくれないかな」

 

「えぇ……気にしていません」

 

どういうことかしら。

 

「いつまで魔力を高めているの?

その程度なら意味が無い。手心を加えすぎ」

 

この人は、私達が怖くはないのかしら。

グランベル皇子とフリージ王女相手なのに。

 

―――――

 

「まずは紹介を。ユリウス様」

 

「そうだった。こちらはイシュタル。僕の……大切な人」

 

目を合わせられず、顔を逸らしてしまう。

 

……こうやって紹介されるのは初めてかも。

なんだか、気恥ずかしいわね。

 

「こっちはユリスとズィーベン。僕の……色々?」

 

どういうことかしら。

二名居るように聞こえるけど。

それに、ユリウス様ご自身もどこか把握しきれていないようにも聞こえる。

 

……まさか、側室候補。

だったら、あの距離感も納得できる。

 

「同門のよしみであなたも指導する。

正妻のつもりなら、堂々と。

目下に喧嘩を売らない。旦那様の格も下がる」

 

側室。愛人。間女。

まだ、婚約もしていないのに。

 

「……ユリウス様、私は聞いていません」

 

「違う‼ 本当に違う‼ ユリス‼」

 

ユリウス様が勢いよく立ち上がり、椅子が倒れる。

 

女性がその椅子を受け止め、立て直す。

ユリウス様の肩を押さえて着席を促している。

 

私の目の前でユリウス様のお体に触れている。

私に見せつけている。

 

「魔力の上手い使い方。

強引に伝えたい時にはわざと高めるべき。

肺が潰れて反論も出来なくなっちゃいそう。ユリウス様も見習って」

 

満足げな微笑を浮かべてこちらを見つめている。

ユリウス様も女性に促されるまま座り直した。

 

神器を使う要領で、段階を高める。

 

「貴方は一体何なんですか。

先ほどから皇子に対しても失礼です」

 

「そうだね。事前準備と説明を欠いた人のせい」

 

平然と受け流された。

それどころか、叩いたユリウス様の頭を撫でている。

 

……あからさますぎる。どういうつもり?

 

「僕は悪くないだろ‼」

 

ユリウス様の魔力も高まる。

最近の、あの粘りつくようなものではない。

 

「イシュタル様、判定をお願いします」

 

女性がユリウス様の肩を軽く叩く。

そのまま私にウインクを飛ばして来た。

 

ユリウス様は魔力を収め、神妙な顔をしている。

 

この人は、私達に何かをさせようとしている?

 

「ユリウス様、もう少し分かりやすく説明してくれませんか。

話せないような事情なら、その部分は聞きません」

 

「先に言っておく。

私はユリウス様とそういう関係にない。禁忌だし。

私もどこまで話していいのか分からないから任せた」

 

血縁関係にあるのね。やっぱりヴェルトマーの出。

何かしら込み入った訳がありそう。

だけど、これまでそんな人が居るだなんて聞いたことが無い。

 

聖痕が出る程濃いファラの血を持つ方は限られている。

帝室の御三方、母上だってそう。

 

今まで耳にしたことがなかったのだから、深い事情があるのでしょう。

私達の魔力に耐えられるのにも頷けるわ。

 

私や兄上にはファラの聖痕は発現しなかった。

母上はそのことを悔やんでいたけど、おかげで私はユリウス様の御側に居られる。

……こんな事を思ってはいけないわね。

 

「なんで‼ ユリスが話してよ‼」

 

ユリウス様のお声で我に返る。

女性が頭を下げていた。

 

「……愛想をつかさないでほしい。

まだ慣れていなくて、上手くいっていないだけ。

この子も一生懸命頑張っている」

 

なんだか、乳母みたいな人ね。

私達より小さいのに。

 

―――――

 

「ユリスは最近蘇ったんだ。マンフロイと僕の力で。

偉人達にちなんで十二魔将が一人、ズィーベンと名付けたんだ」

 

ユリウス様は誇らしげにしている。

話に付いて行けそうにない。

 

「……えぇっと、どういうことなんでしょうか?」

 

「誰だって困惑する。私もそう」

 

蘇っただなんて……。

なにを言えばいいのか分からない。

 

「その……ご愁傷様?

それとも……お誕生おめでとう?」

 

「イシュタル様の器が大きいことだけは分かった。

私については何も伝わってなさそうだけど」

 

「マンフロイが出来ないことを任せてるんだ。

戦闘以外では、元々のユリスって名乗らせてる」

 

……よく分からないけど、本当ならどうしよう。

ティルテュ叔母さんも蘇らせられるかしら。

 

「ユリウス様、情報が多すぎる。分解して理解を促そう」

 

「私も詳しく聞きたいです」

 

「その前に、お茶を淹れる。

本当はホストの役目。今回は私がやるから、内容を整理しておいて」

 

―――――

 

テーブルには、小皿で蓋をされたカップがある。

ユリスさんが蓋を開けお湯を注ぐ。湯気が立っていて、温かそう。

侍女がいないからいつもぬるい物ばかりだった。

離れた場所に用意された物を取りに行くから、この部屋に来る頃には冷めてしまっていた。

 

その小皿でもう一度蓋をする。

 

何かが入っているのが、ちらりと見えた。

カップの中に茶葉が残ってしまうから、紅茶ではなさそう。

砂時計をひっくり返し、時間を測っている。

 

ユリウス様は眉間を寄せて考えに耽っている。

私に伝えようと、頑張ってくれているのね。

 

「イシュタル様、さっきは私も無礼だった。申し訳ない」

 

「……いえ、その気にしなくていいのよ」

 

「あなたの成長を見て、つい口を出してしまった」

 

「私を知っているの? どこかで会ったかしら?」

 

ユリスさんがポットをテーブルに置いた。

 

「覚えてないのも無理はない。

あなたの誕生を祝い、抱き上げさせてもらった。

そんな相手から誕生を祝われちゃった」

 

「えっ‼ どういうこと⁉」

 

「時間。蓋を外す。お茶を召し上がれ」

 

小皿から水滴が零れないように、蓋が開かれる。

果物のような香りがたちあがる。

 

―――――

 

カップの中は、様々な果実で彩られている。

林檎が縁取り、中心の穴から橙や赤白の果実が浮いている。

 

「ヒルダ様とアルヴィス様の好みを混ぜた。甘さ抑えめ。見たことない?」

 

「ないと思います」

 

母上は香草茶しか飲まない。

こんな風に目を喜ばせる物よりも、効能にばかり気を配っている。

何を指しているか分からないけど、上の世代と関わりがあったのね。

 

「変わってるでしょ。

果実茶って言うんだって。僕のおばあ様の好物だったんだって。

ユリスは父上やヒルダ、それに母さまの好みも知っているんだって」

 

ユリウス様が得意げに説明してくださる。

この人は、一体何者なんだろう。

 

―――――

 

二人で果実茶を口にする。

紅茶のような渋みや香草茶ほどの香りはない。

代わりに、自然な甘さと折り重なった香りがする。

 

ユリスさんが甘さが足りないならと蜜を差し出してきた。

入れすぎると崩れる、少しだけがお勧めと言っていた。

 

味わいながらユリウス様の話に耳を傾ける。

ユリウス様の説明は、さっきよりは分かりやすくなっていた。

所々、ユリスさんが助け舟を出していたけれど、大筋は理解できたと思う。

 

「まとめると、大体の役割をこなすってこと。いつか僕達と一緒に解放軍と戦うかも」

 

「死んでもこの父母子の面倒を見させられてる。

特別な役職名をもらってもいいのでは? 勲章は固い」

 

冗談も飛び始めたのだから、これで説明も終わりなんだろう。

答えが返って来るかは分からないけれど、これだけは聞いておきたい。

 

「……私から聞いてもいいですか?

他の人も魔将になれますか?」

 

「私の推測だけど、時間をかければ出来る。

大切な人なら止めておいた方がいい」

 

「なんで?」

 

ユリウス様の反応からして、マンフロイが主導なのね。

十二魔将を偉人と称していたし、当たり前か。

話しぶりからして、ユリスさんの方が情報を持っていそうね。

 

「ユリウス様はわかるでしょう。

お茶には全く向かない話。聞きたい?」

 

こちらを見定めるように視線を送られる。

 

邪教が関わっているのであれば、悍ましいことなのでしょう。

穏やかな時間を壊してしまうかもしれない。

 

それでも、また会いたい。

 

「私の叔母なんです。娘を残して逝きました」

 

ユリスさんは私達に背を向けて、窓へと歩み寄る。

春空を眺めている。

 

「魔将には、二つの制約がある。

一つは供給相手。私はユリウス様。

もう一つは、意思が残らないこと。

闇魔法に慣れていたせいか、私は大丈夫みたい。でも、例外」

 

思わず、拳を握る。

 

「……どうにか、ならないんですか?」

 

足りないなら、私が闇に手を染めればいいだけだ。

ティニー*1も寂しい思いをしなくてすむ。

 

「僕は強くなる。暗黒力だって、これから増える」

 

ユリウス様も拳を握っている。

 

「知らない。

私個人としては止めてほしい」

 

冷たい人。

こちらを見ずに外ばかり眺めている。

その背中は私達から離れて遠い。

向き合う価値も無いと示しているみたい。

 

「家族ともう一度過ごしたいと思うのはおかしいですか?」

 

「その人は悲しむ。保証する」

 

空を見たまま、言い切った。

 

「貴方は知らないでしょう‼」

 

父上も兄上も、誰もが叔母さんを好きだった。

虐めていた母上が一番悲しんでいた。

 

「7歳から一緒に育った。私が置いて行かれるまではね。

最後の機会にだって、顔を見れなかった。同じ場所にいたはずなのにね」

 

声から一切の感情は伺えない。

 

言葉が、すぐには出てこなかった。

 

「……その、ごめんなさい」

 

気軽に踏み込むべきではなかった。

母上と面識があるのであれば、叔母さんと知り合いでもおかしくないと予想できたはず。

 

「イシュタル様は素直だね。

ヒルダ様より、あの子に似てる。というよりもブルーム様似か」

 

「……初めてそんなこと言われました」

 

誰からも、どちらにも似ていないと言われる。

私にも両親の面影があるんだ。それも、父上の方だなんて。

 

「私は仇花。決断するのはあなたたち」

 

ユリスさんがこちらに振り返る。

 

「私は、あのうるさい子に会いたい。同じ顔をしただけの人形は必要ない」

 

「イシュタル様はどう?」

 

紅玉の瞳に、射貫かれる。

 

―――――

 

答えが纏まらない。

私は……ティルテュ叔母さんに会いたい。

でも、生きていてくれるなら変わってしまっても構わない。

それでも、あの笑い声を聞かせて欲しい。

 

ユリスさんがこちらに歩み寄ってくる。

ユリウス様の半歩後ろで止まり、口を開いた。

 

「こんな暗い話より、建設的な話をすべき」

 

「……そうだね。

イシュタルはレンスター*2に行くんじゃなかったっけ?」

 

私も悩んでばかりいては良くないわね。

折角のお茶会なのだから、楽しく過ごしたいわ。

 

「はい、その通りです。

旧レンスター王家*3の反乱が起きたようなので、鎮圧を手伝いに」

 

「なんでフリージが?」

 

ユリスさんが首をかしげる。

どうやら今の情勢には疎いようね。

 

「北レンスターはフリージ家が支配している。

イザーク*4だってドズル家のもの。ユリスの時代とは違うんだ」

 

少し驚いた顔になった。

確かにグランベルが帝国になって版図が広がったものね。南トラキアのトラキア王国以外は帝国の物。

反乱が無ければ、この大陸は一つに纏まる。陛下の敷いた法によって世界は平和になる。

 

「私はマンスターを所領にしています。

実は、それほど頻繁に帰れていません。

どうしても家族が集まりやすいフリージにばかり滞在してしまいます」

 

複雑そうな顔。

何か気にかかることがあるのかしら。

 

「ヒルダ様やイシュトー様は? どうせブルーム様は無事でしょ」

 

「私以外にも面識があるんですね。

それにしても、父上のことを本当にご存じですか?」

 

父上は神器を握らなければ、家族で一番弱い。

後進への指導は上手いけど、文武においてあまり秀でてはいない。

 

「……もしかして弱くなった?

娘の前で言うのもあれだけど、あの方は武力が売りだった。

17年も……経ったもんね。いい歳だし、仕方ないか」

 

「ブルームはそんなに強かったのか?」

 

「イザーク戦では、神器無しでそれを持った先代のレプトール様と同じくらいの戦果を挙げた。

その、まあ、政治面は成長中だった。きっと今も伸びしろがあると信じよう」

 

「今の父上からは想像できません」

 

私達に優しい父上。

軍の指揮や育成ばかりで、自らはめったに出陣しない。

その上、書記官や母上に政務を行うよう促されている。

 

「甘ちゃんの癖、力でねじ伏せれば何でも解決できる。だから、当主としての能力が育たなかった。

そんな風にヒルダ様が言ってた。今がどうかは知らない」

 

母上らしい容赦ない口ぶりだ。もう少し柔らかくてもいいのに。

 

「ユリウス様、この言葉の意味分かる?」

 

「力だけの男、そういうことでしょ」

 

否定をしたいけれど、その通りね。

父上がもう少ししっかりしてくれればいいんだけど。

そうすれば兄上もライザとの時間をもっと取れる。

 

「全くヴェルトマーの心が分かってない。乙女心もだけど」

 

「自分好みで、支え甲斐のある男。独占して一生一緒にいる宣言。

小娘相手に下げて牽制までしてる」

 

母上がそんな風に思っているのかしら。

父上が一方的に愛しているだけじゃないかしら。

 

「ベタ惚れだね。普段はそう見えないけど。

流石にそれは深読みのしすぎじゃない?」

 

ユリウス様も私と同じ考えみたい。

父上からの愛情はフリージの誰もが知っているけど、母上のは分からない。

母上は政略結婚と言っていたし、そこまでの想いは無いと思う。

本当に想っているなら、もっと優しい言葉を使うに決まっているわ。

 

「そう思うならユリウス様は気を付ければいい。

相手が自分の考えを分かってくれるなんて思い上がっちゃ駄目。

イシュタル様は安心して。ユリウス様は、そうならないように育てる」

 

―――――

 

その後もユリスさんに情勢を教えながら、昔の話を聞いた。

 

私のお爺様のこと。

母上を虐めてはやり返されていたらしい。

でも、お互いにそれを楽しんでいたとか。そこで母上の気質が育まれてしまったのね。

 

ドズルの話。

昔の当主ランゴバルト卿は乙女心を持っていたらしい。

直接息子に気持ちを伝えられないから、迂遠な方法で接していたとか。

顔を見るとどうしても固くなってしまったらしい。そのせいで、肝心の愛息子には敬遠されてしまったとか。

それって乙女心なのかしら?

私も気を付けないといけないわね。気持ちを素直に伝えるのは難しいもの。

 

私はフリージの話をしてあげた。

兄上ではなく、私が継承者だと知ってとても驚いていた。

家族仲をしきりに心配していたけど、話をするうちに問題ないと理解してくれた。

昔は母上も兄上と似たような状況で、とても苦しんでいたことを教えてくれた。

思い返してみれば、血の濃さで兄上との扱いに差を付けられたことは無かった。

母上のことが前より近く感じられた気がする。

 

気が付けば、陽が陰っていた。

 

「今回のお茶会、楽しかったです」

 

「僕も大変さが分かったよ。

いつも任せてばかりでごめんね」

 

ユリウス様がユリスさんから学んだことを実践する場だったみたい。

確かに、ユリウス様が単独でお茶会を開催するのは初めてかもしれない。

 

「いいんです。準備もお茶会の一部。

相手のことを考えて用意する。それも意外と楽しいんですよ」

 

相手のことを思う時間すら、楽しいお茶会。ホストは大変な分、楽しさも多いのよ。

そう、叔母さんに教わった。

 

「そうなんだ。まだまだ気配りが足りなかったな。

僕は上手くいかせることしか考えてなかった」

 

本当に昔のユリウス様に戻ったみたい。

 

あの魔導書を手にしてから、少し変わった気がする。

きっと、皇子として忙しくなったせいね。

 

第一、神器を手にしても人格には影響がないもの。

トールハンマーは、戦いやすくしてくれるだけ。

 

「次を楽しみにしています。

それに、父上へのお土産話も出来ました」

 

「それは止めた方がいい」

 

突然固い声がした。

ユリウス様が振り返る。

 

「なんで? ユリスの知り合いなんでしょ?」

 

「だからこそ。

死者への冒涜。それに、余計な希望を見せかねない。

イシュタル様の叔母さんのこと、忘れていないでしょう?」

 

叔母さん……。

会えるなら、会いたいけど……。

 

「……母上にも伝えない方がいいですか?」

 

「ユリウス様はどう思う?」

 

「好きにしていい。ユリスは会いたくないの?」

 

「これは政治の話。

私という伏せ札をここで切るかどうか。

マンフロイさんは、私をアルヴィス様への当てつけにすると言っていた」

 

「母上と会話をしたくないのですか。

とても分かりあっているようですが」

 

「これが魔将になるということ。

それに……傷つけるかもしれない」

 

その言葉だけには、温度があった。

 

「……秘密にしておきます。でも、いつか母上に会って下さい。

一緒に果実茶を飲みましょう。きっと、喜んでくれます」

 

ふっと優しく笑った。

西日で良く見えなかったけど、そう思った。

 

*1
ティルテュの娘。原作ではティルテュのお相手(ティニーの父親)は選べる。

*2
グランベル南東の地域。キュアンの王国があった。

*3
キュアン・エスリン夫妻の息子、リーフが主導。

*4
グランベルの北東。シグルド軍の子供たちが疎開していた。




原作では、同じ聖戦士の血を持つ者同士で交わることは社会的に忌避される行為であると示唆されています。
ただ、血が濃くなり直系を生み出す婚姻は許されないとされているものの、具体的な条件については明言されていません。
混乱を招きかねない部分であり、原作において欠かせない概念なので整理します。

直系=神器を使える。血の恩恵を強く得られる。
例:イシュタル(トード)、アルヴィス(ファラ)、シグルド(バルド)。

傍系=血の恩恵がある。神器は使えない。直系や他傍系を同時に継ぐこともある。
例:アゼル(ファラ)、レックス(ネール)、ティルテュ(トード)、ユリウス(ロプト直系&ファラ傍系)。

原作の舞台であろう中世~近世において一門内での婚姻が行われないということは、資産や社会資本の集積の観点から難しいと考えます。
よって、同じ神の血が傍系以上に濃く表出した者同士での結びつきのみを「禁忌」と本作では設定しています。
ファラの血統を例に説明させていただきます。

禁忌例(一部血統省略):
アルヴィス×ユリス=ファラ直系×ファラ傍系
ユリウス×ユリス=ファラ傍系×ファラ傍系

一方、以下のようなパターンは許容されます。
例:
アルヴィス×アイーダ(ユリスの姉)=ファラ直系×ファラ傍系未満
ユリウス×イシュタル=ロプト直系&ファラ傍系×トード直系&ファラ傍系未満

どちらもファラの血が濃くなりすぎないので社会通念上許容される物と考えます。
原作でもユリウス達の関係が問題視された描写は無く、無理ならヴェルトマー家が異常者の集団になってしまうので。
一方、直系の兄を狙う傍系の妹は家臣から引かれるような描写があり、領民に仲の良さを噂されていました。

本作だとユリウス×イシュタルの子供は、ひいおじいちゃん(ヴィクトル)が共通なので25%も同じ血を引くことになっちゃいました。
ちなみに、原作では同一人物の血を50%も引いているキャラが複数います。
現実でもツタンカーメン(推定2×2、同血量100%)、近世スペイン王のカルロス2世(2×3、同血量37.5%)もいるので許して下さい。

まあ、原作だとプレイヤーは禁忌なんて関係なくカップリング出来るんですけどね。
何ならオード直系×オード直系のカップリングも出来ます(子供は見れない)。
バルムンクを持ったラクチェを使いたかった。プレイした方なら誰でも夢を見ると思います。

論拠は以下の台詞となります。
原作4章の村での会話引用
「神の力を完全に受け継ぐのは
直系の子孫だけ

だから聖遺物とよばれる
神のアイテムを使えるのは
直系の子孫だけなのじゃ

しかし、もし同族同士の血が交われば
血がこくなって神の力を得ることもある

だがのぉ、それはいまわしきこととして
きんじられておるのじゃ・・・」
引用元:FE聖戦 会話集 http://ifs.nog.cc/noblenep.hp.infoseek.co.jp/fe4kaiwa/fe4kaiwa5.html

原作2部の補足があった方がいいですか?

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