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ユリウス
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今回登場した洗脳能力は、本作独自の解釈です。
原作では、ユリウスと対面した人物がそれまでとは異なった言動を取ることがあります。
慈悲深いと評される人間が彼の言葉を受けて、生死のかかった戦闘をお遊びとして楽しむようになったり、
他には民が自発的に帝都へ向かい行方不明になった事が語られます。
そうした描写から、ロプトウスには他者の意思へ干渉する性質を持つのではないかと考え、本作ではこのような形としました。
「いいメティオ。反乱軍なら余裕で焼ける」
軽々と避け、汗一つかいていない。
燃える訓練場の中、ズィーベンは涼しい顔で言い放った。
今日も神書を使わせてもらえなかった。
炎魔法や普通の闇魔法を使う訓練ばかり。
でも、ズィーベンに当てられる回数が増えてきた。
当たっても大きな怪我はしないし、遠慮なく魔法を放てる。
自分の身体を指標にして距離を測る。
それだけのアドバイスで、ここまで来られた。
ただ、それに気を取られる分、発動までの時間が延びる。
実戦では、長距離魔法以外では使わないように言われている。
それに、身だしなみにも使えるって言ってた。
やっぱり、イシュタルにはカッコよく見られたい。
それでも、神書を使いたい。
使わせてもらえない理由を聞くと、素気無く答えてきた。
「修理費。
戦に勝って破産は洒落にならない。
上位者は鳥瞰するもの。皇帝になるんでしょ。
神書は練習しなくても強靭。手数を増やすべき」
言われてみれば、その通りだと思う。
もしかしたら、これまではかなり浪費してしまっていたのかもしれない。
皇子として良くないことだとは思う。
「だからって、運ぶ時まで箱に入れなくてもいいだろう」
「ディアドラ王女殿下もそれに入れていた。
剥き出しで汚れる方が問題。あの方は一度聖書を無くしかけた」
……僕が紅茶を零したこと、まだ根に持ってる。
―――――
戦闘用の服から着替え、私室へ向かう。
ユリスはこの後の準備があると言っていた。
この廊下には、相変わらず足音が一つだけだ。
訓練場には、ユリスや教団の者が居たのに。
私室に戻ると、紫のローブに身を包む人影があった。
入口に背を向けている。
箱を開け、ロプトウスを構える。
「皇子、ご機嫌麗しゅう」
こちらを気にせず、窓の外を眺めている。
「マンフロイ、なぜ私の部屋にいる?」
いつの間にか勝手に入って来るのはこいつの悪癖だ。
こういう所は気に入らない。
「神書の使い心地はいかがですか。
ズィーベン相手で飽きてはいませんか?」
「前よりも身体に馴染む。
あいつの教えで当てやすくもなった」
「それはよろしい。大変結構なことです」
心底嬉しそうな声。
窓に映る口元は、弧を描いている。
「ですが、余計な事ばかり学ばれているとか」
声が一段低くなる。
マンフロイは完璧ではない。
ユリスの言葉が、頭をよぎる。
確かにこいつは統治に必要なことを軽んじている。
別の視点からの評価が加わったことで、冷静に見られるようになったように思う。
「私が世界を支配するのに必要なことだ。納得している」
「そうでございますか。ならばわしは口を挟みませぬ」
老人はこちらに向き直り、恭しく頭を下げる。
顔を伏せたまま続ける。
「一つ願いがありまして、参りました。皇子にしか出来ぬことなのです」
「イシュタル様を帝国にお戻し下さい。
皇子にとっても喜ばしいのではありませんか」
イシュタルはレンスターの領地を荒らす解放軍の討伐に向かっている。
速報では、彼女の兄のイシュトーも討たれたようだ。
雷魔法だけは彼が教えてくれた。
イシュタルみたいな威力はないけれど、僕達には無い活用法を見せてくれた。
僕達の魔力に圧されながらも、それでもいつも気にかけてくれていた。
気圧されたまま、僕へと近づくことは止めなかった。
ライザとかいう女との結婚だって、あと少しだって言っていた。
そのためにわざわざ面倒な位置に城の統治なんかを引き受けてしまった。
帝都かフリージ城に居れば良かったんだ。
神書を抱きしめる。
黒い靄が優しく僕を包み込む。
ユリスも沈んでいたのを覚えている。
優しい兄が討たれたのだ、イシュタルも嘆いていることだろう。
一族同士で慰め合っているだろうが、心配だ。
「何故だ」
「奴らには、まだ働いてもらわねばなりません」
「解放軍は誘蛾灯。
帝国の民に相応しくない者を集めさせています。
そうして、気づかぬうちに戦禍を広げ、闇を濃くする」
「イシュタルでは、壊してしまうか」
「ええ、その通りでございます。
まだ暗黒が足りません。
奴らが王都へ来る、それこそが収穫の時でございます」
解放軍は、神器の二振りを持つ。
神剣に魔剣、どちらもグランベル外の物だ。
ユリスを殺した聖剣の同類。どちらも厄介だ。
加えて、逆賊シグルド軍の残党もいる。
ティルフィング以外の3つも所有している可能性まである。
それらですら、イシュタルなら壊滅させてしまえる。
流石、雷神。私と並ぶだけはある。
自然と口元が緩む。
「だが、私の命とはいえイシュタルが聞くか分からない」
兄とその恋人の仇。
それを目の前にして抑えられるだろうか。
フリージの家族愛は羨ましい程深い。
「ご安心下さい。
ロプトウスの書があれば、生者に命令を遵守させられます」
ようやく顔を上げ、近寄ってくる。
書を持つ手ごと、両手で包み込んでくる。
固く冷たい手だ。
「対象の瞳を見つめ、書から暗黒魔力を引き出せば良いのです。
力を使うので頻発は出来ません。ですが、これぞ神書たる所以です。
神器なぞとは、格が違う」
ちくりと胸が痛む。
それでは、意思を踏みにじることになる。
ユリスの言う肉人形と変わらない。
「皇子、これはイシュタル様のためなのです。
戦ではなく子供狩りで成果を挙げさせ、貴方様に相応しいと証明させるのです」
「……イシュタルは子供狩りを好まない」
我が子を守ろうと惨めに足掻く家族。
一族思いのフリージには辛いだろう。
進んで私に尽くすのは、ヒルダくらいのものだ。
「帝国の統治には必要なことです。
それに、皇子もより偉大な存在へと近づけます」
「愛おしい者を育てる。これが女の喜びにございます。
痛みがあればこそ、愛の証明となりましょう。
そして、それを受け入れてやる。これぞ男の器でございます」
「……分かった。レンスターに向かう」
「皇子、今の貴方ならば杖すら無くともワープが出来てしまいます。
これも敵すら利用する智謀の賜物です。よくぞ、ここまでに実った」
神書へ一心に視線を注いでいる。
「イシュタル様のことを強く思えば良いのです。
無事お二人でお戻りください」
言うや否や、マンフロイの足元から鈍い光が立ち上がる。
杖での転移とは違う、暗い輝きだ。
マンフロイは手を放し、数歩後ずさる。
まるで、私に手本を見せるかのように消えた。
音すら残さない。
背後から、ノックが聞こえる。
―――――
再び、軽いノックの音がする。
「ユリスにございます。ユリウス皇子殿下、入室のお許しを賜れますでしょうか」
「入れ」
平服に着替えたユリスが教材を運ぶ侍女を連れている。
ユリス以外の女達は、小さく震えている。
だが、以前のように逃げ出しはしない。
折角だ、早速試すとしよう。
書の中から暗闇を引き出す。
代わりに気力が吸い取られる。
身体は冷えるが、満たされる心地がする。
一人一人の目を見つめた途端、侍女達は一様に熱に浮かされた表情になった。
ユリスの咳払いにも、反応はない。
「あなたたち、控えは不要。運び終わったら戻りなさい」
ユリスの命に対して、誰一人動かない。
これが、遵守の力か。
瞬間、急激に圧が生じる。
呼吸が苦しくなる。
侍女たちは弾かれたように壁に縋りつく。
誰だ⁉
私が身構える頃には、圧は霧散した。
「あなたたち、ありがとう。
皇子に魔力の使い方を教えられた。
学びを実感して頂くのに良く役立ってくれた。
皇子、お言葉を」
ユリスが、目で促してくる。
さっきのはユリスが魔力を高めていたのか。
侍女たちは手を止め、私を凝視している。
女を見渡し、落ち着いた声を意識する。
「貴様等、大儀である。手早く済ませよ」
彼女達はのぼせた顔になりながらも、作業を素早く終わらせた。
一人一人、順番に頭を下げ退出していった。
「ユリウス様は成長したね。よく読み取った」
足音が消えた後、いつの間にか取り落としていた装飾箱を差し出してくる。
「それで、教えてくれる?」
―――――
神書を箱にしまう。
床の感覚がやけに強い。
箱の重さが増したような気がする。
遵守の対価だけが、残っている。
ユリスはしまったのを見届けてから、運び込まれたものを確認し始めた。
箱を机に置いて、椅子に座る。
背中に向けて声をかける。
「あれがロプトウスの力だって。
他にも独力でワープが出来るんだって。
僕も聞いたばかりで、試したくなっちゃったんだ」
ユリスは手を止め、こちらに向き直った。
「どういうこと?」
小首をかしげている。
「マンフロイがさっきまで居たんだ。
それを教えて、イシュタルを連れ帰るよう頼まれた」
書籍を戻し、ユリスが対面に座った。
「……整理させてほしい。
なぜイシュタル様の話になるの?
思惑含め、話せるところまででいいから説明して」
「ユリスは僕の魔将だから全部知っても大丈夫。
支配を盤石にするために、人々の負の感情が必要なんだ。
そのために、解放軍を利用しているんだ」
「ユリウス様、これも実践。
相手の理解度は確かめて。確実な情報伝達には不可欠」
「今ので分かんなかった?」
「それで基盤固めになる理由が分からない。
むしろ、負の感情は地盤に亀裂を入れかねない要素。現に解放軍がいる。
山賊みたいな小さな集団をまとめるには悪くない」
言われてみれば、そうか。
今だって各地で反乱が起きてる。
解放軍を倒した後のことも考えてるんだ。
「僕の力が増すんだ。
さっきのだってそのおかげ。僕の言うことを聞かせられるようになる。
ユリスには効かなかったけどね」
「魔将だからかも。統治者としては微妙」
「なんで? 言うことを聞かせられるんだよ?」
「イザークを失って、侍女数人。
それも初歩的な脅しで解除される。便利ではあるけどそこ止まり。
皇帝が少数にしか命令できないなんて、ファルス」
一地方と引き換えって考えると、確かに微妙だな。
「……もっと色々できるようになるかも」
「人間はそんなものなくても支配できる。アルヴィス様は出来た」
……すぐに父上を引き合いに出す。
「……僕にだって、出来るようになる」
「そうだね。アルヴィス様にはない力もある。
ユリウス様が上回る可能性は大いにある。
今だって、頑張って学んでいる最中」
ユリスが手を打ち鳴らす。
「つまり、切り札にすべき。
その力が広まると、常に相手に警戒されてしまう」
ああ……。
知られてしまえば、僕と顔を合わせようとする人が居なくなりかねない。
「そっか、やたらに使うとそういう欠点があるんだね」
こういう所は、マンフロイより好きだ。
使い方を一緒に考えてくれる。
「それ、疲れるんでしょう?」
「……なんで分かったの?」
魔力を漏らしていないはず。
ユリスに叩かれてないし、間違いない。
どこで僕の疲労を悟ったんだ。
「これが支配の技術。
それより、イシュタル様の話」
それが身に付けば、洗脳なんていらなくなるのかな。
……このだるさと、胸のつかえも。
―――――
「レンスターから戻って、子供狩りを担当してもらう。
……嫌がられるだろうな」
僕も蟲毒を見るのは楽しくない。
それでも、きっと帝国には必要なこと。
「ユリウス様、目を逸らしたら駄目。
あなたは今から命の選別をする」
僕の瞳を真っすぐにのぞき込んでいる。
……逃げちゃだめだ。
「何を言ってるの?」
今更、子供狩りのことか。
ユリスも嫌なんだろうな。
「ただでさえレンスター反乱鎮圧後の軍。
連戦で、イシュタル様抜き。勝敗は見えている」
あそこにいるフリージ家は負けてしまうだろう。
イシュタルに甘いブルーム。
政務を放り出して構いに来るって言っていた。
特に恋愛の話になると、嘘にしか聞こえない自分の武勇伝を聞かせてくるらしい。
そのたびにヒルダに怒られているとか。
イシュタルを姉と慕うティニー。
賊軍に汲みした叔母の娘で立場が低いらしい。
それでも、家族に必死に尽くしているとか。
数少ないイシュタルを恐れない娘で、彼女は妹のようにかわいがっている。
数回しか会ったことはない。
だけど、優しい人達だって知っている。
「……そう、だね」
「イシュタル様の家族を見捨てる。
彼女の大切な人を奪い去る。そういうことでしょ?」
「違う‼」
「炎は燃料に出来る。
雷はどうなるんだろうね。落とす相手が居なくなっちゃう」
「僕はそんなこと望んじゃいない‼」
「なら、解放軍を止めないとね。
そうすると反対勢力を一掃できない。
だから、洗脳するんでしょう?」
「……イシュタル、なら……」
……本当に、分かってくれるのかな。
僕の家よりも、お互いを思い合っているフリージ。
イシュタルにとって、僕はそれ以上の価値はあるのかな……。
こんなことを続けていたら、いつか本当に僕がイシュタルに捨てられてもおかしくない。
「人か世界か。
あなたはどっちを選ぶの?
どちらでも批評する。
本気で逃げたいのなら、私を殺せばいい」
装飾箱に手を伸ばす。
ユリスに叩かれ、書が遠のく。
手には、熱だけが残った。
読後感を損ねてしまいましたら申し訳ありません。
こちらで、感謝とお願いがあります。
ようやく全話の予約投稿を終えました。
これで、皆さまの感想を安心して拝見できるようになりました。
先に見ていたら、もっと優しい物語になっていたでしょう。
今作は余白の多い作品です。
原作者様のスタンスを尊重し、読者ごとそれぞれの受け取り方で良いと考えています。
私は全て肯定します。くくく……と笑っています。
その剣で、わたしを好きにして下さい。
キャラがどう見えたのか。
世界観にどんな印象を持たれたのか。
小ネタが通じたのか。オマージュ元がばれたのか。
どんなしっぺ返しが待っていると思ったのか。
もしよければ、そういったことも聞かせていただけると嬉しいです。
感想を書いていただきやすいよう、今後は軽い問いかけをあとがきに用意しようと思います。
崩してしまうようであれば直ぐに取りやめます。
以下が例になります。
今回の話で、ひどいと感じたのはどのキャラでしょうか?
個人的には分かれると想定しています。
要は、気軽に感想ちょうだい。
返信は想像の余地を狭めるのでごめんなさい。
ついでにアンケートをタップして。
もう少しで全て予約投稿できます。望ましい投稿頻度についてお聞きしたいです。
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これまで通り週1
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1部と同じく毎日
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重いので隔週
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一気に全部